26
「依頼ですか……」
急に真顔になったルイスに楓は背筋を伸ばす。
「そうさ、個人的依頼だ」
「お断りします」
「おいおい、話は最後まで聞くもんだぜ?」
楓が即答するとルイスは苦笑する。
「宿の事は感謝しますが聞いたら関わってしましますし他を当たってくれると嬉しいです」
「残念だがあんた以上に最適な人間がこの町にいないんでね、今Bランクの中でAランクに一番近いあんたに頼みたい」
やっぱりこの人私の事を知ってるんだ。
「私の事知ってるんですね……」
「知ってるも何もあんたは最近良く名を聞く人物の一人だぜ?」
なんの噂が流れてるんだ……?
「それにあんた『紅き獅子』に勧誘されただろ? 俺の知り合いもそこにいてあんたの話を耳にしてな」
『紅き獅子』ー? なんだそれ? 聞いた事ない……。あれ? 聞いた事があるかもしれない。何処でだっけ?
「つまりその人経由で私の話を聞いたんですね。それで私に依頼をですか?」
「そうだな。今日来たであろうあんたなら領主と関わりがないだろうしな」
あっこの流れは話を聞いちゃうながれだ。
「貴方が領主に何をしようとしてるのかは分かりませんが私は関与しませんよ?」
「それが人助けでもか?」
「はい」
楓は即答する。
「まあ、宿のお礼に俺の独り言に付き合ってくれないか?」
ルイスは皿の上に乗っている肉を食べ始めた。
「その独り言を聞いたらから殺すとかは無いですか?」
「殺しはしないさ。ただ、この事は黙っていてほしいがね」
「分かりました。話を聞きます」
本当に危害を加えないか分からないが、この町はなんだか問題がありそうだしこの話しだけ聞いたら明日にでもダモクレスに行こうかな。
「ここの領主は問題がある人物でね……。何も知らない旅人を自分の家に呼び込んで残虐な方法で殺したりする趣味があるのさ」
ふーん、野蛮な異世界ならよくある事なのかもしれない。しかし最初に聞いたお爺さんはそれを知っていて楓達を領主の家へ紹介したのだろう。悪質だ。
「何故領主の悪事を此処の住民は密告しないのですか?」
「此処の領主はな、王の側近と親しくしていて此処の領主の悪事を密告しても上は動かず逆に密告者が殺されてしまってね……それから皆怖がっているのさ」
ふーん、この国は腐っているんだね。宿が少ないのも領主が人を誘い込む為の罠ってとこかな?
「なるほど、宿がほとんど無いのはそういう理由なんですか?」
「それもあるが、大抵の奴は冒険者ギルドが経営している宿に泊まるんだがな。リスタテルクが魔物被害の影響で宿が無いってわけさ」
なるほどー冒険者は老若男女なれるらしいもんね。この町は特産も無さそうだし宿は冒険者ギルドで事足りたんだね。
「ではこの宿の会員制はどういう事ですか? 貴方もその会員なんですよね?」
「ここはダモクレスに用がある奴しか寄らないからな。利用するには特別なカードが必要なのさ。あんたもダモクレスに行けば簡単に手に入るだろな」
特別なカードってなんだ? 危ないカードなのだろうか?
「特別なカードって何ですか?」
「特権階級が持ってるブラックカードさ、あんたは金を持ってそうだし手に入れたければ俺が紹介してやろうか?」
「いえ、結構です。貴方も特権階級なんですか?」
「あははは、特権階級なんて張りぼてと同じさ。頭を使えば誰でもなれる」
ふーん、宿にいたお兄さんからしたら関わりたくない人物達だろうからあんな言い淀んでいたのか。
「ああ、此処にいる客とは関わらない方がいいぜ? ろくな奴がいないからな」
この人もろくでなしなのだろうか? 楓は頷き続きを促す。
「依頼内容の一つはその領主に人質として捕まっている貴族の息子を助けて欲しいんだ。ついでに今はリスタテルクから来た住民が騙されて捕まっているらしい。その人たちの救出も頼む」
本当なら確かに可哀相だがそんな事したら私が捕まるんじゃないの?
「それなら貴方一人でも出来るのじゃないのですか?」
「俺は別にやる事がある。それに領主は用心棒に元Aランク冒険者を雇っていてね。もう一つはあんたにはそいつの相手をして欲しいんだ」
Aランク冒険者ー! 確かベアトリスもAランク冒険者だが勝てるのだろうか?
「ルイスさんがやる事ってなんですか?」
「ここの領主は毒の扱いに長けていていて、王暗殺に使われた毒や貴族の謎の変死にこいつが関係してるみたいなんだがその証拠を手に入れたい」
ほへー王様暗殺されてたんだー。でも、その証拠誰に出すんだろう?
