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魔法の街の少女達  作者: A.Bell
4/6

しゅくだい

§1 賢者と魔法使いのお茶会

 ここは賢者のお城の最上階。

 いつもは賢者達が集まる筆頭賢者の執務室には、マリエルとフィルの二人きり。

 二人はテーブルで向かい合いながら、静かにカップを傾けています。


 さて、カップを置いたフィルはマリエルに少し意地悪そうな顔を向けます。


「……大変だったわね、“筆頭賢者さま”。」


 そう。リサ達がルリを連れて森へ出掛けてしまった事で、マリエル達は大わらわだったのです。

 でも、マリエルはそんなフィルを無視しながら、クッキーを摘みます。


「……フィル。メイは何時送り返されるんだ? こっちにも都合があるから早めに教えてくれ。」


 今回の一件に関するメイのリサへの“危ない”発言を聞いたルリが、ノアに送り返すと決めたのでした。

 フィルは少し目を細めます。


「……そうね。魔導具で緊急連絡取ったけど、一週間位は掛かるわよ。」

「しかし、ルリアリア様は立派だ。まだ十にも満たない年とは思えない。」

「そうかしら? 今日の事なんか寧ろ年相応じゃない。こっちは顔が青くなったのよ。」

「そう言う事を言ってるんじゃない。私が貴女と初めて会った時の事を思い出したらどうだ。」


 子供の頃のフィルは身分を笠に着て、傲慢と言って良い少女でした。

 出会った当時のマリエルもごく普通の良家のお嬢様と言う感じで、フィルに良く苦労していました。


 さて、当のフィルは少し目線を外しながら、話を逸らします。


「……そう言えば、妖精教のシスターを森に入れていいかしら。」


 フィルはリサ達が見つけた妖精門を調べたいようです。

 マリエルはカップを傾けながら大きく頷きます。


「構わない。こっちも調べなければならない事が溜まってる。」

「“賢者の門”ね。」


 フィルは壁にある大きな扉に目を向けます。

 実はリサ達が飛び出してきたこの扉は外に向かうしか出来ないはずで、外“から”来ることは不可能なはずでした。

 リサ達が見つけた妖精門と長い階段。

 マリエルが調べなければならない事がまた増えてしまいました。


 さて、フィルが突然あっと声を出しました。


「……忘れる所だったわ。」


 フィルは顔を上げノア王室の封印が施された封書をマリエルに差し出します。


「“リア国の情勢”に関する内容よ。」


 フィルの目は鋭さを増し、マリエルは紅茶が入ったカップを机に戻します。


 それは戦争が続いている大陸北部の情報でした。


「封書か。」


 マリエルの言葉にフィルは頷きます。


「今から私の口からも説明するけど今後、貴女が理事や議会を抑える為に“証拠”は必要でしょう。」


 ……今夜は徹夜になるかも知れない。


 マリエルはそう思いながら、フィルの言葉に耳を傾けました。


§2 少女達と図書館

 さて、マリエルとフィルが朝方まで話し合った日のお昼前。

 リサとラクア、賢者の城の図書館に二人の姿がありました。


 ラクアとリサは図書館の机で本に目を通しています。


「これもダメですね。リサの方はどうですか。」


 ラクアは首を振りながら読んでいた本をぱたんと閉じます。


「私のもハズレぽい。」


 そして、リサも息を吐きながら本を閉じて机に伏せてしまいます。


 ……本ばっかり読んで疲れたよ。


 リサは机に伏せたままラクアに声を掛けます。


「でも、外出禁止一週間だよ。別にお城の中だけでも楽しいけど、ダメと言われたら出たくなる。」

「今回はルリ様が取り成されたので外出禁止だけでしたけど。王女様を護衛も無しに連れ出すなんてとんでもない事です。」

「ルリちゃんが付いてくるって言ったんだよ。しかも、自分は“リア”だって嘘付いてた。」

「……リサは気付いてましたよね? なぜ、止めなかったんですか?」

「ミルも気付いてたよ。」


 リサがそう言うとラクアが椅子から立ち上がる音が聞こえ来ました。

 リサが頭を上げるとラクアと目が合います。


「ミルは温室です。もう一度、本を探してきます。」


 ラクアはそう言うと、読んでいた本を抱えて本棚の方に向かってしまいました。


 さて、リサとラクアは図書館で“雨降りの花”について調べています。

 リサ達が育て方を聞いてみるとマリエルやアミは知りませんでした。

 そして、どうせなら自分達で調べたらどうかと言われてしまいました。

 なので、ちょうど外出禁止になった今日、リサとラクアは図書館、ミルとルリは温室と別れて調べてみる事にしたのです。


 リサも散らばっている本を纏めると本を探しに本棚に向かいます。

 リサは本を戻しながら階段を登っていきます。

 階段の壁側にも本棚があるので眺めながら題名に目を通して行きます。


 さて、この図書館は城の一部を利用して作られていて、他の部屋と違って四階くらいの高さまで吹き抜けになっています。

 1階は本棚と机が並んでいて、壁一面に本が詰められています。なので、魔法が使えない人用に階段や通路が壁に沿うように作られています。

 ただ、魔法が使えない事をあまり想定していないのか、手が届かない位置に本があったりします。

 後は天井の中央付近には禁書庫が“浮いている”らしいと、リサはラクアに聞いていました。


 リサはそんな図書館の様子を楽しみながら本の題名を読んでいると、ふと、ある本に目が止まります。


『禁域と聖地』


 リサは手に取りパラパラと捲ります。


「魔導都市エルリル」


 その項目に行き着くと指が止まります。


 ……“魔導都市”って何だろう?


