アイラ学校に通う。
ウル達と別れてから2日たった火曜日、いつもは九十九一人で家を出るはずなのだが、今日はオマケがついていた。
『早くガッコウに行こう、ガッコウに』
アイラが目を輝かせながら九十九のことを見ていた。こんな目を輝かせることができるのだろうかと九十九はため息をついた。
『てかなんでお前が学校に行けんだよ』
アイラは受験もしていなければ入学手続きもしてない、なのになぜ通えているかというと昨日の出来事である。
ー月曜日ー
『ただいま』
疲れたようにドアを開ける。金土の間に溜め込んだ疲れが一気に押し寄せてくる月曜日、ついでを言うと九十九のバイトは日曜夜7時から10時、とても眠い時間帯に入れてしまっている。そのため昨日のバイトも疲れを溜め込んだ結果、勤務中に寝てしまい、減急を言い渡されたのだった。
『おかえり』
てくてくとアイラが玄関に歩み寄ってくる。九十九が学校に行く間は家にいてもらうほかないため、おとなしくお留守番をしてもらっていたのだ。
『疲れたな、ッてなにこのでかい荷物』
玄関開門1番、目に入った四角い箱、それもかなり大きい。持ち上げてみると見た目以重みはないがとりあえず箱がでかい。
『どうしたんだこれ?』
『ツクモがガッコウ?に行ってる間に黒い猫のマークがついた帽子かぶってる人が家の前に置いてった』
(黒猫ヤ○トの宅急便かよ)
ハンコもなしに置いていくなんてどういうことだろうと少し考え込んだが、まぁ気にしないとリビングに持っていく。
『それ危なくないの?爆発しない?』
『するか‼︎そんな危ないもん黒猫ヤ○トが持ってくるわけねぇだろ‼︎』
『そう思うならそうなんでしょ、ツクモの中では』
『おい、お前がなぜそのネタを知っているんだ?』
はて?と首をひねるアイラ、九十九はこの環境に適応してきたアイラにある意味尊敬した。そんなことはさておきと箱を開けようとする。
『やっぱり私が開ける、これは私の仕事だ』
なぜか、箱にこだわるアイラ、よく見ると宛先がアイラになっている。
(アイラのことを知ってる、何故だ?昨日の今日だぞ、それにアイラのことは誰にも言っていないはず。ウル達からか?)
考えているうちにアイラが颯爽と箱を開け始める。ガムテープを剥がそうとカリカリしていたがそれを見かねた九十九は代わりに剥がしてやった。
開け口に手をかけ、アイラが箱を開ける。
『これなに?』
箱の中に入っていたもの、それは
『俺の学校の女子制服、だな』
痛い目で九十九を見るアイラ、九十九が購入したのと勘違いを起こしてるらしい。
『いやいや、俺のじゃねぇよ!?てか宛先お前だろうが‼︎』
あ、そうだった、と忘れていたようにいうアイラ、やはり天然?なんだろう。早速中身を出し始め、その度に顔を輝かせる。
(なんか、見ていて頬ましいな)
『大きさもぴったり、バックも靴も入ってる、でもこの本なんだろう』
『教科書だ、学校で使う必修アイテム』
(何故アイラにこんなもの届くんだ?しかも生徒手帳まではいってやがる。送り人は誰だ?)
