私の気持ちは誰も知らない
目が覚めてからも私の頭はぼうっとしていた。どうしてこんな夢を見てしまったのだろう。成田君と板谷さんが愛し合っているなんて。夢だから気にしないようにしようと決意した矢先に、会社で成田君が板谷さんを目で追っているのを見てしまった。
「先輩、今日食事にいきませんか?」
声をかけてくれたのは成田君だ。昨日までの私なら喜んでいただろう。でも今は憂鬱な気持ちでしか彼を見れない。
「悩みを聞いてほしくて、先輩にしか言えないんです。」
そう言われると行くしかない、だって彼が好きなのだから。結局、約束して今日の帰り食事に行くことになってしまった。
「単刀直入に言います。」
仕事を終えておしゃれなカフェの席に着いた途端、成田君はそう言った。そして、
「僕、板谷さんが好きです。だから板谷さんと仲がいい先輩に聞いてもらうしかないと、思ったんです。」
きた。やっぱりそうだった。私の久方ぶりの恋は無惨にも散っていった。それでも笑顔で、
「任せなさい。何でも教えてあげるわよ。」
と先輩面することで気持ちを悟られずに済んだ。大人って悲しい生き物だ、どれ程辛くても笑えるのだから。
それから私たちは何度も何度も作戦会議をした。本気で板谷先輩をおとすための。我ながら哀れすぎて泣けてくる、何が悲しくて好きな人が私じゃない人と付き合うように、仕向けているのだろう。私には自傷行為だ。それでも幸せになってほしいと、二人が前世のようにならないようにと願って背中を押し続けた。
「僕、この後告白します。」
もう何度目だろう昼休みにカフェで作戦会議をするのは。やっと終わる、やっとと思いながらもう二人で会えなくなると思うと、寂しく思った。まだ未練たらしく成田君を想っている。
「うん、頑張ってこい。応援してる。」
嘘だ、全て嘘。いっそこっぴどくふられてしまえそう思っている。私は最低だ。
「先輩。今までありがとうございました。それでたいしたものではないのですが、お礼です。」
そう言って私にプレゼントをくれた。開けてくださいと、ジェスチャーするので開けてみると、ボールペンだった。
「すみません、女性になにを贈ればいいかわからなくて、売り場の人に聞いたんです。会社でお世話になってる人に贈り物をしたいんですがって、そしたらこれをおすすめしてくれました。」
「ありがとう。大事にする。さあ今日の会計は私が持ちます。早くいっといで。」
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます。」
そういって去って行く成田君の背中を私は小さくなるまで見つめていた。