 リサはそう思いながら読み進めます。


“魔の森”、“原始の森”、“神竜廻廊”……、“エルリルの地下迷宮”、”エルリルの城”、“エルリルの森”。


 リサの手が止まります。

 少し戻り、“エルリルの城”からじっくりと読み直し始めます。

……


「ひぁ!!」


 リサは突然、肩を触られて飛び上がりました。


「! ……なんですか。」

「ごめん。いきなり触られてびっくりした。」


 リサが後ろを振り返るとラクアが目を丸くしていました。

 リサは読んでいた『禁域と聖地』を片手に持ち替えると、右手でラクアを撫で始めました。


「……リサ。もう大丈夫ですから手を退けて下さい。」


 ……もう少し撫でていたかったよ。


 リサはそう思いながら、少し顔が赤いラクアから手を退けました。

 するとラクアは咳払いをします。


「……それで、何か見つかりましたか。」


 リサは両手で本を開き直します。


「ラクちゃん。“魔導都市”や“エルリルの城”って知ってる。」

「“魔導都市”はエルリルの旧帝時代の呼び名ですね。“エルリルの城”も“賢者の城”の事ですよ。」

「ラクちゃん、これ読んでみて。」


 ラクアはリサが差し出した本を受け取ると目を通し始めます。

 そして暫くすると、訝しそうにしながら顔を上げました。


「でも、“あり”ますよね。」

「今朝はみんなで水あげたよね。」


 リサとラクちゃんは首を捻ります。

 本にはこう書いてありました。


「エルリルの森はエルリルの物。

森の外にひとたび出れば、

それらは夢へと消え去る。」


 さて、二人で暫くそうしていると、ラクアがリサに目を向けます。


「……ただ、この“エルリルの森”が“賢者の森”ではない可能性もあります。」

「どっちにしても、“賢者の森”から調べた方がいいかもしれないよ。植物図鑑とかまるで手掛かりなかったよ。」


 リサはそう言うと手に持った本を閉じて、本棚に戻します。

 そして、リサとラクアは目に付いた本をパラパラと捲ってみます。


 ……

 それから少しすると、下から声が聞こえて来ました。

 リサが手摺から顔を覗かせるとミルとルリがこちらを見上げながら手を振っています。


 リサの後ろからラクアが声を掛けます。


「ミル達でしょうか。」

「うん。ラクちゃん、行こ。」


 リサとラクアは本を返すと、手を繋いで階段を下りていきます。


 さて、一階まで下りてくると、ミルとルリがリサ達の方に駆けてきます。

 そして、ミルが口を開きます。


「ラクア。リサ。私の知り合いが“雨降りの花”を見てくれるって。」

「……ミル。知り合いって誰?」


 リサが首を傾げると、ルリが言葉を重ねます。


「確か、シェラリンさんと伺いました。」


……シェラリン、シェラリン。どこかで聞いた事があるよ。


 リサは目を閉じて思い出そうとします。


 ……あっ! ムロ婆のお弟子さんのシラちゃんの事だ!!


