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朝がきた。
夜に時々狼らしき遠吠えを耳にしては縮こまっていた楓は無事朝を迎える事ができて感謝していた。
今は遠吠えも聞こえてこない! 鳥の光る目もない! コウモリが飛び回る姿も無い!
「生きてて良かった……! 神さまありがとう!」
だがこれからが本番だ私は町を見つけなくてはならない。
この草原の中で町をみつけるのは難しいだろうが川沿いに歩けばいずれ見つかるだろう、もし町がなくても水分補給が出来るし何かしらは発見できるだろうと楓は楽観視している。
草原は暖かい風が吹いている。川を探して草原を歩いていきながら当たりを警戒して進む。
時々集団で狼が歩いている事があるのだ。あんなのに見つかったら餌になるしかない。
楓が迅速にときにそろりそろりと進んでいると遠くに青い物体がぴょこんぴょこんと動いてる姿を見つける。
あれはスライムではないか、本当にいたのかと本をチェックしてみる。
スライム:0/1 体力+5
予想通り私が見た者以外クエストには出てこないみたいだ。
だけれどこの本は不親切だ、載ってる対象に何をすれば良いのか分からない、恐らくスライムを倒せばクエストは達成されるのだろうがこの先間違ってしまったら取り戻しがつかなくなる事態になるかもしれない。
楓は本に愚痴るよう言う。
「クエストをもうちょっとだけ分かりやすいものにならない?」
願いが通じたのかまた本が光だした。再び本の中身を見てみると
薬草:0/10 精神力+3 納品
スライム:0/1 体力+5 討伐
少しだけ変化があった、やればできるじゃないと本撫でて褒める。もしやこの本話が通じるのかも?
まあ、神さまからもらった本なのだから通じてもおかしくないのかもしれない。
話しが通じればこの先助かる事もあるかもと楓は駄目元で本に聞いてみる。
「元の世界に帰る方法しってる?」
本が光る。楓は本の返答を見てみると
???:0/1 +世界転移 討伐
「この??? 教えてくれない?」
本から反応は無い、どうやら話は通じるけど答えられる事と答えられない事があるみたいだ。
名前は分からないけど何かを倒して世界転移を手に入れれば帰れるっていう事なのか?
とにかく帰れる手段はあるんだなと安心するが問題は私がこの??? に勝てるかどうかだ。
きっと強敵に違いない、今の私が逆立ちしたって勝てないのだろう。
強敵との来るときの戦い為にクエストをこなして地道に強くなるしかなさそうだ。
まず遠くで動いているスライムだと楓はスライムを倒すために近づいていく。
スライムはゆったりと移動しているので楓がスライムに近づくのは容易だった。
楓は集中して魔法を唱える。
「ウィンドカッター」
風がスライムをズタズタに切り裂いていく。
スライムは裂かれてどんどん小さくなりやがて原型を取り留めていないまでとなる。スライムだった者は動かなくなった。
息絶えたと思われるが突然動き出すやもしれない、楓は油断なく辺りを見渡しあれは死んでいるのか本で確認してみる。
スライム:1/1 体力+5 達成!
どうやら死んでいるみたいだ。
だがこの討伐とは生きててもいいのか殺せばいいのか余裕が出できたら検証する必要があるな。生きてても良いなら死亡確認に使えないし死んだと思って油断したくないしね。
それにしても一撃で倒せた事に楓は一安心する、向かって来られたら私が死ぬかもしれないもの。
できれば一撃で仕留めたいものだ。
楓は自分のステータスの魔力を見ると魔力が21から15に減っている。
どうやらウィンドカッターを打てるのは3発までのようだ。
魔力が枯渇しても打てるのかは気になるけどそれは安全な場所に着いてからだ、そして魔力の回復速度はどれくらいなんだろうか?それによって運用方法が変わってくる。
まあ、いまのところ歩いている最中にも回復しているので連発しなければ大丈夫だろう。
楓は川を探しながら時々見かけたスライムを倒しながら進んでいくと人通りがありそうな広い道を発見したのであった。
楓はその道に近づいていき足跡やら車輪のような跡を見つけた。
考えるにこの道は今も使われているものでこの道を辿れば町に着くのではないかと考える。
「川を見つける必要なかったね」
本に話しかけながらその道を辿る事にするがふと考える。
もし道を歩いている途中で良い人に出会えれば良い物のひゃはっー! な悪い人に出会ったら私殺されるのでは? 楓はマイナス思考であった。
何時でも逃げられるようにそっと道が見えるか見えないかの距離に離れ道を辿ることにする。
悪い人に出会いませんように!と楓は祈るのであった。
道を辿りながら楓はいまさら町に行くのに不安でいっぱいになっていた。
なぜならこんな異世界チックな世界の科学が発展してるわけがないという偏見を持ち、野蛮で言葉が通じるのかすら分からないのだ。不安にならない訳がない。
とぼとぼとした足取りで歩いていると馬の走る音が聞こえてきた。楓はとっさに草むらに隠れる。
草むらから音がする方を覗き込むとちゃんと人間が乗っており馬車が駆け抜けて行く所だった。
楓は音が過ぎ去るとおずおずと草むらから出て行き、楓は第一村人の発見に感心していた。
本当に人間がいるんだ……!宇宙人のような人たちじゃなくてよかったよ。
そうこうしているうちにちらほらと人を見かけるようになる。これは町に近づいているのかな?
