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運命と偶然


 その日は夢も見ずに眠った。ただひたすらに目を閉じていた。

 次の日に会う成田君はどこか心ここにあらずで結果がどうあれ、おせっかいな私は元気づけてあげようと昼休み一人になったところを狙って声をかけた。


「成田君、先輩が話をきいてあげようか。」


「先輩!今はすみません。」


 そう言って立ち去ってしまった。ああ失敗した。恥ずかしい。何を勘違いしていたのだろう。それからことあるごとに成田君は私を避け続けた。


「成田君今いい?」


「すみません、板谷さんに呼ばれてて。」


「あっそっかごめんね。」


 この返答が一番心にくるものがあった。もう頼るべき場所は私ではなく板谷さんなのだから。これでいいじゃないか、前世で結ばれなかった二人が今世で結ばれたのだから、幸せになってほしいと願ったその通りになったのだから。幸せになる相手が私じゃなかっただけだから。


 成田君に避け続けられて何週間か経ったとき、家に帰る途中で成田君と板谷さんが宝石屋さんにいるのが見えた。その二人はあの書生さんとお嬢様そのもので、私はそれ以上見るのが辛くて走った。走って走ってこのまま消え去りたいと思った。家についても私は消えてはいなくて当たり前みたいにここに存在していた。


 その日追い打ちをかけるようにみた夢はあの夢の続きだった。

 お嬢様は書生さんの田舎に逃げてきたのだ。


「私、貴方が好きなんです。あの時くれた言葉覚えていますか?私と逃げてくれると。」


「はい。貴方のためなら地獄に堕ちても構いません。」


 そう言って成田君は板谷さんを抱き寄せ口づけた。ああなんだ前世でも結ばれたのか。私最初から空回りしていたんだ。私が背中を押さなくても二人は結ばれたんだ。そう気付くと馬鹿らしくなった。私はその日初めて会社をずる休みした。


 さあ今日は何しようかな?金曜日だから3連休だ。せっかくだから買い物をして美容院に行ってエステとかも行ってみようかな。ふふと自嘲気味た笑いをこぼし、出かける準備をした。


 数年ぶりに短く軽くなった髪は心も軽くしてくれた。買い物をして新しい服も靴も買った。お昼になったのでカフェに入ってサラダとグラタンのランチを頼んだ。それにしても失恋で髪を切るのは意外と効果があるものだった。成田君を思い出しても泣きだしはしなかった。昨日の夜はずっと泣いていたのに、サラダが運ばれてきたので食べた。新鮮な野菜の味が私には嬉しかった。体を元気にしてくれる気がしてしっかりと味わった。

 全て食べ終え、デザートまでたいらげてカフェを後にした。エステはやめてDVDをレンタルしてスーパーによって食料を買い込み、後二日の休みは映画三昧にしようと決意した。



 結局、最初に借りたDVDは土曜の夜には見終わってしまって仕方なく、もう一度レンタルをしにいくことにした。どれを借りようかなと店内をぐるぐる回った。恋愛にミステリー、サスペンス、ホラー、うーんどうしよう。ああそうだ前にインテリアが話題になった映画があったな。それを探そう確か恋愛のカテゴリーだ。題名は、と。


「先輩?」


 まさか。うっすらとしか化粧してないし、ワンマイルウェアだしそれに一番会いたくない成田君に会うなんて。


「あっ偶然だね。」


「先輩。一瞬分からなかったです。髪切ったんですね。とても似合ってます。」


「そっ。そう?髪切ってから初めて人に会うからよかったそう言ってもらえて。」


 なに言ってるの私。いらないこと言わないでよ。


「へえじゃあ僕が一番乗りですね。ラッキー。」


 満面の笑みで成田君はそう言った後、自分の言葉に恥ずかしくなったのか赤くなって俯いてしまった。


「じゃあ先輩、僕いきます。また月曜日に。」


「あっ、うんまた。」


 私はまた心をかき乱された。危うく勘違いしそうになった。私を好きなんじゃないかと。やめようもう忘れよう。私は仕事に生きると決めたのだから。



 月曜日、上司に帰る間際で呼ばれた。


「おい、この新商品は絶対にいれて広告とれと言っただろ。なぜ写真のインテリアに入っていない!」


「すみません。」


「謝って済むことか営業の奴らがそれを売る気だったんだよ。広告なしでは顧客の心を掴むのは難しいんだぞ。もういい帰っていいぞ。板谷はこんな失敗しなかったのに。」


 私は上司に部屋から追い出され呆然としていた。広告の最終チェックはあの上司がするのに。というかそんな話聞いていないのに。理不尽すぎて何より板谷先輩と比べるなんて。気付くと私は走ってその場から逃げ出した。

 ぐっと腕を掴まれこけそうになったところを、抱き寄せられびっくりして顔を見上げると、そこにいたのは成田君だった。



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