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魔法の街の少女達  作者: A.Bell
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よにんとひとり

§4 少女達の予習

 温室でマリエルと出会ったその一週間後。

 日が昇らない内から、エルリルの街の北の森にリサ達の姿がありました。

 リサ達はアミに連れられ、森の中を歩いています。


 さて、アミは後ろを振り返るとリサ達に声を掛けます。


「……ごめんね。みんな。でも、あと少しだよ。」


 でも、ラクアとルリは余裕が無いのか頷くだけです。

 そして、ミルは周りを見回していて、アミの言葉に気付いていません。

 でも、リサだけはアミに言葉を返しました。


「うん。アミお姉ちゃん。」


 リサはアミにこくりと頷きます。

 そして、隣を歩いているミルの手を引っ張ります。


「ねぇ。ねぇ。アミお姉ちゃんのお家ってどんなのかな?」


 初めて見る森を観察していたミルはリサに邪魔をされて少しムッとします。

 でも、前に向き直って言葉を返します。


「うーん。どうだろうね。……そう言えば、まだなの?」


 ……ミル。やっぱり聞いてなかったんだ。


「……さっきアミお姉ちゃんがあと少しって言ってたよ。」


 リサがそう言うと、ミルはすっと目を逸らしました。


 実は学校の開学まであと一週間。

 マリエルとフィルとの話し合いで、外出禁止が解けた日からリサ達に講義の予習を行う事になりました。リサ達はその事を温室でマリエルとフィルから伝えられたのです。


 今日は闇の賢者であるアミの授業。

 明日と明後日は水の賢者の館に泊りがけ。

 四日目と五日目は西の森でフィールドワーク。

 そして、六日目と七日目はお城に戻ってお部屋でお勉強です。


 さて、それから少しすると、薄暗い中、開けた場所に小さな家が見えてきました。


「あっ! もしかして、あれ?」


 リサはその小さな家を指差しながら、アミに声を掛けました。

 すると、アミはリサに振り返って頷きます。


「うん。そうだよ。」

「へー。……よし! ミル行こ!!」

「……えぇ!」


 リサはまだ元気そうなミルの手を掴むと、アミの家に走り出します。


「ちょっと! いきなり走り出さないでよ! …………案外、小さい。」


 そして、リサに引っ張られて家の前に来たミルはぽつりと口にしました。


 家と言うよりは小さな小屋。

 大きさはあの階段の小屋より少し大きい程度です。


 リサとミルがじっと家を見ていると、後ろから人が駆けてくる音が聞こえてきます。


「……リサちゃん。ミルちゃん。」


 後ろを振り返ると少し息を切らせているアミ。

 そして、ラクアとルリも続いて来ます。


「リサ。ミル。……ふぅ。走らないでください。」

「……はぁ。ラクアさんの言う通りだと。……はぁ。思います。」


 ラクアとルリはリサとミルに追いつくと息を切らせながら、二人に文句を言います。

 すると、ミルは頬を膨らせます。


「えぇー。リサが引っ張ったのに。」


 でも、当のリサはそれを無視してアミに振り向きます。


「アミお姉ちゃん。早く中に入ろう?」

「……そうだね。」


 アミはそんなリサ達の様子に苦笑いしながら、扉に手を掛けました。


 さて、扉を開けると中は、外の家よりも大きいホールになっていました。

 リサ達が目を丸くしていると、扉を開け放ったアミが言葉を続けます。


「今日のお勉強は、闇の魔法だよ。時間と空間、……うーんと、最低でもリサちゃん達がアーベンの港に行ける様になるまでかな? みんな、中に入って。朝ご飯を用意するよ。」