 シラことシェラリンはムロ婆の孫娘で、リサとミルとは顔見知りです。

 リサはミルに顔を向けます。


「シラちゃん、来てるの?」

「うん。リサにも会いたいって。」


 ミルはリサに頷きます。

 そして、リサもミルに頷き返します。


「よし。みんなで温室に行こう!」


 こうして、リサ達は温室に向かう事になったのです。


§3 少女達と温室

 さて、リサ達は温室に向かう前にリサの部屋に足を進めていました。

 シラに見せる“雨降りの花”を取りに行く為です。

 部屋の前に着くとリサは扉を押し開けます。


「……みんな。入って。」


 ミルは軽く頷きます。


「うん。」


 ラクアもミルに続きます。


「お邪魔します。リサ。」


 そして、初めてリサの部屋に入るルリは部屋を見回します。

 部屋はワンルームで、手前にはテーブルとソファー、奥にはベッド、窓辺には机があります。


「……ラクアさんの部屋と変わらないのですね。」

「うん。ミルの部屋も似たような物だよ。……とっ。」


 リサはルリに答えると扉を閉めると、窓辺に向かいました。

 窓は出窓になっていて、お花はそこで育てています。

 さて、窓辺に寄ると既にミルとラクアが“雨降りの花”を小さな温室から取り出していました。

 すると、ルリがわっと声を上げました。


「……綺麗ですね。」


 ルリの目線の先には小さな温室。

 リサとミルとラクアの魔石を薄く延ばして組み合わせたそれは、太陽の光に照らされて三人の魔力の色にキラキラと輝いています。

 そんな、ルリにお花を抱えたミルは苦笑いします。


「まぁ、魔石が一人分だと足りなかっただけなんだけどね。」


 それにラクアとリサも頷きます。


「……そうですね。」

「だね。」


 さて、“雨降りの花”を回収したリサ達はリサの部屋を出てもう一度、温室へと向かいます。


 ……

 温室への扉はガラス張りで、リサ達がやって来た事に気付いた若い女性がリサ達より先に扉を開けます。


「おっ! 来たね。久しぶり。リサ。」

「うん。シラちゃんも。」


 リサが言葉を返すと、挨拶もそこそこにミルの手元に目を向けます。


「ミル! それが例の奴だよね。貸してちょうだい。」

「あっ。うん」


 ミルから“雨降りの花”を受け取ったシラはそのまま温室の机に持っていくと、観察を始めます。


「……うーん、ランの一種ではある。魔力反応も詳しく見たほうがいいかも。」


 そしてシラは机の周りに散乱している本や紙の中から、幾つか手に取ります。


 ラクアは呆気に取られ、ルリは少し困った顔をします。

 そして、シラの性格を知っていたリサとミルは顔を見合わせます。


「リサ。先に温室の案内するよ。」

「うん。それが良いね。」


 リサはミルに頷くともう一度シラに目を向けます。


 ……あんな感じになると数時間はそのままなんだよね。


 リサはそう思うとラクアに手を伸ばします。


「ラクちゃん、ここで何時間も眺めても面白く無いよ。」

「……分かりました。私も行きます。」


 ラクアは溜息を吐きながら、リサの手を握り返しました。


 ミルとルリに連れられ温室の奥に進んで行きます。

 入り口から離れて数分程で天井が見えなくなってしまいます。


 ……温室と言うより完全に森だね。


 リサがそう思っていると、隣を歩いているラクアがルリに近づいて声を掛けます。


「……ルリ様。シェラリンに何か迷惑を掛けられませんでしたか?」

 ルリは少し目を逸らします。


「……特には。」

「……そうですか。」


