030 胸を揉み、そして
おっぱいを揉む。
我ながらイカれた提案だと思う。
だが、これは実に合理的な提案だった。
「アリシア、胸を揉ませろ」
「いきなり……どうしたの……ですか……」
終了直前の蚊取り線香みたいな儚い声のアリシア。
「お前の核温を上げるためだ。このままだと死ぬから」
「わか……りま……した……」
本当は理由を知りたいはずだ。
どうして胸を揉むと体温が上がるのか。
それでもアリシアは、何も言わずに従った。
俺を信じているからだ。
この信用を裏切るわけにはいかない。
「いくぞ」
恐る恐ると手を伸ばす。
今までの人生で女の胸を揉んだことなどない。
「おほっ」
思わず変な声が出る。
アリシアの胸に手が当たったからだ。
ゆっくりと力を入れ、弾力を確かめるように揉む。
「ああっ……」
アリシアの口から艶めかしい声がこぼれる。
「シュウヤ君……恥ずか……しい……」
「それがいいんだ」
力を強める俺。
するとアリシアに口からこぼれる声も大きくなった。
「もう少しだ。今度は直に触らせてもらうぞ」
「――!」
返答を待たない。
即座にアリシアの服へ手を突っ込ませた。
初めて直に触る女のおっぱい。
暗くて見えないが、手に伝わる感触が俺を刺激する。
「シュウヤ君……駄目……駄目です……」
「恥ずかしいのか?」
「はい……だから……駄目……ひゃっ」
「恥ずかしいならばよし! 続けるぞ!」
「そんな……!」
アリシアの胸を揉み続ける。
しばらくして、俺は言った。
「では生乳を見せてもらおうか」
「恥ずかしいから駄目ですって」
「だから見せてもらうのさ!」
本当は生乳など見えない。
焚き火が消えて真っ暗だからだ。
夜目を利かせても輪郭が薄らと分かるくらい。
それでも俺は服をめくった。
全てはアリシアを恥ずかしくさせる為に。
「み、見ないでください……だらしない身体なので……」
「いいや、見るね。最高にイイ身体だと思うぜ。たまらん」
「もう、シュウヤ君、こんな時にそんなこと言わないでください」
「こんな時だからこそ言うんだよ」
「えええっ、ど、どうしてですか?」
「だって、ほら、元気になってきただろ?」
「あっ、たしかに」
俺の目的は、アリシアを恥ずかしがらせることにあった。
恥ずかしい気持ちになればなるほど効果的なのだ。
人間は恥ずかしくなると火照る生き物だから。
火照りの仕組みは簡単だ。
自律神経が乱れることで、体温調整がガバガバになる。
それによって体温が急上昇して、身体が火照るわけだ。
アリシアは、俺に胸を揉まれて恥ずかしい気持ちになった。
恥ずかしくなったので身体が火照り、体温が急上昇。
それに伴って右肩下がりだった核温が上昇し、元気を取り戻した。
「全ては私を回復させる為に……」
「当たり前だ。他意はない」
嘘だ。
他意はほんの少しだけあった。
「シュウヤ君は、その、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「私と同じで核温が下がっているのではないでしょうか?」
「たしかに下がっていたが、俺も回復した」
「えっ、どうしてですか? 恥ずかしかったのですか?」
「ま、まぁ、そう、そうだな、その通りだ」
俺が回復した理由もアリシアと同じく火照りによるもの。
しかし、火照りに至った原因は、恥ずかしかったからではない。
興奮したからだ。
アリシアのおっぱいを揉んだことで興奮した。
それにより火照りが発生。
結果、俺は恥ずかしくはないが、核温が上昇した。
「これもサバイバルの方法ですか?」
「いや、これは咄嗟の閃きだった」
「凄い! 流石はシュウヤ君ですね!」
「上手くいったから良かったが、滑ってたらただのセクハラだったけどな」
火照りで回復できるかは分からなかった。
完全に一か八かの賭けだったのだ。
「だがまだ安堵するには早い。絶望的な状況には変わりないから」
「たしかに。また身体が冷えてきました」
「だろうな。火照りなんざ一時的なものだ。落ち着けば消える」
「じゃ、じゃあ、どうすれば……」
「どうにかして火照った状態を持続させないとな」
俺はアリシアの横に身体をスライドさせる。
いつまでも跨がっているのもどうかと思った。
「ずっと火照る状態……」
上半身を起こして呟くアリシア。
「その、恥ずかしい気持ちになればいいんですよね?」
「そうだな。他には興奮するとか。顔が熱くなることが大事だ」
「それでしたら……」
アリシアの言葉が止まる。
それでしたら、の続きがいっこうに出てこない。
「どうした?」
「えーっと……」
「もしかしてど忘れか?」
「違います! 覚えてはいるんです」
「だったら早く言わないか。遠慮する場面じゃないだろ」
「そ、そうなんですが、その、恥ずかしくて」
「なんだ? 何を考えている?」
しどろもどろのアリシアを催促する。
「分かりました!」
一転して強い口調のアリシア。
どうやら何かを決意したようだ。
「私、閃いたのですが」
「おう」
次の瞬間。
「おわっ!」
俺はいきなり押し倒された。
「なにをするんだ!?」
「恥ずかしくて興奮する気持ちにするんです」
アリシアが跨がってくる。
俺が下でアリシアが上――先ほどまでとは正反対だ。
「アリ――んぐっ」
俺の言葉が何か塞がれる。
その何かとはアリシアの唇だった。
彼女は上半身を倒し、唇を重ねてきたのだ。
若い女特有の甘い香りが降りかかる。
アリシアは何も言わない。
ただ静かにディープキスを続けている。
俺の口内に舌を入れ、舌と舌を絡め、時折、息を継ぐ。
静寂の寝床に、淫らな音だけが響く。
チュパッ、チュパッ、チュパッ……。
しばらくして、アリシアがキスを終えた。
「いかがですか?」
「これは……」
ジュルリという音がした。
その音には聞き覚えがある。
アリシアが舌を舐めずった音だ。
「身体を密着させるのも体温維持に効果的なんですよね? 恥ずかしいから核温が上がりますし、なかなか良い方法だと思うのですが」
「たしかに……素晴らしい……!」
「良かったです!」
キスを再開するアリシア。
俺の顔の両隣に腕を置き、何度も何度も唇を重ねる。
息継ぎの度にこぼれる息が熱くなっていく。
俺の息も、アリシアの息も、寒さを感じさせない熱さだ。
「アリシアって思ったより積極的なんだな」
「そんなことありませんよ」
「こんなにも自分からキスしてくるくせに?」
「暗くて何も見えないから恥ずかしさが薄れているんです」
その気持ちは理解できた。
俺もアリシアの胸を揉んでいる時は同じ気分だった。
「でも、嫌じゃないのか?」
「嫌?」
「知り合って間もない俺とキスしてるんだぜ。まぁ、胸を揉みまくった後に言う台詞じゃないけどさ。でも、好きでもない男とキスするのって、抵抗あるもんじゃないの?」
俺は男だから気にならない。
アリシアのような可愛い女とキス出来るなら最高だ。
仮にアリシアの性格が畜生だったとしても諸手を挙げて喜ぶ。
「だって、シュウヤ君のことが好きですから」
「えっ」
「二度は言いません」
「今、たしか――んぐっ」
俺の言葉はアリシアの唇に塞がれた。
その後もキスを中心に夜通しイチャイチャする。
絶望的な状況だったが、夢のような状況でもあった。
 




