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鳥が鳴き木々がゆれ風がそよぐ音が聞こえてくる。
辺りには鬱蒼とした森で妖精が飛び回り楓をもの珍しそうに見ている。
ありえない光景を目にして楓は呆然と雲一つない青空を眺めていた。
事の発端は神を名乗る老人と出会った事だった。
神さまが言うには私は死んだらしい、らしいと言うのは私に実感がないからだ。
そんな私に神さまは生きたいかと問うてきた。
私は勿論生きたいと言ったら、神さまが本をくれたのだった。
その本は題名の無い事以外見た目はどこにでもある本だ。
だがその本を手に持つと、本が宙に浮かびぱらぱらと白紙のページが独りでにめくられていきどんどんめくる速度が速くなっていく。
その間にも神さまが飄々としながら言う。
「この本があれば何にもなれるこちらの世界に戻って暮らしても良い又は第二の人生を歩んでも良いかも知れぬな」
言い切ると同時に本がめくり終えバタンと本を閉じる音と共に眩い光に包まれ私は意識を失った。
楓はふさふさとした感触の草の上で目覚める。
変な夢を見たと思ったらまだ覚めていないのだろうか?
辺りは生い茂る木々と湖おまけに変な物体が飛び回っている。
あれは妖精? だけど現実にそんなものはいないはず。
楓は両手で顔を軽く叩くが何一つ変わる事も無く段々あの夢は現実の事で
今目の前の光景も現実なのではないかと思えてきたが。
現実ならばここからどう出るのか、出たとしても人は存在するのか分からずじまいだ。
「空が青い……」
なかば現実逃避し雲一つ無い空を楓は体育座りをしながら空を眺めるのであった。
数刻たった頃合に楓は突如現実に戻される事となる。
「いたっ!」
現実逃避をしていた楓を現実に戻したのは痛みだった。
何が起こったのか辺りを見渡すと妖精達が笑いながら落ち葉や果実を楓の上に落としているのである。
ぼこん! とした音と共に又しても楓の頭の上に果実が落とされる。
「やめてってば!」
楓が立ち上がり妖精達を手で払うと妖精は驚いて散り散りになり
木の陰から顔を出し妖精達はこちらの様子を伺っている。
そんな妖精を尻目に楓はこうしてはいられないと。
何か役に立つ物が無いか自分を探ってみるが何も無い……。
そうだ! 私には神さまから貰った本があったじゃない!
慌てて本を探すも何処にも無いが何故か私の傍に本があるのがなんとなく分かる。
そして楓はあたかもそこに本がある様に想像すると本は宙に浮かび出現したのであった。
本は私が必要としてるとき現われ必要としていない時は消えると何故だか確信していた。
やった! これで窮地を脱出できる何かが書いてあると喜びページをめくるが書かれている事と言えば
薬草:0/1 精神力+1
リンゴ:0/1 魔力+1
フェアリー:0/1 知力+30 素早さ+10
なぁにこれ?
ページをめくれど他の事は書かれておらずすべて白紙だった。
まあ……書かれてる対象に何らかの行動をすればステータスの様なものが上がるのだと思うので
試しに妖精が落とした果実を本に押し付けてみると謎の光に包まれて果実は消えていった。
本の中身に変化があるか見てみると
リンゴ:0/5 魔力+1
リンゴ:1/1 魔力+1 達成!
変化があった。どうやら達成されたら新たに書き込まれるみたいだ。
なんだかゲームでやったことがあるクエストみたい。
そしてあの果実リンゴだったのか……
形状がリンゴではなく地球上で見た事がなかったので気づかなかった。
やはり私は異世界に来てしまったのかもしれない。
試しに果実を齧ってみると味はリンゴだった。
今度からあの果実はリンゴと呼ぼう。
魔力+1は増えてる実感はわかないけれど本当に上がってるかは後に確かめたいと思う。
次は本に載っている薬草とやらを探したいと思うがどれが薬草なのか分からないので、
ここら辺の草を全部引っこ抜こう何かしらの当たりを引けるだろうと抜こうとしたら
本がぱらぱらとページをめくりまるで見せるかのように薬草の絵が書かれたページで止まる。
さっきまで書かれてなかったよと愚痴るがこれなら無駄に手を痛めないで済みそうなので
本に礼を言いつつ薬草を採取して本に渡してみると薬草は消えていく。
薬草:0/5 精神力+1
薬草:1/1 精神力+1 達成!
ふむふむ此処に載っているクエストの物なら絵で詳細を書いてくれるのか。
試しにフェアリーを見たいと思ったらまたページがめくれそこには
まるで写真のような妖精の絵がでてくる。
絵に書かれているフェアリーはここら辺を飛び回っている妖精の事だった。
フェアリーもいるのだからゴブリンもいるだろうと想像してみるが何も変化が起こらない。
ゴブリンがいないならスライムだと思っても結果は変わらず
もしかしたらクエストに載っている絵しか出ないのかもしれない。
またはそんなモンスターがいない可能性も考えておこう。
今度は妖精で試してみようと近づくもさっき振り払ったせいか
こちらに近づいては来ず私を見て囁き合っている。
楓が近づけば離れ、楓が離れればある程度近づいて来るのだ。
これでは捕まえられない。んーどうしようかな……
そういえば本の中に消えたリンゴと薬草は何処にいったのだろう?
