リスタート オブ ヴァンパイア
『クッ!ガハッ』
完璧に決まった九十九のアッパーは少女を綺麗に吹き飛ばした。
『今からでもやり直せるぜ、自分のために生きてみろよ、意外と清々しいぞ』
なんとか勝ったという感じだったが勝ったのだからそんなことどうでも良い。
その後すぐにアイラがどうなってるかが気になり、アイラが戦闘していたところに急いで向かう。だが向かう途中、任せたはずの一人が血だらけ倒れていた。
『おい、これ死んでないよな』
傷口が煙を出しながら徐々に修復しているところを見ると吸血鬼としての力がちゃんと発動しているようだった。おそらく死んでいないということなのだろう。だがそれが余計に九十九の不安を煽った。もう一人は本当に殺してしまったのではないか、自分と同じ道を歩んでしまっているのではないかと
『アイラッ‼︎』
背中に声をかける、が何事もなかったように振り返った。
『あ、ツクモ、おそい』
ツクモの目の前には案の定、アイラと血だらけの少女がいた。見るからにやりすぎだった。それでもアイラは何がおかしいのという顔で九十九を見つめている。
『おま、それやり過ぎじゃねぇか!?』
無表情でいるアイラに対し少し大声気味になってしまう九十九の言葉。
『吸血鬼ならこのくらいじゃ死なない、むしろこんぐらいでやっと動きを止められるぐらい』
確かに九十九よりもアイラの方が吸血鬼に関しては詳しい、少し焦りすぎたと九十九は少しだけ反省した。切り替えてホッとした顔を作りアイラに声をかける。
『ま、二人とも無事で終われたんだからよしとするか』
九十九のその言葉に対しアイラは九十九の腹をビシッと指差し真顔で言った。
『お腹、めちゃくちゃ無事じゃない』
『…あ、』
忘れったぜぇぇぇ
九十九の腹は刺し傷四つと切り傷一線の跡がありそこからはドクドクと血が出ている。
『ま、まぁ大丈夫だ、問題ない。』
どこかで聞いたことのあるようなセリフをいうが本当は結構まずいかもしれなかった。というかここまで来るのに気づけていなかったこと自体がすごいことだった。
『で、こいつらどうすんだよ、回収ってわけにもいかないし、放置ってわけにもいかないだろ』
『……』
しばらくの沈黙、からの
『どうしよう』
『どうしようかなぁ!?』
何も考えていないのかよと声を荒らげる九十九、それと同時に出血もひどくなりクラっときて倒れそうになるもののなんとか踏ん張り切る。
『そこらへんは問題いらないよ、そこの吸血鬼は僕が片付けておくからさ』
後ろからの声、振り向くとそこには十代後半に見えるほぼ九十九と同じような歳の男が立っていた。
その姿を見て怯えるアイラ、さらにそれを見た九十九はアイラをかばうように警戒態勢に入り構えをとる。
『いきなりで悪りぃけど、お前誰だ?』
『そこに転がっている犬どもの飼い主様だよ。いやぁしつけができていなくてすまないね』
ハハハと笑う男に九十九は睨みを効かせた、自分のために生きようとした少女たちに犬と言い放ったその男にとても深いの念を感じたのだろう。
『で、その吸血鬼の親玉さんはどうゆうおつもりで?』
『別に、僕は吸血鬼なんかじゃないさ。ただの人間、と言ったら嘘になるかもだけどね。』
ニヤつかせながら言うそのセリフに危険性を感じる。少なからずまともではない、それを察した九十九は余計に拳を強く握る。だが
バチンッ
後方から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
『そう何度もさされてたまるか』
九十九は回し蹴りをし、その音の正体を吹き飛ばした。そして後ろにいた者それはスプラッター少女だった。
『クソッ‼︎、本当に目障りに』
飛んできたのは前食らってしまったスペツナズナイフの刃、九十九は二度も同じでは食うかというようにドヤ顔をかまして見せた。だがそんなことより、九十九のアッパーをくらいながらも直ぐに回復してしまっているのは九十九も予想外だった、そのタフネスさは賞賛に値するだろう。元神殺しの本気ではないといえ、約十分の一の力で殴られたのにもかかわらず、立ち上がりそして向かって行ったのだから。だがその少女を見た男は
