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クエストを達成して強くなる  作者: ミカタナ
4/36

4

楓がこの町セルホトについて一週間が経っていた。






「来たなお嬢ちゃんまた買って良くかい?」


「はい、袋に詰められるだけお願いします」


楓は今青果店に来ていた。

青果店のおじさんは手馴れた動作で麻袋にリンゴを詰めていく。


「これだけ毎日食べて飽きないかい?」


「飽きませんよ、あればあるほど良いくらいです!」


「そうかい、そうかい、ほら詰め終わったよ。持っていきな」


「ありがとうございます!」


会計を済ませて宿に戻るとグリモにリンゴを納品し達成の文字を見て楓はニコリと笑う。

楓は魔物を狩るにつれて魔力の低さが気になっていった。


そこで手っ取り早く魔力を上げる方法がないかと考え、本を睨み付ける様にページを捲り見ていたらリンゴのクエストを思い出した。


納品すれば魔力が上がる。ならリンゴを買ってくればいいんじゃない? と思い立ってリンゴを買ってグリモに押し付けてみると無事納品する事が出来たのだった。


それからは毎日リンゴを買う日々である。

他の果物もクエストに載ってないか見てみたら今のところはリンゴだけみたいだった。

納品は討伐と比べると達成してもゆるやかにしか上がらないが安全で確実である。

散るも積もれば山となるってね。


おかげで魔力が少しだけ上がったよ! ウィンドカッター全部で7発ぶんくらい!




早朝にリンゴを買い草原で魔物を狩ってギルドで換金するのが最近の日課である。

ステータスが上がった事により、もはや草原で脅威と言える敵はいないが一つだけ問題があった。

楓の防御力は11しかない、一回噛み付かれただけで死ぬかもしれないのだ。

避ければ良いだけの話だが、チキンな楓には当たれば死ぬかもしれない等とてもじゃないが無理な話だ。

なので防御力が上がる魔物を探す事にした。


防御力が上がる魔物が何処かにいないかなーと草原を探索して数日が経ったある日。

とうとう見つけたのである。その魔物は川におり、ちゃぷちゃぷと水の中を歩いていた。

蟹だ、大きい蟹がいる……。バレーボールサイズの蟹が小魚を千切って食べていた。

あの蟹が載っているかグリモに聞くとパラパラとページが捲れクエストが表示される。


クラブ:0/1 防御力+5 討伐


わーお! 防御力! 本当! 本当に?

楓は飛び跳ねたくなったがまだ喜ぶのは早い。

あれは唯の蟹ではなく強敵かも知れないのだ、油断してはならない。口を結び楓は臨戦態勢を取る。


慎重に群れから少し離れた蟹に狙いを定める。もっとも熟練度が上がっているウィンドカッターを蟹に放つ、するとウィンドカッターは蟹に直撃し蟹はその場でズタズタになった。


え、こんなに簡単に倒れちゃうの?


余りにも簡単に倒せたので拍子抜けした。

実は死んでないんじゃないかとグリムに聞いてみるがグリムは達成の文字を見せ付けるだけだった。

じわじわと喜びの実感がわき楓はガッツポーズをする。

やったー! 防御力が上がればもう何も怖くない! これで私が生き残る可能性は増える!

楓には川にいる蟹が宝の山の様にみえた。


よーし、ここにいる蟹を倒して納得するまでは此処を拠点にする!

楓は心に誓い川沿いに歩き、見つけた蟹を魔法で片っ端から倒して死体を積み上げていった。

日に日に蟹が少なくなっていく。少なくなっていく蟹を見て楓は一区切りをつけることにした。

防御力はかなり上がったしそろそろ止めようかな、これ以上狩れば数が激減してしまうだろうし。



名前:楓 

レベル:1

体力:132/132

魔力:51/51

攻撃力:123

防御力:191

器用さ:325

知力:37

素早さ:161

精神力:16

運:14




それに見よ! このステータス! と楓は自身満々でグリムを見る。

ふふん、私にしては上出来なんじゃない?

