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死にたくない

何故か視界がぼやけて息も絶え絶え身体中が痛い。

なんでこんなことに…





はっきりとしない思考で記憶を手繰り寄せた私は、あぁと小さくため息を着いた。



そうだ、昨日から体調が思わしくなくて職場を昼頃に早退して、さらに悪くなる一方の体を引きずって家ついたのはいいものの冷蔵庫には冷えピタのひとつも無くて、食欲も激減していた私は大人しくベットに横になったんだった。




あれから何時間だったのかよく覚えていないけど、今の状況からしてただ寝てただけでは体調は一向に良くならなかったらしい。

35歳にもなって見舞ってくれる人すら私にはいない。母だって、実家はこの家からは3時間もかかるし、かなりいい歳だ。元々連絡もまめにとってるわけではなかったし風邪ひとつで呼び出すのも気が引けた。



(それにしても苦しい…

こんなことなら医者に行ってくればよかった、)




面倒臭いという理由で医者に見てもらわなかったことをこんなに後悔したことは無い。

ただの風邪にしてはあまりに苦しい。

息だって浅くするのが精一杯だし、何よりも全身が痛い。

特に心臓や肺といった体の中心部からジクジクと生命力を吸い取っていくような痛みだ。



こんな時に看病してくれる恋人でもいてくれたらよかったのに…そんな淡い夢ですら私には縁遠いもののようで、自然に涙が零れた。

なんと情けない。風邪で弱ってると言ってもこんな女々しいことで泣くなんて。



そう。私には恋人も、友達だっていないのだ。

こんな30半ばになるまでまともに人間関係を築けなかったのはどう考えても自分に問題があったのは明白で、しかしもういい年になってそんな自分の欠点と向き合うことも出来ずにここまで来てしまった。




あぁなんと悔しい。




若い頃にああしていればと何度も思ったが意固地な私は後悔ばかりで今の自分を変えようとは1度も思わなかった。

周囲に悪態をつくばかりで心の中では憧れていたのにそれを実現する努力はしてこなかった。

今更、と言い訳ばかりで虚勢だけは1人前に張って、みるみるうちにただの口の悪いババァになっていた。




(こんなことを思うなんて、ほんとに弱ってるんだな。走馬灯でも見てる気分)




喉はカラカラだけど、食べ物も食べていないせいで上手く体も動かない。こんなネガティブな考えを巡らせている間も体調の悪さは悪化する一方だ。




(ほんとにやばいかもしれない…このまま孤独死とかシャレにならないんだけど?!)





このままだとやばい。

そう思った私はジクジクと痛むからだを無理やりに捻って真横に置いてあるカバンから携帯を探す。

こんなことで死ぬのはゴメンだ。ボロボロの顔面だろうとなんだろうと晒して病院に行かなければ。

こんな時に何故カバンの中に無造作に突っ込んでしまったのかとまたも無駄な後悔をしつつガサゴソと携帯を探した。



(あった!!)




カバンの奥底に入っていた携帯電話を引っ張り出し、救急車を呼ぶ。




119…



プルルルル…

プルルルル…





「はい。」





良かった…

これで誰か来てくれる。

そう安堵して携帯電話の向こうから聞こえる人の声を聴き。呂律も上手く回っていない口で質問に答えていく。ちゃんと喋れているのか些か不安だったが何とか伝わったようである。




「では直ぐに救急車が向かいます。」

「お願いします…」




ガチャ…




ふぅ…





電話が切れると同時に大きなため息が出た。人生で初めて救急車を呼んだのだ、思っていたよりも緊張していたのだろう。電話中は不思議と痛みも緩和されていたように感じる。


しかし電話が切れ、意識が会話よりも自分の現状に向くとまた痛みは増していく。


早く。一刻も早く来て欲しい…



時間が何倍にも感じられる。救急車が到着するまでには、あとどれくらいあるのだろう。

気分は最悪。体も動かない。




早く




早く




早く来て






「死にたくない…」







《ドクン》



イタッ!!!!

無意識のうちに口に出していた言葉に反応するように体の鋭い痛みがあ走る。

急激にましたジクジクとした感覚に、体の中心に呑まれて行くような、猛烈な恐怖。



痛い


痛い


痛い



痛い



痛い




イタイ




イタイ




イタイ





イタイ






イタイ







イタイ






イタイ
















…怖い





助けて…





願っても届かない言葉



死にたくないただひたすらに誰にでもなく願った。




もう体の中心に呑まれて行く感覚は体全体に広がり、指先も、足の先も全てが逆らえない、引力のようなもので引き込まれてる。

全身を無理やりに、グチャグチャにして持っていかれてしまうようなそんな猛烈な感覚。

流れた汗の1滴さえもそれに呑まれた時。




私の意識はプツリと途絶えた。




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