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033 チャボスの提案

 チャボスの家にやってきた。

 囲炉裏を挟んでチャボスと向き合うように座る。

 アリシアは俺の隣に腰を下ろした。


「休みの日まで呼び立ててすまないのう」


「かまわないさ。俺達も世話になっているからな」


 前置きをサクッと済ませて本題に。


「で、何のようだ?」


「お主にお願いする仕事内容を変更しようと思ってな」


「ほう」


 俺達の仕事は上級に対するサバイバル技術の指南だ。

 チャボスはこれを変更するつもりらしい。


「当初の予定では既に上級が中級に全ての技術を教えているはずじゃったが、今のところは上級にすら教え終えていないじゃろ?」


「だな。思っていたよりも遥かに効率が悪い。アリシアと同程度の理解力を前提としていたのが仇となった」


 今なら分かる。

 やはりアリシアの理解力が異常だったのだ、と。


 上級の奴等は決して手を抜いているわけではない。

 俺達の言葉に耳を貸し、どうにかモノにしようと必死だ。

 しかし、長らくの魔法依存体質のせいで難航していた。

 火起こしも依然としてもたつくし、寝床を作るのも一苦労だ。


「私は魔法階級が低い分、他でカバーしようと頑張っちゃいました」


 アリシアが「えへへっ」と照れ笑いを浮かべる。


「そこでじゃ。シュウヤ、お主は指南役から外れてもらおうと考えている」


「すると俺の仕事はどうなるんだ?」


「未だに披露していない技術を用いて、よりこの集落を快適にしてほしい」


「上級への技術指南が終わったらやる予定だったことを前倒しでするわけか」


「その通りじゃ」


 チャボスから要求された仕事は2つ。

 1つは、野外生活で披露したサバイバル技術の伝授。

 もう1つは、集落を発展させること。つまり技術革新である。


 両方の仕事が済んだら俺は自由だ。

 気の向くままにサバイバル生活を楽しんでかまわない。


「既存の技術については、アリシアだけで担当してもらう」


「ええええ!」


 驚愕するアリシア。

 よほどびっくりしたらしく、背筋がピンッと伸びていた。


「私だけですか!? でも私、下級ですよ」


「ことサバイバルに関して、お主はシュウヤの次に秀でておる。文句を言う者は誰もいない。それにシュウヤだって下級じゃぞ」


「そっかぁ、それもそうですよね!」


 アリシアは間の抜けた声を出し、あっさり納得した。


「そんなわけで、今後、お主らは別々に作業をしてもらう。問題はないか?」


「別にかまわないよ。野郎共もアリシアに教わる方が物覚えいいしな」


 野外生活の技術を叩き込む相手は野郎に限られている。

 女性は子供を産むことが出来る為、危険な場所には行かせられない。


 その為、俺達が女性に教えたのは料理のことだけだ。

 料理はスポットの内と外の両方で使える技術だから。


「教えることに関しては私の方がシュウヤ君より上ですもんね」


「だなぁ」


 アリシアは教えるのが上手だ。

 もしかしたら俺が致命的に下手なのかもしれない。

 どちらにせよ、アリシアの方が効率良く指南しているのはたしか。


「アリシアは一人でも問題ないが、俺は一人だとまずくないか?」


「シュウヤ君、私が居ないと駄目なんですか?」


「別にアリシアじゃなくてもいいけど、誰か一緒じゃないと二度手間かと」


「よく分かりませんが、今のはちょっと不服です」


 アリシアがむすっと頬を膨らませる。

 不服というよりは怒っているように見えた。


「何を怒っているんだ」


「怒っていません」


「怒っているじゃないか。不機嫌そうだぞ」


「怒っていません!」


 俺達のやり取りを見て、チャボスが笑う。

 ふぉっふぉっふぉ、と笑いまくった後で言った。


「そこはお前じゃないと駄目って言うところじゃぞ、シュウヤ」


「その点に怒っていたわけか」


「怒っていないもん!」


 俺は苦笑いを浮かべ、「悪かったよ」と謝る。

 謝罪によってアリシアの頬が少しだけ萎んだ。

 やれやれ、女ってのは難しい生き物だよ。


「さて、話を戻すが、お主の言っていることはごもっともじゃ」


 チャボスが俺に言う。


 アリシアは意味が分かっていないようだ。

 頭上に疑問符を浮かべ、「どういうことですか?」と首を傾げる。


「野外生活におけるアリシアみたいに、俺の技術を傍で見て覚える奴が居た方が効率いいんだよ。作業を見学できるなら、後から教える際にいちいち実践して見せる必要もないからな」


「なるほどです!」


 チャボスが話を再開する。


「シュウヤ、お主には職人と下級の男を統率してもらう」


「職人って、あの竹細工の工房で働く女性陣か」


「さよう」


 此処の職人は全て女性だ。

 竹ひごや布を使い、衣類を中心に色々な物を作っている。

 大部分の工程では魔法を使っているが、一部の細かい作業は手動だ。


 工房は俺も利用したことがある。

 野外生活の際は、特製の背負い籠を作ってもらった。


「先日、工房で石包丁を改良した包丁について教えたじゃろう?」


「したよ。日本の包丁と同じような見た目に加工してもらった」


「あの一件で、工房長のスカーレットから苦情が出てな」


 工房長のスカーレットが誰のことか分からない。

 だが、おおよその当たりはついていた。

 最年長の婆さんか、妖艶な魅力が素敵なお姉さんだ。


「苦情? 俺、何かまずったのか?」


「いいや、苦情の相手はワシじゃ。早くシュウヤをよこせ、もっと色々な技術を教えろ等と怒られてな」


「それで予定を前倒しにしたのか」


「そういうことじゃ。だから今後は工房をお主の下に付ける。そして、材料調達などで野外へ行く必要がある時は、下級の男を好きに使うと良いじゃろう」


「工房の件は分かったが、下級の男は不要だな」


「むむ? どうしてじゃ?」


「外は危険だからな。サバイバル能力のない奴が無闇に出歩いたら死ぬ可能性が高い。俺の命令で誰かが死ぬかもしれないなんてご遠慮願いたいね」


「そうはいっても、スポット内の作業だけで完結するものでもないじゃろ」


「まぁな。だから外へ行く必要がある時は俺が行くよ」


 チャボスが「ならん!」と声を荒らげるも、俺は首を横に振った。


「あんたの気持ちは分かるよ。今のこの世界にとって、俺は最重要の存在。下手を打って失いたくないだろう。分かってはいるけど譲る気はないから、そっちが妥協してくれないと話は進まないぜ?」


「ぐぬぬ……仕方あるまい。では認めよう」


 こうして、今後の活動は集落の発展に決まった。


「では明日、工房でスカーレットと話をしてくれ」


「了解」


 にこやかに頷く俺を見て、アリシアが言う。


「シュウヤ君、なんだか嬉しそうだね」


「まぁな」


 実際、今回の話に俺は喜んでいた。

 というのも、ここ最近は退屈でたまらなかったのだ。

 物覚えの悪い野郎に同じことを教え続ける日々に飽きていた。


 今後は何かと理由を付けて集落を出ることも可能だ。

 それだけでも嬉しいが、技術革新も純粋に楽しみだった。


 アリシアと別行動なのは寂しく思うが、家では一緒に過ごせる。

 風呂や布団でイチャイチャすれば、寂しさも吹き飛ぶだろう。

 だから今は楽しみの方が強い。


(明日は手始めにアレを作るか。外に行けるし)


 既に明日のことを考えながら、チャボス邸を後にした。

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