王様の側近が領主と仲が良いみたいだし、王様だって前王暗殺に関わってそうだし。
正直積んでるよね。まぁこの国から出るし、私にはまったく関係のない話だ。
右から左へと聞き流していたら、横に座っていたアリシアが勢いよく立ち上がった。
アリシアの顔を見上げると、強張った表情をしている。
「楓……私領主の家に行きたい」
えー! いきなりすぎるよ、アリシア。
「アリシア、ルイスさんの話を最後まで聞いてみようよ」
アリシアに座るように促すとアリシアはしぶしぶ座るが、表情は硬いままだ。
「あんたに頼みたい事は二つ、人質達の救出と領主の護衛としてついてる元Aランク冒険者の生死問わず倒してもらうことだ。後は全部俺がやる」
なんだかやる前提になってる気がする……。
「まだやるとは言ってませんよ。元Aランク冒険者はベアトリス並に強いのですか? それと領主の家に侵入しては捕まるのではないのですか?」
「ベアトリス? ああ『無限魔女』の事か。流石にベアトリスには適わないだろうが、相当な実力者なのは確かだ」
なんだベアトリスより弱いのか。行かないけど安心した。
「あと侵入の件だが……俺がお嬢さん達を捕まえられないよう何とかするから安心しな」
そう言ってウィンクを飛ばしてくるルイス。とても胡散臭い、安心できないなー。話は終わりかな?
「それでアリシアはどうして行きたいの?」
楓は隣に座っているアリシアに聞く。
「それは言えない。でも私は行きたい」
「私は行きたくないな」
「楓が行かなくても私は行く」
アリシアは決意を秘めた目で楓を見つめてくる。
正直こんな危険な事に足を突っ込みたくないが、ここで行かないって言ったら今日のうちにアリシアが領主の家へ行くだろう。
「報酬は何ですか?」
楓はアリシアを見るのをやめてルイスの方を向く。
「あんたは何が欲しい? 金か地位か女か?」
なんでそこに女が入るんだ?
「それは考えておきます」
「協力してくれるって事でいいのか?」
アリシアが乗り気なら協力するしかないだろう。デニスの時のように寝てたら領主の家に行ってましたとなったら洒落にならない。デニスの時にしっかり叱っておかなかったから、変な自主性が助長してしまったのだろうか? この先もっと取り返しのつかない事をされたら大変だから、ちゃんと話し合いしよう。
「協力はしますが……成功する見込みはあるのですか?」
「あるに決まってる。ただ、俺は情報屋なもんでね。荒事は苦手なんだ。だからあんたが用心棒を倒してくれれば安心して情報を掴む事ができる」
「分かりました。何時頃決行するのですか?」
「明日の夜だ、丁度領主の私兵がダモクレスに出かけて警備が薄くなはずだ」
そんな事よく知ってるね。
「分かりました。では明日の夜頃にまた会う形でいいですか?」
「ああ、それで構わない」
「では私達は部屋へ戻らせてもらいます」
楓は立ち上がり部屋から出ようとするとルイスに止められる。
「そうせっかちになりなさんな、せっかく料理人が作った料理だ。一口くらい食って行ったらどうだ?」
ルイスはナイフで魚を切り分けるとフォークで刺し口に運ぶ。
「何が入っているか分かりませんもの」
はっきりお前を信用してないぞと楓は言ってるようなものだが男は平然としていた。
「まあ一理あるな、睡眠薬を入れて眠ったところを奴隷商に売る奴もいるから懸命な判断だと言える」
ルイスは焦ることなくワインの入ったグラスに口をつけて飲む。
「だが俺達は一時的とはいえ協力関係を築くんだ。お互いを知るきっかけも必要じゃないのか」
立っている楓を見てルイスは笑う。
むむむ、なんだこの余裕っぷり……。
楓がどうしようかと悩んでいるとステラの腹の音が鳴る。
「楓お腹が空いた……もう駄目だにゃ……にゃーは高級飯に弱いのにゃ……」
楓はお腹をさするステラに寄り添い小声で言う。
「我慢してよ」
「高級魚がにゃーを呼んでいる……」
ステラはじっと魚料理を見ている。
駄目だ聞こえていない。ステラに食べさせて毒だったらアリシアに治してもらえばいいかな?
「どうするんだ? 猫のお嬢さんは食べたいみたいぜ?」
ルイスは余裕綽綽に言ってくる。
「分かりました。ステラに毒見させてから食べることにします」
楓は再び椅子に座りなおす。
「んにゃ!! 楓酷いのにゃ!!」
「もし毒だったらアリシアに治して貰うから、安心して食べて大丈夫だよ」
流石にアリシアのアンチドートで治らない毒は仕込まないだろう……。
「分かった。ステラが毒になったら私が治す」
楓に続いて出ようとしていたアリシアも再び椅子に座るとステラを見ながら言う。
「ちゃんと治してよ? 絶対にゃんだから」
アリシアを不安そうに見た後ステラは料理に手に取り口に運ぶ。
「にゃ~美味しいのにゃ!」
最初はおそるおそる口に運んでいたステラだったが段々食べるスピードが上がっていく。
もぐもぐと食べていくステラを見ながら楓は毒ではなかったのかと安心する。
時には慎重さを捨てるのも大事な事なのだろうか?