『なんて様をしているだ?それでも本当に吸血鬼か?人間一人に勝てない木偶の坊は僕はいらないんだけど』
無慈悲な言葉を浴びせた。九十九にとってはそれが無性に腹ただしかった。マスターと呼ばれる男のために人生を捨てようとさえしたのにそれに対する答えがこれだ。赤の他人とはいえ人間として16年生きてきた九十九は情というものが深くなり、今にとってはその言葉が怒り誘うソースでしかない。
『だから、死んでいいよ。お疲れ』
バンッ
その音と同時にスプラッター少女は体を浮かし地に背をついた。大量の血を流しながら。少女は撃たれていたのだ、いつ取り出したかわからない男が持つ銀の拳銃で。
『十字架の銃弾!?』
アイラの言葉は驚き交じりに恐怖交じりだった。九十九は何が起きたか理解が遅れたが撃たれたということだけは直ぐに理解した。だが何故吸血鬼が銃弾を食らったくらいでこんな一大事になっているのかは分からないままだった。
『うッ!ガァァ‼︎なん、で、あァァァ‼︎、痛いッ、痛いよぉ‼︎』
痛みに耐え難られず床を転げまわる少女、尋常ではないその反応に吸血鬼の力が発動していないのかとやっと気づく。
『お、お前ッ‼︎何したんだよ‼︎』
一度男を睨み、直ぐに少女に近寄り現状を確かめる。服を破き撃たれたところを確認すると、焼けていた、銃弾の傷跡が同時に焼け跡にもなっていたのだ。更に吸血鬼の力の回復能力もなく、みるみるうちに肉が焼けていく。
『あ、アイラ、手ぇ貸してくれ、コレ取んなきゃやばそうだぞ!?』
そう言うが一向にアイラは手を差し伸べてくれない、こんな状況でまだ敵対心を燃やしているのかと九十九は憤慨するが、アイラは怯えた表情で九十九に返した。
『それは十字架の弾丸、十字架からできた弾なの、私達吸血鬼は十字架には触れない』
なッ!?と声を漏らす、彼女らは吸血鬼だ、ならば
『十字架とニンニクが苦手ってことかよ』
小さくも頷くアイラ、ここまでおとぎ話どうりかよと愚痴を漏らす九十九、ならなんとかして自分が取らなければ、その時にはもう敵という概念が捨て去られていた。ただ目の前にいるものを助けなければ、一人の人間として、見捨てておけない。九十九は少女に一言謝りナイフを一本拝借して傷口に突き立てた。
『ガァッ‼︎』
吸血鬼の力が発動していない今、普通に人間がナイフで刺されているのと同じだ。ならば早めに銃弾を取り除かねばならない。九十九は昔自分が戦っていた時に身につけていた医療スキルを最大限に発揮する。今までは自分にしか使ってこなかったため、少しやりづらいがそこは愚痴愚痴言ってられない。
『ウッ!あぁぁッ‼︎』
『もうちょい我慢してくれ、もうちょい、ッし取れたぁ‼︎』
なんとかといった感じに銃弾を取り出したがそれだけではまだダメだと、来ていたシャツを破き傷口に巻いて応急処置を施した。
『ほぉ〜、なんで君が助けるんだ?命を持っていかれそうになった上に、友達のアイラも傷つけられたっていうのに。』
そう言いながらケタケタ笑う男、それに対し九十九の怒り度は最大限に引き伸ばされていた。昔の九十九なら確かにそうはしなかっただろう。だが今はそんな人生を踏み間違えたクズ野郎ではない、誰かのために全力を出せる人間。
『確かに俺がコイツを助ける義理はねぇよ、でもな、でも違うだろ‼︎敵だったとしても殺されそうになったとしても見殺しにしていいことにはなんないだろ‼︎死んでいい命なんてあるはずねぇだろ!?』
今まで感じたことのない、助けたいという気持ち。神殺し時代にはほんの少しもなかったその気持ちが九十九を突き動かした。あの頑張りすぎな少女に対して敵という感情はあったが嫌いという感情はなかった。
『ツクモ、とりあえず落ち着け』