ちょっと脳筋よりのステータスだけど立派な魔法使いだよ! と自画自賛する。

上機嫌で蟹の死体を麻袋にいれて町に戻る。





ギルドにて換金を終え、宿で買い込んだ食事を食べながら楓は考えていた。

そろそろ別の町に移動した方がいいのではないかと。

効率良くステータスを上げるには幅広い魔物と戦う必要がある。魔物はゲームの様に無限に湧かない。

どんどん同じ魔物を倒せば数が少なくなっていき、いずれはじり貧になる。

それを回避する為には見知らぬ土地に行き別の魔物を狩るしかない。


ではどこへ向かえばいいのか。

ギルドで売っていたおおまかな地図を見ながら考える。


なお、もっと詳しい地図はないのかとギルドのお姉さんに聞いてみたが、精確な地図は売り出す事を禁止されているらしい。

禁止されているのは機密情報って奴なのかな。

詳しい事が知りたいならここにいる冒険者に聞くのが一番ですよとお姉さんは言うが、知らない人に話しかけるのは怖いので楓はギルドでおおまかな地図を買い足早にギルドを出たのである。


うーん東は平野で西は鉱山、南は海で北も平野か……


海は泳げないからないとして西に行った方がいいかな? 

鉱山なら変わった魔物もいるだろうし。


鉱山の近くに町があるから馬車も出てるだろうし、乗せっててくれないかな。

歩いてどれくらいかかるか分からないので、行き来している馬車に乗ったほうが確実に着くだろう。


でも待てよ、もし馬車に悪人が乗っていたり馬車の人が人攫いだったりしたら無事逃げられるだろうか……

でもでも歩いていくよりは安全だろうし……うーん、とりあえず歩いて行けるところまで行って見ますか。


案外近くかもしれないし、遠くだったりした場合は大人しく馬車に乗ろう……

明日は日持ちする食べ物を持って行けるところまで行ってみる。

そうと決まれば今日の訓練は早めに終えて寝よ。






草原から西にある鉱山に向かって道沿いに楓は歩いて行く。

何の変化のない草原を暇そうに一時間ほど歩いていたら、道の向こう側からぼろぼろの馬車がもうスピードで楓の横を駆けていく。


危ないなぁ、いつか人をひき殺しそうだと通り過ぎていく馬車を暢気に見ながら思っていた楓の上を黒い影が差す。


ん? なに?

上を見上げるとトラックサイズのコンドルが楓の真上を通り過ぎ、先ほどの馬車を鷲掴みにして上空に上がっていく。


―――これはやばいな。


巻き込まれないうちに早々に逃げようと決め、馬車と反対方向に走りだそうとした時。

馬車に乗っていたであろう一人が振り落とされ、生生しい音と共に楓の真横に落下した。

おそらく死ぬだろうなと判断して置いて逃げ出そうとしたら足首を掴まれた。


え! なんで掴むの!?


死ぬなら一人で死んで下さいと手を離そうとするが、怪我人なのかと思うほど力強く握り締めてくる。

私はこんな所で死にたくないぞ。

楓がパニックになっている間にもコンドルは馬車を上空から叩き落とし、振り落とされた人を丸呑みしている。


こうなったらこの人連れて逃げるしかない!


楓は未だに足を掴んでいる少女を引きずる様にその場から離れていく。

コンドルが振り落とされた人たちを食べるのに夢中の内に逃げなければ……

こんなのが草原にいるなんて聞いてないと、怒りながらコンドルが見えなくなる距離まで離れると、楓は足が折れ曲がり所々内出血している少女にヒールを唱える、すると怪我が見る見るうちに治っていった。

へーこんな風に治っていくんだ。

楓は重症を負った事がない故か、非常事態ながらも治っていく姿に感心してしまう。


傷が治ったからか、険しい顔をしていた少女は安らかな顔して眠っており起きそうな気配はない。

あんなにも強く握り締めていた手もようやく離してくれたことだし、これからどうするかな……。

この人をここに置いていけばさっきのコンドルとか狼に食われて死にそうだし。

かといってこの人を連れて、尚且つコンドルに見つからずに町に行くには骨が折れそうだ。

楓は悩むがすぐに決意する。

えーい、乗りかかった船だ。この人を連れて町まで戻ろう。


でもコンドルに見つかったら置いていく!


