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022 果物デビュー

 支流を発見すると罠を設置した。

 拠点から徒歩で30分程の距離だ。


「今日はこの罠を可能な限り量産していくぞ」


「了解です!」


 その後の作業は同じ事の繰り返しだ。

 拠点へ戻って罠を作り、完成したら川まで運ぶ。

 諸々を考慮した場合、一度に運べる罠の数は2つまで。


「それにしてもまともな獲物がいねぇな」


 道中では食いたくなる生物に出会えなかった。

 その代わりとばかりに、食えねぇ害虫にはしばしば遭遇する。

 デスストーカーやら大きな蜘蛛やら、そういう奴等だ。

 毒性の敵は殺し、そうでない害虫は無視しておいた。


「あっ、シュウヤ君、あそこ!」


「む?」


 何度目かの罠を設置した帰り道、アリシアが動物を見つけた。


「シマリスじゃないか!」


 それは樹上からこちらを眺めるシマリスだった。


「小さい! 可愛い! 美味しそう!」


 最後がおかしいぞアリシア。


「残念ながらシマリスは食べない」


「えー! どうしてですか?」


「見ての通り小さいから食べても腹の足しにならないし、何より捕まえるのに苦労する。あいつらは賢いから、警戒している限り、樹上から降りてこない。労力に対して結果がしょぼい――つまりわりに合わないってことだ」


「なるほど! そういうことも考える必要があるんですね!」


「まぁな。だが、シマリスを食べない理由は他にもある」


「なんですか?」


「可愛いからだ」


「ええええええ!?」


「実は俺、シマリスが大好きでな」


 これは本当の話だ。

 シマリスは可愛いので、食べるなんてありえない。


「ウサギの方が可愛いですよ!」


「でもウサギは可食部が多いし、捕まえるのもそう難しくないし、何より美味いからな。それにシマリスってのは、益獣なんだ」


「益獣?」


「可愛くて小さな見た目をしているが、縄張り意識が非常に強い。自身の縄張りを侵す者であれば、同じシマリスであっても遠慮せずに襲い掛かる」


「ジャガーみたいですね」


「まさにそうだ。ただ、ジャガーと違って人間は襲わない。ジャガーと同じで警戒心が強いから、勝てる勝負しか挑まないんだ。よって、シマリスが襲うのは身の丈に合った小さな生き物に限られている。俺達の食用に適さないような奴等だ。雑食だから虫も平気で食うし、共存するにはもってこいの生き物だよ」


「おおー! だったら殺しちゃ駄目ですね!」


「そういうことだ。最高に可愛いし、大事にしないとな」


 ただ好きなだけでなく、合理的な理由によってシマリスは見逃す。


「日も暮れてきたし、今日はこんなもんでいいだろう」


 最終的に、俺達は10個の罠を設置した。

 これだけ設置しておけば、何かしらの魚は捕れるだろう。

 明日が楽しみだ。


「さて、今日の夕食だが」


「またキノコですかぁ……」


 拠点でキノコの串焼きを作ろうとしている時のこと。

 アリシアはなんだか気乗りしない様子だった。


「なんだ? 嫌なのか? 塩をかけて食うキノコは最高だっただろ」


「はい、すごく美味しいです。ですが、違う物も食べたいかなぁって」


「欲が出てきたわけか」


「そうなんです。出てきちゃいました……」


 アリシアが「えへへっ」と照れ笑い。


「私、食事がこんなに楽しいものだとは知らなくて。もっともっと色々な物を食べてみたいんです」


「なるほどな」


 アリシアの心情には理解の余地があった。

 野外生活を始めるまで、ひたすら動物の丸焼きを食べてきたのだ。

 だから、彼女にとって、今までの食事は生命維持活動の一環に過ぎなかった。

 その認識を俺が変えてしまったのだ。


 今のアリシアにとって、料理は色々な味を楽しむものだ。

 だから彼女は、未知の食べ物に飢えている。


「なら果物に手を出すとしようか」


「果物? 前にも何度か言っていましたよね」


「そうだ。果物というのは、イチゴやリンゴのことだ。まぁ、果物が何かなんて深く考える必要はないさ」


 この世界には野菜や果物という概念がない。

 それらは例外なくただの植物であり、食べられないという認識だから。


「とりあえず、今日は身近な果物を採取するとしようか」


 この付近には色々な果物が自生している。

 把握していたが、あえて今までは手を出してこなかった。

 それに頼ると難易度がグッと下がるからだ。

 水分も空腹もサクッと満たせてしまう。まさにチートだ。


 今はサバイバルの凄さを証明する為に活動している。

 だから、ある程度は環境に甘えることなく過ごしていた。

 石包丁や竹の籠を使える分の代償……と俺は考えている。


「コレがその果物だ」


 拠点から少しした所にやってきた。

 そこには日本人なら誰でも知っていそうな果物が生えてある。

 長さ約1メートルの極太の茎に、1つの大きな果実。

 葉っぱは剣の刃みたいに細長くて硬い。


「こ、これって、食べられるのですか!?」


「そう思うだろ。なかなかたいそうな見た目だからな。だがクソ美味いぞ」


「なんと! ところでこの果物はなんという名前ですか? これが例のイチゴ? それともリンゴですか?」


「残念、これはパイナップルだ」


 そう、俺達の前にあるのはパイナップルなのだ。


 パイナップルのイメージはよく誤解されている。

 ヤシの実のように大きな木に生えていると思われているのだ。

 実際は、腰ほどの高さに伸びる茎の上で、実が1つ成っているだけである。


「かなり大きいし、1個で十分だな」


 近くにはパイナップルの実がいくつもあった。

 しかし、持って帰るのは1個のみ。


「あとはこの果物も持って帰ろう」


「これがリンゴですね!」


「違う。これは――」


「イチゴですね!」


「レモンだよ」


「レモン!?」


「そうだ」


 パイナップルの傍にはレモンがあった。

 レモンはそれほど高くない木に生えており、手で収穫出来る。

 良い感じの実を、こちらも1つだけ頂いた。


「レモンは2個でもよくないですか?」


 アリシアが尋ねてくる。

 思っていた通りの質問に、俺はクスクスと笑ってしまった。


「いやぁ、レモンはアリシアの分だけでいいよ」


「えっ!? シュウヤ君は食べないのですか?」


「俺はパイナップルだけでお腹が膨らむからね。キノコも食べるし」


 嘘である。

 本当はレモンを単品で食べたくないだけだ。


「じゃあ私の為に……。シュウヤ君は優しいです」


「ククク、まぁな」


 レモンにかぶりついた時の反応が楽しみだ。

 酸っぱさのあまりのたうち回るアリシアを想像しながら拠点に戻った。


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