 まだ朝ご飯を食べていなかったリサ達は笑顔になります。

 そして、みんなでアミの家の中に入ったのでした。


§5 少女達の初講義

 それから一週間後、賢者の城のとあるお部屋でリサ達四人はぐったりしていました。


 リサは机に頬を当てながら、ラクアに話し掛けます。


「……やっと講義が終わったよ。これって、実質2週間の外出禁止だよね。」

「……そうですね。」


 ラクアは少し疲れ気味で姿勢が崩れています。

 ルリはシャキッとしていますが、疲れた表情は隠せません。

 そして、ミルは完全に融けたシャーベットみたいになって机に伏せています。


 さて、そんなリサ達の前にマリエルがやってきます。


「明日からは仮とは言え学生になる。私達から祝いの品を送ろう。」


 マリエルはそう言うと、自分達、水の賢者マリエル、闇の賢者アミエル、土の賢者ケェンリン、の魔力が込められた万年筆をリサ達にプレゼントしました。

 リサ達みんなに配り終えると、マリエルは言葉を続けます。


「……これで、“神聖文語”の記述が出来る様になる。ラクア、正式な名乗りをしてみてくれ。」

「はい、マリエルお姉様。」


 ラクアはマリエルに頷くと、少し顔が強張らせながら万年筆を宙に構えます。


「我は水の賢者が娘、ラクアエル・闇霧・アルクーリ。」


 すると、万年筆から宙にインクが溢れ出します。

 そして、万年筆から滴った青いインクは黒く変色して細かな霧になり、ラクアの周りを纏わり付く様に蠢き始めます。


 ……これって文字なのかな。確かに“闇霧”だけど。


 リサがじっと霧を見ていると、ミルの声が聞こえてきます。


「ラクア。マリエル様の娘なの?」

「マリエルお姉様の後継なので。慣例みたいなものです。」


 そして、その“闇霧”はラクアが話している間に薄れていきました。


 ……へー、これどうやるんだろう。


 リサはラクアの真似して万年筆を構えます。


「リサさん、危ないですからやめましょう。」


 でも、リサはルリに止められてしまいます。


 ……しょうがない。今日の所は諦めるよ。明日の初講義に出られなくなったら嫌だからね。


 リサは万年筆をそっと箱に戻しました。


 ……

 翌日。賢者のお城の中庭に、着飾ったリサ達の姿がありました。

 そして、周りを見渡すとリサ達以外にも沢山の人がいます。新しく学校に入る学生達とその親たちです。

 ちなみにルリがお姫様と言う事は秘密。

 ただ、ここに居る全員が知っている秘密です。


 ラクアは周りを見渡しながら、言葉を漏らします。


「こんな風に集まるのは今回だけなのはちょっともったいないですね。」

「だね。……ラクちゃんって私達以外の子達がいるけど平気。」


 リサがそう言うと、ラクアは首を横に振ります。


「大丈夫です。リサ達で慣れました。それに大人の人ばかりですから。」


 ラクアの言う通り新入生の女の子は少なく、その親兄弟親戚で中庭はひしめき合っています。

 リサが目線を上げると、目の前には真新しい二階建ての建物が見えます。

 以前にリサとミルがラクアと喧嘩した日、アミがリサ達に案内する気だった場所。


 リサと一緒に建物を見上げていたミルがルリに振り向きます。


「そう言えば、ルリって中庭は初めてだっけ。」

「はい。皆さんはあの白いお花をここで採取されたそうですね。」

「私が採取したんだよ。でも、その日以来、入るの禁止されたんだよね。」


 そして、ルリにリサが言葉を続けます。

 リサの言う通り、それ以前に見学していたラクア以外、リサとミルは今までこの場所を見る機会はありませんでした。


 さて、そんな四人にユアが声を掛けます。


「そろそろ、あなた達も建物の中に入って下さい。」


 ユアは他の学生にも声を掛けていたようで、女の子たちがぞろぞろと建物に入っていきます。


「あっ! ……お母さん。行ってくる!」

「はい。行ってらっしゃい。」


 リサはお母さんに声を掛けると、もう既に移動を始めていたミル達の後を追い掛けます。


 ……ちょっと懐かしい気分かも。


 そして、リサは一旦立ち止まると建物を見上げます。

 そんなリサにミルは扉から声を掛けました。


「リサ!!」

「うん!!」



 ……


「……と言う事で、講義はグループ毎に選んでもらう。」


 さて、一つの部屋に集められたリサ達は、土の賢者ケェンリンの娘シェラリンの説明を聞いていました。。

 そして、時折お尻を擦りながら、紙を見て説明をしているシラの後ろではユアが控えています。


 少し飽きてきたリサは、そんなシラから目を離して周りを見回します。

 リサの周りにはリサ達を含めて15人の女の子達が座っています。


 ……みんなお嬢様ぽいのは何でだろう。ミルも見た目はお嬢様だけど。


「ねぇ、今15人居るから3つのグループだと私達の所にもう1人入るのかな。」


 リサが隣のミルにそう尋ねると、後ろから声が返ってきます。


「どうなんでしょう。私達と一緒は色々大変だと思いますよ。」


 ……あっ。ラクちゃんの声が後ろからする。……痛っ。


 リサがラクアに顔を向けようとすると、ラクアはリサの頭を叩きました。


「……リサ。前を向かないと目立ちます。」


 ……うーん。


 リサが前に向き直るとシラと目が合ってしまいます。

 すると、シラは後ろに控えてるユアと目を合わせました。


 ……えっ、なに?


 リサが不思議に思っていると、シラは早口に言葉を続けます。


「えっと、今からグループ分けを発表。後、グループ毎に賢者の血縁が付き保護監督を行う。以上。」


 そして、前に座っている1人の女の子に声を掛けました。


 ……なんだろう。

 あっ! シラちゃんが女の子を連れてこっちに来る!!


