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043 新顔

 俺はどちらの集落へ行くかを決めることになった。

 此処から東へ進むとある〈ナラ〉か、それとも南の〈ワカヤマ〉か。


「最初だし近いほうがいいな」


 ということで、向かうのは〈ナラ〉に決定した。

 直線距離で見た場合、〈ナラ〉のほうが遙かに近い。


 その上、〈ワカヤマ〉へ行くには迂回する必要があった。

 一方で〈ナラ〉には直線ルートを進んで行くことが出来る。

 移動距離で見ても、〈ナラ〉のほうが格段に近いということだ。


「今回はたくさん持っていくんですね」


「人数が増えるし、前よりも条件が厳しいから、念を入れておこうとな」


「前よりも厳しいのですか?」


「今回は移動を伴うからな。その場に留まり続けるより大変だ」


 家で雑談しながら装備の確認を行う。


 武器は穂先に石の刃を取り付けた竹槍と石斧。

 石斧は俺とアリシアの分だけだが、槍は4人分用意してある。

 杖としても利用するからだ。


 次に道具。

 まずは定番のきりもみ式の火起こしセットを2つ。

 火口を作る為の枯れ葉や枯れ草といった燃料も忘れない。

 他にも、何かと便利な石包丁や手袋など。


 最後に食糧。

 竹筒で作った水筒と干し肉を持っていく。

 干し肉は日持ちするから緊急時に役立つはず。

 あとは調味料として海水から抽出した塩を少々。

 塩は専用の木箱に入れている。


 余談だが、干し肉は俺が作った。

 作り方は簡単だ。

 肉の脂肪を極限まで削ぎ落とし、薄く切って燻すだけ。


 武器以外の装備は竹の籠に入れられている。

 野外生活でも使った全面に布を張って蓋を取り付けたいつもの籠だ。

 籠の数は2つで、中は均等に分けられている。


 籠の運搬は今から顔合わせを行う新入りの役目だ。

 野外生活の経験がある俺とアリシアは戦闘要員として動く。


「忘れ物はないな。よし、行こう」


 俺達は家を出て、チャボスや新顔の待つ井戸まで向かった。


 ◇


「お、来たな、シュウヤ」


「待たせたな」


 集落の中央にある井戸でチャボスと言葉を交わす。


 チャボスの両隣には女が立っている。

 どちらも俺やアリシアより年下と思しき少女だ。

 小学校高学年から中学校1年あたりの年頃。

 一人は膝丈まで伸ばした黒髪、もう一人はピンクのボブヘア。


「そこの2人が同行者なのか?」


 さっそく本題へ。


「そうじゃ」


 チャボスが頷く。

 俺とアリシアは顔を見合わせた。

 互いに眉をひそめてチャボスを見る。


「長老様、その……」


「危険が過ぎるぜ。子供に耐えられるとは思えんが」


 スポットの外には猛獣が蠢いている。

 通常であれば、男でも18になるまで出られない決まりだ。

 つい先日も、川の魚を回収しようと外へ出た下級の男が死んでいる。

 死体は見つかっていないが、おそらく熊に食われたのだろう。


「子供、違う。ミーシャ、大人」


 ピンクボブの少女が言う。

 ミーシャというのは自身の名前だろう。


 一方、黒髪ロングの少女はビクビクしている。

 こちらは外が怖いというより、人見知りのような雰囲気。

 俺と目が合うだけでビクッとしていた。


「大変だとは思うが、そこはまぁお主の実力でどうにかしてくれんか」


「子供だからって特別扱いは出来ないぜ? それでもいいか?」


「もちろんじゃ」


 外に出れば性別も年齢も関係ない。

 子供だからといって、獣は容赦してくれないから。


「2人は外へ行くことに同意しているのか?」


 念の為、新顔の少女達に尋ねる。


「ミーシャ、問題ない。外、見たい」


 ピンクボブは乗り気だ。


「コ、コニーも、です」


 黒髪ロングの方は怪しい。


「本当か? 嫌ならこの場で言ってくれ。乗り気じゃない奴は足手まといになる。足手まといになられると、本人だけでなく俺や他の仲間まで危険になるからな」


「シュウヤの言う通りじゃ。気が乗らないならこの場で断ってくれてかまわぬ。スカーレットには儂から話を通すから、安心して本音を話すが良い」


 チャボスが俺の言葉に続く。

 それでも黒髪ロングの少女は意見を変えなかった。


「コニーも大丈夫、です。一緒に、行かせて、ください、です」


 自身をコニーと呼ぶその少女の目は力強かった。

 これなら問題はないだろう。


「よし分かった。じゃあ、この2人を同行者に認める」


 俺は2人の少女と握手を交わす。

 まずはピンクボブの方からだ。


「俺はシュウヤだ。あっちの女は仲間のアリシア。よろしくな」


「よろしく、シュウヤ。ミーシャはミーシャ」


 ピンクボブ改めミーシャが仲間に加わる。


「よろしくな。君の名前はコニーでいいのかな?」


「は、はいです。コニーです。よろしくお願いします、です」


 コニーとも握手。

 俺に続いて、アリシアも2人と握手を交わした。


「ミーシャとコニーの準備が整っているならすぐにでも出発するが、どうだ?」


「大丈夫」「大丈夫、です」


「オーケー、なら行こうか――荷物持ちを頼むぜ」


 2人の前に竹の籠を置く。

 籠の前には2人の竹槍も。


「シュウヤとアリシアは荷物を持たない?」


 ミーシャが不服そうに俺を見てきた。

 それでも指示には従っている。

 籠を背負い、槍を右手に持つ。


「俺達は戦闘をこなすからな。身軽じゃないと駄目なんだ」


「なるほど、納得した」


 表情から不服の色がスッと消える。

 ぶっきらぼうな話し方だが、根は素直そうだ。


「目的地は東の集落〈ナラ〉だ。行くぞ!」


「「「おー!」」」


 俺達は〈オオサカ〉を発つ。

 過酷なサバイバル生活の幕開けだ。


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