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ギア・ファイト  作者: Peco
1/1

絵心とは何か。

ー プロローグ ー




西暦2030年、人類の間では『ギア』と呼ばれるオモチャの小型ロボット格闘技が流行っていた。大人から子供まで様々な人がロボット格闘技を楽しんでいた。

その格闘技の遊びを『ギア・ファイト』と呼んだ。


そんな『ハイテク遊び』が流行っている時代に、時代と逆行するような『昔ながらのおもちゃ』を作り続けている玩具メーカーがあった。

そのおもちゃ会社の名は『武蔵』。


作っている玩具は、人形、ベーゴマ、積み木、けん玉、それはそれは時代遅れの

おもちゃだった。

そんな時代遅れのおもちゃを作り続けているせいで、売り上げはいつもいまいち。

赤字の月が多く、会社経営はピンチに陥っていた。

そこで社長の服部は仕方なく『ギア・ファイト』への参入を考える。


ギア・ファイトに参入してロボットが売れれば売り上げになる。

会社を窮地から救うにはそれしかない。


だがそれには、武蔵が作るギアは最高だと、ユーザー(買い手)に知らせる必要があった。

しかし、赤字経営の会社に莫大にお金がかかる広告費が出せるわけもなく、開発実績もない企業にスポンサーが付くはずもない。


ギア・ファイトへの参入を諦めかけていたその時、朗報が入る。

それは、賞金5000万ドルの『ギア・ファイト世界大会』の開催の知らせだった。

この大会で優勝するギアをつくれば、世界中のユーザーに

武蔵のギアは最高だ!と思わせる絶好のチャンスになる。

しかも、優勝すれば賞金5000万ドル。

起死回生のチャンスと捉えた服部は、すぐさま参加を申し込む。

だが、肝心の『ギア』(ロボット)の開発がまだだった。


そこで、なんとしても優秀なロボットエンジニアを探すべく『ロボット開発者』の募集をかけた。


思いのほか募集には多くのエンジニアが集まり、社長の服部は日々面接を行っていた。

だが、優秀なロボットエンジニアは中々現れなかった。

やっぱりだめなのか・・・


そう思っていた時、一人の男が現れる。


男の名は『ジン・ハヤト』。

この男が作り出した『ギア』のとてつもない機動力に『武蔵』の社員たちは

度肝を抜かれる。

ライバル会社が作った最新のギアを買ってきてそのギアと対戦する、というのが

入社試験だったのだが、ジンが持ってきたロボットは瞬く間に他社の最新のギアを

ノックアウトし勝利した。


社長の服部は、この男しかいない。そう思い、ジン・ハヤトをすぐに入社させる。

そしての武蔵の開発部で、ジンは『メア』という名のギアを完成させた。

『メア』とは、古代英語で『鬼神』を意味する言葉で、世界最強のギアの名にぴったりだとジンが名付けた。そして、ここからおもちゃ屋『武蔵』の快進撃が始まった。


ちょうどその頃、日本では春を迎えており、各地の学校ではで入学式が開かれていた。


そして、とあるデザイン学校に入学した少年がいた。



彼の名前は、山本桜助やまもとおうすけ

「ギア・ファイト」が流行るこの時代に珍しく、ギア・ファイトをしていない少年だった。

彼もロボット作りには興味があったが、桜助が興味をロボットはいつも「人助けをするロボット」だった。桜助の家には体の不自由な母が居て、母の介護ロボットをいつか自分の手でデザインしようと思っていたのだった。だから桜助はその夢をかなえるため、この春からデザイン学校に入学したのだった。


そして、今日は入学してから最初の授業日だった。




ー朝ー






「チュンチュンチュン」   



「よっ!桜助!」


バシッ!!


