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040 農業の導入に伴う問題

「こんなもんでどうじゃ?」


「問題ない、完璧だ」


 チャボスの力を借りて、スポットの周辺を改良した。

 具体的には、木々を伐採して耕地に作り替えたのだ。


 今まで、スポットの周辺は森に覆われていた。

 もっと言えば、森はスポット内にも入っていたのだ。


「本当にここまでがっつり伐採して良かったのかのう」


「獣が寄りつくならまだしも避けられていたし問題ないさ」


 野生の獣は賢い。

 スポットに近づくと狩られる、と本能で察していた。

 その為、スポットの近くには大した獣が棲息していない。


 仮に上手くおびき寄せても、そう易々とは近づいてくれなかった。

 スポットを表す魔方陣に近づくと、サッと引き返していくのだ。

 これは此処〈オオサカ〉以外の集落も同様だという。


「お主の言うことは分かるが、本当に大丈夫なんじゃろうなぁ……?」


「今は不安に思うのも無理ないが、1年後には俺を崇拝しているぜ。きっと」


 耕地には色々な作物を仕込んでいる。

 ド定番の米や小麦を始め、芋や野菜の栽培も始めていた。


 とはいえ、実際に芽が出るのはしばらく後のことだ。

 作物によって期間は異なるものの、昨日の今日で完成することはない。

 蜂蜜酒を造るよりも遥かに時間を要するものだ。


「ワシにはまるで分からんよ、『畑』というものは」


 俺がこの世界にもたらした新たな技術――それは農業だ。

 畑を耕し、種を植え、作物を育て、収穫する。

 これによって食糧の供給を安定させるというわけだ。


 この世界で農作業を行うのは容易かった。

 なにせ集落の周辺には何でも揃っているからだ。

 自生している植物を見る限り、土の質がチート級だと思われる。


「俺の住んでいた世界で人間が数十億人という数に発展したのはな、食糧の調達手段に農業を取り入れたからなんだ。この世界もきっと良くなるぜ」


 現在、この世界の人類は滅亡の危機に瀕している。

 その原因となっているのは、超級の減少からくる食糧不足だ。


 つまり、根本の問題は食糧の供給高を増やすことにある。

 それを改善することが出来れば、飢餓に苦しむことはない。


 既に動物の丸焼き以外の食事については教えた。

 今では肉のみならず色々な果物や魚も食べるのが当たり前だ。

 現状でも食糧問題は緩やかに回復していくだろう。


 しかし、このままでは遠くない未来に新たな問題が生じる。

 乱獲によって食糧の源となる魚や植物の絶滅危機だ。

 それを防ぐ為に、今回は農業を導入することを決意した。


 農業の導入において大変なのは耕地の作成だ。

 作物に合った質の良い土を作るだけでも一筋縄ではいかない。

 更に作った耕地へ水を引っ張るのも難しいものだ。

 ところが、この世界ではそのどちらも容易く解決できる。


 魔法だ。

 適当な魔法を使えば、その問題はサクッと解決する。


 ここでチャボスの出番だ。

 スポットの外で魔法を使える唯一の超級。

 その力を利用して、耕地を強化し、水を供給してもらった。


 水は川の水を使用している。

 地中に作った水路を通して耕地まで運ぶ。


「作物ごとに栽培や収穫の方法が違うけど、その点はもう問題ないよな」


「お主の記したメモがあるからな」


 今後、農作業は下級と中級の男が担当する。

 一人一人に教える余裕はないので、説明書を作っておいた。

 魔法の炎を指に宿し、それで木の板に文字を書いたものだ。

 木の板に文字を書くというのが、この世界では一般的である。


「丸焼き一辺倒だったメシを改善し、チャボスの編み出したゲロマズワインも闇に葬った」


 耕地を眺めながら呟く。

 隣に立っているチャボスは苦笑いを浮かべる。


「酷い言い草だがまさにその通りじゃ」


「そして今度は農業を導入し、耕地も作った。これで食糧問題は改善したと言えるだろう」


「土器や石鹸も作ったし、いよいよお主のサバイバルもネタギレかの?」


 ここで「そうだな」と答えれば俺は自由だ。

 チャボスから頼まれていた仕事を完了したことになるからだ。

 しかし、俺は首を横に振った。


「まだあるよ」


「ほう、今度は何を教えてくれるのじゃ?」


「農作業の導入でスポット内から木が消えた。それによって今度は別の問題が浮上したわけだが、何か分かるか?」


「ぐぬぬ……別の問題……分からぬのう」


「食器の不足だよ」


「あっ」


 チャボスが理解した。


「今までは短期間で食器を使い捨てにしていただろ?」


「すぐに汚れが落ちなくなるからな」


 そう、この世界では食器を頻繁に交換している。

 理由は食器がただ木を削って形を整えただけの物だからだ。

 日本で売られている木工製品と違い、防腐加工が施されていない。


「スポット内にわんさか木がある頃ならそれでも良かったが、今後はそうもいかない。あんたが生きている間は余裕だろうけど、死んだ後は大変だ。木の伐採に苦労して、いずれは食器のない生活をする羽目になるかもしれない」


「たしかにそうじゃ。何か、何か改善策があるのじゃろうな?」


 縋るような目で見てくるチャボス。

 俺は自信に満ちた顔で「もちろん」と頷いた。


「改善策は木に防腐加工を施すことだ。そうすれば同じ食器を数年単位で使い続けることが出来るだろう」


「なんじゃと!? 数週間しか使えない食器の寿命を数年に延ばすというのか!? さ、さすがのお主でもそんなことは出来まいじゃろうて!」


 チャボスは、吹かしすぎだぞ、とでも言いたげだ。

 それに対して俺は至って真面目な表情。


「お主……まさか本当の本当に……?」


「ああ、冗談なんかじゃないぜ。食器の寿命を爆発的に引き延ばす為の技術を俺は知っている」


 加工して食器の寿命を数百倍に引き延ばす。

 それが俺の次なる革命だ。

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