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クエストを達成して強くなる  作者: ミカタナ
13/36

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「楓は私が守って見せる!」


本当にどうなってんだ? とりあえずアリシアを下がらせよう。


「アリシア、私は大丈夫だよ。心配しないで」


ベアトリスを睨みつけるアリシアの肩を優しく掴み、後ろに下がらせた。

アリシアは不安そうな顔でこちらを見ている。


「楓は知らないと思うけど、ベアトリスはギフト持ちなの……」


アリシア焦るように腕を掴み、耳打ちする。


え! ギフト持ち!? あの人そんな凄い人だっだの!!


楓は驚きベアトリスを見ると彼女は勝ち誇っていた。

でもギフト持ちなのにEランク冒険者に決闘を申し込むなんて器が小さいな。

楓はベアトリスを内心毒づく。


「問題ないよ、アリシア大丈夫だから……」


とりあえずアリシアを安心させる為に楓の腕を掴む手に重ねる。


「楓……」


アリシアは困惑している。

そうだよね。ギフト持ちなんかと戦ったら私死ぬかも知れないから心配してくれてるんだね。


「今生の別れは済ませたかしら~?」


ベアトリスは馬鹿にしたように言う。


「決闘は今からなのですか?」


ベアトリスを無視して楓は冷静にギルドマスターに問う。


「いいや、明日から一週間の間に執り行われる」


「分かりました。ベアトリスさん明日の昼頃、決闘をしましょう。場所は貴方にお任せします」


楓はベアトリスを見据えながら言う。


「ふーん……死ぬ覚悟は出来たようね。いいわ、明日の昼アスカムの舞台で決闘をしましょう!! 

逃げるんじゃないわよ!!」


楓が思ったよりあっさり決闘を受けたのでつまらなそうにベアトリスは去っていった。


「楓!!」


嵐が去りアリシアが飛びついてきた。


「どうして受けたの? ギフト持ちと戦えば無事では済まない!」


「忘れちゃったの? 私もギフト持ちだってこと」


周りがざわつくが、今はアリシアを納得させる事が先決だ。

たぶんグリモはギフトだよね?


