中二病の王女
『何で地面から出てくんだよ』
その一言から時間が止まったような無音状態になった。どちらかが喋るでもなく5秒くらいの間二人とも固まっていた。
『ふむ、冥界とは雰囲気が全く違いすぎるのだな、言葉にすると神々しさらしきものを感じるな』
少女は口を開くや否、勝手自分の世界に入ってしまった、九十九はそれを見守るしかできなかった。むしろ関わってはいけないという九十九の危険察知能力が全力で機能した為、第一にその場から立ち去りたかった。
(めんどくせぇーことは他人任せで行こう)
回れ右してその場を去ろうとする。がしかし
『おい』
一足遅かった。
『貴様は何者だ?』
話しかけられてしまった上名前を聞かれるという絶対的逃避困難状況に陥ってしまった、九十九はまた時間が止まったように無音状態を作り出してしまう。
どう対応すればいいのか、どうすればこの状況を打破できるのか、悩みに悩んだ。
『おい、無視するな。誰かと聞いているんだ。』
急かされる九十九は、どうにでもなれと少女を指差し口を開いた。
『人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗れ‼︎』
『………』
(アレ?外したかな)
首を傾げ、冷汗を垂らす。完璧に今までの無音状態よりひどい、簡単に言うとシラけたという物だ。気まずい空気に何も言わない少女。
九十九の精神は結構な限界を迎えようとしていた。
(ヤベェ、結構恥ずい)
無音から7秒
『それもそうだな』
やっとこの見えない圧力から解放された。
『私の名はナイトメア・フェレストヴァーリ、冥界の王女だ』
『……は?』
冥界?王女様?なんだそれ、頭逝ってんのか?
『さぁ名乗ったぞ、次は貴様の番だ』
いきなりの発言に九十九はついて行くことができなかった。同種だろうとは思っていたが、別の方向に全力疾走していまっている。
アイラのようなはぐれ者のような異世界人だとしたらこのような場にいるのも、まぁ納得出来る。
だが冥界の王女?、次元が違いすぎて想像できない。
『中二病か?中二病なのか?中二病なんだな?そうだよな、王女とか、んな訳ッ!?』
シャキンッ
話している真っ最中、九十九の首には一本の剣が突きつけられていた。
『貴様の番だ、と言ったはずだが?貴様が名乗れと言ったから名乗ったのだろう、お前の言った制約に従え』
尋常ではない殺気、そして剣の抜刀から突きつけるまでの速さ。
(コイツ、ただの中二病じゃねぇ)
『早く答えろ、体と頭がバイバイしたくなかったらな』
首元に当たった刃のせいで少し血が滴るが冷静に適切に対応する。
『わかったよ、わかったからそんな物騒なもんしまえ』
少しムッとして見せて仕方ないと少女は剣をしまった、しまったというか空間に空いた穴に投げ捨てたと言った方が正しい。
『俺は日乃々木 九十九、善良な一般市民だ』
両手を上げて降参ポーズをとる。敵対するつもりはないので余計に刺激しないよう最善の注意を払いながら。
『そうか、九十九か』
少女はふむふむと首を傾げ、九十九顔を見て口を開く。
『さっきの脅迫に怯えを成さす、むしろ余裕を見せるとは。お主、只者ではないな』
そのお褒めの言葉に対し
『お前はまともではないな』
と侮辱の言葉で返した。
『ふ、ふん、口が達者なようだな、この世界の住人は全員そうなのか知らんがこれからは気をつけろ。一回目だから見逃すが二度目はない。』
全然貫禄の感じない言葉に九十九はもう一言余計なことを言った。
『お前の喋り方面白いな、それ作ってやってんのか?それとも素?やっぱり中二病?』
ハハハッとふざけ半分で言ったその言葉は中二病少女の怒りスイッチを入れてしまった。
プルプルと震え出し顔を真っ赤しにして再び剣を取り出す。
『中二病という概念は知らないが無性に馬鹿にされている気がする、いやしてるんだな、してるだろ!?』
少女は眼帯に手をかけ、勢いよく外した。
『見にくいッ』
『見にくい!?』
予想外のその言葉にハテナが浮かぶ。そこの設定は魔眼とか心眼のような特殊な物だと考えるのが妥当だろう。だがそれを裏切る【見にくい】という理由に拍子抜けしてしまった。
(見にくいって、眼帯の意味なんだよ)
『ふぬッ‼︎』
力む声と同時に少女は剣を振り下ろすした。
九十九と少女の間には結構な距離があり到底届く距離ではない。
だが
『ッ!?』
九十九は弾かれるようにして砂場まで吹き飛んだ。結構な勢いがあったため砂埃が舞うが咳き込みながら立ち上がる。
『ってぇ、何が起きッ』
言葉を妨げるように第二波が九十九を襲う。
砂埃の中からムチのような攻撃が飛んでくるが横に飛ぶようにして回避した。
『意外とやるな』
声が聞こえる方に視線を向ける、そこには
『侮辱した罪、死をもって償ってもらおう』
昼間の公園で、誰にでも目のつきそうな場で、武器を振るう中二病がそこにはいた。
『危っねぇ、死ぬかと思ったぁ』
息を切らしながらなんとか生き残ったように立ち振る舞う。
『お前のソレ、え〜とその剣?ムチ?そんな物騒なもんどっから取り出してんだよ』
最初は剣のような形をしていたのに今はムチさながらの形をしていることに九十九は少し気がかりに感じていた。
『蛇腹剣だ、そんなのも知らんのか』
そう言った後もう一度構え直して九十九に一閃を放とうとする。
『さぁ、死ね』
(また使わならんのかクソッ‼︎)
九十九も九十九で拳を構える。
放った一閃と振りかぶった拳、その二つがぶつかることはなかった。
『何やってるのツクモ?ケンカはダメだよ』
九十九の目の前には右手に槍を持って蛇腹剣を弾き、左手で九十九の拳を握り締めるアイラが立っていた。
『よかった、ツクモが振り切る前で。振り切ってたら止められなかった。』
九十九は大人しく拳を引き助かったとアイラに礼を言った。
『でもこの人誰?』
『冥界の王女さんだ』
そう言って指差すが中二病少女はぶつくさとつぶやいていた。
『嘘!?私の一撃が死神の剣が、こうも簡単に止められるなんて』
とてもショックを受けているようだったが九十九たちにはこれからはどうするかの方が重要だった。
『どうするツクモ?』
『どうするか』
『連れて帰る?』
『そうするか』
アイラの時と同様、置いて行くわけにもいかないので取り敢えず家に連れて帰ることになるのであった。