表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパーヒーロー少年(魔法少女)  作者: シャル青井
エピローグ 青空になるまでは
23/23

青空になるまでは

「お、来たか。見たか? 昨日の魔法少女大戦!」

 翌日、真が登校するなり、立花がそう言いながら寄ってきた。

 目撃もなにも当事者だ、と主張するわけにもいくまい。

 ただでさえ、状況はマズイことになっているのだ。


 あの巨大なウサギ型ボーゼッツが倒れた後、場の流れはなんとなく澱んでしまい、そのまま青の魔法少女ルバードは逃げるようにその場を去っていった。

 駐車場を歪めていた結界が解けたのか、小屋のような風景も、怪物のような自動車も消え、元通りの世界に戻る。

 追いかけることも考えたが、真の前にはもう一人、黒い魔法少女である椚雅美がいた。

 それに、後ろでは追川ひとみも囚われたままである。

 カゴ自体は他の幻覚とともに消え失せたとはいえ、ひとみの周囲にはまだ、ルバードが作り出したと思しき棒のようなものが取り囲んでいた。

「なるほど、それが魔法ヒーローとしての姿なのね」

 相変わらず抑揚のない声で、雅美は真を一瞥してそう言った。

 真は身構え、決闘の再開に備える。

 雅美がここに追いかけてきたということは、その続きに来たということなのだろう。

 だが、雅美は小さく首を振ると、諦めたようにため息を付くだけである。

「今の私では、あなたに勝てない。なにか他の手を考えることにするわ」

 そうして、ゆっくりときびすを返して去っていく。

 しかし、最後にひとこと、巨大な爆弾発言を残していった。

「その赤いマフラー、似合っているわよ」

 それだけ告げて、黒い魔法少女は飛び去っていった。

 その言葉で、真は自分の犯した過ちに気が付いた。

 なにしろこのマフラーは、宇佐美真の象徴である。

 それをマコピュアが身に付けることの意味は、考えればすぐにわかるだろう。

 あの大観衆の前での決闘中にマフラーを付けるような事態にならなかったのは不幸中の幸いだった。

 雅美は、その正体に気が付いただろうか。

 意識をズラすフィルターがどこまで効果があるのかはまったくわからない。

「あーあ、やってしまったわね……」

 真と同じように状況を読み取ったひとみが、呆れたようにそうぼやく。

「あれ、確実にわかって言ってきたでしょう」

「いや、多分、大丈夫……だと思いたい……」

 もはや真の言葉に冷静さは残っていない。

 そこにあるのは、絶望と動揺だけであった。


「しっかし、強かったな、マコピュアちゃん。元々戦闘でも強かったが、あそこまで武闘派とは思わなかったぜ」

 相変わらず真の秘めたる感情など気にすることもなく、立花は一人話を続けている。

 どうやらこの様子だと、マコピュアの正体が宇佐美真であると触れられ回っているということはなさそうだ。

 椚雅美はもっと別の手段としてそれを使うことを選んだのだろう。

 話を聞きに行きたいと思うものの、こちらから踏み込んでは明らかに地雷を自分で爆発させに行くようなものだ。

「ああ、久し振りだね、宇佐美くん」

 真が悩んでいると、今度はブラウが話に混ざってくる。

「ブラウも、昨日の魔法少女の決闘は見てないのか?」

 無邪気に立花がそう尋ねると、ブラウは、少しだけ困惑の表情を見せ、すぐに首を振って見せた。

「残念だけど、昨日も色々と手続きなんかで忙しかったからね。その決闘についてはわからないな」

「なんだお前もあの大イベントを生で見てないのかよ。真といいブラウといい、魔法少女ファン失格だぞ」

 立花は一人で興奮しているが、真もブラウも、心ここにあらずといった表情で立花を見ているだけだ。

 ブラウがなにか言ってこない限り、真もなにも言うつもりもない。

 そして、もう一人。

 この魔法少女騒動のある意味での中心人物である追川ひとみも登校して来た。

 ブラウはひとみに訝しげな視線が向ける。

 だが、なにも口にはしない。

 もちろん、ひとみの方からなにかを言うことなどありえない。

 ただただ、どこか不穏な空気になるばかりだ。

「いや、なんなんだよ、いったい……」

 立花だけが、その状況をなにひとつ飲み込めないままであった。


                ■   ■   ■


「で、どうするの? 魔法少女を続けるの?」

 昼休み、真はひとみと共に家庭科準備室にいた。

 昨日は戦いの直後ということもあり、今後については一晩考えてから話し合おうということになったのである。

 最初は、二人ともなにも言わずに黙々と昼食を食べた。

 どんよりとした、気まずい沈黙が続く。

 そして、意を決して、ひとみがその質問を口にしたのである。

「……これからも、ボーゼッツは現れるんだろう?」

 それに対する真の答えは、ただ、事実の確認であった。

「そりゃそうでしょうね」

「なら、戦うしかないだろう」

 それが真の答だった。

 だが、真のその答に対して、ひとみは呆れたように溜息をついてみせ、もう一つ、より核心へと迫る質問をぶつけてきた。

「それは、魔法少女として? それとも、魔法ヒーローとして?」

「それは……」

 思いがけない質問に、真は少し面食らったように顔を伏せる。

 だが、すぐに答えを見つけたのか、ゆっくりと顔を上げた。

 その表情は迷いが見えながらもどこか晴れやかで、それ自体が一つの答えでもあるようだった。

「俺は、ヒーローになりたかったし、実際、ある意味でヒーローになることもできた」

 宇佐美真は静かに語る。それは彼の夢の一つの形。

「誰かが願った夢を守ることがヒーローなら、それが魔法少女だというのなら、俺は魔法少女を続ける」

 そして宇佐美真は笑った。

 それはヒーローが見せる、優しい微笑みだ。

「夢、ねえ……」

 わざとらしい呆れた声を出しながら、ひとみは目を背ける。

「ああ、夢さ。なんにしても、俺の夢のためにもこの力は必要だしな。だからまあ、もう少し、力を貸してくれると、ありがたい」

「ああ、もう、そうじゃなくて!」

 もどかしげなひとみと、微笑みを苦笑いに変える真。

 真の瞳には、確かに目の前の夢が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