「楓は確かに強い……だけど不安になるの……」


「大丈夫だよ、アリシア。策は考えてあるから」


策なんてないが、楓は自信満々に言う。


「信じてる……」


アリシアは祈るように手を重ね楓を見つめる。


「あー邪魔して悪いんじゃがの……ここ冒険者ギルドなんじゃ」


ギルドマスターは決まりが悪そうだった。


「あ、すいません。それよりギルドマスター、決闘のメリットとデメリットを教えてください」


アリシアを引き剥がしながら、ついでとばかりにギルドマスターに話しかける。


「メリットとデメリットじゃと?」


「はい」


「そうじゃのメリットは勝った方が何でも言う事聞かせられる。デメリットは名誉を失い、死ぬ可能性がある事じゃの」


「分かりました。ありがとうございます。それでは決闘の準備をしなければなりません。これにて失礼致します」


楓はアリシアを連れてギルドを出る。



楓達がいなくなると冒険者ギルドは騒がしくなった。

冒険者がテーブルに身を乗り出し、賭けが行われる。楓とベアトリスどちらに賭けるかを。


ギルドマスターはその光景を呆れながらも、何も言わずに元の部屋に戻っていく。

やはりあの娘もギフト持ちだったか。だが相手はあのベアトリス『無限の魔女』の異名は伊達ではない。

さあて勝つのはどちらじゃろうな。

ベアトリスが勝てば楓は死ぬかもしれない。貴重なギフト持ちが殺されてしまうのは惜しいものじゃ……

出来れば楓に勝って欲しいと願いつつもギルドマスターは部屋に消えていった。











「すいません、ババークに行きたいのですけど空いてますか?」


「もう満員だよ! よそに行きな!」


「そうおっしゃらずに……」


楓はおじさんの手に銀貨を一枚ずつ置いていく。


「しかたねぇな。もっと詰めてくれ!!」


おじさんの手のひらに銀貨が十枚になった頃、おじさんは馬車の中の人を詰めて二人分の席を作ってくれた。


「お邪魔致します。あのこれをどうぞ」


楓は馬車に乗っていた人全員に焼きたてのパンを配る。

楓達の乱入に難しい顔をしていた人達の顔が若干緩む。



あの後、楓達は宿に戻り荷物を全て持ちだした。

女将さんにも何も言わずに鍵をテーブルに置いて立ち去ったのであった。


馬車でババークにはどれだけ掛かるか分からないので、パンと干し肉を麻袋に入るだけ買って、楓達は馬車置き場に向かった。水は魔法で出せるので必要な分だけあればいい。



え? 決闘? 受けないに決まってるじゃん。

てっきり重い罰にでもなるのかと思ったが、デメリットが名誉を失うぐらいなら大して痛くない。

楓の名誉なんて無いようなものだ。


アリシアは楓の選択に何も言わずについてきてくれる。

こんな形でダスクモルゲンを離れる事になってしまったが、後悔はしていない。

遅かれ早かれ出る予定だったからだ。

アリシアにはまだ言ってないが、いずれこの国からも出るつもりだ。


おじさんの掛け声と共に馬車は出発してダスクモルゲンからどんどん離れていく。


さようならダスクモルゲン。





ババークに着いたのは馬車に乗って三日経った頃であった。



馬車から荷物を降ろし、御者のおじさんに別れを告げ、楓とアリシアはババークに降り立つ。

ここがババークかー。

楓がババークの町並みを見回す。

いたるところで建築が進められており、作業員が忙しそうに動いている。

ババークは最近になって急激に発展した町らしく新築が立ち並んでいる。

なぜ栄えたのかはダンジョンが発見されたそうだ。

ダンジョンってRPGにでてくるようなあのダンジョン?


「ダンジョンって儲かるの?」


「ダンジョンのモンスターは魔石を落とす、それがお金になる」


魔石……聞いた事があるような、ないような?


「なるほど、ところで魔石ってなに?」


「お風呂に赤い石が付いてたでしょう? あれが魔石」


赤い石……ああ、付いてた気がする!


「うん、付いてた」


「あの魔石でお風呂を温かくしていた」


飾りだと思ってたよ。

今思い出してみると湯が冷める事がなかったけど、それは魔石が使われていたのか。

魔石って便利なんだね。


「ほほうー。つまりこの町はダンジョンマネーで発展している町なんだね」


「そうみたい、楓はダンジョンに行くの?」


アリシアは分かっていると言わんばかりに楓に聞く。


「一度行ってみたいよね。今度見学がてら行ってみよう。でもその前に宿を探さなきゃいけないね」


「うん、分かった」


二人は少し高めだが、雰囲気が良い宿を見つけて止まることにした。


宿の部屋に入ると楓はお風呂場に入る。

風呂には赤い石が嵌っており、風呂の中には湯気を立てているお湯がある。


おーこれが魔石!

そういえば魔法屋で魔石みたいな物が売ってた気がする!


楓がはしゃいでいるのをアリシアは優しく見守っている。

楓はお風呂場から出ると部屋から魔石を探す。


「これも魔石?」


楓は水瓶についている宝石を指差す。


「それは飾り、宿屋の部屋にはお風呂以外にはついてないと思う」


「いたるところに付いている訳じゃないんだね」


アリシアは頷き窓の外を見つめるので、楓もアリシアが見ているものをアリシアの横に立ち見てみる。

ダンジョン帰りなのだろうか?

