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015 インディアン型

 自分で採取したキノコを串に刺し、焼いて食べた。

 その結果、俺は――。


「空腹が満たされていくぅ!」


 ――無事だった。

 食あたりすることもなく、いたって元気である。


「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」


 シイタケを頬張る俺を見て驚くアリシア。


「なんなら食べてみるか? 食べさしだが」


「はい! 食べてみたいです!」


「まじか」


 言っておいてなんだが、アリシアが受けるとは思わなかった。

 俺がシイタケを口にするその瞬間まで顔を青ざめていたからだ。

 まるで今日にでも死ぬ重篤な人間を見るような目をしていた。


「不安はありますが、気になるんです! それに、私はシュウヤ君の付き人ですから! 死なば諸共ですよ!」


「なんというか……変わり者だな、アリシアは」


「そうですかぁ?」


 アリシアが俺の手から串を奪う。

 そして、俺の歯形が付いているシイタケにかぶりつく。

 別の角度から食べればいいのに、わざわざ俺の歯形の方から食べる。

 間接キスだとか、そういうことは気にならないのだろうか。


「んーっ!」


 一口食べた瞬間、アリシアのほっぺが落ちた。


「美味しいです! これ! すごく美味しい!」


「そうか? 俺には薄味で微妙だったが」


 シイタケはそれほど香りが強くない。

 何もつけずに焼いただけだと、殆ど無味に近いと言える。


「この弾力もたまりません! 今までに食べたことない味です!」


「丸焼きの肉以外なら何でも美味しいって言いそうだな……」


「はい! 言っちゃうと思います!」


 素直な奴だ。

 それが愉快で、俺は軽く笑った。


「だったら明日は焼いたキノコに塩をまぶして食うとするか」


「出ましたね、塩! 海の味がする粉ですよね!?」


「そうだ。塩は最強の調味料だぞ。味が一気に引き立つ」


「この美味しいキノコが、もっと美味しくなっちゃうのですか!?」


「100倍は美味くなるだろうな。昼に食べたシマヘビなんかもより美味くなる」


「わーっ、それは凄いです! 凄すぎです!」


 料理人がこの世界に来たら一瞬で成り上がれそうだな、と思った。

 どれだけ腕の悪い料理人でも、テキトーな調理をすれば感動される。


(皆の胃袋を掴めば、より評価されそうだな)


