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018 屋根作り

 這々の体で帰還した俺達は塩の抽出を開始した。


 この作業は超が付くほど簡単だ。

 海水の入った竹筒を焚き火で焼けば完了する。

 川水を煮沸して飲み水にする時と全く同じ要領だ。


 ただ、飲み水を作る時よりも遥かに時間が必要になる。

 水が完全に蒸発しきるまで待たなければいけないからだ。


「そんなわけで、待っている間に別の作業をするぞ」


 昼食で適当なキノコを食べたら作業の時間だ。

 生活基盤がしっかりするまで休むことは許されない。


「俺は屋根を作る為の下準備に入るから」


「私はその間にシマヘビを捕まえればいいのですね!」


「違う」


 アリシアはよほどシマヘビが気に入ったようだ。

 隙あらばシマヘビを探しているし、隙がなくても探している。


「アリシアは竹を伐採したり木の枝を集めたりしてくれ」


「分かりましたぁ……」


 唇を尖らせて残念がるアリシア。

 俺は「やれやれ」とため息をつき、こう付け足した。


「ついでにシマヘビを見つけたら捕まえてくれていいから」


「やったぁー! 任せてください! 私、頑張ります!」


 単純な奴だ。

 その裏表のないところが魅力でもある。


 それになにより、アリシアは文句なしに有能だ。

 有能だからこそ、緊迫感のないゆるい性格が魅力に感じる


「さて、屋根を作るわけだが……」


 今回作る屋根は、寝床とは作り方が異なっている。

 竹や木の枝を紐で括って骨格を作り、そこに葉を敷いて完成だ。

 寝床よりも凝った作りになっている。


「まずは紐を作らないとな」


 俺達の手元には竹や枝を括る為の紐がない。

 だからまずは紐を作ることから始めないといけなかった。


 紐の作り方は簡単だ。

 日本ではカラムシと呼ばれる草を使う方法が知られている。

 今回は、それと似たイラクサと呼ばれる葉を使う。


 まず、イラクサの茎以外を除外する。

 次に茎の表皮を剥いで繊維の強い部分を取り出す。

 何度も何度も茎の皮をめくるような作業が続く。


 これが終わったら、取り出した繊維を()り合わせて完成だ。

 今のように余裕があれば、足の指を使うことで作業が快適になる。

 繊維の端を足の親指に巻き付け、もう一方を手で縒りにかけていく。


「こんなもんか」


 十分な長さの紐が完成した。

 作業時間はイラクサの採取も含めて30分程度。

 紐を作るだけなら10分かそこらだ。


 紐を作る技術はサバイバルで大いに役立つ。

 方法さえ知っていれば短時間で作れる上に、紐は何かと便利だ。

 軽い大人なら引っ張り上げられるだけの強度があるのも素晴らしい。


「うんしょ、うんしょ、えっさ、ほいさ」


 アリシアが上機嫌で枝を集めている。

 ただしその目は枝でなく地面を物色していた。

 シマヘビを探して目をギラつかせる姿が微笑ましい。


「アリシア、もういいぞ」


 十分の量が集まったので作業を終えさせる。


「シマヘビ探しに専念してもいいのですか!?」


「駄目だ。次は葉っぱの採取に励んでもらう」


「あの虫除けの葉っぱですか?」


「いや、こういう大きな葉っぱで頼む」


 良い感じの葉っぱを拾い、それをアリシアに見せた。

 手のひらよりも大きくて、とても綺麗な緑色をしている。


「種類は何でもいいのですか?」


「おう。大きさがこのくらいならなんでもいいぞ」


「了解です! ところで、シュウヤ君、葉っぱを集めながらですね」


「いいよ、シマヘビを探してくれても」


「やったぁー!」


 アリシアが大きな葉っぱを求めて彷徨う。


 その間に俺は屋根の骨組みを作っていく。

 この作業もそれほど難しくない。

 ただ、紐を作る時と同じで面倒くささはあった。


 なにせ枝や竹の長さがてんでバラバラなのだ。

 計算せずに紐で括っていくと、チグハグになってしまう。

 経験の浅い人間は、ここで油断して失敗してしまうわけだ。


 俺はそんな失敗をしない。

 過去に何度も失敗して学んできているからだ。


「上手く出来たな」


 特に問題なく骨組みが仕上がった。

 あとはそこに葉っぱを付けていけば完成だ。


「アリシア、もういいぞ、戻ってこい」


「はいぃぃ!」


 アリシアが大量の葉っぱを持って戻ってきた。

 必要以上の量を採取していてびっくりする。

 シマヘビ欲しさにぶっ飛ばしたようだ。


「屋根に葉っぱを付けていこう」


「了解です! でも、どうやって付けるのですか? 土魔法があればペタッと出来ますが……」


「問題ない。こうやるんだ」


 俺は葉っぱの柄をペキッと折り曲げる。

 この曲がった部分がフックとなり、屋根に引っかかるわけだ。


「おおー! お見事です! シュウヤ君!」


「お見事も何も折っただけなんだがな」


「その発想がお見事なんです! 骨組みも立派ですし! それにこの紐! いつの間に作ったんですか!? 私、作り方を教わっていませんよ!」


 アリシアが捲し立てる。

 完成間近の屋根を見て大興奮だ。


「あとで全て教えてやるから、今は作業を優先しよう。さっきと同じ要領で葉っぱをかけて隙間を埋めていくぞ」


「はい!」


 手分けして作業を行う。

 パキッ、パキッ、パキッと葉っぱの柄が折られていく。

 二人で取り組むと、あっという間に作業が終わった。


「出来ましたぁー!」


「ああ、立派な屋根だ。これならよほど激しい暴風雨に見舞われない限り、焚き火の炎が消えることはないだろう。それに、籠などの道具を雨から守ることも出来る」


 トータル作業時間は約3時間。

 苦労の末に、俺達は屋根を完成させた。


 寝床があって、焚き火があって、雨を凌ぐ屋根もある。

 ゆっくりだが着実に、俺達の拠点は拡張を進めていた。

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