020 巨大トカゲを食う
野外生活3日目。
実力を証明する為のサバイバル生活も中盤に突入だ。
今のところ、チャボスの力を借りることなく過ごせている。
「にゃふふぅ……ヘビだぁ……」
背後から寝言が聞こえる。
どうやら今日は俺の方が早起きのようだ。
アリシアの腕は相変わらず俺を抱きしめていた。
「アリシア、朝だぞ」
くるっと身体を返してアリシアの方を向く。
寝顔なら大丈夫だろうと思ったが、寝顔もやばかった。
むしろ無防備な寝顔の方がやばかった。
「もうちょっとぉ……」
「やれやれ、もうちょっとだけだぞ」
「ふぁい」
アリシアが腕だけに飽き足らず脚まで絡めてくる。
ガッチリと固められて身動きが取れない。
「俺は抱き枕じゃないんだが……」
苦笑いを浮かべつつ、アリシアの寝顔と胸を凝視する。
魔が差して手が伸びそうになるのをぐっと堪える朝であった。
◇
今朝の朝食はキノコ類の串焼き。
それと――。
「ト、トカゲを食べるんですか!?」
「胴体は微妙だが尻尾は美味いぞ」
――全長4メートル級の巨大トカゲだ。
オオトカゲに分類されるタイプで、拠点の近くを彷徨っていた。
アリシアが水を汲みに行っている間にゲットだ。
斧による無慈悲の一撃を頭部へ叩き込むとあっさり息絶えた。
オオトカゲは見た目のわりに可食部が少ない。
胴体は内臓や皮が大半で、肉は殆どついていないのだ。
頭部も食べられない。
食用に適しているのは尻尾と肝臓くらいだ。
俺は川辺でオオトカゲを捌いた。
分厚い皮を突破できればあとは大して難しくない。
皮ごと尻尾を切断して、肝臓を取り出すだけだ。
「肝臓は栄養価が豊富で美味いが、この緑色の塊は食べられない」
取り出した肝臓に付着している緑色のぶよぶよした塊を指す。
「それはなんなんですか?」
「胆のうだ」
説明しながら胆のうを取り除く。
こうして尻尾と肝臓だけを確保したら完了だ。
あとは川の水でさっと洗ってから、焚き火に放り込めばいい。
俺達は焚き火まで戻り、すぐさま調理に取りかかった。
サイズの問題から最初に焼き上がるのは肝臓だ。
尻尾は大きい上に皮を通して焼く為、焼き上がるのには時間がかかる。
「肝臓は1人分しかないけど、食べてみるか?」
「いえ! シュウヤ君が食べて下さい!」
「どうした? 慣れない食べ物に怖じ気づいたか?」
からかうように言う。
アリシアは「違いますよぅ」と頬を膨らませた。
「シュウヤ君の方がたくさん頑張っているのに、私の方がたくさん食べている気がしたんです」
「気がしたっていうか、現にアリシアの方が遙かに食べてるぞ」
「ぐぐっ……そ、それでですね、1人分のご馳走ならシュウヤ君に食べてほしいなと思いまして。それに、そのトカゲはシュウヤ君が」
「気が利くじゃないか。なら遠慮なく頂くよ」
「はい!」
お手製の竹串に刺した肝臓がこんがり焼ける。
ただでさえ赤黒い肝臓は、焼けたことで真っ黒になった。
「塩は要りますか?」
「いや、大丈夫」
焼いた肝臓をそのままペロリ。
サバイバル補正を抜きにしても絶賛できるだけの美味さだ。
「うめぇ! それに力が漲ってくる!」
「次は私にも食べさせてくださいね!」
「おうよ!」
しばらくキノコを食べながら過ごし、いよいよ朝のメインディッシュ。
巨大トカゲの巨大な尻尾の丸焼きを食べる時間だ。
焚き火から熱々の尻尾を取り出し、石包丁で半分にカットする。
(この石包丁はちょっとチート過ぎるなぁ)
とても石とは思えない切れ味をしている。
500円くらいで買える安物の包丁よりは遥かに強力だ。
普通のサバイバル生活だと、これほどの代物は手に入らない。
「焼いたとはいえ、皮はまともに食べられない。だから切断面から肉をほじくり出して食べるんだぞ」
「わっかりましたー!」
アリシアが切断面にかぶりつく。
ほじくりだすのではなく、ガブッとかぶりついた。
何も分かっていない。
「美味しいぃ!」
それでも味を堪能することは出来たみたいだ。
強引に皮を噛み千切り、口の中で皮と肉を仕分けていた。
まるでヒマワリの種を食べるアメリカ人のような器用さだ。
やれやれ、とため息をつきながら俺も真似をしてみる。
案の定、俺には出来ない芸当だった。
「ずっと思っていたんだけどさ」
「ほぇぇ?」
間抜け面でこちらを見るアリシア。
口からトカゲの尻尾がぶらりと垂れている。
「俺よりアリシアの方がよほどワイルドだよな」
「それって褒めてくれているのですか?」
「貶してはいない。褒めているかは微妙だが」
「えへへっ、だったら嬉しいのです!」
アリシアは幸せそうに微笑むと、パクパクと尻尾を食べていく。
またしても俺より早く平らげてしまった。
「シュウヤ君、シュウヤ君」
ジュルリ、という音が聞こえる。
もはや何度目かわからない「やれやれ」と共に苦笑いの俺。
「ほら、残りはくれてやるよ」
「やったぁー!」
俺の分である尻尾の3割はアリシアに奪われるのだった。
それでも十分な量を食べることができたので、空腹感はまるでない。
「ごちそーさまでしたぁ!」
「顔を洗ったら燃料を補充して、それから罠を作るぞ」
「あ、そういえば、今日ってお魚さん用の罠を作るんでしたね!」
「そうだ」
「どんな味がするんだろ、お魚さん」
「それは食べてからのお楽しみだ」
顔を洗う為、俺達は川へ向かう。
かくして野外生活3日目の活動が幕を開けるのだった。




