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039 お礼

「え、これだけの蜂蜜酒をウチに譲ってくれるの?」


「別にかまわないさ。必要な分は確保してあるから。こんなにあっても俺達では飲みきれない」


「分かったわ、ありがとう」


 大量に造った蜂蜜酒の内、過半数を酒場に寄贈した。

 酒場のカウンターの上にずらりと並ぶ酒の入った木樽は壮観だ。


「それでは記念すべき一口目は私がっと――んんんっ! これは……! すっきりして飲みやすい! 長老様のワインと違って喉に絡みつくようなしつこさもないし凄い!」


 ロービィは一足先に蜂蜜酒を一口飲んで感動する。

 俺ですらまだ飲んでいないのだが……まぁいいか。


「蜂蜜酒に関して余談が2つあるんだ」


 忘れる前に伝えておく。


「まずは味付けだ」


「味付け?」


「今のようにそのまま飲んでもいいし、フレーバーとして蜂蜜やレモンを足してから飲んでもいい。飲んだから分かると思うが、蜂蜜酒なのに蜂蜜の甘さが控え目だろ?」


「たしかに」


「だから蜂蜜を加えて、少し甘ったるくするのもアリだ。よりさっぱりさせたいならレモンって感じだな。両方を加えるのも面白い」


「なるほどね」


 これが余談の1つ。

 メシと同じで、蜂蜜酒も調味料で味の変化を楽しめる。


「もう1つの余談は製法について。今回の蜂蜜酒を造るのに、俺はレーズンから造った酵母菌を使ったよな?」


「だね」


「実はこの蜂蜜酒を造るのに、あの酵母菌は不要だったんだ」


「えええええええええええええええええええええ!?」


 急に隣で大声を出したのはアリシアだ。

 ロービィも少なからず驚いている。


「日本の店で売られている蜂蜜は加熱殺菌されているから酵母菌が存在しないのだけど、此処で俺が造った蜂蜜は殺菌がされていないので酵母菌が存在する。だから、蜂蜜と水だけあれば蜂蜜酒が出来たんだよね、実は」


