表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クエストを達成して強くなる  作者: ミカタナ
9/36

9

木々が揺れ木漏れ日が差し込みアリシアを照らす。

アリシアの震えは治まっており、落ち着きを取り戻したので楓はアリシアを離した。


「楓……もう大丈夫……」


アリシアは恥ずかしそうに自分のスカートを掴みもじもじしている。

きっとアリシアは昔の事を思い出して取り乱しちゃったのだろう、嫌な記憶は誰しもあるものだよね。


「辛かったらいつでも言ってね。今日は止めにする?」


今日は狩りを止めて町を回るのもいいかもしれない。


「ううん、続けて」


「じゃあアリシア、今度はフォトンをあそこにいる蝙蝠に打ってみて」


「分かった。フォトン」


アリシアが放ったフォトンにより、蝙蝠が一瞬で強烈な光に覆われていき、やがて光が消え去った時には蝙蝠は動かなくなっていた。


「やったね! アリシア!」


「倒したの……?」


「そうだよ、おめでとう!」


半信半疑のアリシアに楓は手をぱちぱち鳴らし褒める。


「楓、ありがとう……」


「この調子でどんどん行こうー」


「うん」


それから二人は魔物を手当たり次第に狩っていった。

楓はアリシアが攻撃手段を手入れた事に大いに喜んだ。

何時までも荷物持ちではアリシアが負い目に感じてしまうのではないかと楓は危惧していた。

勿論荷物持ちも必要な役割だと思うがやはり自分の身を守る為の手段が有ると無いとでは全然違う。


勿論レベルが上がれば強くなるらしいが、例えば荷物持ちだけして上がった者と剣で魔物と戦い上がった者が戦ったら後者が勝つ事になるだろう。


楓だって何時でもアリシアを守れるとは限らないのだ。できれば一緒に強くなってほしい。


それに首輪の代金はアリシアが倒した魔物から払うように宣言してしまった為か、アリシアにお金を渡しても受け取らないので攻撃手段ができた事により貯金が出来るはずだ。


アリシアが魔物を倒してる姿を見て楓はうんうん頷く。


「……? 楓どうしたの?」


「いやーアリシアが強くなって嬉しいなって思ってたの」


「楓を守れるくらい強くなる」


「期待してるね」


魔物の素材を回収しつつ二人は笑いあう。


こうして今日の狩りは終わり冒険者ギルドで換金した後、林檎を買い宿に戻る。

荷物を部屋に置き二人で宿の広場に行って夕食を食べていると、商人達が気になる話をしているのが楓の耳に入ってきた。


「ルーグ鉱山にゴーレムが出たらしいぞ」


「それも唯のゴーレムじゃないらしい……」


「ゴーレムが倒されるまでルーグ鉱山は立ち入り禁止だとよ、これじゃあ商売上がったりだ」


商人達は嘆げいている。


ルーグ鉱山にゴーレムだと……!

森を粗方散策を終えたらルーグ鉱山に行く予定だったのになんてタイミング悪いの!!

うーん、ルーグ鉱山が駄目ならどうせすぐ倒されるだろうし、ゴーレムが討伐されるまでは森で過ごすしかないか……


楓がサラダをもぐもぐ食べていたら、アリシアがテーブルから少し身を乗り出してとんでもない事を言う。


「楓なら倒せる」


ちょっとやめてよぉ、それ絶対死亡フラグだって!