「いってぇー!おい浩紀!毎回毎回、挨拶のたびに頭を小突くんじゃねー!うちのじじいみたいにハゲたらどうすんだ!」


「はっはっは。ハゲろハゲろ(笑)ハゲは恥ずかしいもんじゃねー、長年生きた勲章だ」


「ほーう。じゃおめーからハゲろや!」


ゴリゴリ。


「うわっ!やめろ!頭のてっぺんのツボを押すな!ゲリになる!」


「はっはっは」


「下せ下せ。天罰じゃ」


「ったく容赦ねーな、桜助は。朝から百会ひゃくえのツボをグリグリしやがって」


「当たり前だ、天罰だからな、容赦があるわけなかろう」


「おーこわ。桜助の神は無慈悲だねぇ」



「あ!そうだ!桜助、そんなことより昨日のギア・ファイト世界大会の試合みたか?武蔵のギアすごかったよな?」


「オレ観てない」



「えーーーーーーー!!観てないの?!ありえねー!!何してたん!?」


「本読んでた」


「かぁ~桜助さんは相変わらず読書がお好きなこった」


「読書もなかなか面白いんだぜ?」



「へーそうですか。ん?なに持ってんだ?」


「これ?本さ」


「あぁ、ひょっとしてさっき言ってた本?どれどれ試しに読まさせてよ」


「いいよ」


「なになに・・・」




『破壊の創造性』/ ジョン・ウィッグ




「はぁ小難しそうなタイトルだな。しかもボロボロじゃん、なんで?」


「昨日、古本屋で発見したんだ。哲学書のすみっこにあった」


「へ~、ほな読んでみましょ」


「なになに・・・。」





『破壊』は『創造』の一種である。



すごくひねくれた考え方だが、


破壊は、『破壊』という『結果』を『つくっている』のである。

従来の『破壊』の概念も勿論正しい。

従来の『破壊』の概念は


・破壊 = 木っ端みじん

・破壊 = 消滅

・破壊 = 暴力


などだと思う。


しかし『破壊』にも創造的な側面がある。

というのが、私の考えだ。


それが『破壊』は『破壊』という『結果』をつくっている』という考えだ。


まぁこんな話を聞いても多くの人は、「は?」とか「あっそ」で終わる話だと思う。


天才物理学者”アインシュタイン”が残した言葉にも次のようにある。



  破壊は創造の過程に行われる掃除のことです。


  しかし破壊そのものが創造的な行いだと言われたことは


  一度たりともない。



うーむすごい。


惚れ惚れする言葉だ。


この言葉に反論するつもりは更々ない。


すごく正しいからだ。


だがひねくれた意見を言わせてもらえば、


『破壊』は破壊という『結果』を『作っている』んじゃないですか?


という話だ。



しかし、わたしの理論だけでは、称賛されることは”120パーセント”ないだろう。


100パーセントではない、”120パーセントない”のである。


なぜか。



それは、現状この理論だけでは”他人の役に立たない”からである。




 『破壊』は『破壊』という結果を『作っている』んです。



「あっそ」



で終わり。


それかもしくは、テロリストに誤用されて「おしまい」である。



テロリストがこの理論を利用するならたぶん、


”破壊は創造の一つなり!!”とか。


"神は創造するための破壊をお許しになった”




とかそんな感じに利用されるはずだ。



いや、だがそもそもテロリストもこんな理論を使おうとは思わないだろう。


はぁ我ながら情けない、こんな理論しか思いつかないとは。



でも、私もいつか必ず”他人の役に立つ”理論で世の中を良くしてやる。





次回作につづく。




パタン(本を閉じる音)





「・・・・・・・」






「なんじゃこりゃ?」





「笑えるだろ?」



「笑えるもなにも、よくこんな本買ったなお前。」




「ふつうの本じゃつまらないだろ?少しくらいぶっ飛んでる内容の方が味があるんだよ、人と同じだ。」



「そりゃまぁ一理ある。まっお前が面白がってんなら俺は止めねーわ。」



「おう」





キーンコーンカーンコーン






「げっ!やべっ!!立ち話してたら遅刻しそうじゃねーか!学校初日から遅刻しちゃ話になんねー!!おい浩紀!急ぐぞ!」



「おう!」




「桜助、ところで一限目って何の授業だっけ?」



「おい・・・浩紀、お前やる気あんのか?(笑)少しはやる気出せよ」



「俺はいつだって”やる気”は満々よ、ただこの情熱を注げる物事がまだ見つからないのさっ」



「へーへそうですか。」




「で一限目なんだっけ?」



「デッサンだよ」




「おーけー俺の得意科目じゃねーか。」




「わかったわかった、じゃそろそろ話は終わりにしてダッシュに専念しよう。急がないとマジで遅刻だ」




「おう!」






キーンコーンカーンコーン~



キーンコーンカーンコーン




ガヤガヤガヤ。





「よっしゃ!間に合った!桜助!急いで着席すっぞ!」



「おう!」







「はい。皆さん、おはようございます。授業を始めますよ」




「わたしは、今日から皆さんにデッサンを教える”ウィルソン”という者です。一年間よろしくお願いします」





「今日は事前に通知した通り、外へ出てスケッチをします。」



「ですがその前に少し講義をします。」



「絵心についてです。」



「皆さんは『絵心』という言葉を知っていますね。



  あの人は絵心がある。


  あの人は絵心がない。



などと使われている言葉です。



ですが、そう言って使っている人にいざ、では『絵心』とは何でしょうか?


と訊くと、大概の人はこういう返事が返ってきます。



「絵が上手いやつは「絵心」がある奴、絵が下手なやつは「絵心」がない奴。つまり絵心とは


 絵が上手い人だけが持っている心のことさ。」



と。



なるほどそうですね、とその人には返答しておきました。



こーゆー風に考えている人はけっこういらっしゃいます。


ですが、結論から言うとこの回答は『不正解』です。

では、絵心とはなにか?