それは冒険者達が様々な大きさの魔石を台車で引いてる姿だ、冒険者達は皆笑顔だった。


「楽しそうだね」


「うん……」


楓は目線を冒険者からアリシアに戻し、提案する。


「そうだ! 夜まで時間があるし町を回ってみない?」


「分かった」


こうして二人は町へ繰り出した。


二人はソーセージが練り込まれたパンを食べながら市場をみて回る。

市場の一角にて競売所があり、商人や冒険者で活気だっている。

この競売は冒険者がギルドではなく、商人から買い手を見つけるために催されているらしい。

ギルドを経由しない事で商人はより安く買えて、冒険者はより高く売る事ができ双方の利益になっているらしかった。


楓は興味津々に競売に賭けられるであろう商品を見ていく。

此処に並んでいる商品は楓が見たことが無い物が多く楓には新鮮だった。

特に落札済みのアイテムボックスとやらには興味が注がれた。アイテムボックスとは一定数の物を大きさ、重さ関係なく入れられる魔道具らしい。

アイテムボックスはダンジョンの宝箱から出るらしいので狙いたいところだ。


だがもし売りに出されるなら即買うべきだろう。



「ダンジョン産の魔石だよ!! 銀貨20枚からだ!! 即決は銀貨100枚だよ!」


「21!」


近くにいた商人らしき男が大声で金額を言う。

二人は駆け引きを傍観する事にした。

商人達が次々値段を上げていきあの魔石は銀貨51枚で落とされたみたいだ。


……ん? 楓が競りを見ていると、ごそごそと服を弄られる感覚に気が付く。


なんだなんだと見てみたら10歳くらいの少年が楓の服を弄ってるではないか!!

とうとう物取りに遭遇してしまった……!


楓は嘆きながら、現在進行形で金目の物を探しているであろう少年を見る。

兵士の詰め所にしょっぴくか? でも見た目10歳くらいだぞ。

いや。若いうちに反省した方が……うーん

とりあえず楓のポケットに手を入れてる少年の手を叩き落とす。

少年は驚きながら手を押さえ人ごみに消えていってしまった。

逃げちゃった。あれはまた繰り返していつか痛い目を見ることになりそうだ。


アリシアは大丈夫だったかな?


「アリシアお財布持ってる?」


「……? 持ってる」


アリシアは胸元から財布を取り出す。

良かった、大丈夫そうだ。


「めぼしい物は見つからなかったし、別の場所見に行こう」


「うん」


次々と商品が競り落とされていくのを尻目に、二人は其の場を去る。



二人は市場を抜けた先にある冒険者ギルドを見つけた。

冒険者ギルドは使われている材質が違えど、構造が統一されてるらしく見つけるのは容易かった。

せっかくなので入ってみる事にする。

ギルドに入ると全体的に人が少なかった。

テーブルで酒をあおる冒険者が一人に、ギルドの職員と思われる人が数人。

受付のお姉さんは一人しかおらず完全に過疎っている。

依頼書は何十枚も重ねて張り出され、どれも期限が延長されている。

楓は受け付けのお姉さんに話しかける。


「こんにちは、此処はいつもこんな感じなのですか?」


「此処は初めてですか? ババーク支部へようこそ。皆様今はダンジョンに行かれますからね」


お姉さんは疲れた笑みを浮かべながら過疎っている理由を教えてくれた。

ダンジョンの前にもババークダンジョン支部と言う冒険者ギルドが新しく出来ているそうだ。

ババークダンジョン支部はダンジョンの依頼を受け持ち、ダンジョン以外の依頼をババーク支部が受け持つ事になっているのだが、皆ダンジョンに行くので滅多に此処には人が来ないらしい。