 天然の蜂の巣には酵母菌が備わっているのだ。

 もちろん、俺はそのことを知っていてレーズンを使った。


「ならどうしてレーズンを使ったの?」


 当然、ロービィはこの疑問を口にする。


「レーズンから酵母菌を作る方法を知っておいてほしかったからだ。酵母菌の作り方さえ知っていたら、色々な酒を造ることが出来る」


「――!」


「酒ってのはベースになる材料に水と酵母菌を加えて放置するだけで完成するからな。例えば蜂蜜の代わりに輪切りにしたレモンを使えばレモン酒が出来る」


「蜂蜜酒だけにとどまらず、お酒自体の作り方を教える為にあえてレーズンを使ったということね」


「その通り」


「そこまで考えているとは……凄いね」


「流石です! シュウヤ君!」


「少しでも貢献できればと思ってな。料理の技術が発展することは、此処で生活する俺にとっても嬉しいことだし」


 これで余談の2つ目も伝え終えた。

 あとはロービィを中心に酒場の連中が色々と頑張るだろう。


「それじゃ、俺達はチャボスに蜂蜜酒を振る舞ってくるよ」


「行ってらっしゃい。長老様、きっと衝撃を受けるわよ」


 酒場を出た俺とアリシアは、その足でチャボスの家に向かうのだった。


 ◇


「これがお酒ェ? ワシのワインとはまるで見た目が違うのう」


 蜂蜜酒を木のコップに注ぐと、チャボスは眉間に皺を寄せた。

 彼にとってお酒=自作のゲロマズワインだから無理もない。


 俺の作った蜂蜜酒は白っぽい見た目だ。

 ライトイエローとかクリーム色とか、そんな感じ。


「酒場のロービィは太鼓判を押していたぞ。さっ、飲もうぜ」


 囲炉裏を囲み、俺とチャボス、それにアリシアが乾杯する。


「ちょーっと待ったぁ!」


 そこにスカーレットが乱入してきた。

 酒場に寄贈した酒樽の一つを担いでの登場だ。


「お姉さんも混ぜてほしいなぁ!」


「いいけど、その酒樽は?」


「酒場から貰ってきた! 私は飲むからねぇ!」


 俺達は3人で酒樽を1つ消費するつもりだった。

 そこへスカーレットが加わり4人となり、酒樽の数は何故か2倍へ。

 飲みきれるとは思えない量だ。


「ま、余ったら酒場に戻せばいいか」


 ということで、改めて4人で乾杯する。

 火の点いていない囲炉裏を囲み、各々が蜂蜜酒を飲む。


「思ったよりイケるな」


 それが俺の感想だった。

 ビールに似た臭みがあるものの、味はすっきりしている。

 蜂蜜の甘さは想像していた以上に消え失せていた。


「美味しい! ワインとは違ってすごく美味しいです!」


「むむぅ?」


 チャボスがアリシアを睨む。

 アリシアは「すみましぇん」と慌てて頭をペコリ。


「実際、長老のワインとは比べものにならないでしょ、これ!」


 スカーレットも大絶賛。


「認めたくないが……たしかに美味い……」


 チャボスも絶賛していた。


「私、ワインはあまり飲めなかったのですが、これならたくさん飲めそうです!」


「飲みやすいもんねぇ。ほれ、飲め飲め!」


 ペロリとコップを空にするアリシア。

 そこへ新たな蜂蜜酒を注いでいくスカーレット。


「スカーちゃん、ワシにもちょーだぁい」


 チャボスが鼻や頬を真っ赤に染めながら甘えた声を出す。

 なんとびっくりゲロマズワインの開発者は1杯目で酔っていた。


「長老、死なないでよー」


 などと言いつつチャボスのコップに酒を注ぐスカーレット。

 彼女自身の飲みっぷりも凄まじくて、隙あらばおかわりを繰り返している。

 彼女だけで酒樽を2つとも空にしそうな勢いがあった。


「シュウヤ君はあんまりお酒飲まないんだね?」


「まぁ……この状況を見ていると無茶は出来んな」


 乾杯から約1時間。

 いつの間にか、チャボスとアリシアは酔い潰れていた。

 チャボスは大の字に倒れ、アリシアは俺の膝の上でスヤスヤだ。


「まだお酒は余っているけど、この辺でお開きにしよっか」


「だな。別に無理して飲みきる必要もない」


 俺とスカーレットは協力してチャボスを布団まで運んだ。

 チャボスは何の夢を見ているのか「ママぁ」と連呼している。

 齢85の爺さんがママと連呼するのは、なんというか、おぞましかった。


「アリシアを運ぶの手伝ってもらっていい?」


「もちろんよ」


 チャボスの後はアリシアだ。

 こちらは寝言の代わりに涎を垂らしている。


「やれやれ、困った女だ」


「ふふっ、可愛くていいじゃないの」


 俺達は両サイドからアリシアの腕を取って自分の肩に回す。

 俺は右腕を、スカーレットは左腕を担当する。


「スカーレットは酔わないのか? 誰よりも飲んでいただろ」


 スカーレットを除く3人の合計より、スカーレット1人の方が飲んでいた。


「私は酔わないのよね、昔から」


「そういう体質なんだな。羨ましい」


「よく言われるけど、私としてはもう少し酔いたいわね」


 月光に照らされた夜道を歩いて我が家へ到着。

 布団までアリシアを運び、優しく寝かせてあげた。


「ありがとう、助かったよ」


「こちらこそ、美味しいお酒を生み出してくれてありがとね」


 そう言うと、スカーレットは俺を抱き寄せてきた。

 俺の後頭部を鷲掴みにして、半ば強引に自分の胸へ押し当てる。

 それから囁くように言った。


「今日はお姉さんの家で過ごしていかない?」


「そ、そそ、それって……」


 スカーレットの胸に埋まった顔を上げる俺。


「アリシアちゃんは寝ているし、問題ないでしょ?」


「たしかに……」


「キミのおかげで環境が良くなる一方だし、皆の雰囲気も明るくなった。長老も前に比べてピリピリしなくなったしね。そのお礼にお姉さんが愉しませてあげる」


「そんな、まさか、いいんすか……?」


「お姉さんじゃ不満?」


「いえ! いえ!! そんなことありゃりゃません!」


「だったら決定ね」


「はい!」


 俺達は静かに家を出た。

 そのまま闇夜に紛れてスカーレットの家へ行く。

 そこで色々と愉しみ、気持ち良くなった。


 ――この日以降、ゲロマズワインが振る舞われることはなかった。

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