楓はルイスをちらりと見るとルイスはにこりと笑った。
その笑顔に少しばかり胸が高鳴った。
異世界に来てから周囲に女の子しかいなかったら、耐性が低くなったのだろうか……。
それとも空腹のせいか……。
今は恋愛なんかしている余裕もないんだ。 早く強くなって元の世界に帰りたい。
その為に魔物を倒して倒しまくるしかないのだ。
早くクエストを達成しないと……。
楓は照れている事を隠す為に魚料理を口に放り込む。
悔しいけど美味しい。
ルイスは満足げに楓を見ている。
なんか負けた気がする……。
楓はちらちらとルイスを見ながら料理を食していく。
「金髪のお嬢さんは食べないのかい?」
「私はいい」
アリシアは料理に一切手をつけずにルイスを真剣な表情で見ていた。
「アリシアも食べなよ」
楓は申し訳なさからアリシアに食べる事を進めるがアリシアは首を振る。
「私はお腹が空いてはいないからいらない。私の分も食べていい」
本当だろうか? アリシアはさっきからルイスをジッと見ている。はっ! まさか顔が良いイケメンさんだから一目ぼれしてしちゃったとかとか?! それで食事も喉が通らないのかもしれない!!
「うーん、私はおかわりはいいかな」
「なら私が貰うにゃ!!」
目を輝かせたステラがアリシアの手前にある皿をステラの手前に持って行く。
アイテムボックスに非常食があったはずだからアリシアがお腹空いたら後で渡そう。
楓は自分のアイテムボックスの中身を確認して非常食がある事に安堵した。
「お腹を空かしている時のご飯は三倍美味しいのにゃ~」
ステラが料理を頬張っているのを見ながら関わる以上ルイスに聞いておく事は無いか考える。
「そういえば救出するにに当たって貴族の息子さんはどの様な容姿をしているのですか?」
「歳は今年で14才、髪の色は茶髪の癖毛で顔は人並み以上、名前はラフェエル・バーナード。命に別状は無いはずだが厳重に監禁されているはずだ」
「ちなみに人質に取られた理由を聞いても?」
「関わらないって言ってなかったか? 冗談だよ、此処の領主フィランダー・コーンウェルとバーナード家は長い間小競り合いを続けててだな、そしてとうとうバーナード家のご子息を誘拐しちまったって訳さ」
「それは罪にならないのですか?」
「発覚すればなるな。だが国王が暗殺されて、この国に新たな国王が就任して以来、新国王は次々に改革を進めてる。今の王国は田舎貴族達に構っている暇なんてないんだよ。自分達で解決しろの一言で終わるだろうな」
「なるほど、ルイスさんはラフェエルさんを助けてなおかつ領主の悪事を調べなければならないのですね」
「まあ、早い話はそうだな、だがあんたが協力してくれれば俺は領主の事を調べるのに専念出来るってもんだ」
ルイスさんはおそらくバーナード家に雇われてるのだろうか? それとも領主の事を調べるのが本命か、どちらかと言えばルイスは領主の悪事を調べる事に重きを置いている気がする。
「はい、やるからには全力で当たらせてもらいますけど、もしすでにラフェエルさんがお亡くなりになられてた場合どうしますか?」
「その時は遺体を持って帰るだけさ」
「分かりました。ラフェエルさんが無事だといいですね」
「今は無事さ、”今は”な」
ルイスは何処かを見つめながら言う。
「ぷはぁ~お腹いっぱいにゃ……」
そうこうしているうちにアリシアの分も食べ終えたステラが腹を擦る。
「ルイスさんご馳走様でした。アリシア、ステラもう行こうか」
「お気に召したらなら良かったがな。今度は金髪のお嬢さんも飯を食べるといい。また明日」
「はい、また明日。それでは失礼致します」
楓が立ち上がり一礼をして扉の方へ向かうと二人も続いて立ち上がり楓に続く。
扉から廊下に出てると楓は鍵の部屋番号と宿の扉の上についた番号が同じ部屋を探す。
赤いカーペットが敷かれた廊下を歩いているとようやく同じ番号を見つける事が出来たので入ると中は豪華な内装が施されており天井には少し大きめなシャンデリアが部屋を明るくしていた。
これが高級宿……。この宿いくらくらいするのだろう?
楓は部屋に置かれている調度品の値段を考えながら歩いているとステラが値段を解説していく。
異常に詳しいステラに感心しながら、楓はお風呂に入りに行くと泡風呂だった。
楓は泡風呂を満喫して出てベットの上に座ってアリシアに声を掛ける。
「アリシアお腹空いてない? これ食べてね」
アリシアは警戒してくれて一口も料理に手をつけていないからきっとお腹が空いているはずだ。
楓はアイテムボックスから干し肉を取り出しアリシアに渡すが受け取らない。
「ありがとう、でも本当にお腹が空いていないの」
アリシアは首を振ると物思いに耽っていた。
「にゃ~風呂は最高なんだにゃ~次はアリシアの番だにゃ」
「分かった、入ってくる」
アリシアがお風呂に入り終えるのを待ってから三つ並んでいるふかふかのベットに入って三人は早めに眠る事にした。
ふかふかだなぁ……。これは早く眠れそう。
明日は長い一日になりそう。楓は目を閉じて眠る事にした。




