表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/50

050 第2章エピローグ

 拠点を確保できたので、この日を凌ぐ為の準備に入る。


 まずは水分補給からだ。


「また居るじゃねぇか」


「ひぃぃぃ……」


 アリシアを震え上がらせたのはカバだ。

 近くの川には、またしてもカバの群れが棲息していた。


 カバの厄介な点は水場から離れないことだ。

 水を飲んで満足したら消えてくれる奴等とはその辺が違う。

 そのくせ縄張り意識が強いから、迂闊に近寄ることも出来ない。


「仕方ないか」


 川から少し離れたところで穴掘りを始める俺。


「何をしているのですか?」


 アリシアが尋ねてくる。

 その隣で、ミーシャとコニーも不思議そうな顔。


「掘れば分かるさ。皆も手伝ってくれ」


「分かりました!」


 全員で穴を掘り進めていく。

 ほどなくして、女性陣がわっと驚いた。


「どうして?」


「凄いです」


「穴から水が出ましたよ!?」


 驚きの原因は水だ。

 掘り進めると綺麗な水が湧いてきた。


「これは川の水さ」


「川の? どういうことですか?」


「川の水が土を通ってそこら中に流れている。俺はその水を発掘しただけに過ぎない」


「そんなことも出来るんですか! じゃあ、この水も煮沸すれば飲めるのですね!?」


「煮沸しなくても飲めるぜ」


 俺は実演してみせた。

 近くに生えていた適当な葉っぱを丸めてストローの代わりにして、地中の湧き水をチューチューと吸い込む。

 冷たくて美味しい。


「こうして土の中を通ることでろ過されるんだ」


 土や砂利にはろ過する力がある。

 糞尿の菌などは土のフィルタが弾いてくれているわけだ。


「水はこれでいいな」


 水分補給はこれで完了。


 次は寝床の作成。

 掃除したとはいえ、コウモリの糞があった場所にそのまま寝転ぶのは嫌だ。

 そこで役に立つのがバナナの樹皮だ。

 簡単にめくれるので、大量に調達して床に敷いていく。

 これで敷き布団の完成だ。


「バナナの樹皮は掛け布団としても使える。今は不要だが、冬の寒い時期を野外で過ごす際なんかには活躍するんだぜ」


「「「おおー」」」


 寝るための環境を整えている間に日が暮れてきた。

 あとはいつものように夕食を食べて、ぐっすりと眠るだけだ。


 今日の夕食は適当な果物やキノコを中心としたもの。

 キノコ類は串焼きにして、果物はそのまま生でいただく。


「この世界は食糧が豊富だから快適だな」


 しみじみと思ったことを口にする。


「快適なのはシュウヤ君がサバイバルをマスターしているからですよ」


「その通り。普通なら大変」


「同感です! シュウヤ様だからこそです!」


「持ち上げすぎだぜ」


 焚き火を囲いながら雑談を楽しむ。


「ウキキィー!」


「おっ」


 夕食を楽しんでいると猿の一味がやってきた。

 数は7匹で、リーダーと思しき猿がドングリを差し出してくる。


「何か交換したいのか?」


 俺の言葉が通じたとは思わない。

 しかし猿は「ウキッ」と頷いて、バナナを指した。

 どうやらバナナとドングリを交換してほしいようだ。


「いいぜ」


 明日の朝食に必要なバナナを確保してから、残りを猿にくれてやる。

 すると猿共は大いに喜び、俺達の前で踊り出した。


「こんな友好的な猿が存在するのだな」


 猿は往々にして気性が荒い。

 見ず知らずの人間にこうも友好的なのは珍しい。


「見たことない種だし、この世界のオリジナルかな?」


 猿をまじまじと眺めても種が分からない。

 俺が猿に詳しくないせいでもあるが、おそらく地球にはいない種だ。

 ロイヤルクイーンスネーク以来となる新種である。


「ウキッ! ウキキーッ!」


 踊り終えると、猿の一味は近くの木に登っていく。

 樹上へ移動しても友好的で、嬉しそうな顔で俺達を見ていた。


「猿は食っても美味くないし、仲良く出来るなら願ったり叶ったりだな」


 夕食が終わり、夜が訪れる。

 こうしてまた1日が終了するわけだ。


「「「「おやすみなさい」」」」


 就寝の挨拶と共に眠るミーシャとコニー。

 今日もまた、俺とアリシアはもう少しだけ起きておく。

 二人して壁にもたれかかり、空に浮かぶ月を眺める。


「シュウヤ君、実は前から言いたいことがあったんです」


「どうした?」


 改まった様子のアリシア。


「シュウヤ君のおかげで、私の人生は大きく変わりました」


「そうなのか?」


「私は下級の中でも魔法が下手な落ちこぼれでしたが、今では多くの方に必要とされています。シュウヤ君がサバイバル技術を教えてくれたおかげです」


「ふむ」


「だから、本当に感謝しています」


 アリシアは立ち上がり、俺の前で深々と頭を下げる。


「私を育ててくれてありがとうございます」


「礼を言われるようなことじゃないさ。俺も助けてもらっているし」


 俺はアリシアの手首を引っ張り、目の前に座らせた。

 俺に背中を預ける形でもたれさせる。


「シュウヤ君の身体はいつも落ち着きます」


 俺の胸に頭を預けて目を瞑るアリシア。

 俺は微笑み、彼女の頬を軽く撫でた。


「〈ナラ〉がどんなところか、今から楽しみだな」


「はい。楽しみですし、不安でもあります」


「たしかに不安もあるわな。どういう状況か不明だし」


「でも、問題ありません。私、いえ、私達には、シュウヤ君がいますから」


「俺もアリシア達と一緒だから安心しているよ」


 アリシアの身体を後ろから抱きしめる。


「明日も、明後日も、その先も、楽しんでいこう」


「はい!」


 俺達は座った状態で目を瞑る。

 こうして今日という日が終わり、また新たな一日を迎えるのだった――。

ここでいったん完結とさせていただきます。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