アイラが九十九をなだめようと手をバタバタさせる。だがそれで治るようではない。これほどまでに人を助けようと思ったことが九十九にはなかったのだ。その行き場のない感情が増幅し、ついに爆発した。
『償いすりゃいいんだろ駄女神‼︎今決めたぜ、俺は人助けという道で今までの罪、完全無欠に償ってやろうじゃねぇか‼︎』
睨みを利かし、一歩一歩前に進んでいった。
『何言ってるかわかんないけど、単細胞の馬鹿っていうことだけわかったよ。』
ハハハと笑いながら男は拳銃を九十九に向けた。だが九十九は止まらない一歩ずつ引けを取らずに進んで行く。
『僕は普通の人間じゃない、さっきも言っただろ?吸血鬼の長たるもの、少しはその細胞を取り込んでみたんだ。だから、君じゃ僕を殺せない。』
九十九は男の言葉をまるで聞こえないと言わんばかりにその足を止めない。さすがにその対応をされた男も少しイラッと来たのか引き金に指を掛け、九十九に向かって撃ち出した。
『死ねッ、死ねッ、死ねぇッ‼︎お前らまとめて殺してやるよぉぉ‼︎』
発狂したように笑いながら撃ち続ける男だが、九十九にはその銃弾が当たっていない。全てかわすかさばききっている。一歩ずつ、ゆっくり進みながら一つ一つを逃さずに。
『な!?…ふん、きみも普通じゃないのはわかった。だがそれがどうした?こっちが優位なのに変わりない。おとなしく死ねよ!そこに転がってるゴミと同じくなぁ‼︎』
その言葉と同時に九十九は立ち止まった。そして地面に向かい足裏を叩きつけた
『お前がッ』
バンッ‼︎
九十九は叩きつけた衝撃で浮かび上がったマンホールを右手で掴みそして
『死ねッ‼︎』
勢いよく投げつけた。言葉のとうりに男に向かって円盤投したのだ。半ば強めに投げつけた。死んでしまっても構わないぐらいの力で。吸血鬼の力がある分、死にはしないはずだが、それを考えたとしても明らかに九十九は、やりすぎの勢いだった。
『何!?グッホォォウァッ‼︎』
男は勢いよく吹っ飛び、住宅街の一本道になっている道の反対側までマンホールとともに消えていった。
『二度とそのムカつく面を俺に見せんじゃねぇ‼︎』
九十九の一撃で吹っ飛んだ男には聞こえたかわからないが、すぐに背を向け、アイラと少女の元へと寄る。
『アイラは無事そうだな、お前は大丈夫かスプラッター?』
九十九の言葉に少女は苦笑いし小さな口を開いた。
『今は大丈ばないけど時間が経てば大丈夫になりますぅ。それに私の名はスプラッターではなくてウルスラ・エーデルワイスですぅ、ウルでいいですよぉ。』
ニコッと笑って自己紹介をするウルに九十九も自己紹介を返した。
『日乃々木 九十九、九十九で頼む』
昨日の敵は今日の友と言わんばかりに親しげになった二人だが
『お前らこの後どうするんだ?アイラも含めて。』
『『えっ!?』』
何にも考えてなかったように反応する二人、確かにこんな早めに解決すると九十九さえも思っていなかった。
『私は、ツクモが助けてくれた分恩返ししたい。』
アイラが両手を握り九十九を見つめながらいった。
『私は人生をやり直しますかねぇ、マスター、いや、あの男に使った時間をリセットできるわけではないですがこれからの時間は変えられるはずです。』
『私も、人生をリスタートしたい。ツクモに会えたのは奇跡だし、その奇跡をきっかけに変わっていこうと思う。』
二人ともやり直しを誓い、前向きに生きていこう決めたことに対し九十九もうんうんと頷く
『大事なのは過去の失敗なんかじゃなくてこれからだよな、過去を忘れるのはいいことじゃないが、過去にとらわれることもいいことじゃない、全部やり直せる、やり直せないことなんてないと思うぞ』
九十九がそう言うと二人とも笑った。九十九は何がおかしいのかわからなかったがこの状況に収集をつけなければならないと、頭を抱えた。
結局のところ今日デートした少女と傷を負った少女を放って置くわけにもいかずとりあえず家に泊めることするのだった。