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014 デスストーカー

 食後の作業は主に燃料集めだ。

 ここでの燃料というのは、焚き火を維持するのに必要な物を指す。

 ガソリンを探し求めているわけではない。


 例えば太い枝などが燃料になる。

 適当なサイズに折って、三角錐になるよう積むと良い感じ。


「どうして枝を三角の形に組むのですか?」


 アリシアの素朴な疑問。


「この形にするのは、火力と持続力のバランスが良いからだ。三角錐に組むと程よく隙間ができて、炎の維持に必要な酸素を安定して取り込める。それに短期間で燃え尽きにくいという利点もある」


 逆に短期間で思いっきり燃やしたい時は、枝を並列に設置すればいい。

 燃焼効率が良いので、簡単にド派手な炎を作り出すことが簡単だ。


「枝の組み方でそんなにも変わるものなんですか!」


「組み方だけじゃない。燃料となる木のサイズによっても変わるぜ」


 枯れ葉や枯れ草、それに小枝は燃え尽きるのが早い。

 簡単に燃やすことが出来るから、焚き火の初動に最適だ。


 一方で、太い物……例えば丸太などは長持ちする。

 なかなか燃えにくいから、炎が育った後に投入するのが良い。

 火の様子をあまり確認出来ない就寝時に最適だ。


「日が暮れてきたな」


 太陽が沈みかけている。

 今はかろうじて夕暮れだが、じきに夜になるだろう。

 サバイバルでは夜をどう凌ぐかがポイントになる。


 今回のサバイバルは順調だ。

 燃料や虫除けに使う葉は既に集め終えている。


「アリシア、竹筒に水を汲んで煮沸しといてくれ」


「えっ、まだ竹の中にお水が残っていますよ」


「それとは別にってことだ」


「わかりました! シュウヤ君はどうするのですか?」


「俺はこの近くで食用に適した物を物色するよ」


 シマヘビにありつけたことで、食料調達が後回しになっていた。

 そろそろ小腹が空いてきたし、適当にメシを見繕っておきたいところだ。


 まずはアリシアと共に川へ向かった。

 彼女は水汲みで、俺は食料調達が目的だ。

 最悪の場合は木の実やキノコで妥協するが、出来れば肉がいい。

 そんなわけで魚の捕獲にやってきた。


「良い感じに泳いでらぁ」


 それなりに流れの激しい上流部分を、川魚が自由に泳いでいる。

 俺は即席で作った竹の槍を持ち、穂先を魚に向けて構えた。


 槍の作り方は簡単だ。

 竹の先端を斜めに切って尖らせればいい。

 それが難しい場合は、尖った枝を括り付ける。


 今回は竹自体を尖らせる方法を選んだ。

 風魔法で研いだ石包丁があったので簡単に作れた。


「せいやっ!」


 深呼吸してから川に刺突攻撃。

 穂先は的確に魚を貫いた……とはならない。

 惜しげもなく失敗したのだ。


「やっぱりきついか」


 槍で川魚を突くには、川へ侵入する必要がある。

 だが、目の前の川は勢いが激しく、侵入するのは危険だ。

 そこで陸から突こうとして失敗した。


 この方法で魚を獲るなら、もう少し下流へ移動しないとな。

 今から移動するのは時間的に厳しいので、今日のところは諦めよう。


「シマヘビー、シマヘビはおらぬかー」


 魚は諦めてシマヘビを探す。

 寝床や焚き火のある拠点を起点に、円を描くように移動していく。

 必死にシマヘビを探した結果、違う生物に遭遇した。


 サソリだ。

 それもデスストーカーである。


「厄介な奴が居やがったものだ」


 正式名称はオブトサソリ。

 手足が薄い黄緑色で、体長は8cm前後。

 攻撃的な性格をしている上に毒性が強い厄介な存在だ。


 コイツは夜行性で、日中は大きな石の裏に潜んでいる。

 日が暮れてきたので、早く起きた個体が活動を始めたのだろう。


 オブトサソリに刺されると死ぬこともある。

 それだけの毒性を持ちながら攻撃的で、且つ素早い。

 それ故につけられた俗称が「デスストーカー」なのだ。


 地球では中東に多く棲息している。

 まさかこの世界でお目にかかるとは思わなかった。


「このまま放置するのも危険だしな……」


 竹槍を地面に置き、腰に付けていた石斧を手に持つ。


「フンッ!」


 無慈悲の一撃をお見舞いする。

 いかにサソリの硬い殻といえど、斧による強打の前では歯が立たない。

 一発目で怯ませた後、二発目で仕留め、ダメ押しで三発目を叩き込んだ。


「サソリは嫌いなんだよなぁ」


 デスストーカーに限らず、俺はサソリ全般が嫌いだ。

 可食部が少ない上に調理が面倒なので、食用に向いていない。

 それでいて大半が毒を備えているのだからタチが悪い。

 気持ち悪いだけで無害な分、ゴキブリのほうがまだマシだ。


「収穫なしか」


 結局、ディナーに相応しい獲物は見つからなかった。

 仕方がないのでエリンギやシイタケといったキノコで妥協しておく。

 それらを持って帰ると、アリシアは予想外の反応を見せた。


「ダメですよシュウヤ君! このキノコは毒です!」


 アリシアがそう言って指したのはシイタケだ。


「食べるとおえーってなった後、身体がピクピク震えて死にますよ!」


 俺から強引にシイタケを奪おうとするアリシア。


「大丈夫、死にはしないさ」


 俺は余裕の笑みで返す。

 日本人ならシイタケが安全なことは誰でも知っている。

 とはいえ、アリシアの反応も理解することが出来た。


「これはシイタケってキノコなんだ。アリシアが言っている毒キノコはおそらくツキヨタケのことだな」


「シイタケ? ツキヨタケ?」


 アリシアが首を傾げる。

 ほぇぇ、と変な声を出しながら。


「シイタケとツキヨタケはすごく似ているんだ。初心者には見分けが付かないだろう。シイタケの他にもヒラタケと呼ばれる食用のキノコがあって、こっちはシイタケ以上にツキヨタケとそっくりだ」


「えっと、えっと、つまり、このキノコは大丈夫なんですか?」


「誓ってもいいが問題ない。ただ、念の為に俺だけが食べよう。俺に何かあれば、直ちにチャボスを呼んでくれ。仮に毒キノコであったとしても、水魔法で胃を洗浄すれば助かるから」


「わ、分かりました!」


 アリシアを落ち着かせたところで、夕食の準備を始めるのだった。

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