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2.

「なるほど、そーゆーワケか」

目をつむり腕を組んでせいいっぱい神妙なおももちで事件のあらましを聞いたユウジは、上着ポケットから短い鎖を取り出した。


「よーするに、どっちがウソをついてるかはっきりさせりゃいいんだな」

左手を突き出し、中指に鎖の一端を装着した。


「ホントは心霊関係の案件でないとやらないんだけどな、特別だぞ」

ユウジが鎖を見つめながらつぶやくように呪文を唱えると、鎖はほんのり赤い光を帯びた。

そして真下に垂れ下がった先端が時計回りに回転を始める。


そのままケンタの顔の前へ鎖を動かす。

回転は変わらない。

次はショウコ。

やはり回転に違いはない。


「んーーー、どっちもウソは言ってねぇな」

ユウジは鎖をしまいながらきょろきょろと周囲を見回した。

「別の誰かが食ったのか・・・」


「べ、べべ別の誰かって誰よ!?」

ショウコは霊界探偵の言う「誰か」は得意ジャンルではなかった。


「幽霊ってケーキ食べるの?」

ケンタは興味深々といったところだ。


「ネコかなんかだろ」


ショウコが少しほっとしたそのとき

「ガチャッ!」

玄関のドアが勢いよく開いた。



「ひっっ!!」

「あ、パパ!」

「お、、オヤジ・・・?

 なんだ、すいぶん早いじゃねぇか」


「いやー、ちょっと仕事で近くに来たもんでな。

 珍しいな、みんなそろって」

父親の吾郎ゴロウは現職の刑事だ。

勤務時間は不規則なことが多いが、平日の明るいうちに家にいることはめったにない。


「ネコがケーキ食べちゃったんだよ」

「まだネコって決まってないでしょ」

「刑事さん、証拠の品です」

ユウジが冗談まじりに謎の毛を手渡した。


「動物の毛か?

 犯行現場はテーブルの上だな」

銀色の指紋だらけになったテーブルを見て父親はちょっとうれしそうだ。


「ケーキってのはこの皿の上にあった、ということかな?」

「全部食べっちゃったのはユウジだけどね〜」

「ん、犯人はユウジか?」

「ネコがかじったのを兄ちゃんが食べちゃったんだ」

「まだネコって決まってないでしょ!」



冷蔵庫の麦茶を飲みながら、ゴロウはだいたいの聞き取りを終えた。

「ということは、謎の動物の食いかけをアニキがパクリといったワケか。

 動物によっちゃあ唾液にどエライ細菌がついてたりするからな、大丈夫か?」

「うおっぷ・・!」

霊界探偵も胃袋に収まったケーキはどうすることもできない。


「しかし、テーブルを見ると足跡らしきものは残ってないな。

 ケンタ、犯人はどうやってケーキをかじったと思う?」

「うーーーん」

名探偵の推理が始まる。


「そうだ、ここのイスから首をぐーーっとのばしてかじったのかも!」

「なるほど、その可能性もあるな。

 ショウコ、他の可能性はないか?」


「そうね、小さい動物ならジャンプしてお皿の上に乗って食べたかもしれないわね」

推理作家は動物として想定する大きさの範囲をひろげてみせた。


「小さいっていうと、ネズミかなんかかな?」

「いやーーーーーっ!!!」

「うぉえーーーーー!」

ショウコとユウジは一気にダメージを受けた。


「ユウジならまだ他に思いつくんじゃないか?」

「そうだな、天上からだらぁ〜〜〜んと下がってきてペロリ、なんてな」

いやな想像を吹き飛ばすようにおどけてみせる。


「わっはっはっは、

 妖怪が食ったもんなら、ユウジは食えるな!」

「ちょ、ちょっとやめてくれよっ!」

和気あいあいと推理ゲームは続いていく。


「父さんなら、そうだなあ・・・

 こう歩いてきて、ケーキを手にとって、ガブリ、とかな」

「ちょ、、人間ってこと!!?」

「え〜〜〜〜!?」

「そっか、別にテーブルに指紋残すこともないか」

ユウジは冷静だったが、他の表情は一気に凍りついた。


「念のため二階を見てこよう、お前らはここにいろよ」

振り返ったゴロウの表情からは笑顔が消えていた。

背広に右手を差し込み安全装置を外しながら階段を上がる。


捜査一課の刑事が「仕事」で近くに寄ったということの意味を察していたのはユウジだけであったが、あえてそのことには触れないでいた。




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