先生が考える『絵心』とはこうです。




黒板に字を書くウィルソン。



  

 「絵心」とは「絵を描きたい気持ち」



これが絵心です。



皆さんがよく使う”Google”にも載っています。


ですが、多くの人が「絵心」は「才能」であると誤った思い込みをしています。

それくらいこの言葉の認知度は低いのです。



絵を描きたい気持ちがあるなら、それはもうすでに絵心です。

好きに描いて構いません。


ですが、大人の中には先ほど話した様に、誤った知識を吹聴する人もいます。


なので、そういう人のいうことは絶対聞いてはいけません。分からないことはプロに訊くか、自分で調べましょう。


本校は、プロのデザイナーを養成するための学校です。


皆さんはこれから何かをデザインします。ですが、それには正しい知識を持った上でデザインという「作業」に臨む必要があります。「絵心」の正しい認識はその第一歩だと思ってください。


皆さんがデザインした物が世の中に出たとき、それが誤った情報に基づく物だったら、それは使う人に害を与えたり、不幸にしたりしてしまいます。


「言葉」で「情報」を作るのも「デザイン」だし、「金属」で「ロボット」を作るのも「デザイン」です。


正しい知識を持たないデザインは、使う人を必ず不幸にします。それは避けなくてはなりません。



「デザインは人を幸せにするモノです」



そのことを忘れないようにしてください。

これからデザインのプロを目指すなら、正しい知識を持ってデザインしてください。

大事なことなので覚えておいてください。

「はい、では今日の講義はここまでにします」




「今から外へ行ってデッサンをします。みなさん道具を持って外へ行きましょう」





ー外ー






キャッキャ




「先生ー。上手くかけませーん。」


「うまく描くコツ教えてよ~。」



「そうですね~、デッサンのコツは「地道にコツコツよく観察する」ですよ。


正解は目の前にある現実の中にあります。


それをよぉく観ましょう。そして自分の描いた絵と比べましょう。



「え~そんなこと言われても~、参考にしたいのでちょっとだけ先生の手を加えて修正してくださーい」


「あっ私のもー」


「うーん仕方ありませんね。佳歩さんの絵、ここはこういう感じに見えませんか?こう描いてみてはどうでしょう。」



「あ!本当だ、先生サンキュー♪」



「美穂さんの絵は、お花をもう少し上に向かせて、葉っぱもこう見えませんか?

こう描いてはどうでしょう。」


「おー!先生うまーい!ありがとう♪」


(ひそひそ)「ねぇねぇこの絵もうこれで良くない?」


(ひそひそ)「たしかに♡」



「・・・・・・」



「はぁ、まぁいいです。次から頑張ってくださいね」



モヤモヤしながらも歩き、他の生徒たちを見回すウィルソン。




「ウィルソン先生!ウィルソン先生!」




「何ですか?テストン君。」



「なにを描いたらいいかわかりません。

どれを描いたら点数高いですか?」



「えっ、テストン君、その答えは君の中にあるので私にも分かりませんが、

言えるとしたら、自分の好きなものを描くのがいいですよ。」


「それは点数高いですか? 」



「そっそうですね、きっと高いはずです。」


「先生どうもありがとうございます、にやり 」


「・・・・・・」


「ふう。」



キーンコーンカーンコーン



「はいでは、今日デッサンの授業は終わりです。」


「皆さん道具を持って教室にもどりますよー。」




「はーい」



ガヤガヤ




「おーい、桜助」


「浩紀か、何だ?」



「おまえ何描いた?」



「樹を描いた。生命力を観察した。浩紀は?」




「俺は、女子のフ・ト・モ・モ♡」




「お前なぁ、わざわざ外で女子のフトモモをスケッチする意味あんのか?」



「あるある!大いにある!日光に当たった女のフトモモは格別だからな!」



「浩紀は本当に変態だな」



「えっへん」


「褒めてないっての(笑)」



「わかってるよバーカ(笑)」




「あれ?桜助、次の授業なんだっけ?」



「おい(笑)おめー何しにここに来てんだよ(笑)次はデザイン史だよ。」



「ほーいわかったサンキュー。」









キーンコーンカーンコーン。







「ウィルソン先生おはようございます。」



「あっフォスター学長、おはようございます。」


「ウィルソン先生。 どうですか生徒たちは、楽しく勉強してますか? 」



「それが、どうも点数や正解をすぐに求める子が多くて、正直戸惑っています。

楽しく描くとか、地道に描くという点もすっとばしてしまう子もいますね。 」



「はっはは、そうでしょうなー。 でも、ここからが教師の腕の見せ所ですよ?」


「はい、なんとかします。」



「その意気です。頑張ってください。」


「はい、では」




ピュオ~






「今日は風が強いなー、けどいい天気だ。」



キーンコーンカーンコーン~、キーンコーンカーンコーン~。




第二部へ続く。




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