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魔法の街の少女達  作者: A.Bell
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プロローグ

§1 プロローグ

 ここは魔法の街エルリル。

 大陸最南端の神竜の膝元。魔法を学べる大学の街。

 ……そして、一番大切なのは、世界で一番魔法の得意な賢者様達が守る街と言う事。


 さて、そんな街の外れに小さな村がありました。更にその村の外れに小さな可愛らしい家が二軒、隣り合って建っています。

 赤い平らな屋根の二階建てのお家と、緑色の切妻屋根をした二階建てのお家。

 日が高く上り、木立の合間から小さな太陽が覗く庭先に赤い家の方から一人の女の子が飛び出してきます。薄い赤色の髪の毛にルビーのような瞳をした可愛らしい女の子です。そして、涼しげな淡い青色をしたワンピースを風にはためかせています。


 女の子は目を空に向けます。すると雲一つない綺麗な空色が目に映ります。

 そして、今日は近くの村でのお勉強もお休みです。

 隣の家の友達を誘って遊びに行こうと考えた女の子は、隣のお家の玄関に走り寄ります。


「ミル! お出掛けしよ!」


 女の子は大きな声を出しながら、扉を手で打ち鳴らします。


「リサ!! うるさい!」


 すると、黒い髪をして金色の瞳を持つ女の子が勢いよく扉から出てきました。何か料理をしていたのか、紺色のワンピースに白いエプロンを付けたままです。

 リサと呼ばれた女の子は慌てて飛び退きます。そして、飛び出して来た女の子を睨みながら頬を膨らませます。


「危ない! 絶対、当てる気だった。」

「リサが毎回うるさいから。しかも私が一人の時を狙って質が悪いよ。」


 ミルと呼ばれた女の子は呆れながらリサにそう言います。

 すると、リサは楽しそうに輝かせた目を少し逸らします。

 ……そして少し間を開けると、あっと声を上げます。


「なら、なんかあげる! お詫びに。」


 リサのその言葉を聞いたミルは機嫌を直して唇の端を上げます。

 そして、こう口にします。


「リサ、街に行くよ!」


§2 少女達と賢者さま

 魔法の街の中心、賢者様のお城の前の広場で少女が二人でベンチに座っています。黒い髪をした女の子はスプーンを挿した少し小さめの丸い器を手に抱えて、淡い赤い髪をした女の子はがま口の付いた小さなお財布を覗きながらため息を吐いています。


「……はぁ、今週のお小遣いが無くなっちゃった。」


 そう、赤い女の子と黒い女の子とはリサとミルの事でした。ミルに何か冷たい物が食べたいと言われたリサはわざわざ時間を掛けて森を歩き街まで出てきたのです。


「おじさんがタダで良いって言ったのに、わざわざお金を渡したのはリサだよ。」


 ミルはリサにそう言うと、笑顔でミルクシャーベットを口に含みます。


 実は、このシャーベットはリサのお陰で食べられるのです。以前、氷を売り歩いていた魔法使いのおじさんにアイスも売ってはどうかとリサが聞いてみたのでした。最近では、おじさんのアイスの屋台は広場の風物詩です。

 さて、アイス売りのおじさんはリサに感謝していて、いつも無料でアイスをリサにくれるのですが、リサは遠慮をして今回は貰っていません。ミルの分もちゃんとお金を払って買いました。

 今回もおじさんには二人分上げると言われましたが、流石にリサも遠慮したのです。


 でもリサは、ミルが食べているミルクシャーベットをじっと眺めながら、おじさんに自分の分だけでもアイスを貰えば良かったかなと少し後悔します。


 ふと、突然ミルが声を上げます。


「……あれ? マリエル様だ! こんな時間にどうしたんだろ?」


 リサもミルの視線の先に目を向けます。

 すると、お城から綺麗な水色をしたローブを着た妙齢の女性が歩いてきます。薄い水色に所々に黒が混ざった髪に青い瞳をした美しい人です。

 彼女は広場に隣接するお城の主様。六人の賢者を束ねる筆頭者。すなわち、エルリルの街で一番偉い人物です。ちなみに、水の賢者の一族でエルリル唯一の港街アーベンの領主でもあります。