「アリシア、世の中には想像以上に強い魔物がわんさかいるの。舐めて掛かった冒険者から死んでいくんだよ」


自分より格下としか戦いたくない楓はフォークを置き神妙な顔でそれっぽい事をアリシアに言う。


「ごめんなさい……」


アリシアは顔を俯かせ落ち込んでしまった。


楓はアリシアを落ち込ませたい訳じゃなかったので励ます為に適当な事いう。


「アリシアが心配なの」


楓はアリシアの手に手を重ねる。


アリシアは頬を染めながらこくんと頷く。

……アリシアが心配なのは本当だぞ。


「楓はとても強い……だからゴーレムにだって勝てると思ったの。でも私がいたら楓は戦えない、だから私もっと頑張って強くなる」


なんだかアリシアが決意しちゃったぞ。

別にアリシアがいるからゴーレムと戦えない訳じゃないんだけどなー

なのでアリシアの決意を無駄にしないためにも軽い口約束をする。


「じゃあアリシアのレベルが20になったらゴーレムに挑戦してみようよ」


「頑張る」


アリシアが20になるまでには流石に誰かに倒されているでしょう。

此処は鉱山都市と言われるだけあって鉱山がなければ立ち行かなくなり都市の運営に支障がでると思う。

それで領主やら市長やらが冒険者ギルドに高い賞金を出すだろうし討伐されるのは時間の問題だろう。


「そうと決まれば明日から猛特訓だよ! アリシア」


「うん!」


その後は近くで配膳をしていた女将にご馳走様でしたと言い二人は部屋に戻って呪文を唱える作業を繰り返した。





まだ倒されていないのか……

冒険者ギルドの依頼書を思い出しながら考える。

ルーグ鉱山にゴーレムが出現してから一週間となるが未だに倒されていないようで日に日に賞金額が上がっている。


冒険者ギルドはゴーレムの話題で持ち切りだった。

受付のお姉さんにゴーレムの事を聞いたらところ、現在高ランク冒険者がダスクモルゲンにはいないので名乗り上げたBランク冒険者に討伐に向かって貰ったのだが、ルーグ鉱山に行ったきり帰ってきてないらしい……


なんだか大変なことになってる。どうやらゴーレムは思ったより強敵だったらしい。

アリシアのレベルは順調に上がり今は16となっている。

もうアリシアが森で苦戦するのは熊くらいで、後は難なく一人で倒せている。

アリシアが倒した魔物でも楓のクエストは達成するので楓のステータスも上がっている。

アリシアのレベルが20になるのもすぐだろう。


これはゴーレムを倒しにいかなきゃいけないのかなー。

怖いけど覚悟は決めておこう……

強いならグリモのクエストにも載ってそうだし、未だ分からない強敵といずれ戦うのだからゴーレムくらい倒せないと駄目だよね。




そんな事を考えながらアリシアを待っているとアリシアが試着室から出てきた。

黒を基調としたエプロンドレスを着たアリシアが楓に似合うか問うてくる。


何故この場所にいるのかというと、は狩りの途中アリシアの服が大いに破れるアクシデントがあったからだ。

いつもの様に魔物を狩っていたら、アリシアに猪が襲いかかってきた。

アリシアはぎりぎりで避けたものの、それがいけなかったのか猪の角がアリシアのスカートに引っかかってしまった。


スカートは猪が暴れる度に見る見るうちに破けアリシアはほぼ下着姿となってしまった。

楓は猪を倒し、胸を隠して座っているアリシアにすかさず麻袋からマントを取り出しアリシアにかける。

アリシアは服が破れた事がショックなのか、俯いていたので楓は背中に腕を回しぽんぽん叩く。

狩りは中断して新しい服を買いに行こうと提案するとアリシアは首を振らない。


「楓が買ってくれた服なのに……」


「アリシアに怪我がなくて良かったよ。服はまた買えばいいよ、それよりこれ着て」


楓は自分が着ていた上着を脱ぎアリシアに渡す。楓は薄着になったがアリシアが困るより断然いいだろう。

おとなしくアリシアが楓の服を着て上にマントを羽織って二人は町に向かう。


今度は丈夫な服を買おう、それにしても世の中の女冒険者さんは何処で服を買っているのだろう?

でも私の服は今まで破れた事が無いので魔法屋で買えば何とかなるよね。

そんなこんなで町に着いた二人はさっそく魔法屋に向かったのであった。


そして現在に至る。

楓はアリシアの格好を似合ってると褒める。

本当に似合っているが、なによりこの服の性能が凄い。

なんでも魔法の糸を使って編まれており、とても丈夫で、しかも服自体に魔法がかけられており、万が一破れてもすぐに服が再生するのだ。


楓は最初詐欺なのではないかと疑ったが店員の人は得意げになんなら破いてもいいですよ? 破けたらですが……といったので迷うことなくナイフで服を切ったら切った部分が再生して元通りの形となった。

これは凄い、この世界に来て一番感動したかもしれない。

服一枚で銀貨50枚前後と高めのお値段だったが楓は得な買い物だと思い自分とアリシアの服を一人3着買うことにした。


そういえば魔法のスクロールもあるかな?


