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012 食料調達

「出来ました!」


 アリシアはあっさりと火を起こした。

 これには俺も「おお!」と素直に驚く。


「才能あるな、アリシア。大したもんだ」


「えへへっ、頑張っちゃいました!」


 本番できりもみ式の火起こしをサクッと成功させるのは難しい。

 それなりにサバイバルが得意な奴でさえ、数十分はかかるだろう。

 ところがアリシアは、たった10分たらずで着火させたのだ。

 俺と同程度のスピードである。

 偶然の成功かもしれないが、素晴らしいことには変わりない。


「それではアリシア、火の近くに石を積んでくれ。大きい石だ」


「こういうのですか?」


 アリシアが近くに転がっていた石を掴む。

 両手でようやく抱えられるほどの大きさだ。


「そうそう、そういう石だ。よろしく頼む」


「はいーっ!」


 サクサクと行動に移すアリシア。

 瞬く間に、石の段が出来上がった。


「よし、完璧だ。ありがとう」


 焚き火を跨ぐようにして、段に竹筒をかける。

 こうして角度をつけておけば、中の水がこぼれることもない。


「あとは待つだけだ」


「これが煮沸なんですか?」


「おう。中の水が沸騰すれば出来上がりだ」


「たったこれだけで川の水が飲めるようになるんですか? 本当に?」


「それが煮沸ってものだ」


「知りませんでした! 煮沸があれば、水魔法や井戸水がなくても水分補給が出来るじゃないですか!」


「ずっとそう言ってきただろ!」


 アリシアは未だに半信半疑の様子だ。

 俺はもう少し詳しく説明してあげようか迷った。


 迷った結果、何も言わないでおく。

 煮沸によって殺菌する、と言っても分かってもらえないからだ。

 そんなことを言えば、次は「殺菌とは?」と訊かれるに違いない。

 1つ1つ教えていくのは面倒だ。


「燃やしちゃって大丈夫なんですか? 竹、燃えませんか?」


 竹の様子を心配するアリシア。

 炎に当たっている箇所が真っ黒に焦げ始めている。

 俺は「大丈夫」と即答した。


「竹は強いから問題ない。それより、次の作業へ移るぞ」


「まだ煮沸が終わっていませんよ!?」


「待つしか出来ないからな。ボケッと時間を無駄にするのはナンセンス。日が昇っている内に動き回るぞ」


「わ、わかりました! 次はどうしますか?」


「とりあえず食料の調達だ。適当な木の実やキノコを集めてくれ」


「えっ!? もしかして食べるんですか!? 木の実やキノコ!」


「そうだよ」


「あんなの人間の食べ物じゃありませんよ!?」


 とんでもない言い草だ。

 流石は動物の丸焼きしか食べない異世界人。


「物によっては美味い奴もある。四の五の言わずに集めるぞ!」


「はひっ!」


 手分けして周辺の木々を物色する。


(やはりこの辺は良い環境だな)


 サバイバルにおいて、植物の知識は重要だ。

 どれだけ熟知しているかによって、生死が大きく分かれる。


 俺のように知識が豊富な者からすると、此処は食料の宝庫だ。

 適当に掴んだものを食べても問題ないレベルで充実している。


 とはいえ、木の実やキノコだけではエネルギーが漲らない。

 もう少しパワーの源になる食材――出来れば肉も欲しいところだ。

 肉であればなんだってかまわない。魚でも、猪でも、鹿でも。


「シュウヤ君!」


 アリシアが俺の名を叫んだのは、そんなことを考えていた時だ。


「どうした!?」


 声のする方向へ視線を向ける。

 アリシアは何かを凝視したまま、顔を青くしていた。


「早く来て下さい! シュウヤ君!」


「なんだなんだ!?」


 とりあえず直行する。

 すぐ傍に着いた時、用件が理解出来た。


「蛇じゃねぇか!」


 アリシアが見つめていたのは蛇だった。

 前に俺を襲ったのとは別の種類だ。


 今回の蛇は、全身に黒い縦縞が入っている。

 サイズはおそらく150センチ前後だろう。


 俺はこの蛇を知っている。

 日本にも存在している蛇――シマヘビだ。


「どうしましょう、どうしましょう」


 あたふたするアリシア。

 そんなアリシアをジーッと睨むシマヘビ。

 まさに一触即発のムード。


「でかしたぞアリシア!」


 俺は大興奮。


「でかした!?」


「今日のご馳走はコイツに決まりだ!」


「えええええええええええええええ!?」


 これまでで一番の驚愕を見せるアリシア。

 その声に驚いたシマヘビは、牙をちらつかせて威嚇してくる。

 尻尾で激しく地面を叩いて臨戦態勢だ。


「へ、蛇を食べるんですか!?」


「当たり前だ。シマヘビは普通にご馳走だ!」


 よし、斧で頭をかち割って殺してやろう。


「あっ、斧が……」


 慌てて駆けつけたせいで斧を忘れてきた。

 おそらく寝床のすぐ傍に置いてある。

 残念なことにアリシアも斧を持っていなかった。


「武器! 武器がありませんよ! シュウヤ君!」


「ぐぬぬ……」


 舌打ちをする。

 だが、次の瞬間。


「ま、大丈夫だろう」


「大丈夫って、シュウヤ君、まさか……!?」


「おうよ」


 俺は落ちていた石を拾い、シマヘビの頭部に投げつける。

 野球ボールくらいの大きさをした石がシマヘビにヒット。


「フシャァッ!」


 俺の攻撃に驚くシマヘビ。

 すぐさま反撃に出ようとするが、そうはさせない。


「ほらよっと」


 俺はひょいっとシマヘビを掴んだ。

 後ろから頭部を握り、口を開かせないようにする。

 そのまま手に込める力を強め――。


「フンッ!」


 ――蛇の頭を引きちぎった。

 ブチッと弾けるような音が響く。


「ええええええええ!? シュウヤ君、素手で蛇を!?」


「楽勝ォ!」


 ご馳走をゲット出来たことでテンションが上がっている俺。

 一方、アリシアは目玉が飛び出そうな程に驚いた顔をしている。


「たかがシマヘビを捕まえて頭を引きちぎっただけだ。驚くんじゃねぇ」


「お、驚きますよ! こんな人、今まで見たことありません! 蛇を見つけたら逃げるものですよ! 長老様が助けてくれないと死んじゃうんですから!」


「たしかにクソデカサイズのヤバイ蛇なら逃げるべきだが、シマヘビは可愛いもんさ。味だって良いし、見つけたら喜ぶのがサバイバルに生きる者だ」


「凄すぎです!」


「それよか食おうぜ! 水の煮沸も終わってるだろうし」


「はい! あっ、木の実やキノコの採取はどうしますか? まだちょっとしか採れていないのですが」


「後回しでいいよ。まずは水分補給と腹ごしらえだ」


 頭のなくなったシマヘビを握りながら、ウキウキで戻った。

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