 さて、そんな彼女は度々街を出歩くのでエルリルの民に良く顔を知られています。また城主催の行事があると、エルリルの各地に映像を送る魔導具があるので、それを通して街に住んでいない人々にも良く知られていました。

 リサも魔導具の映像で顔を知っていて髪の毛の色が分かり易いので直ぐにマリエルだと気付きました。


 しかし、何故かマリエルの足取りが怪しくふらふらとしていました。

 不思議に思ったリサはベンチから立ち上がるとミルに声を掛けます。


「ミル。マリエル様にどうしたのか聞いてくる!」

「えっ! ちょっとリサ!」


 ぎょっとしたミルはリサを呼び止めますが聞いていません。

 リサはマリエルに駆け寄ります。


「マリエル様。どうしたの?」

「君は……。」


 マリエルと呼ばれた女の人はリサを見ながら首を傾げます。

 でもリサの髪の毛に目を留めると目を軽く閉じて深く頷きます。


「……あーあ。“頭の柔らかい”リサ君か。」

「えっ!マリエル様、私の名前知ってるの?」


 リサは驚いていますが、マリエルの耳に入る程には有名です。アイスの屋台もそうですが、他にも色々と街の変化に関わっていました。

 さて、マリエルはすっと目線を上げます。


「無論。……あれはミルだな。」


 マリエルは先程とは打って変わって確かな足取りでミルが座っているベンチに歩いていきます。

 不意を突かれたリサはマリエルの後を急いで追いかけます。


 さて、リサに追いかけられているマリエルはミルの座っているベンチにたどり着くと声を掛けます。


「久し振り、ミル。おお、これが噂の氷菓子か。味見しても良いかな?」


 そんな、マリエルに上手く言葉を繋げられなかったミルはただこくこくと頷き、スプーンを差し出します。


 さて、マリエルはミルからスプーンを受け取るとさっと口に運びました。


「…………、ふむ、うまい。これもリサの助言のお陰らしいじゃないか。私も買ってこよう。」


 マリエルは後ろから駆け寄ってくるリサに目を向けながらミルに話し掛けると、今度はアイスの屋台に向かってしまいました。

 リサは一旦息を吐くと、マリエルを横目に見ながらそのままベンチに戻ります。


 リサはそう思うとミルの横に座りながら話し掛けます。


「はぁ。マリエル様って忙しい人! ……それはそうと、ミルってマリエル様と知り合いだったんだね。」


 リサは横に座っているミルに話し掛けます。

 ミルは少し目を泳がせると、リサに答えます。


「あー、お父さん達に仕事持って来てくれたのがマリエル様なんだ。」

「へー。」


 リサはそう言いながら、ミルが持っている器に目を向けると手に当たっている所から溶けている様子が目に映ります。

 リサは少しぼんやりとしながらマリエルの方を見ていたミルに声を掛けました。


「シャーベット溶けてるよ。」

「うそ! …………んっ!!!!」


 リサに言われたミルはシャーベットを掻き込んで頭を抱えてしまいました。

 そんな二人に声が聞こえてきます。


「……? ミルは大丈夫なのか?」


 シャーベットを抱ながらマリエルが戻ってきました。ちなみに、マリエルのシャーベットはシャンパンを使った少しお高めの物です。

 マリエルはミルの様子を見て心配そうな顔をしながら、空いていたリサの隣に座ります。今、ベンチには端からミル、リサ、そしてマリエルの順に座っています。


 さて、ミルはマリエルに答えて首を横に振ります。


「……平気です。マリエル様。」

「ミルはシャーベットを一気に食べたからだよ。」


 リサがそう付け加えると、マリエルも納得して頷きます。


「なるほど。私も注意しよう。」


 そして、シャーベットをスプーンで掬うと口に運びます。


「……ふむ。美味い。」


 そんなマリエルにリサがもう一度質問します。


「マリエル様、もう一度聞くけど、どうしたの? ふらふらしてたけど?」


 マリエルは少しの間、空を見上げます。


「あぁ、そうだな。」


 そして、リサとミルに目をむけます。


「……あれだ。外国から留学生が来るんだ。だが、その方はいくぶん位が高い方でな。街を出歩かれるのは心配で、どうしようか悩んでいるんだ。」


 マリエルはスプーンをシャーベットに刺すともう一度、二人に顔を向けます。