怨まないでよと思いながら少女を揺すり起こすが全然起きない。

もしやこの人を抱えて町までいかなければならないの?


いやいや、か弱い私には人一人持てるかどうか……あ、持てた。


さっきは混乱していて気づかなかったけどステータスがあがった事により腕力も増しているみたいだ。

うん、持てる。これなら抱えていけそうだ。

楓は少女をお姫様抱っこで持ち来た道を戻る事にした。


道を戻ると馬車だった残骸とあちこちに血痕がついており、この場で起きた惨劇を物語る。



右良し! 左良し! よし! コンドルはいなさそうだ。


楓は足早に其の場を去ろうとした瞬間、後ろから鈍い音と共に何かが落ちた音がした。

楓が振り返ると人間の腕が落ちてきた。

楓が驚く間もなく上からコンドルが楓に迫ってくる、咄嗟に少女を草むらに放り投げた。

コンドルは楓を嘴で掴み、胃の中へ飲み込もうとするが、楓は反射的にナイフで口内の肉を突き刺し、胃の中に落ちないよう必死に抵抗する。

これに驚いたコンドルが暴れだした。

口内から楓を吐き出そうとするが、楓は刺したナイフをより深く肉に食い込ませ、耐える。

逆にコンドルが暴れる事によってナイフが振動し、コンドルの肉を切り裂いていく。

楓にコンドルの血が振りかかるが、楓は気にしにている余裕もない。

こんな所で死んでたまるか……!

ナイフを両手で持ち、嘴を切り落とすつもりで思い切り力を込め口内の半分を切断した。

痛みからコンドルは鳴き声を上げ嘴を振り楓を宙に放り投げた。


楓は地面に着地し自身に怪我がないか確かめる、怪我はなさそうだ。


あ、危なかった……飲み込まれてたら死んでた。


楓は冷や汗をかく。コンドルは暴れて今は楓を見ていないが、時期に正気を取り戻してこのまま逃げ出しても追いかけてくる気がする。


後ろから攻撃されるくらいなら今此処で始末するしかない。大丈夫、私なら出来る。

自分に言い聞かせコンドルがいる正面を見つめる。


コンドルが暴れているうちに魔法を唱える。


「ウィンドカッター!」


ウィンドカッターはコンドルの片翼を引き裂いていくが致命傷にはほど遠い。

コンドルは攻撃されて楓の存在を認知する。そして血まみれの口を大きく開けて楓に何かを吐き出した。

楓は素早く避けて吐き出した辺りを見るとジュッと音と共に草が溶けていた。


ひー! なんで酸なんか吐き出すんだよー!


挑むんじゃなかったと後悔しながらも、ポイズンを唱えてコンドルに接近する。

出来れば接近戦だけはしたくなかったがまた酸を出されたら大変。

ジャンプすれば届く範囲にいるコンドルの顔面に向けてウィンドカッターを唱えると、風はコンドルの目を抉り視界を見えなくしたが、何故か楓がいる方向に精確に酸を吐き出し攻撃してくる。


楓が避けると元の居た場所にじゅっと草が酸によって溶けだす。

避けてても埒が明かない、とにかく空を飛んでいたら倒せないから落とさないと!

周りの草が溶けていく中、楓は傷ついた翼に狙いを定めウィンドカッターを放つと片翼が千切れコンドルは落下しいていく。


チャンスとばかりに楓はドスンと落下したコンドルの腹を斬りつける。

地面に落ち暴れるコンドルを何度も斬りつけていると、さらに凶暴になり、近づけなくなり、近づく際に爪で引っかかれる。


―――――痛!


