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016 海水の調達

「起きて下さい! シュウヤ君!」


 朝はアリシアの声で目が覚めた。

 どうやら俺よりも先に起きていたようだ。


「朝っぱらから元気を出しすぎると夜までもたない――って、うお!?」


 寝ぼけ眼をこすっていた俺だが、一瞬で覚醒した。

 寝床の前に立つアリシアが、手にシマヘビを持っていたからだ。


「どうしたんだそれ!?」


「近くにいたので獲りました! これ、昨日の美味しい蛇ですよね!?」


 アリシアがシマヘビを近づけてくる。

 頭部がスパッと綺麗に切断されていた。

 昨日の俺みたいに引きちぎったのではこうもいかない。

 石包丁で切ったのだろう。


「たしかにそいつはシマヘビのようだが」


「食べましょう!」


「あ、ああ、分かったよ」


「私が捌いてもいいですか!?」


「かまわないが……」


「やったぁー!」


 アリシアがウキウキした様子でシマヘビを捌く。

 俺が教えた通り、切断面に切れ込みを入れて、そこから皮を剥がす。

 俺に比べるともたついているが、それでもかなりの手際だ。


「火起こしといい、何かと出来がいいな」


「シュウヤ君の作業を見て、説明を聞いて、しっかり覚えました!」


「だからって、一朝一夕でそこまで出来ないぞ、普通」


「もしかしたら私、才能があるのでしょうか? えへへっ」


 アリシアがシマヘビを捌くのはこれが初めてのこと。

 しかし、もはや俺が監督する必要はないように感じられた。

 だから、俺は俺で別の作業に取り組む。


「水の用意をしておくよ」


「はいっ!」


「最高の朝食をありがとうな、アリシア」


 俺は竹筒を持ち、川へ向かう。

 野外生活の2日目は、この上なく完璧なスタートだ。


 ◇


 朝食が終わり、川の水で顔を洗ったら作業開始だ。


「さーて、塩を抽出するぞー!」


「おおー!」


 塩の優先度はそれほど高くない。

 本来なら拠点の拡張や食糧の確保を優先したいところ。

 それでも塩を優先するのは、今の士気を維持したいからだ。


 士気は作業の質にかかわってくる。

 効率だけを求めると、かえって効率が悪くなってしまうもの。

 サバイバルというよりはチームで行動するときの鉄則だ。


「準備完了!」


 出発前に装備の調整を行った。

 俺の装備は手に竹槍、腰に石斧。

 アリシアは手に竹筒、背中に籠だ。


「私の斧、置いていくんですか?」


「それなりに移動するからな。可能な限り身軽にしておく」


 此処から最寄りの海までは徒歩で1時間以上の距離だ。

 全ての荷物を持っていてはスタミナが尽きてしまう。

 そこで役割分担を行い、最低限の装備で行くことにした。

 俺の役割は戦闘で、アリシアの役割は荷物持ちだ。


「行くぞ、アリシア」


「行きましょう! シュウヤ君!」


 海を目指して、俺達は移動を開始した。


 ◇


 時間が良かったのか、位置取りが良かったのか。

 はたまた運が良かっただけなのか。

 要因は分からないが、何の問題もなく海に到着した。

 サクサクと進んだので、移動時間は約1時間30分で済んだ。


「わぁー! 海! 海ですよ! シュウヤ君!」


「見たら分かるさ。アリシアは海が好きなのか?」


「はい! どこまでも続く青色が綺麗で大好きです!」


「なるほど。でも、そんなに喜ぶことか? 集落から近いだろ」


 集落〈オオサカ〉から海までは1時間たらずの距離だ。

 道もそれなりに舗装されているし、来ようと思えばすぐに来られる。


「スポットの外に出ることって、滅多にないので……」


「そうなのか。下級だから何かと外へ出るのかと思っていたぜ」


 集落内は魔法階級至上主義だ。

 下級のアリシアは、当然ながら危険な任務を割り当てられる。

 つまり、スポットから出ることが多いということだ。


「下級でも女は外へ出ないんです。子供を産めるから」


「そういえば人口が減りまくりなんだったな」


 この世界は今、人類滅亡の危機に瀕している。

 スポットの外でも魔法を使える超級が誕生しないからだ。

 〈オオサカ〉はまだマシなほうで、他所はもっと酷いという。


 他所の集落では、スポット内の獲物だけを食料にしている。

 スポットから出ても、この世界の人間に出来ることは何もない。

 魔法に依存しきっている故の弊害だ。


 そして野生の動物は危機管理能力に優れている。

 いずれは本能で学ぶ。スポットに入るのは危険だ、と。


 他所の状況は、実際に見るまでもなく容易に想像できた。


「ま、サバイバル能力を鍛えればどうにかなるだろう」


 アリシアから竹筒を受け取る。

 中の飲み水を半分ほど飲み、残りをアリシアに飲ませた。


「さて、と」


 周囲を確認してから海に近づく。

 海の中は透き通っていてよく見える。

 作業を始める前に状況の確認だ。


 ここで気をつけたいのはウミヘビの存在だ。

 森だけでなく海に至っても、蛇の脅威は拭いきれない。

 海の蛇には色々な種類がいるものの、一様に毒を持っている。

 噛まれると身体が痺れ、酷い場合には死に至ることもあるのだ。


「よし、ウミヘビの危険はないな」


 問題がないことを確認してから作業を始める。

 腰を屈めて竹の筒に海水を汲んでいく。


「この筒には約300ccの水が入る。で、海水の塩分濃度は約3.5%だ。よって、抽出できる塩は約10gってところだな」


 ニヤニヤしながら言う俺。

 それに対するアリシアの反応は予想通りだった。


「えっ!? えっ!? ええっ!?」


 意味が分からずに混乱している。


「シーシー? えんぶんのうど? なんですかそれ!」


「日本なら小学校の算数なり理科なりで習うことだが」


「しょうがっこぉ? さんすう? りか?」


「はっはっは、暇な時に詳しく教えてやるよ」


 そんなこんなで海水をゲットした。

 あとはこれを拠点に持ち帰って火に掛けるだけだ。


「どうせならカニでも捕まえられたらよかったが……」


 海辺は閑散としていた。

 これといった獲物が見当たらない。

 見えるのは無数の貝殻だけだ。


 貝殻はサバイバルで何かと役に立つ。

 その中でも定番且つ強力なのは石鹸の原材料だ。

 貝殻と海藻を使えば石鹸を作ることが出来る。

 だが、今の俺達には必要なかった。


「用は済んだし帰るとしよう」


「そうですね! 帰りましょう!」


 海に来て数分だが、俺達は踵を返して拠点に向かうのだった。


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