 ここは、大学の街。

 大学と言っても教授たちはそれぞれ家を構えています。そして、学生はそれらを自分で回らないといけません。

 ただ、街の治安はとても良いのです。治安を守る騎士団がいます。また、マリエルみたいに他の賢者も街を出歩いていますので、殆ど問題が起こる事はありません。

 それでもマリエルは今度来ると言う留学生の安全が心配みたいです。


 さて、リサはその「偉い人」をどこかの王族ではないかと思いマリエルに答えます。


「それなら、教授さん達が偉い人の所へ行けば良いんだよ!」


 ですが、リサの答えを聞いたマリエルの顔色は晴れません。


「……それが出来たら良かったんだが。まず、今の学生をどうするかと言う問題がある。その上、彼方はあくまで一学生としての扱いを望んでいる。」


 マリエルの言葉でリサは頭を抱えてしまいます。


「……リサでもいい考えは浮かばないか。」


 そして、マリエルも頭を抱えているリサを見ながら自分も頭を抱えてしまいます。

 しかし、ふとマリエルはふと顔を上げます。


「……そうだ、彼女はまだ君たちとあまり年が変わらないんだ。だから、通常の学生の扱いが馴染まない事も理由だ。」


 すると、マリエルの言葉を聞いたミルがぽつりと漏らします。


「……その子と友達になれるかな?」


 ミルの言葉を聞いたリサは飛び上がりました。

 不安になったリサは涙目になりながらミルを問い質します。


「ミル! 私達、友達だよね?」


 ミルは目を丸くしながらリサをじっと見ます。


「うっ、うん。なんでいきなりそんな事聞くの?」

「だって、他に友達欲しいって言うから。」

「あーあ、と言うかリサが最初に言いだしたんだよ、“同じ位の年の子を集めて勉強したら友達いっぱい出来るね。”って、さっきの話で思い出した。」

「! リサ。ミル。ありがとう! 良い考えが浮かびそうだ。」


 ミルの言葉を聞いたリサはきょとんとします。

 そして、ミルはマリエルが突然大声を出したので驚いてしまいます。

 そのマリエルはそんな二人の事を放って、魔法を使って空に飛び立ちます。


 さて、マリエルの行動に驚いたミルはそのまま暫く空を見上げ。何時ミルにそんな話をしたのだろうかと考えていたリサはしばらくの間マリエルがどこかに去った事に気づきませんでした。


§3 賢者さまの悩み事

 さて、外国からの留学生とは何処の誰なのでしょうか? 少し、時間を遡ってみましょう。

 それは、まだマリエルがリサ達と出会う少し前。賢者様のお城の執務室での出来事です。


 執務室には2人。マリエルとその妹ユアエル。水の賢者様にして今代の筆頭賢者様のマリエルは執務机に座りながら途方に暮れていました。

 西の超大国、ノア国の第一王女ルリアリアが魔法の街エルリルの大学に興味を持っていると言うのです。興味があるとの表現ですが、要するに受け入れの要求に他なりません。

 マリエルとしても大陸北部で戦争が起きている現状では、ノア国から情報を得られる王女の使節団の受け入れを拒否する気はありません。

 しかし、マリエルは悩んでいました。街は治安が良く、学生には貴族階級出身も多く居ます。ただ、ノアのお姫様が街を出歩くのは年齢の事もあり、あまり良い事とは言えません。ノアのお姫様はリサとミルのほんの一つ年上なだけなのですから。


 さて、マリエルは返信の親書を書こうと紙に万年筆を押し当てては紙をインクで使えなくしていきます。

 暫く様子を見ていたユアエルは、流石に見かねた机に近寄ります。そして、マリエルの机の上を指で打ちながらマリエルに声を掛けます。


「マリエル姉様、朝からずっとその様子ですけど。気分転換に外に出られてはいかがですか。」


 確かにユアエルの通りだと思ったマリエルは目を瞑り頷きます。

 そして、マリエルは即座に魔法を使いました。お城の一階に移動する魔法です。


 こうして、お城の一階に移動したマリエルはお城の外に出てきたのです。……実は、座った姿勢のまま移動してしまったので転んでしまうハプニングがあったのですが。


 さて、何れにしても、こうして外に出たマリエルは、気分転換に噂のアイスの屋台を目指す途中でリサ達と出会ったのでした。


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