 シラはリサの前に来ると、声を掛けます。


「リサちゃん。人が頑張って喋ってる時に後ろ向くのはやめて。」

「シラちゃん。ごめん。……その子は?」


 リサに聞かれたシラはその女の子をリサ達の前に連れてきます。


「リサちゃん達と同じグループになる子。ジェシエルさん、挨拶して。」


 その女の子、ジェシエルはリサ達の方に顔を向けます。


「ジェシエル。」


 そして、ジェシエルは一言だけ口にすると、リサ達から離れた位置に座ってしまいます。


 ……どうしてだろう。


 リサが首を捻っていると、シラは苦笑いをしながらリサ達を見回します。


「……えっと、どの講義を受けるか。ジェシエルさんも含めてちゃんと相談するように。」


 そうして、シラは既に固まっている他のグループの方に行ってしまいます。

 リサ達は顔を見合わせます。

 そして、ミルはリサに目を向けます。


「リサ、呼んできて。」

「そうですね。リサが適任です。」


 そして、ラクアもそう言葉を続けました。


 ……ミルとラクちゃんは呼びに行きたくないんだね。


 リサは二人に頷きます。


「分かった。ジェシーちゃん呼んでくるね。」


 すると、ルリが口を挟みます。


「……あの。私もいいでしょうか?」

「んっ。良いよ。」


 リサはルリに頷くと、一緒にジェシエルの所に歩いていきます。


 さて、リサとルリが近寄るとジェシエルはすっと目をそらします。

 リサはそんな様子に諦めずに声を掛けます。


「ジェシーちゃん! 一緒に話そう?」


 でも、ジェシーはリサから目を逸らしたまま。


 ……それなら。


 リサはジェシーの顔先に自分の顔を近付けます。

 すると、ジェシーは顔を歪め、仰け反ります。


「……なに! “魔法貴族”の分際で私に話し掛けないで!!」


 ジェシーはそう言うと、またリサ達から顔を逸らしました。


 さて、リサはジェシーを少し睨んでいるルリに小声で話し掛けます。


「ルリちゃん。魔法貴族って何?」

「……そうですね。リサさんのご両親が国や組合から勲章を貰っているのでそれの事でしょうか。」


 ……ふーん、まぁいいや。


 リサはジェシーに向き直ると、手を握ってみます。


「! なに触ってるの! きたない。放してよ。」


 でもジェシーはそれも振りほどきます。


 ……私の手は汚くないよ。たぶん。


 少し手を確認したくなったリサですが、このままでは話が進みません。

 リサはもう一度、ジェシーの手を握りしめます。


「みんな待ってるから、ジェシちゃんも一緒に受講するもの選ぼ。」


 そして、ルリもジェシーを睨んだまま言葉を続けます。


「そうですよ。ジェシエルさん、早く来てください。」


 流石のジェシーもルリに強い口調で言われるとびくっとします。


「なによ、……手を放して行くから。」


 そして、ジェシーはリサの手を振りほどくと立ち上がってミルとラクアの方に歩いていきました。


 ……なんか、疲れちゃった。