すぐに確認する九十九、そこに書かれていた名前、それはウル達ではなかった。
『この名前って校長か、そりゃそうだよな』
『手紙も入ってた、火曜から学校に来るようにって』
…手がこんでらっしゃる
小さく呟いたあとに溜息を吐く。
『いづれにせよ、明日学校に行けばわかるはずだし、校長室に伺うか』
そうして現在に至る。
『遅いよツクモ、遅れちゃうよ』
金髪をなびかせて、美少女はそういった。
『了解』
アイラを見て少し可愛いなと思った九十九は照れながら返事をし家を出た。
『ガッコウ♪ガッコウ♪』
ルンルンとして上機嫌なアイラはくるくる回りながら歌っている。
そしてそのまま
『ガッコッいたッ』
電柱に衝突した。おでこを強打し両手で押さえ、涙目になるアイラに九十九はやれやれとさすってやった。
『前見て歩けよ、危ねぇから』
頭を撫でられたアイラは顔を赤くしながら少し嬉しそうにしている。その時
『ツク、おはよう、君がこの時間帯に登校しているのは珍しいね』
後ろから凛音が声をかけてきた。今日もお気に入りの水色ヘッドホンを首にかけ特徴的な喋り方をしている。
『凛音か、お前こそ早くないか?いつも俺ん家の前で待ってるって、ウゴホォアァ!?』
九十九が話している途中、凛音が脇腹に回し蹴りを入れた。九十九本人、結構効いたのか腹を抑え転げ回っていた。
『不意のボディは効くんだよね、それに誰が君なんか待つっていうんだ?たまたま君の家を通る時間にきみが家を出るだけだろ』
転げまわる九十九を踏んづける凛音、それをボーッとアイラは眺めていた。それに気づいた凛音は九十九を踏む足を強くし
『いつ誘拐してきた?110番する時がとうとう来てしまったか』
『落ち着けお前、そいつは家族じゃないけど、…従姉妹だ従姉妹。一昨日ぐらいにあずかってくれって言われてな』
ふーん、と凛音は納得?したのか頭に乗せた足をどけた。元神殺しが頭を踏みつけられ、さらに抵抗できないほど、凛音は物理的ではない意味で強かった。
『ということは二人で一つ屋根の下暮らしということ?』
立ち上がった九十九は体を払いながら頭にハテナを浮かべその質問に答えると。
『そうだけど?』
その瞬間、九十九の体が浮いた。というかアッパーカットされていた。宙を舞い、そのまま地面に激突、若干ウルの気持ちがわかる九十九だった。
『二人一つ屋根の下なんて、僕は15年一緒にいてそんなことなかったのに』
『なんか言ったか?』
『な、なんでもないッ‼︎』
うつ伏せになりながら聞く九十九に少し慌てながら返す凛音は、そのまま横を通り過ぎ学校に向かっていった。
『今日は校長と、会長に呼ばれてるから先に行くよ』
スタスタと先に行ってしまう。九十九は再度立ち上がりアイラの方を向く、アイラは何故か拍手していておーと感動していた。
『おい、今の何処に拍手する要素があったんだ?』
『空中4回転からの顔面からダイブするあたりを』
…そこかよ。
『とりあえず進むか、学校にも結構余裕で間に合うしゆっくり行こう』
『うん』
色々あった朝だが、結局は二人並んで学校に向かうのであった。
学校に着くや否、アイラのテンションはカンストしていた。飛んだり跳ねたり回ったりと、とりあえず変な奴になっている。
『落ち着け』
ビシッ!
九十九チョップが頭に落とされたアイラは頭を抑えうずくまった、若干涙目になり少し強すぎたかなと九十九は反省した。
『いたぁ』
『飛ぶな跳ねるな回るな、絶対これから学校でやるなよ?』
『り、了解』
アイラと約束した後、問題の校長先生に話を聞くため校長室へと足を運ぶ。緊張気味に一歩一歩進む九十九だがアイラはそんなことそっちのけで能天気に質問をしてくる。
『学校っておっきいね、あの額に入ってる紙なに?あ、あの金色のカップも気になる。それに水の漂ってるあの生物も』
『一気に質問するな、静かにしろ、大人しくしろ』
それでも、なんだろ、すごいなぁと言い続けるアイラを無視して校長室の前へと着く。視線をドアへと向けノックをするように手を構えた。
(そういえば凛音も呼び出されてたっけ)
そう思った瞬間ドアが開け放たれ、九十九の額は思いっきりドアに打ち付けられた。
ゴンッ
『アバタッ!?』
額を抑え、プルプル震える。そんな九十九を見たドアを開けた本人は少し驚いたように九十九に声をかけた。