隠れていると返って不審者に見られそうなので、その頃には楓は堂々と道を歩き通りすがりの人の話を盗み聞く。幸い言っている言葉の意味が分かりあやふやだがどこが豊作でどこが凶作らしい等の話をしていた。
時折すれ違う人が私をチラッと見やりすぐに視線を戻す。
今にして気づくが楓は現代の服を着ており彼らと格好があからさまに違うのだ。
ううう……これは目立ってる。目立たぬよう町に着いたら着替えも買おう……
だけどお金を持っていないので冒険者ギルドが先だ、辛いけどもう少しだけの辛抱だ。
楓は縮こまりながら足を速めやがて城壁を目にすることとなる。
門には検問所があり兵士が町に入る人たちを順番に見て何か話しているようだ。楓は緊張しながら町に入る為に並んでる列に並ぶ。一人、二人、と徐々に町へ入って行き、遂に楓の番となる。
兵士は楓を紙に書いてある人物画と見比べながら質問してくる。
「見た事のない服装だな、よその国から来たのか?」
「は、はい、他国からきました。よろしくお願いします……」
楓はどもりながら答えつつ兵士は気にせず淡々と仕事をこなしていく。
「セルホトに来るのは始めてのようだが何か質問はあるか?」
「あのう……冒険者ギルドはありますでしょうか?」
「冒険者ギルド? それならこの先の大通りを左にまがればあるぞ」
「ありがとうございます!」
「ギルドは荒くれ者が多い、気をつけることだな、通っていいぞ。次!」
兵士に再度お礼を言い楓は冒険者ギルドに向かう。大通りは市場になっており至るところに店が立ち並び市場はごった返していた。
この町は栄えてるんだなあ、今度見て回りたいなと楓は思いながら大通りを後にする。
大通りを抜け少し歩いた所に冒険者ギルドらしき建物があった。
楓は唾を飲み込み扉の持ち手をもちギィィと木を軋ませながら扉は開いていく。
中には見るからに冒険者という風貌の者達がまばらにおり奥のカウンターには職員と思わしき女性がいる。
楓はカウンターに進み職員のお姉さんに話しかけた。
「冒険者登録はできますか」
「冒険者登録ですか? できますよ。では水晶に手を置いて下さい」
楓は水晶に手を置くと水晶は淡い光を放ち、光が消えるとお姉さんがカードを持ってきた。
カードには以下の情報が載っている。
名前:カエデ
レベル:1
ランク:E
へ~どうやって作られているのだろう? 名前まで載ってる。
「お名前は楓さまですね。報酬はカードに振り込みか現金どちらでもお選び頂けます。おろしたいときは受付にお申し付け下さい。それとカードを無くした場合再発行には手数料がかかりますのでお気をつけて下さい。」
「依頼はどのように受ければいいですか?」
「依頼は掲示板に定期的に張り出されます。依頼を受けたい時はカウンターまで依頼書を持ってきてください、そのたびに受理しますがランクにより受けられない依頼がある事があります。予めご了承ください」
「失敗した場合どうなりますか?」
「個客の依頼を失敗すると違約金が発生いたします。ギルドからの依頼はペナルティがありません」
「ありがとうございます。何か分からない事があったらそのときはお願いしますね」
「はい、ギルドが開いている時間ならば何時でも大丈夫ですよ」
職員のお姉さんに楓は感謝しつつ掲示板を覗きこむと字が読めなくても分かるように絵が書かかれており魔物の駆除や薬草の採取が主な依頼内容みたいだ。
でも良かった、私この世界の字が読めるみたいだ。
楓は張り出された依頼を見ていくとある一点で目に止まる
一角うさぎ
報酬:銅貨300枚
証明:角
角の生えたうさぎが書かれた依頼を見つけ楓は町に行く道中に見かけたのを思い出した。
町の周辺に居てなおかつ楓が倒せるかもしれない丁度良い相手に見えた。
それにこの依頼は他の依頼と比べてると報酬が低いので比較的簡単の部類なのではないかと推測する。
これに決めた!