笑顔の店員にスクロールを見せて欲しいというと快く見せてくれた。

セルホトの魔法屋と比べるとスクロールは大量にあったが全て生活魔法と呼ばれる物だった。

生活魔法とは水を浄化して飲めるようにしたり、鉱山の地盤を固めて崩れないようしたりする言わば生活の手助けになる魔法だ。


生活魔法は使用用途が限られている故に魔力の消費も低くいが魔物を倒す事に向かないので楓はほとんど取得していない。

ここの店は生活魔法に重きを置いており魔物を倒す事に特化した魔法は扱っては無いらしい。

なので服だけ買って出る事にした。


まだ日没には遠い、今から狩りに行っても問題なさそうなので魔物を狩ることにする。

服の代金分頑張って稼ごう。

二人は門をでて森へ向かった。





こうして日々は過ぎていきゴーレムは倒されずにとうとうアリシアのレベルは20となった。


場所は冒険者ギルドの受付前。



「アリシアおめでとう~」


楓はぱちぱち手を叩く。


「ありがとう」


レベルって結構早く上がるんだね、相変わらず楓のレベルは1のままだがステータスが上がっている分善しとしている。


冒険者ギルドの受付のお姉さん曰くレベル20で中級冒険者、レベル50で上級冒険者になるらしい。

アリシアは中級冒険者だね。


アリシアは頑張ったんだから私も勇気を出してみますか!

楓は受付のお姉さんにゴーレムを倒しに行きたいと言ったら止められてしまう。


「今、Aランク冒険者に依頼を呼びかけていますのでむざむざ死にに行く様な真似はおやめ下さい」


「でも依頼は誰でも受けていいのですよね? なら私が受けます」


受付はアリシアに助けを求めるが、アリシアも乗り気なのを見てため息を吐く。


「レベルが上がって向こう見ずになっておられますね? いいですか? レベル40に近いBランク冒険者ですら帰って来なかったのですよ! それを貴方達だけで到底倒せるとは思えません。私の個人の判断で受理する事を却下します!」