 ……うーん。絶対なにかやってるよね。


 リサはミルを手招きします。


「……ミル。本当は?」


 ミルは小声でリサに耳打ちをします。


「いつも通りだよ。朝にシラお姉ちゃんが温室を案内してくれるって言ったんだけど、自分の研究優先して2時間位待たされた。」


 ……相変わらずひどいね、シラちゃん。


 そして、リサも小声で答えます。


「シラちゃんは後でムロ婆にお仕置きされそうだね。」


 シラはもう20歳になるのですが、しょっちゅうムロ婆にお尻を叩かれています。


 さて、リサ達はミルとルリに案内されてまた移動を始めました。

 リサはラクアに声を掛けます。


「そう言えば、ラクちゃんも初めて来たんだよね。」

「はい。前までは入らない様に言われていました。」


 すると、ルリが言葉を続けます。


「確かシェラリンさんが言うには講義で使える様に危険な魔法植物を移動させたそうですよ。」

「ルリが言う通りだけど、ちょっと怪我するかもって植物はあるみたいだよ。……あれとか。」


 ミルはそう言って、木の間に咲いてる大きいお花を指差します。


 ……あれは“あれ”だよね。前に見たのよりかなり大きいけど。あの時はミルがすごい泣いて大変だったよ。


 リサはその時の事を思い出しながら、ラクアとルリに声を掛けます。


「ラクちゃん、ルリちゃん、ミルが前に怪我したから気をつけてね。」

「大丈夫だったんですか。」


 ラクアがそう言うと、ミルは指を差し出します。


「あれよりも小さかったからね。指を噛まれただけで済んだよ。」


 さて、リサがそんな様子を見ていると、ルリが何処となく苦笑いをしているのに気付きます。


「どうしたの? ルリちゃん。」

「えっと、……何でもないです。」


 ……ふーん。


 リサがミルに目線を向けると、ミルはさっと目を逸らします。


 実は、ミルはリサが花に指を噛まれたとルリに話していました。


 さて、リサがミルの事をじっと見ていると、ルリの声が聞こえてきます。


「皆さん、そろそろお昼ですね。入り口に戻りましょう。」


 見ると、ルリが森の中でも見ていた懐中時計を取り出していました。


「それって、懐中時計だよね。」

「はい、リサさん。確かバーティス作の物です。」


 ルリはそう言いながら、手のひらに懐中時計を載せて、リサに見せます。

 すると、ラクアもルリの手のひらを覗き込みます。


「バーティスさんの作品ですか。ノアの王女様とは言え良く手に入りましたね。」

「フィルが個人的に知り合いらしく。……ラクアさんもマリエル様の家族なのですからお持ちなのではありませんか。」

「確かに私も誕生祝いに貰いました。でも、触った事すらないです。」


 すると、ミルもルリに近寄ります。


「ふーん、まぁ普通は子供に持たせないよね。……リサはずっと黙ってるけど、どうしたの。」


 ……えっ、話に入れなかっただけだよ。


 リサは首を横に振ります。


「何でもないよ。はやく入り口に行こ。」


 リサ達は入り口に向かって歩き始めます。


 ……

 リサ達が入り口に着くとマリエルがシラの座っていた机に座っていました。


 ……あれ、シラちゃんがいないよ。


「帰って来られたようだ、フィル。」

「みたいね。」


 そして、マリエルの向かいにはフィルが座っています。


 ……なんとなく嫌な予感がするよ。


 リサ達は立ち止まって、顔を見合わせました。


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