楓はその依頼書を持ってお姉さんの元に行き依頼書を渡す。
「この依頼を受けたいのですが何か注意する事はありますか?」
「この依頼を受けますか? 一角うさぎは見ての通り鋭利な角があるので突進してくるさい角が刺さりお亡くなりになる方が居ますね。後は時々いらっしゃるのですが証明部位を忘れる方がいるので注意して下さいね。」
「分かりました。この依頼でお願いします。」
「はい、受理致しました。」
楓は依頼を済ますとギルドを後にした。がらの悪い人とかに絡まれなくて良かった……。
楓は来た道を辿り門を出てさっそく一角うさぎを探す事にする。
あとギルドのお姉さんが言ってたが依頼を受けた魔物以外にも報酬はでるらしい。
できれば綺麗な状態を保った死体が良いらしいが持てないので狩れたら証明部位を持ってお姉さんに渡そう。
草原を見渡し草むらを覗き込む作業をしてるとさっそく穴を掘っている一角うさぎを見つける事に成功する。
楓は逃げられないよう後ろに回りこみ迷わずウィンドカッターを唱えると一角うさぎはあっけなく死ぬが問題は証明部位である角を一角うさぎの体から分離することであった。
楓はナイフを持っていないので魔法を余分に打たなくてはならなくなった。
今度からはナイフも必要だね、楓は心のメモ帖に書き足すのであった。
あ、本に一角うさぎの事が書かれているか見てみないと……。
楓は本を取り出し一角うさぎのクエストがないか確認してみる。あった!
一角うさぎ:1/1 器用さ+5 達成!
一角うさぎ:0/5 器用さ+15 討伐
ふむふむ、器用になったら華麗にナイフで魔物を倒しちゃったりできるのかなぁ。
少し憧れるが接近戦なんて危険極まりない、楓は魔法でかたが付くならそれに越した事はないなと思考を止め一角うさぎを探す作業に戻る。
楓は歩きながら見つけた一角うさぎを手当たりしだい倒していくがどうやら一角うさぎは穴を掘りそこを住処にする習性があるみたいで草を食べていないときはほとんど穴のなかで暮らしているみたいで穴から中々出てこない、一度気づかれて穴の中に入っていってしまった。
それから楓は穴を見つけたらそのへんで拾った木の枝をつっこみ出てきたところを倒すという作業を繰り返す。
途中枝をつっこみ穴から4匹の一角うさぎがいっぺんに出てくるトラブルに見舞われたものの楓は3匹をウィンドカッターで仕留めた後にもう1匹が楓に突進してきたのを慌てて避けたところ幸運にも一角うさぎの角が木に刺さり動けない所を楓は持っていた一角うさぎの角で倒すという事態に陥ったが怪我はかすり傷程度で済んで幸いだった。
びっくりした~今回はなんとかなったけど油断したら大怪我じゃ済まないね。気をつけないと……
楓はかすり傷を見て始めてヒールを唱える。
「ヒール」
すると体全体を淡い光が包み込みかすり傷はあっという間に治っていく。
ヒールってどのくらいの怪我まで治るんだろう?
うー自分で試すのは怖いので誰か怪我を負っていないかなと不謹慎な事を思いながら楓は座り込みMPが全回復するまで休憩する。
あまり遅くなると帰れなくなりそうだから今日は帰るかな、今日の成果は一角うさぎの合計36匹、最初にしては中々の成果じゃないかと楓は自画自賛する。
魔力が回復し終わり門に着く頃には夕方になっていた。
門には最初に出会った兵士がいた。兵士は楓を見ると軽く手を上げ挨拶をする。
「おう、また会ったな」
「また会いましたね、無事冒険者ギルドに着きました。ありがとうございます」
楓は頭を下げ礼を言う。
「そいつは良かったな、見た所お前さん冒険者になったんだな、一人で良く頑張ったもんだ。だが見せびらかす物じゃねえぞ? これやるから持っていきな」
そう言って兵士は一角うさぎの角を両手で抱えている楓に麻袋を投げる。
「くれるんですか? あ、ありがとうございます!」
「良いって事よ、後が詰まってるからさっさと行きな」
楓はいそいそと角を麻袋に入れ、照れた様に追い払う仕草をしている兵士に再度お礼を言い小走りで冒険者ギルドに向かうのだった。
冒険者ギルドに着くとテーブルの大半は座られており昼にきたときよりもそれなりに栄えている様子だった。
楓は人を避けながら受付に向かう。
残念ながら昼に受付をしてくれたお姉さんの列が一番並んでおりしぶしぶ他の列に並ぶ。
やがて楓の番となると麻袋から角を取り出し、職員のお姉さんに話しかける。
「依頼の品を持って来ました」
「依頼書は一角うさぎですね。角は36本で銀貨10枚と銅貨800枚となります」
なるほど銅貨1000枚で銀貨1枚になるのか。なら金貨は銀貨1000枚で1枚かな?