暴れているコンドルに爪で引っかかれた楓は腕からぽたぽたと流れる血を抑えながら、数歩さがりウィンドカッターを放つ。

ウィンドカッターによって風が刃となり、腹を裂き夥しい血を流しコンドルはよろめくが最後に楓に向かって酸を吐きだし地面に倒れ動かなくなった。


酸を間近で浴びた楓は慌てだす。


あ゛ー! 私死んだー!



……生きてる? 酸がかかったんだよ? 骨とか剥き出しになってない?


楓は恐る恐る酸がかかった部分を見てみると、服が溶けてはいるが肌は少し赤くなっているだけだった。


あれ本当に酸だったのかな……?


私の勘違いだったかも……でも服は溶けてるし……うーん


それよりコンドルだ!

楓は考える事を止め全く動かなくなったコンドルに近づきナイフを何度も刺してみるが動く気配はない。


これは勝ったの?

グリモを呼び出し聞いてみるとグリモはページを開き楓に見せる。


怪鳥ケルルトス:1/1 +気配感知 達成!


気配感知……なんだこれ?


まあいいや、とりあえずあのコンドルは死んでるのね。


勝ったんだ……


死体となったコンドルを見ても未だに実感がわかないが、とりあえず楓はすっかり無くなった魔力を回復させる為に一休みする事にした。


楓は自身にヒールを唱えると腕の傷は傷等無かったかのように治っていく。

おー治ってる。もし腕が取れちゃったりしても治せるのだろうか? 

楓は血の跡が残る腕を見ながら考える。


そういえばあの人何処にやったっけ? あ、いたいた。


楓が辺りを見渡すと少女は草むらに倒れていた。

外傷は無さそうだったのでしばらく放置しておく事にして問題はコンドルだ。

目立つかもしれないがギルドに持っていけば絶対お金になる。

どうせすぐに旅立つのだ、少し目立とうが怖くない。

一旦戻ってギルドの職員を呼んでもいいが、ここに置いていったら手柄が盗られそうなので私が町まで直接持って良く。


問題はどうやって持って行くかだ。


試しに押してみると結構簡単に押すことができた、これならロープとかで括って引きずればいいかな。


馬車の残骸から見えてるロープを拝借してコンドルにこれでもかと巻きつけていく。


ふぅ……このぐらいでいいか。


楓は持ち手が残るぐらいにロープを巻きつけ、ぐるぐる巻きにしたコンドルをひっぱりながら倒れている少女を再び抱えて楓は町を目指すのであった。


しかし我ながら凄い力だ、コンドルと少女でどのくらいの重さになるのだろうか?

以前の私なら少女すら持てなかっただろう。


ずるずると引きずる音をさせ、楓が町まで戻っていると少女が身動ぎ瞼を開けた。

楓と少女は至近距離で眼が合い、お互い沈黙するが、少女が引きずるコンドルを見つめながら口を開く。


「貴方が倒したの?」


少女は視線を楓に戻し問う。


「そうだよ」


「貴方とても強い」


「そんなことない、何度も死ぬかと思ったし」


「でも立ち向かって私を助けてくれた」


少女は抱えられながら目をきらきらさせて私を見つめてくる。

う~やめてくれその視線、見捨てて逃げようとした事を責められているみたいだ。


罪悪感からか楓は話題を変える。


「歩ける? 歩けるなら下ろすよ」


「歩ける」


楓はゆっくり少女を下ろす、楓と並ぶと少女の方が背が高い。


「これからどこへ行くの?」


「セルホト、ここからそう遠くないよ」


「うん、分かった」


よく考えてみればあの馬車にこの人の知り合いが乗っていた可能性もあるよね。

それなら自分一人生き残ったのは辛いかもしれない。


「貴方の名前聞いてもいい?」


「私の名前? 楓だよ」


「楓、分かった。私はアリシア」


ほーん、アリシアさんかー。そういえばこの世界で始めて自己紹介したかも!


「楓……私、ずっと貴方といたい」


「うん。……ん?」


今何かとんでもないこと言わなかったか?





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