夢にまで見たものは
私は小さい頃、夢の中で友達や両親の前世をみることができた。ほかの夢と違って、前世の夢だけはいつも鮮明に覚えていて、それを友達に話して嘘つきと言われてから、誰にも話さなくなった。それから前世の夢を見なくなった。これはそれから何年も経って酸いも甘いも知った大人の私のお話。
あれから十数年経った今、私はインテリアデザイナーになった。家具メーカーの広告を作るときに、自社の家具や雑貨を季節にあわせ、その時期の新商品を使ってインテリアをデザインして広告をうつ。私は入社して5年でやっと一人でデザインすることを任されて、先輩の板谷さんにやっと一人前だねと言われて順風満帆だった。
それにちょっといいなという人ができた2年下の後輩の成田君は、同じインテリアデザイナーだ。いつも私の思考を読んだかのように、正確な場所に置いてくれるし、色を選んでくれる。気が利く男の子で、優しくて控えめな素敵な後輩。
それなのに最近は全く前世の夢を見ていなかったのに、そんな成田君の夢をみてしまったのだ。
多分、明治時代で書生さんの格好をしている成田君がいた。お金持ちのお家に住み込んで、学校に通っているようだ。そこのお嬢様が板谷さんだった。二人はだれが見てもわかるくらい惹かれ合っていて、でも言葉を交わすこともなかった。お嬢様には婚約者がいて、男性と噂がたつなんてもっての外だから、父親が二人っきりになることを許さなかった。だから二人は手紙を交換していた。図書室の本に挟んだりして、誰にもばれないように愛を育んでいた。でもお嬢様が嫁ぐという前日に、書生さんの成田君がお嬢様の板谷さんに言うのだ。
「お願いです。僕には貴方しかいない。貴方だけなんです。だからすべてを捨てて、僕と一緒に逃げてくれませんか。」
「いいえ、それはなりません。私は家のために嫁ぎます。だから私のことは忘れてください。」
お嬢様の家は華族だけどほぼお金がつきていた。それでも前の生活をやめられなかった親の為に、好きでもない男のところへお嬢様は嫁いだ。書生は悲しみのあまり、都会での生活を捨てて田舎に帰るのだそこで目が覚めてしまった。