001 プロローグ
高校最後の夏休み。
皆が血眼になって受験勉強に励む中、俺は無人島に居た。
無人島でサバイバル生活をするツアーに参加しているのだ。
「やっぱツアーじゃぬるいなぁ……」
1週間のツアーは俺にとってぬるすぎた。
縛りプレイでサバイバルナイフしか持参していないが、それでもぬるい。
「凄いね、羽月君」
ツアー参加者のおっさんが話しかけてくる。
羽月終夜、それが俺の名だ。
「ども、ありがとうございます」
このおっさんもそうだが、他の連中はどいつもこいつも大変そうだ。
テントやら、鍋やら、万能な道具を持ち込んでいるのに。
彼らがしているのは、サバイバルというよりキャンプだ。
昨今のキャンプブームで、こういう“偽者”が急増していた。
「もっとガチなサバイバルがしてぇ……」
寝床に入って横になる。
当然、この寝床は自分で作ったもの。
作り方は簡単だ。
まず、無数の太い枝を左右からもたれさせて骨格を形成。
そこへモミやら何やらの葉を被せるだけで完成だ。
風で飛ばされないよう、枝に葉を編み込ませると尚良し。
この島には竹があるから、寝床作りは非常に楽だった。
「一秒でも長くこの環境を楽しみたいが、体力を浪費するのは愚の骨頂だしな。寝るか……」
サバイバルには昔から興味があった。
きっかけは無人島を開拓するナントカDASHという日本の番組だ。
そこからあれよあれよと深みに嵌まり、気づけばガチになっていた。
今では元軍人が紹介する“本物”のサバイバルで知識を蓄えている。
とはいえ、俺もまだ素人の雑魚だから、サバイバルナイフは必要不可欠だ。
いずれはナイフがなくても余裕なレベルに成長したい。
その為には、知識よりも経験値が欲しかった。
だからこうしてサバイバルツアーに参加しているが……物足りない。
いかんせん高校生だから、参加出来るツアーはこの“お遊び”が限界だ。
「明日になったらこんなぬるいサバイバルすら出来なくなるわけだし、今はこの環境で満足しないとな」
楽勝ではあったが、楽しいツアーだった。
明日は家に帰るとして、明後日からは受験勉強三昧だ。
(帰りたくねぇ……)
サバイバル生活をずっと送りたい。
そう思いながら、俺は眠りに就くのだった。
嗚呼、周辺に生い茂る木の葉の揺れる音が心地よい。
◇
「ここは……どこだ……?」
起きたら知らない所に居た。
自然の中であることは確実だが、就寝時とは別の場所だ。
まず、俺の背後には海が広がっている。
日本の海とは似ても似つかぬ透き通った綺麗な海だ。
どうやら俺は砂浜で寝ていたらしい。
「みんなは……? 寝床は……?」
周囲にツアー参加者の姿が見当たらない。
俺がこしらえた寝床も消えていた。
「どうなっているんだ?」
とりあえず、海を背にした状態で前に進む。
前方には森が広がっていた。
何かしらの生物が居るようで、ところどころに道がある。
片側一車線程度の幅をした道だ。おそらく獣道だろう。
「やはりここは別の島だな」
森の中を歩いてすぐに確信した。
此処はツアーで訪れていた島ではない、と。
「というか、地球ですらねぇ。異世界だな」
俺の発言を一般人が聞くと鼻で笑うだろう。
異世界ってなんだよそれ、と。
だが、俺は自分の考えが正しいと確信していた。
サバイバルの知識があれば、此処が異世界だと分かる。
生えている植物の組み合わせが、地球では考えられないからだ。
それに状況を考慮しても、異世界である可能性が高かった。
起きたら全く知らない島に居た、なんて地球ではありえない。
寝ている間に誰かが移動させた、とも考えられなかった。
サバイバルの基本として、就寝時も警戒を絶やさないからだ。
危険な肉食動物に襲われる可能性がある。
だから、何かしらの生き物が近づけば察知して倒していた。
手に握っていたサバイバルナイフでグサリ――って、あれ。
「ナイフが……ない……!?」
愛用のサバイバルナイフが消えていた。
腰にはナイフホルスターが装備されているが、ナイフ自体は入っていない。
「武器が必要だな――これでいいか」
手頃な木の枝が落ちているので拾った。
武器としては勿論だが、杖として移動補助にも使える。
俺の装備に〈木の棒〉が追加された。
「おっと?」
杖を手に入れてしばらく。
前方に体長3メートル級の巨大蛇が現れた。
「マルガスネーク? タイパン? いや、どちらも違うな」
茶色い鱗と大きさから浮かぶのはその2種だ。
しかし、鱗の模様をはじめとする情報はそのどちらとも一致しない。
「なんにしろ危険だな、駆除するか」
無視して襲われても厄介だ。
ナイフがないのは辛いが、どうにかなるだろう。
幸いにも巨大蛇はこちらに気づいていない。
「一発当てて怯ませてから叩くんだぞ……!」
ソフトボールサイズの石を手に持ちながら呟く。
まずはこの石で奇襲攻撃を仕掛けて、返す刀で即座に棒を使う。
それが俺のイメージする戦闘だ。
「いくぞ!」
深呼吸をしてから実践する。
慎重に近づき、石を蛇の頭部に投げつける。
「シャアアアアアアアアアアッ!」
見事に命中し、蛇の悲鳴が聞こえた。
「今だ!」
すかさず木の棒で蛇の顔面を連打する。
折れるか不安だったが、太めの棒を選んでいたことが幸いした。
激しく打ち付けても折れる気配がなかった。
「よし! トドメだ!」
蛇の動きが弱まったところで仕留めにかかった。
首根っこを棒で押さえつけながら、頭部を激しく踏みつける。
「シャアア……」
暴れていた蛇がピクリとも動かなくなった。
どうやら死亡したみたいだ。
それでも気を抜かない。
「ダメ押しっと」
念を入れて頭部を石で打ち付けておく。
これで完全に息の根を止めた。問題ない。
「こんな大物が棲息しているとはな……。ナイフもないのに困ったぞ」
ガチなサバイバル生活をしたいとは思っていた。
とはいえ、いきなり未知の島から始まるとは思いもしなかった。
しかも、それなりに過酷そうな環境だ。
「とりあえず道なりに進んで人が居ないか調べるか。誰も居ないようなら一人で――って、うおおおおおおおお!?」
考えを口に出してまとめている時だった。
付近の草むらから新たな巨大蛇が現れたのだ。
外見は先ほどの蛇と変わりない。
だが、しかし――。
「さっきの奴、子供だったのかよ……」
今しがた必死こいて倒した蛇の10倍近い大きさだったのだ。
世界でも指折りの大きさを誇るオオアナコンダを軽く凌駕するサイズだ。
しかもそいつは、我が子を殺された怒りの目を俺に向けている。
先ほどと違って奇襲も通用しない。
「おいおい、こんなデケェの、石と棒じゃ倒せんぞ……」
まさに絶体絶命の危機だった。




