049 コウモリの駆除
俺はコウモリが嫌いだ。
理由はサソリと同じで、食用に適していないから。
コウモリの場合、可食部自体はそれなりにある。
しっかりと加熱すれば食べること自体は容易だ。
実際、野生のコウモリを食らう民族も存在している。
それでもコウモリが食用に適していないのは、菌を保有しているからだ。
コウモリの持っている菌には、狂犬病やエボラなどの危険なものが多い。
例えばエボラウイルスは、血をはじめとする体液に触れただけで感染する。
本体は加熱処理で無毒だとしても、調理過程で感染する可能性があるわけだ。
だから、コウモリは食用に適していない。
そのコウモリが今、洞窟の中で大量に眠っている。
天井に張り付き、羽を畳み、夜の訪れを待っている状態。
「コウモリと共生することなど不可能だから、追い出させてもらうとしよう」
「どうやるのですか?」
「蜂の時と同じ。煙を使う」
火と煙は強烈な武器だ。
大体の生物にはこのどちらかまたは両方が通用する。
コウモリの場合は煙だ。
適当な葉っぱを燃やし、燻煙をぶつけてやればいい。
そうすれば慌てふためき逃げていく。
「風向きが悪いな」
しかしここで問題発生。
風の向きが理想の正反対だったのだ。
理想の風向きは外から洞窟内へ流れるもの。
だが現実は洞窟内から外へ向かって風が吹いている。
「どうしましょうか?」
「煙を仰ぐための道具を作らないとな――ちょうどいい物がある」
洞窟から少しだけ離れて、バナナの木にやってきた。
遥か高い茎の頂点付近には、大量の実が成っている。
色は黄緑色で、追熟するまでもなく食べられそうだ。
「あれがバナナですか! 美味しそう!」
「食べたい」
「コニーも、です!」
「食べるけど、それは後回しだ」
今回はバナナの樹皮を使う。
「久しぶりにコイツの出番だな」
取り出したのは斧だ。
槍をアリシアに渡すと、俺は全力で斧を振った。
ガッ!
バナナの木に斧がめり込む。
斧を通して手に伝わる感触は柔らかかった。
バナナの木は脆い。
素手で殴り続けるだけでも伐採できる。
「バナナの樹皮は何かと便利だから覚えておくといいぞ」
斧で削った箇所からメリメリメリっと樹皮をめくっていく。
何枚も、何枚も、同じようにめくっては束ねた。
お手軽に作れる巨大団扇の完成だ。
「これを使って煙をあおげば、風に逆らって洞窟へ流し込めるはず」
今日の風力は決して強くない。そよ風だ。
「さぁ火を熾してくれ」
「やります!」
洞窟の前に戻る。
アリシアが率先して火起こしを開始。
その間に、俺達は燃やす為の葉っぱを集めた。
「火が点きました!」
「こちらも準備完了!」
洞窟の前に焚き火を作る。
その炎を大きく成長させてから、葉っぱの投入だ。
瞬く間にモクモクと白い煙がたちこめていく。
「うおりゃあああ!」
俺はバナナの樹皮で作った団扇を横に振った。
これによってこちらへ流れていた煙がUターンする。
煙はコウモリの群れが眠る洞窟へと流れこむ。
「「「キィイイイイイイイ!?」」」
突然の燻煙に混乱するコウモリ。
その場で右往左往しながら飛び回っている。
効果は抜群だ。
「葉っぱを追加しろ! もっとだ!」
「「「はい!」」」
火力を高め、葉っぱを増やし、煙の勢いを強める。
遠目には山火事にも見える程の煙が洞窟へ流れ込んでいく。
「「「キィイイイイイイイイ…………!」」」
コウモリの鳴き声が小さくなっていく。
煙でよく見えないが、洞窟の奥へ逃げたようだ。
出来れば外に出て行って欲しかったが、奥でも問題はない。
奥まで行ってそれ以上の逃げ場がなくなれば、外へ行くしかなくなる。
洞窟から出ていくのは時間の問題だ。
「オラオラオラ! 失せろコウモリ! 消えちまえ!」
上機嫌で樹皮団扇を扇ぐ俺。
そこへ――。
「シャアアアア!」
側面から蛇が奇襲攻撃を仕掛けてきた。
「シュウヤ君、危ない!」
すかさずカバーに入るアリシア。
大して大きくない蛇を、槍で「えいっ」と一突きで殺す。
「あ! シマヘビですよこれ! シマヘビ!」
殺した蛇を持ち上げて喜ぶアリシア。
「こっちは必死なんだよ!」
蛇を一瞥して作業を継続。
そろそろ両腕にかかる疲労がやばい。
「「「キィィィィィ……」」」
どうにか間に合った。
大量のコウモリが空へ飛んでいったのだ。
ただし、奴等は想定していた場所とは違うところから出てきた。
俺の想定では、入口から外へ飛び出すはずだった。
実際には、洞窟の最奥部らしき場所から真っ直ぐ上に飛び立ったのだ。
そこからは、さながら煙突のように煙がモクモクと上がっている。
どうやら洞窟の奥には吹き抜けがあるようだ。
「よし、コウモリを追い払ったぞ!」
作戦完了だ。
俺達はコウモリから洞窟を奪うことに成功した。
「さっそく中で休みましょう! バナナを食べる時間です!」
声を弾ませるアリシア。
その視線は、遠目に見えるバナナを捉えていた。
「アリシア達はバナナの採取を頼む」
「分かりました! シュウヤ君はどうするのですか?」
「洞窟の掃除をするよ」
「了解です!」
洞窟内にはコウモリの糞が散らばっている。
これがまた大量のウイルスを含んでいるので厄介だ。
ここで役に立つのが、両手で持っているバナナの樹皮である。
巨大な団扇として活躍したコイツが、今度は箒として機能するわけだ。
「コウモリとかサソリは居なくなればいいのに」
ふんっと鼻から荒い息を出しつつ、せっせと床を掃く。
バナナの樹皮は流石の高性能で、文句なしに箒の役目を果たしてくれた。
「バナナを取ってきましたよー!」
そこへアリシア達が戻ってくる。
女性陣を「おかえり」と迎え、ミーシャの背負う籠から石包丁を取り出す。
そいつで手に持っていた樹皮を横にカットして半分にした。
「最後にこれを……」
糞に触れた部分の樹皮を焚き火に放り込んで作業終了だ。
「バナナは栄養価の高い最高の食料だ。食えるだけ食うぞ!」
「「「おおー!」」」
奪った拠点にて、昼食のバナナを食べる。
「んぐっ……んぐっ……美味ひぃです!」
先端からパクッとバナナを咥えるアリシア。
その姿は俺の妄想していた通りのエロさであった。