 リサがため息を吐いていると、険しい顔をしたルリがリサに話し掛けます。


「リサさん、この講義が終わりましたら時間を作って頂けませんか。お話したい事があります。」


 ……なんだろう?


 リサは首を傾げるも、ルリにこくりと頷きました。


§6 少女達と賢者の娘


……やっと、終わりました。


 ルリは内心ため息を吐きます。

 ジェシーはかなりの問題児でした。

 ルリが睨みを効かせていたので講座選択自体は滞りなく行われました。

 でも、ミル、ラクア、そして特にリサへは攻撃的な態度なままでした。


 ふと、周りの声がルリの耳に入ります。


「あの方がノアの。」

「ラクアエル様とジェシエル様が一緒のグループなんて。」


 ノアの王女のルリ、そして賢者の後継であるラクアとジェシエルの噂話が聞こえてきます。


 ……私が王女である事は当然知られていますね。秘密とは建前なのでしょう。


 逆に言えば、ルリもこの場に居る全員の“素性”を知っているのですが。

 さて、ルリはぐったりしているミルとラクアと違ってまだ元気なリサに声を掛けます。


「リサさん。先に部屋に戻ってもらえませんか。」

「うん? あー、分かったよ。ラクちゃんとミルもちゃんと連れてきてね。」


 リサはルリの言葉に頷くと部屋を出て行きます。


 ……さて、彼女達とも話さなければなりませんね。


 ルリはリサが部屋を出て行ったことを確認すると、ラクアとミルに声を掛けます。


「ラクアさん。ミルさん。どう思われましたか。」

「あの方は苦手です。私とミルには対等な言葉で見下す態度と言うのですか。何にせよ、私達の出自は大体聞いてるみたいですね。」

「もしかして、ラクアって私の親の話聞いてるの。」


 ミルがそう言うとラクアは顔を伏せます。


「ミル、ごめんなさい。」

「別に良いよ。私もラクアの事で聞いてる事があるから。ルリは当然知ってるんだよね。」


 ミルに顔を向けられたルリはこくりと頷きます。


「はい。存じてます。」

「そっか、で今日あいつを見て危ないと思ったんだ。」


 そして、ラクアの言葉が続きます。


「確かにリサは身分に頓着しないですからね。……最初の晩餐会でのルリ様に対する態度はヒヤヒヤしました。」


 ラクアの言葉にルリの心臓は強く打ちます。


 ……あの時の私は。


 ルリが一瞬固まってしまいます。


「……ルリ。次の講座までにリサに注意するんだよね。」


 我に返ったルリは、ミルにこくりこくりと頷きます。


「……はい。」

「ルリ様、リサには私達の事は言わないで下さい。」

「そうですね。」


 そして、ラクアの言葉に返事をしたルリは、二人と共に部屋を出てリサの所へ歩き始めます。


 ……ミラ様、今の私はあの時とは違っているのでしょうか。

 ……そのままなのでしょうか。

 ……もしかしたら、あの娘と私は同じなのかも知れませんね。


 そんな事を思いながら。


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