受付のお姉さんは早口で言いきる。

困ったな……これじゃあルーグ鉱山の中に入れないよ。

ルーグ鉱山は現在立ち入り禁止となっており兵士が間違って入らぬよう見張っている。

入るにはギルドの許可書が必要だ。

このお姉さんは許可してくれる訳ないし、時間を置いて他の受付の人も許可を貰いに行くのもありだと思うけどこのお姉さんが事前に言ってそうだしなぁ。


楓は決意していたが、お姉さんの態度を見て決意が見る見るうちに萎んでいき此処まで言われたらゴーレムを諦めるのも仕方ないよねとアリシアを見てみる。

アリシアは無表情ながらも悔しそうに感じた。


「し『わしが許可を出そう』


仕方ないよアリシア、お姉さんも私達を心配して言ってくれているんだよと言おうとしたら突如言葉を遮られた。


「ギルドマスター!!」


お姉さんが楓の後ろを見ながら叫ぶ。

楓が後ろを向くとお爺ちゃんが立っていた。


「わしが許可を出す」


周りにいる者が聞こえるようにもう一度お爺ちゃん、いやギルドマスターは言った。

お姉さんがギルドマスターと言うからこの人がギルドで一番偉い人だって楓にだってわかる。


「何故この二人に許可をだすのですか?」


お姉さんは怒りを露にしながらギルドマスターに質問する。


「なーに簡単じゃよ。この少女が強いからじゃ」


ギルドマスターは楓を見ながらのほほんと言う。


私はギルドマスターと会ったことがない。

自分は知らないのに他者が自分の事を知っているとなんだかもやもやする。


「では根拠をお聞かせ下さい、彼女はEランク冒険者。レベルはもう一人の少女と同じくらいでしょう」


お姉さんは納得がいかず尚ギルドマスターに詰問する。


「それはこの少女がAランク相当の魔物を一人で倒した実績があるからじゃ」


此処まであの鳥を倒した事が噂になっているんだ……


「Aランク相当……! でもそれはまぐれの可能性もありますよ」


お姉さんはゴクリと唾を飲みこむが反論する。


「まぐれかどうか確かめる為にも許可をだすのじゃよ」


「しかしそれで彼女がしんでしまったらどうするのです?」


「冒険者に死は付き物じゃよ、それも承知の上で変異種ゴーレムに挑むつもりだったのじゃろう?」


お姉さんと話していたギルドマスターは楓に話を振ってきた。


「え……そうですね……覚悟は出来ています」


いまさら止めますなんて小心者の楓には言えなかった。


「なら決定じゃな、ほれこれが許可書じゃ」


楓の返答に満足したギルドマスターは楓に許可書を渡してくる。

ちょっとお姉さん!! 

もうちょっと頑張ってとお姉さんを見るがお姉さんは難しい顔をしてカウンターの席に座ってしまった。


お姉さんはギルドマスターに敗れてしまったようだ……


「なんじゃ? 受け取らんのか? ほれ早くせい」


楓が許可書を受け取らないのでギルドマスターは許可書をぴらぴらさせながら催促する。


「受け取りますって!」


楓は許可書を受け取った。

くぅーとうとう受け取ってしまった……!


「これで何時でも鉱山に入れるぞ、良かったの」


良かったのかなー、でもまあいいかー。こうなったら頑張るしかないねー……。

現実逃避をしながら一旦宿に戻る事にする。

挑むなら夜より寝て明日の朝から挑んだ方がよいだろう。

冒険者ギルドを出ようとしたときギルドマスターから声がかかった。


「あ、連れの少女はルーグ鉱山に連れてかん方が良いぞ、下手したら死ぬかもしれんしな」


アリシアがびくりとなる。


「ご忠告感謝いたします」


楓は軽く返しギルドマスターの方を見つめているアリシアを促し冒険者ギルドを出る。



二人は無言で宿に戻り夕食をとった。

夕食を食べている最中アリシアがちらちらと楓を見ているのが気になって聞いてみたが、ここでは話したくないらしい。


人に聞かせたくない話題なのだろうと察して二人は食事を早々に終わらせて部屋に戻る。


二人は部屋に戻り必要な事を済ませたあとベットに座り向かい合った。


「それで話ってなあに?」


「私、楓と一緒にゴーレムを倒したい」


アリシアは真っ直ぐ楓を見据え言ってくる。


「なんだ、そんな事? 勿論アリシアには付いてきてもらうよ」


アリシアはギルドマスターに言われた事を気にして一生懸命考えていたのであろうが、楓はもっと大変な事言われるのではないかと想定していたので拍子抜けしてしまう。


「本当!」


アリシアが楓に飛びついてくるので受け止める。

確かにアリシアの安全を考えたら留守番していてもらった方が良いが、もし楓が帰って来なかったらアリシアはどうなっちゃうんだろうと考えたら連れて行った方がいいなと楓の中で結論をだしたのであった。


「でもねアリシア、もし私がゴーレムに敵わなかったりしたらどうする?」


至近距離にいるアリシアの翠色の目を見つめながら言うとアリシアは首に手を回し楓を見つめてくる。


「楓は強いから負けたりなんかしない。私が保証する」


アリシアのこの私への絶大なる信頼は何処から来ているのだろうか?


「もしも敵わなくても私は楓と一緒にいる。私は貴方と一緒にいたい」


言うや否やアリシアは楓の肩に顔を埋める。


「そうだね……アリシアがそこまで言ってくれるなら勝てそうな気がするよ」


「勝てそうじゃなくて勝てる」


「そんなとこ気にしなくてもいいのに……じゃあ明日に備えて今日はもう寝ようよ」


「うん……」


「お休み。だから離してね」


未だに抱きついているアリシアを離すように言う。


「一緒に寝ちゃ駄目……?」


顔を埋めるのを止めアリシアは楓にお願いする。


「駄目だよ。だってベットが狭くなるもん」


明日はゴーレムに挑むって言うのに休めなかったら駄目じゃん。


「分かった……」


アリシアはしょんぼりしながら楓を離して隣のベットに移り毛布の中に潜り込む。

アリシアが毛布に入るのを見届けてから楓も毛布を掛け明日に備えて寝る事にした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