『アレ?ツクじゃないか、何してるんだこんなところで』
いつも如く幼馴染がそこに立っていた。
『少し校長先生に用があってだなぁ、お前こそドアを開ける時は少しぐらい注意して開けろよ』
プルプルしながら言う九十九は、とてもダサかった。凛音もすまない、と謝り出てくると続いてもう一人校長室から出てきた。
『ではまた今度お話しします、できるだけ早く取り込めるようにしたいので最優先事項としてお願いします』
ドアから出てきた人、それは一瞬にして九十九の目を奪った。出てきたたのは制服を見るに九十九より年上の高校三年生、その少女はベレー帽をかぶり、銀の髪を揺らしていた。とても凛としていて、美しかった。言葉にできないほどに美しかったのだ、その美しさに目を奪われた九十九は、次の瞬間、両足に激痛が走った。
ガンッ
ガンッ
『アウァチャ!?!?』
両足を踏まれていた、右はアイラで左は凛音、二人とも息ぴったりに九十九の足を踏み潰していた。
『ごめん、足が滑った』
『ごめん、なんかキモかった』
(コイツら)
激痛に耐えながら立ち続ける九十九の表情は苦笑いで固まっていた。
『あら、貴方が凛音がよく話してくれる九十九さん?』
九十九は何故凛音が自分のことを話すのだろうと考えてから速攻で質問に答えた。
後ろで凛音が慌てているがそんなことは気にしない。
『多分その九十九さんです』
『やっぱり、凛ちゃんの愛しびッ』
『わーッ‼︎わーッ‼︎』
銀髪少女が言い切る前に口をふさぐ凛音、どうしたんだコイツと九十九は首をひねるがそれを見た銀髪少女は笑みを浮かべ、まだ伝えてないんですか?と凛音にいった。まだ痛みが残る足をさすりながら九十九は銀髪少女に話しかける。
『すいません、どちら様でしょうか?』
こんな綺麗な人、学校で見かけたことはない。むしろ見たら覚えているはずだ。
そう、見かけていればだ。
『生徒会長を任されている氷室 彩兎です。以後お見知り置きを』
ニコッと 笑顔を作りながら挨拶する彩兎に九十九はドキッと胸を鳴らし顔を耳まで真っ赤にする。それを見た凛音&アイラはほぼ同時に足払いをかけ両足を浮かばせた。
『ダブしっ!?』
後頭部から地面に落ち頭を抱え転がり回る。二人のコンビネーションに九十九はコイツら知り合いなんじゃねぇかと疑心暗鬼になるのであった。
『ごめん、歯止めが効かなかった』
『ごめん、なんかムカついた』
(…息ピッタリすぎるだろ)
すぐに立ちあがりまたもや服をパンパンと叩く、できればもっと優しいやり方はないのかと理不尽に立ち向かう九十九は彩兎に向き直り、謝罪した。
『すいません、朝礼とか、集会とか、ふけってるんでわかんなかったっす。本当に申し訳ない。』
『それは、よろしくないですね、これからはちゃんと私の話聞いてくださいよ?ちゃんと考えてるんですから、それにそんな堅苦しい言葉を使わなくてもいいですよ、凛ちゃんもそうですから』
そう言うならばそうしよう、九十九は早速行動に移そうと気合を込めて口を開いた。
『これからは気をつける、できるだけだけどな、彩とぉぉぉぉッ!?』
今日の九十九は異常に痛めつけられていた。現在進行形で
『何すんだ!?お前ッ、いきなりローリングソバットって、頭大丈夫ですか!?』
『タメ語でいいとは言われても一応は君よりも目上の人だろ、名前じゃなくて会長と呼べ、会長と』
わかぁったよと鳩尾を抑えながら言った、実際、まともな人間だったら、くたばっている勢いだ。おそらく凛音もそれを考慮しての事だろうが、九十九自身タフでも痛いのには変わりないのでもう少しオブラートに包んだ蹴りを入れて欲しかったと思うのであった。
『そろそろ教室に戻りましょう、校長先生はこれからご出張なさるので今日はもう会えません』
『…は?』
結局のところ、超タイミングが悪く校長先生には会えなかったのだった。
『ツクモ、どんまい』
『くそったれ』
時は進みホームルーム、アイラは転入生として自己紹介中。それはそれは皆さん登場シーンでは驚きの声を隠せていない様子だった、見た目だけなら可愛いそのものなので男性陣から黄色い声が聞こえてくる。
『天使だ』
『angelだ』
『神様だ』
(いや吸血鬼だよ、そして何故に英語?発音が完璧な所どうした?)