試しに出せるか本に尋ねてみたものの反応無し。
これでは妖精を入れた後出す事は適わなそうだ。
そう考えてるうちに一匹の妖精がふよふよと近づいてきたのでチャンスとばかりに軽く
本を当ててみたが当たるだけで消えずに妖精は驚き何処かに逃げて行ってしまった。
本の中身を見てもフェアリーの欄は変わらぬまま。
もし予想が当たるなら妖精を殺さなければいけないのでは……
物を落とされたりしたけれど平和な世界で殺傷とは無縁で生きてきた楓には
とてもじゃないが妖精を殺すのに戸惑いがある。
だが訳の分からない世界を生きるにはあの本だけが頼りだ。
やるしかない……
恨みはないが本に書かれた事が本当ならステータスが上がり私は強くなるはずだ。
ふとこの本で私のステータスが見れるのではないか考える。
試しにステータスを見たいと思っても反応せず。今度は声に出して言ってみる。
「ステータス!」
すると本の目次部分に私のステータスが出てきたのだった。
楓
レベル 1
体力:17/17
魔力:21/21
攻撃力:13
防御力:11
器用さ:15
知力:7
素早さ:16
精神力:15
運:14
私の知力ひくすぎ!
自分の知力の低さに落ち込みつつ薬草を5つ集めて本に納品する。
すると精神力が1あがり16になった。
やはり本に書いてある対象に何らか行動をすると達成となりステータスが上がるようだ。
考えてみるとこのステータス値に対してやはり妖精は破格だ。むしろ罠なんじゃないかと思えてくる。
だがここでじっとはしていれない殺すにせよ殺さないにしても行動に移さねば夜になってしまう
今は太陽の位置からしてお昼頃だが夜になったら野生の狼が徘徊するかもしれない。
考えるより行動だ! 楓は当たり周辺を見渡し大きな石を探しあて少しふらつきながらも持ち上げ妖精にゆっくり近づいていく。
ええい! 許せ妖精これも私の未来の為だと勢い良く振り下ろすが妖精は素早く動き難なく避けてしまった。
妖精は面白そうな顔で楓の頭上をくるくると円を描くように旋回しだす。
これ幸いだともう一度振りかざすが当たりやしない。
妖精が近づいてくる。振り回す。避けられる。
数十分そんなやり取りを続け段々と疲れてきた楓は草むらに石を投げ捨てその場で座り込む。
その時投げた石の方角からドカッと石が何かに当たるような音がした。
楓は恐る恐る草むらを覗き込むと妖精が倒れていた。
まさかさっき投げた石が当たってしまうとは、これは死んでるのかと指で突っついてみる、反応なし。とうとう殺してしまった……。
成仏して下さいと手を当ててると先ほどから頭上を旋回していた妖精が倒れた妖精に近づき私と妖精を見比べ瞼をぱちぱちした後小さな叫び声を上げてどこのかに飛び去っていく。
これはまずい予感がする。
今の私は殺妖精容疑者だ、此処から離れたほうが良さそうだ。
楓は本と死んだ妖精を掴みこの場を逃げるように去った。
鬱蒼とした森を歩き続けるが中々森から出る事ができない。
途中追っ手や狼がいないか確認してから腰を下ろす。森は葉の揺れる音や鳥の囀りしかしない、そういえば本に妖精を吸収させてなかった。
本に妖精をつけてみるが反応なし。
もしや無駄な殺生をしてしまったのかと慌てて本のクエストを見てみると
フェアリー:1/1 知力+30 素早さ+10 達成!
フェアリー:0/5 知力+50 素早さ+20
習得 ウィンドカッター/ヒール
クエストは達成されていた。
何か習得もしている。
名前を見るにこれは魔法だろうか、もしかして妖精はこの魔法を使えたのではないかと考える。
そして習得と同時に本の中身が追加されていた。
ウィンドカッター:0/100 風属性威力+1
ヒール:0/100 光属性威力+1
これは魔法の熟練度のようなものだろうか? なら魔法を使ってみようと思ったけど使い方が分からない。
試しにウィンドカッターと唱えてみるが自分の声が響くだけだった。
今度は集中して具体的なイメージをする。
近くの草むらを切るようなイメージをだ。楓は草むらに唱えた。
「ウィンドカッター!」
すると近くの草むらを風が切る。
すごい、これが魔法……
楓はとても感動すると共にもし妖精が魔法を使っていたら自分はただでは済まなかっただろう事実に怖気づいた。そして楓は未だに妖精の死体を持ってる。
この殺した妖精だけは供養しなければならないと楓はなかば使命感のようなものを抱きその場にあった木の枝で穴を堀り妖精の死体を埋めることにする。
慣れない作業に手間取ったが楓は穴を掘り終え妖精を優しく穴に入れ土で覆い簡易的なお墓を作っだった。
「ありがとう」
お礼を言い手を合わせその場から立ち去ろうとしたとき突如にゅるにゅると茎が伸びその蕾から妖精がでてきたのである。
その光景を目にした楓はひえっ! 成仏してて下さい!! と情けなく叫んで逃げ出すのであった。
ゾンビ妖精に捕まったら一貫の終わりだと思った楓は森を走り抜けて行く。
やがて森を抜けた頃には夕方になっていた。
森を抜けた先は草原となっており楓はようやく森を抜けたという安堵からその場で座りこみ休憩する。
休憩をしてると魔力が回復しているのが感覚的に分かる。
森は出れた、さてこれからどうするかだ。
もう妖精を殺してしまった以上情け容赦なく私が生き抜き帰る為にモンスターを大虐殺してやる! という思惑を掲げそれを遂行できる場所は冒険者ギルドだろうな。
でもあるかな? 冒険者ギルド……あるか分からないがとにかく目指す先は冒険者ギルドだ。
そうと決まれば朝になったら町を目指そう川沿いを歩いていけばいずれ町につくはずだ。
「よし! がんばるぞ !! おー!」
楓は決意を抱き木に隠れ夜に怯えて過ごすのであった。