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010 虫除けと石器

 2日目の夜はこの上なくぐっすり眠ることが出来た。

 プーンプーンとうるさかった害虫の対策を施したからだ。


 翌朝。

 アリシアがご近所さんから貰ってきた肉を運んできた。

 今日の朝食はウサギの丸焼きである。そう、また丸焼きだ。

 味付けは何もない。ただ焼いただけである。数は1匹ずつ。


 アリシアと2人で小さなちゃぶ台を囲む。

 2人して手掴みでウサギの肉を頬張った。


「あの葉っぱ凄いですねー! 早速、皆さんに教えてきましたよ!」


「虫除けはサバイバルの基本だからな」


 アリシアが言う葉っぱとは、ヨモギの葉を指している。

 昨日は囲炉裏でそれを燃やし、煙を風魔法で家の中に充満させた。


 燃やしたヨモギの葉が放つ煙は虫除けに最適だ。

 魔法で直接的に対処するのが難しい蚊などの小さな虫に効く。

 これのおかげで、あれほどうるさかった羽音がピタリと止んだ。


「シュウヤ君、今日からスポットの外で暮らすんですよね」


「1週間ほどな。その間、この家の掃除をよろしく頼むぜ」


 これに対し、アリシアは笑顔できっぱりと言った。


「嫌です」


「はっ? 嫌!?」


「はい! 私もお供します!」


「いやいや、どうしてだよ!」


「だって私、シュウヤ君の付き人ですから! 一緒にいないとです!」


「危険だぞ?」


「承知の上です!」


 アリシアは同行する気に溢れている。

 昨日の風呂でもそうだが、彼女はわりと頑固だ。

 従順に俺の言葉を聞く反面、自分が決めたことは曲げない。


「チャボスは許可しているのか? 野外生活は遊びじゃなくて、俺のサバイバル能力を証明する為のものだぞ?」


「もちろん許可をとっています! 私のような足手まといが一緒に居ることで難易度がより高くなってちょうどいいですよねって尋ねたら、『そうじゃな』と仰っていました! なので問題ありません!」


「そんな話、昨日はしていなかったと思うが」


「先ほど朝食を分けてもらう時にしました!」


「なるほど……周到だな……」


 こうなると俺に拒否権はない。

 まぁいいだろう、と承諾するしかなかった。


「頑張りましょうね! シュウヤ君!」


「はいよ」


 こうして、俺のサバイバル生活にアリシアが加わるのだった。


 ◇


 集落を発つ前に準備を行う。

 ここが地球なら何の準備もしないのだが、異世界だからそうもいかない。

 超巨大蛇などの知らない生態系が存在しているからだ。

 情報が不足している分、装備で補わせてもらう。


「完成したわよ」


「ありがとう、職人のお姉さん」


「あらあらお姉さんだなんて。いい子ね、シュウヤは。ふふっ、今度お家にいらっしゃい、気持ちいいことを教えてあげる」


「はい! 喜んで!」


 まずは竹細工職人の工房に来た。

 工房といっても、熱々の炉に金槌の音が響き渡るような場所ではない。

 ぶち抜き1フロアの広い空間の中、職人達が黙々と竹ひごを編んでいる。

 時折、談笑する声が聞こえた。


 職人の数は20人程で、全員が女性だ。

 年齢は10代前半から還暦を迎えていそうな年頃までと幅広い。


 特注の道具を作ってもらうと、直ちにその場を後にした。

 外に出てすぐ、アリシアが尋ねてくる。


「シュウヤ君、これにはどういう効果があるのですか?」


「雨で中が濡れると困るから、そうならない為の対策さ」


 工房では背負って使う竹の籠をカスタマイズしてもらった。

 上に蓋を付けてもらい、更に籠の全面に布を装着。

 よほどの大雨だと厳しいが、多少の雨風なら防げるだろう。


「あとでこの中に枯れ葉や枯れ草を詰め込むからな。備蓄しておけば、外で雨が降っても火起こしに苦労しないで済む。なにせ雨で湿気ると火が点かなくなるからな。この世界にはライターなんて便利な代物はないし」


「ライター? それはなんですか?」


「俺の世界にあった着火道具だ。火の魔法みたいなものだ」


「なるほどです!」


「そんなわけでアリシア、枯れ草と枯れ葉を集めてきてくれ」


「分かりました! シュウヤ君は何をするのですか?」


「俺は石器を作る」


「石器!? なんですかそれは! 興味があります!」


 アリシアの目がキラキラと輝く。


「斧とか包丁を石で作るんだけど……分からないよな」


「斧も包丁も分かりません! 石は分かります!」


 だろうな、と思った。

 俺が見てきた限り、此処には斧と包丁が存在しない。

 武器は木の棒だけで、包丁は風魔法を使うので必要なかった。


「なら見せてやるか。それから一緒に枯れ葉の採取をしよう」


「いいんですか!?」


「駄目って言っても聞かなかっただろ……」


「はい!」


「だったら不毛なこちらが譲歩するしかない」


 ということで、アリシアと共に石器を作ることにした。

 まずは石器に必要な石を集める為、スポット内を探索する。


「ひとえに石と言っても、硬さは色々なんだ。柔らかい石もあれば、硬い石もある。石器に必要なのは程よい硬さの石だ」


 適当な石を集めながら説明する。


「硬すぎる石は駄目なんですか?」


「あまりに硬すぎると加工が難しいからな」


 石を集め始めて分かったが、実に様々な石が転がっていた。

 小判のような形の石が多く、加工の手間が大してかからなさそうだ。


「こんなものか」


 とりあえず10種類の石を調達。

 ここから石器に使う石の選別作業に入る。


「石の硬さってどうやって調べるのですか?」


「簡単さ」


 俺は全ての石を並べて置くと、適当な石を手に持った。

 そして、持っている石を使い、他の石を全力で叩いていく。

 石と石がぶつかると、柔らかい石はパキッと割れた。


「こうやって力比べをすればいい」


「おおー!」


 石の選定にはそれほど拘る必要がない。

 ある程度の硬さがあればそれで十分だからだ。

 そんなわけで、サクッと4つの石を選び抜いた。


「これを木の棒に括り付けたら完成だ」


 木の棒は事前に調達してあるものを使う。

 訓練所から無料で貰った物で、そのままだと長すぎる。

 風魔法を使って半分にカットすると、斧に最適なサイズとなった。


「括り方は適当でいいよ」


 紐も出来合いの物を使う。

 服を作る職人から分けてもらったものだ。


「こんな感じさ」


 石の斧が完成した。

 想定していたよりもクオリティが高い。

 これなら末永く使うことが出来そうだ。


「私も完成です!」


 アリシアも俺と同じような斧を作った。

 作り方が簡単なので、それほど出来映えに差がない。


「あとは石包丁だな」


 石包丁の作り方も簡単だ。

 手頃なサイズの石、別の石で磨いて尖らせればいい。

 いわゆる「磨製石器」と呼ばれるものだ。


「こうやって石と石を磨けば出来るのだが……」


 簡単に実演する。

 最後まで磨ききるつもりはなかった。


「今日はショートカットだ」


 磨き方を教えたあとは風魔法でサクッと仕上げた。

 風魔法を使えば、石をカットすることも朝飯前だ。


「これで石包丁も完成だな」


「準備万端ですね!」


 完成した石器を竹の籠に放り込む。

 籠には石器ときりもみ式の火起こし道具が入っている。

 必要な物は揃った。


「枯れ葉と枯れ草を集めたら、チャボスに挨拶して此処を発つぞ」


 サバイバル生活の始まりだ。

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