など思う所は多いがアイラとの関係露出を防止するため九十九は頭を伏せ知らん顔をする。ぼっちが美少女転入生と知り合いという展開はラブコメだけで間に合ってまーすと頭の中でニ○ニ○動画のコメントの様に右から左へと流れていった。
『では日乃々木さん、名前と軽く自己紹介をお願いします』
担任のくみちゃんこと汲寺先生はいった、九十九の苗字を。九十九は顔を上げた、何故自分の名前を呼んだのかと。
『日乃々木?』
『それっていつも後ろにいる奴だよな』
『あの陰キャラのことだろ』
(すげー言われ様だな俺‼︎そんなジメジメしてるか!?でも日乃々木って)
答えは明白だった、何故なら
『えっと、ひののぎ アイラです。ツクモとはいとこ?です。よろしくお願いします』
アイラの苗字登録が日乃々木だったからだ。実際九十九はアイラの生徒手帳の名前の欄を見ていない。だがいとこなら同じ苗字でも不思議ではない。おそらくアイラ学校登校計画を立てた奴もそう思ってのことなのだろう。
『あ、あのぼっちが美少女と従兄妹だと!?』
『馬鹿な!?恋愛フラグとは俺らの様なノーマルに与えられる恩恵だぞ』
(あーもう好き勝手言っちゃってるよ。何だよ恩恵って、その言い方だと俺がノーマルじゃないみたいじゃねぇか、いやあながち間違ってもないけどな)
『すごい言われ様、さすがは完全自己中ボッチ・ヒノノギツクモKS』
横で凛音がクールに表情を変えずトドメを刺しにいった。
『おい、人の痛い所を曲名みたいにするな、それにそこだけ聞くとただの嫌な奴じゃないか』
『いや、君は嫌な奴だろ、幼馴染のボクでもそれは確定事項だと思うぐらいにね。取り敢えず1回死んでこい』
『死ぬか!それに面と向かって言うな、お前少しは容赦とか遠慮とかをだッイテ⁉︎』
スパーンと九十九の額に球体が結構な勢いでぶつかってきた。
『おい、お前今何飛ばした?てか何で飛ばした?今の一撃やる必要なかったよね?』
額をさすりながら飛んできた正体を確認、その球体は凛音の指の間に後4つほど挟まれていた。
『静電気防止用ゴムボール、っていうかスーパーボールみたいなものだけど』
『いや、投げんなよ』
こうして朝から破茶滅茶にアイラの自己紹介が始まり、そして九十九に対する冷たい視線は一日中降り続けることになった。
そして更に時は進み帰りのホームルーム。
『アイラちゃん一緒に帰らない?』
転入初日から小動物のようなアイラはみんなから好かれていた。特に目立ったことはしていなかったのだが、ということはつまり普通に生活していてもアイラは好かれるということになる。
『ごめん、ツクモと帰る』
という爆弾が何の前振りもなく落とされた。
ギロッと音がしそうなほどクラスのみんなから睨まれる。だが九十九は動じない、というかプレッシャーが強くて動けない。
『お、おう、それじゃ帰るか』
バックを手に取り颯爽と消えていく、それについてく様に後ろからアイラもてけてけと歩いて行った。
(死ぬかと思ったぁ〜)
なぜそこまでに九十九は自分が嫌われてるのだろうかと不思議になった。いずれ呪い殺されそうなほどの殺気を後にし学校を出た。
いつもどうりの帰り道だがアイラがいるため常に注意した様な感じになる。
そんなこともあって途中飲み物でも買おうと自販機でコーラを購入、キャップを回すととプシュッという音を立てて爽快に開いた。
『それ、何?』
『ん?』
アイラが指さしたのはコーラではなく自販機だった。
『これは自動販売機っていうこん中に飲み物が入ってて金を入れてボタンを押せば出てくるっていう仕組みになってる』
わぁ〜と子供の様な反応をして目を輝かせるアイラは九十九には愛らしく見えた。
『はい、金、これ入れてボタンを押せば出て来るから』
そう言って160円をアイラに渡し、近くの公園へと足を運んだ。アイラはとても長くどれにするか悩んでおり、その間だけ公園のベンチを借りようと考えたのだ。
『まだ悩んでるよ』
悩みすぎなくらい悩んでいるアイラ、九十九はやれやれと溜息を零しコーラを飲み干した。
ゴミを捨てようと立ち上がった瞬間目の前の地面から眼帯を付けた少女が飛び出してきた。
他に何の言いようもなく地面から飛び出してきたことそのまんまだ。
『何だここ、冥界ではないな』
見るからに普通じゃないが何故か同種だと認識してしまう。登場シーンから察するに恐らく異世界人だろう。
でも一つ気になるな所は
『おい、何で地面から出て来るんだよ』
その一つだけである