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スーパーヒーロー少年(魔法少女)  作者: シャル青井
第七章 魔法ヒーロー半端ないぜ!
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魔法ヒーロー半端ないぜ(前編)

 そして決戦の朝が来た。

 宇佐美真は、再び宇佐美マコトになり、追川ひとみの家を目指す。

 その姿は完全に女子高生であるが、もちろん、真の心情は不安でいっぱいである。

 冷静に考えてみれば、女装して街を歩くのだ。

 自分を知る人間にそれを見られたらどうなることか。

 だがその問題は、別も問題によって一気に上書きされた。

「うーん、ここが真くんの家なのね。あ、おはよう、マコちゃん!」

 家を出た瞬間、その玄関先に追川ひとみが立っていた。

「ひ、ひとみ、お前がなんでここにいるんだよ……! 俺、家教えてないよな?」

「僕が連れてきたんだピョン」

 思わずこぼれた真の疑問には、その横に浮かぶウサギのぬいぐるみ、ルイスが自信満々にそう答えた。

「あー、そういえばいたなお前。まだいたのか」

 半分その存在を忘れかけていたのも事実ではあるが、その真の言葉に込められたのは、あからさまな嫌味の棘である。

「真くん! あなたは今『宇佐美マコト』だってことを忘れちゃダメよ!」

 ひとみがそんな注意をの言葉を投げてくる。

 そうしてあらためて、真は、自分の服装を思い出す。

 スカートに女子用の制服。

 その服装は完全に女子だ。

「とっても似合っているウサよ、真。やっぱり真は女の子だったピョン!」

「黙れ」

「真くん!  いえ、マコちゃん!」

「あ、えっと、あっと、……お黙りなさい!」

 ひとみのひとことで真は今の自分の立場を思い出し、しどろもどろにそう言い直す。

「うーん、それもなんかキャラが違うわね……」

「そう言われてもだな……」

 無理難題に真の困惑は収まらない。

 その横ではルイスが相変わらず笑いをこらえている。

「それで、いったいなぜ俺……私の家に来たの?」

「もちろん迎えに来たのよ。真くん一人では、気配の遮断もできないでしょう? 流石にその格好で一人で街を歩くのはまだ時期尚早かと思って……」

「確かに……」

 そう言われて、真は自分が今しがたしようとしていたことをあらためて思い知った。

「まあ、真くんをそのまま歩かせて羞恥プレイを楽しむのもありといえばありだけど、私が独占したいというのも本心なのよね」

「そうか、もう黙っていいぞ」

 口ではそう言いながらも、真は内心では心の底から安堵していた。

 完全に女性として今後女装し続けて生きろと言われたら、もう逃げ場がなかったことであろう。

 しかし、それでも今日、この格好で家からひとみの家まで移動することには変わりはなく、真の目の前の憂鬱が緩和されるわけでもない。

「本当に、大丈夫なんだろうな……」

「堂々としなさいよ。マコちゃんは魔法少女なのよ!」

「うーん」

 唸り声を上げるが、もう逃げ場はない。

「そうそう、真は本当は女の子なんだから今更なにも恥ずかしがることはないウサ」

「黙れ」

 適当にルイスを脅しつけ、 ひとみに続くように真もゆっくりと街を歩いて行く。

 ひとみの力は流石に効果があるようで、朝の街を歩いても、誰一人、真たちに注目する者はいない。

 その完全なる無視のされ方に、真はかえって怖くなるほどだ。

 そうこうしているうちにも、二人と一匹はひとみの家へとやってくる。

 そこに至るまでの平穏さに、真は嵐の前の静けさを感じていた。


「実は、一つ別の問題が出てきたウサ」

 昨晩に引き続き、ひたすらに少女指導を受け続けていた真に、不意にルイスがそう語りかけてくる。

「別の問題?」

 ルイスがしゃべるだけで真は露骨に嫌そうな表情を浮かべるが、その後のルイスの言葉で、その表情は一気に真剣なものとなる。

「実は、昨日真たちがチェックをした駐車場に、ボーゼッツだけじゃなくシケルトンの反応が確認されたんだピョン」

「なんだって!?」

 言葉をマコトにするのも忘れ、真はまずひとことそう言った。

 そしてゆっくりとひとみの方を振り返り、顔を見合わせて確認する。

「昨日は、そんな反応なかったよな……?」

「ええ、あの黒い魔法少女がいたからしっかりとチェック出来なかったとはいえ、シケルトンがいればすぐに気付いたはずよ……あ、もしかして、あの黒い魔法少女が仕掛けたとか……?」