なので現在は個人の依頼は受けておらず、ギルドの依頼のみが張り出されている。


別の支部から来る依頼や、教会、商会からの依頼は積もるばかりで困っている状態なんだとか。

人助けだと思ってお願いしますとお姉さんは懇願してくる。


冒険者達がダンジョンの方ばかり行くとなると、純粋に此方の支部にうまみがないのだろう。

それを解決しない限りこのギルドはこのままだと思うけど……それはお姉さん達の仕事だ。

依頼はクエストを達成するついでに受けるとしますか。


楓は近辺にいる魔物の依頼書を数枚持ってきて受ける事にした。

お姉さんは喜んで受理してくれた。

まだ、夜まで時間があるし町の周辺を一周してみようかな。


「まだ時間があるし、さっそく外を回ってみようか」


「分かった」


お姉さんに見送られ二人は冒険者ギルドを出る。


ババークの周辺は草原になっており生温い風が吹いている。

草花が風に飛ばされて遠くへ舞っていく中、生い茂る草を踏みしめ二人は立っていた。

楓の気配感知に魔物が引っかかる。


「見つけ次第倒していくでいい?」


「了解」


ババーク周辺の魔物はセルホトの魔物と同じくらいの強さで楓はあっさり倒していく。

そういえばあれからアリシアのレベルも上がったのかな?

アリシアは襲い掛かる狼をナイフで受け流し仕留める、楓は丁寧に狼から耳を剥ぎ取るアリシアを見つめていた。


このぐらいの強さならアリシアでも接近戦ができるみたいだ。

レベルが上がればこの世界の人達はより強くなる。

アリシアもより強くなるのだろう。

私も負けてはいられないね!

楓は迫り来る狼を剣で斬りつける。

二人がババーク周辺を一週してきた頃には、麻袋の中身は証明部位と一角うさぎの死体でいっぱいになっていた。


依頼は一週しただけで全て終了した。

これは狩るものが少ない故に、魔物が繁殖した事が主に関係してくるのだろう。

二人がギルドに戻ってくるとお姉さんが少年と話合っていた。


「お願いだよ!! これで母ちゃんを助けて!!」


少年は小銭をカウンターにばら撒きお姉さんに頼んでいる。


「この依頼額では受ける方はいらっしゃいません」


困ったようにお姉さんは少年に返す。


「どうしてなの!! 困っている人を助けるのがギルドなんでしょ!!」


少年はお姉さんの態度に憤慨する。


「この依頼内容ならば教会に頼ったほうが宜しいですよ」


「教会が駄目だったから此処にきてるんだよぉ!」


なおも少年とお姉さんの口論は続いてる。

一度出直してきた方がいいだろうか?


楓達が出直そうと扉に近づいていった時、野太い怒鳴り声が聞こえる。


「うるせー!! てめぇ人が飲んでいる時にぎゃーぎゃー騒ぎやがって!!」


ついさっき来たときにギルドで酒を飲んでいた酔っ払いの冒険者だ。

酔っ払いは少年の方へずんずん進んでいき、いきなり少年を殴った。

殴られた少年は後方に飛んで机にぶつかり動かなくなる。


これは大変だ。

楓は少年の下へ向かう。

酔っ払いは倒れている少年を方へ歩いて行き、少年を蹴り上げようとするが楓が少年の前に立つ。


「なんだぁ? 俺はうるせーガキを教育してやってんだぞ!! おら! どけ!」


酔っ払いは楓を退けようとするが、楓はびくともしない。


「楓に触らないで!!」


アリシアが激昂してナイフを取り出す。

いやいやアリシアあかんでしょ。


「この子の事はほっといてください」


楓は男の腕を掴み、徐々に力を強くしていくと男の顔が段々青ざめていく。


「ちっ分かったよ。ほっとけばいいんだろ! ほっとけば! いいから離せよ!」


楓が手を離すと、酔っ払いはすごすご冒険者ギルドを立ち去っていく。


「だ、大丈夫でしたか?」


受付のお姉さんはカウンターから顔を出す。


「大丈夫じゃないです。この少年を手当てしないと……」


楓は少年にヒールを唱えて少年の様子を見ると僅かに身じろぐ。

生きているみたいだ、良かった。


「弟に何するんだ馬鹿力女!!」


振り返るとギルドの扉からさっきスリをしてきた少年が立っていた。



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