032 第2章プロローグ
異世界人の認識が「サバイバルYABEEEE」となったところで、文明の発展に乗り出した。
まずは食文化の改善から。
集落の真ん中で、野外生活で食っていたメシを披露する。
対象はチャボスや上級の連中だ。
出来れば全員に食わせたいが、今はまだ材料が足りない。
だから地位の高い人間から始める。
「キノコってこんなに美味しかったんだ!?」
「手間暇をかけて処理したらヘビや魚も食べられるのね!」
「あのグロテスクな実がこれほど甘いなんて……すげぇよ、パイナップル」
「なによりやばいのは塩だぜ! 味が進化する!」
「レモンをかけると風味がさっぱりしていいわぁ!」
評価は例外なく最高点。
一様に感動の声を上げていた。
それを眺める中級以下の住民は羨ましがっている。
どんな味なのかと妄想し、思わず涎を垂らす者も居た。
「まさか外でこれほどの物を食べていたとはのう……」
チャボスも舌を巻いていた。
未知の味、未知の食感、未知の調理法……。
異世界の人達にとって、何もかもが新鮮だった。
「俺達から上級へ、上級から中級へ、そして中級から下級へ広めていく。そうやって全員に技術を行き届かせるんだ」
「それが合理的じゃろう」
集落には約1000人の住民が生活している。
俺とアリシアだけで全員に教えるのは無理があった。
だから俺達は少ない人間に絞って叩き込む。
あとはそいつらを中心に拡散させていくわけだ。
「食わせておいてなんだが、キノコはあまり食わないようにしてくれ」
「どうしてじゃ?」
「この集落で言われている通り毒キノコも存在するんだ。食べて死ぬことは稀だが、それでも毒キノコを食えば笑っては済まない」
「簡単な見分け方はないのか?」
「ないとは言い切れないが、そういう方法に頼るのはオススメしない。中には無毒の美味いキノコと瓜二つの毒キノコも存在するからな。きっちりと植物の知識を身に着けて判別する方がいいだろう」
「ふむ……じゃが、これほどの食材を野放しにするのは惜しい気もする」
「だったらエリンギだけ採取すればいいよ。シイタケは似た毒キノコがあるけど、エリンギに似た毒キノコってのは俺の知る限り存在しないからね。確実に安全とは言い切れないが、安全性は非常に高い」
出来れば植物の知識も完璧に叩き込みたかった。
しかし、この場でそれをするのはとてつもなく難しい。
教える為の教材――植物図鑑が存在していないからだ。
口頭で説明するのは論外として、実地で1つ1つ教えるのも論外。
植物の種類は両手を使っても数え切れない程に多いのだから。
なので、可能な限りキノコを食べることは控えてもらう。
「料理はこんなものだ。次は魚を捕獲する為の罠について教えるよ。ここで作るなら竹ひごを使えばいいし、外で作るなら適当な茎を加工すればいい。その方法だが――」
しばらくの間、俺とアリシアはサバイバル技術を伝授するのに奔走した。
◇
2週間と少しが経過した。
その間に、集落は大きく進化していた。
「これが魚かぁ! うめぇ! ヤマメさいこー!」
「パイナップル甘いわぁ!」
まず、食文化の改善が完了した。
今では全員が丸焼き以外の料理を知っている。
自分で捌くことだって可能になっていた。
食文化の改善に伴い、道具も増えた。
フォークに加えてナイフと箸が導入されたのだ。
より日本の食事に近くなった。
既にある道具の改良も行われている。
例えば石包丁は、日本の包丁に近い形へ作り替えた。
木のグリップを付け、刃となる石の部分も細長く加工する。魔法で。
もはや地球のサバイバルで使われる石包丁とは別物だ。
他の技術については、まだまだ教育が追いついていない。
魔法に依存しきっていた為、なかなかの苦戦を強いられていた。
ようやく上流の大半に伝授し終えたところで、前途は多難だ。
しかし、集落の進化はこれだけには留まらなかった。
「風呂って最高だなぁ!」
「1日10回は入浴したくなるぜ!」
「俺も俺も!」
全ての家に風呂が備わったのだ。
この世界には存在しない風呂を取り入れた。
風呂はスポット内で楽しむものだ。
だから、各家庭に浴室を導入するのに要した時間は数分程度。
魔法を使えば家のリフォームなど一瞬で終わる。
風呂は誰もが気に入っていた。
特に喜んでいたのはチャボスで、隙あらば風呂に入っている。
隙がなくても強引に隙を作って入浴することもあるくらいだ。
食事、道具、風呂。
これだけでも十分な進化だが、もう1つ大きな進化がある。
それは――。
「家の外でも羽音が聞こえないのは快適だな、アリシア」
「そうですね! シュウヤ君!」
――スポット内から蚊をはじめとする小さな害虫が駆逐されたこと。
これはヨモギの葉を燃やす虫除けテクニックを応用したもの。
ヨモギの葉を燃やすことで生まれる煙は虫除けに効果的だ。
最初は俺達の家でのみヨモギの葉を燃やしていた。
火魔法で燃やし、風魔法で家の中に煙を充満させ続ける。
この虫除けに目を付けたのがチャボスだった。
「上級魔法でスポット全体を覆えばもっと快適じゃろう」
そう言って、チャボスは煙の範囲を拡大した。
今ではスポットの範囲ギリギリをヨモギの煙が巡回している。
風の魔法によって、消えることなく煙が漂っているのだ。
だからスポット内に蚊が侵入することがなくなっていた。
「ゆっくりとだが着実に集落が発展しているな」
「ゆっくりなんかじゃありませんよ! 急速に発展しています!」
俺とアリシアが集落内を散歩する。
今日は休日なので、これから適当に遊ぼうかと考えていた。
空き地に土魔法と水魔法でプールを作り、背泳ぎでもしようかなと。
そんな時――。
「シュウヤ様! アリシア!」
男が俺達のもとへ駆け寄ってきた。
この世界に転移した初日、俺を集落へ連行した男の1人だ。
名前は知らないが、悪い奴ではなさそう。
男は言った。
「長老様がお呼びです!」