「現金払いにしますか、それともカード振り込みにしますか?」
「現金で銀貨5枚と銅貨800枚で後は振込みでお願いします。それと近場で宿はありますか?」
「畏まりました。宿ならギルドの裏手にギルドが経営している宿がございます。冒険者の方なら誰でもご利用になられますよ」
お姉さんは銀貨5枚と銅貨8枚を取り出し楓に渡しながら紹介してくれる。ん?銅貨8枚?
「お値段はいくらぐらいでしょうか?」
楓は少し考えながらお姉さんに質問をするとお姉さんは質問に快く答えてくれた。
「一泊銅貨7枚~銀貨1枚ですね。夜になると混みますから行くなら早めに行った方がいいですよ」
「分かりました。早めに行きますね。それと銅貨が8枚しかないのですが……」
「確か銀貨5枚と銅貨800枚でしたよね?」
お姉さんは確認するように言うので間違えた訳じゃなさそうだ、だとすると私が間違えている事になる。
聞くは一時の恥だと思い楓は正直に話す事にする。
「あのう……どうして銅貨が8枚で銅貨800枚になるのでしょうか?」
お姉さんは一瞬きょとんとするが一人納得して楓に分かりやすい様に説明してくれた。
それぞれの硬貨には騎士、女王、王の3種類の絵が書かれており左から1、10、100の価値があり、例えば王の絵が書かれた銅貨が1枚あるとしたらそれは騎士の絵がかかれた銅貨100枚の価値があるということになる。
それと若干大きさや重さにも違いがあり間違えない様になっているらしい。
なるほど~硬貨は一種類じゃないんだね。教えてくれてありがとうお姉さん!
楓は礼を言い宿に向かう事にした。
宿はお姉さんが言ったとおりギルドのすぐ後ろにあり宿に入り楓は受付に行き部屋を取る。
銅貨500枚以下は相部屋となっており知らない人が隣り合わせなのはちょっと遠慮したいので部屋は銅貨500枚の小さめな個室を選んだがいずれは安全な場所で寝泊りしたいものだ。
部屋に入り荷物を置くと楓はベットに座り空間から本を取り出し自分のステータスを見てみる。
名前:楓
レベル:1
体力:32/32
魔力:21/21
攻撃力:13
防御力:11
器用さ:75
知力:37
素早さ:26
精神力:16
運:14
習得 ウィンドカッター/ヒール
むむむ、相変わらずレベル1のままだ。かなりの魔物を倒してると思うんだけどな……。
この世界は次のレベルまで上がるのにかなりの数の魔物を倒さなければ上がらないのでだろうか?
他の冒険者に聞くのは怖いので今度ギルドのお姉さんに聞いてみようかな?
そしてステータスの能力値!!
わ~器用さが凄いあがってるよ~余り実感が沸かないが器用になったかな? それにしても防御力が低い。
攻撃が当たれば紙装甲で即死するかもしれない。
どこかに防御力があがるような敵はいないだろうか?
明日は町を散策して必要な物買い揃えて時間があったら魔物を狩ろう。
楓は部屋に付いていた風呂から出た後ベットに入り横になるがふと思い出す。
あ、今なら魔力の限界を計れるチャンスなんじゃないかな。
楓はヒールを唱え続ける。魔力が少なくなるにつれて段々と頭痛がしてきた。
やがて魔力の限界を超えても唱えると詠唱は成功したが体に激痛が走る。楓はおっかなびっくりにステータスを見ると体力が減っていた。
これは滅多にやるものじゃないね……楓は未だに感じる痛みを我慢しながら眠りについた。