 アリシアの反応を見ている限り、塩を使うだけで無双できそうだ。

 宴で飲んだゲロマズワインも含めて、食文化を発展させてやろう。


「はぁー、たくさん食べちゃいましたぁ!」


「また俺の分までガッツリいったな……」


 なんだかんだで、夕食もアリシアの方が食べていた。

 ただ、シマヘビの時に比べると遥かにマシだ。

 キノコの収穫量が多かったから、俺も十分に栄養を補給できた。


「それじゃ、寝るとしようか」


「はい!」


 元気よく返事したすぐ後で、「あっ」と何かを思い出すアリシア。


「お風呂には入らないのですか?」


「風呂ォ?」


「寝る前はお風呂に入るって言っていましたよ! 昨日!」


「そうだけど、この場に風呂なんかないだろ? 魔法は使えないし」


「…………あっ、たしかに」


「だからお風呂は我慢だ。寝るぞ」


「は、はい、すみません!」


「あまりに快適だからスポットの上だと錯覚したのか?」


「実はそうなんです」


 アリシアは「えへへっ」と恥ずかしそうに笑った。

 怖いのはこれからだというのにゆるい奴だぜ。やれやれ。


「先に寝床へ入ってな。俺は焚き火の調整をする」


「分かりました!」


 焚き火には一晩かけて燃えてもらう必要がある。

 炎を維持しておけば、大半の肉食動物が近づかない。

 逆に言えば、炎が消えると死の危険が高まるわけだ。


 長時間の燃焼を求める為、薪の組み方を変更する。

 今は定番である三角錐の形をしているが、それをインディアン型にした。

 三角錐よりも火力が落ちる一方、燃焼時間は大きく伸びる。


 インディアン型というのは、放物線を描くように組む方法だ。

 日本では「開き傘タイプの合掌型」などと言われている。

 薪で作った放物線の中央に炎を作ると完成だ。


 つまり、今回は既にある炎の周辺に木を組んでいった。

 これで雨にやられない限りは炎を保てるだろう。


「あとはこれでよしっと」


 最後に虫除けとして葉を燃やして完成だ。

 ヨモギをはじめ、虫除けに効果のある葉をぶちこみまくった。

 白い煙がモクモクと立ちこめ、付近の木を伝って周囲に拡散される。

 羽音に悩まされることなく夜中を過ごせるだろう。


「待たせたな」


「いえいえ! お疲れ様です、シュウヤ君!」


 作業が済んだので寝床に入る。

 いつの間にか日が暮れて夜になっていた。

 活動時間の限界いっぱいまで活動していたようだ。


「お布団がないのに、思ったより寒くありませんね、ここ」


「屋根に保温や保湿に優れる物を使ってるからな」


 寝床で並んで座り、ぼんやりと空を眺める。


「星が綺麗ですね!」


「同感だ」


 木の葉の隙間から星々が見える。

 まるでプラネタリウムのような満天の星々だ。

 気温も少し肌寒い程度で心地よい。


「ずっと見ていたところだが、明日に備えて寝ないとな」


 身体を横に倒す。

 頭は寝床の奥へ、脚は寝床の出入口へ向ける。


「あれ、寝る時はそちら側に頭をするのですか?」


 案の定、アリシアから疑問の声が上がった。

 完成した寝床に試しで入った時は、足と頭が反対だったのだ。


「頭は守らないといけないからな」


 火を焚いて葉を燃やしても、完全に安全であるとは言い切れない。

 サソリやヘビといった外敵に攻撃される危険は十分にある。

 だから頭を奥にする。

 頭と脚のどちらかを攻撃されるなら、脚の方がまだマシだから。


「なるほどです! それでは私も!」


 アリシアも横になる。

 寝床は奥に行くほど狭い構造だ。

 だから、俺達の顔は息がかかる程度に近づいた。


「仰向けだと肩が当たっちゃって窮屈ですよね」


 アリシアが身体をこちらに向ける。

 彼女にだけそうさせるのも気が引けるというもの。

 だから俺も、身体をアリシアの居る右側に向けた。


(これは……やべぇ……)


 何気なくアリシアの方を向いたのは失敗だった。

 吐いた息が顔に当たるほどの距離で、可愛い女と向き合っている。

 それでいて俺は童貞なのだから、それはもう、何かとやばかった。


「えへへっ、なんだか、ちょっと、恥ずかしいですね」


 アリシアの方も恥ずかしそうにしていた。

 暗くてよく見えないが、顔が赤くなっているのは分かる。

 彼女の吐く息が熱を帯びているからだ。


「だ、だだ、大丈夫。俺はその、変なこととか、しないから」


「わ、私も、そんなこと、しませんから!」


 正面を見れば可愛い顔。視線を下げれば豊満な胸。

 更に下げれば膝丈までしかないスカートと太ももが目に付く。

 どこへ目を向けても刺激が強すぎる。


 いかんいかん。

 このままアリシアを直視していては眠れない。


「俺、反対向くよ!」


 クルッと身体を翻した。

 これで安心して眠れるぞ。

 ……と思ったら。


「ちょ、アリシア!?」


 後ろからアリシアが抱きついてきたのだ。

 シイタケなんて目じゃない弾力のおっぱいが押し当てられる。


「すみません、少し寒くて……。ご迷惑でなければ、抱きついて眠りたいのですが、駄目ですか?」


 寒いので身体を寄せ合うというのは、悪くない考えだ。

 だが、今は状況が悪い。

 だって俺は童貞だから。童貞……だから……。


「だ、駄目じゃ、ないよ」


「わーっ、ありがとうございます、シュウヤ君!」


「お、おう。明日も頑張ろうな」


「はいっ! それではおやすみなさい!」


 それから数分後、静寂な空間にアリシアの寝息が響いた。

 一方の俺が眠りに就いたのは、数時間も後のことだった。

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