「いや、それはないな」

 その正体を知っているだけに、真はその可能性をなんのためらいもなく否定する。

 椚雅美は確かに問題の多い人物であるが、自分から挑んだ決闘をわざわざ台無しにするようなことを仕組むような人間ではない。

 プライドの高さゆえに、必ず、自分一人の力で、真正面からもう一人の魔法少女を倒そうとするはずだ。

 それに、あの瞳の奥底に宿っていた、情熱の光。

 真は、それを信じた。

「ふーん、やけに自信満々ね」

「いや、まあ、仮にもあいつも魔法少女だしな」

「なに呑気なこと言ってるの。あいつはあなたのライバルなのよ! もっと疑ってかからないと」

「いや、別にその必要はないだろ」

「あるわよ」

 話が平行線になりそうで、真とひとみの間にもどこか淀んだ空気が流れ始める。

 しかし、ここでルイスの空気を読まない意見が役に立つこととなった。

「まあでも、真の言葉は確かに真実の一端ではあるウサ。シケルトンとの運用は魔法少女には無理だウサ。確実に、ボーゼッツが動いていると考えるべきだピョン」

 ルイスの補足は真の言葉を証明したものだったが、それ以上に、大きな問題を明るみに出している。

「やはり、ボーゼッツか……」

「そりゃそうだウサ。魔法少女の決闘に合わせてなにか企んでいるに違いないピョン。どうするウサ? 決闘は諦めるピョン?」

「その必要はないわよ」

 間髪入れずにそう答えたのは、他ならぬ追川ひとみであった。

「シケルトンくらいなら、私がなんとかするわよ」

 その自信に満ちた態度に、真は思わず唖然としてしまう。

「いや、お前、なに言ってるんだ……? あの変身だって今は無理なんだぞ?」

 もし変身できたところでなにができるとも思えないが、変身しなければ戦闘になった時のことを考えるだけでも恐ろしい。

 真が思い出すのは、一番最初の、変身することなく犬型のボーゼッツに挑んだ時のことだ。

 渾身の蹴りもまったく通じず、捕まえ押しとどめようとしてもそのまま引き摺られ、挙句の果てに無造作に投げ飛ばされるだけだった、屈辱の敗北。

 力がなかった。

 根本的に、ボーゼッツと自分とでは、力が、全てが違いすぎたのだ。

 そんなボーゼッツに対し、この魔法少女の力を得てようやくまともにやりあえるようになったのだ。 

 それこそが、宇佐美真がこんな女装をしてまでも魔法少女を続けている最大の理由である。

 だが、擬似的とはいえ同じその力を持っても、ひとみはボーゼッツに対してまったく手も足も出なかった。

 シケルトンはボーゼッツに比べればだいぶ劣るとはいえ、真とひとみの間にある差ほどではない。

 いったいどんな根拠があって、こいつは自分がなんとかすると言っているのだろうか。

 そんな圧倒的な疑問が、真の言葉には込められていた。

 しかし、その言葉を聞いて、ひとみはかえって余裕の表情を強めてみせる。

「そもそも、正面からぶつかり合うだけが対処の方法ではないということよ」

「……どういうことだよ」

 一応そう尋ねてはみたものの、真にもひとみの考えていることはだいたい察しがついた。

 確信はないが、予測は立つ。

 だが、その答えを口にしたのはひとみではなかった。

「僕達の能力の中には、ボーゼッツやシケルトンの不活性化を促すようなものもあるんだウサ」

 そんな答え合わせを口にしたのは、横にいたルイスのほうだ。

 場の空気も読めずに、自分が持っている情報をただただひけらかす。

 ルイスの空気を読まない意見が仇となった。

「万が一、魔法少女が変身回数を使い果たしてしまった時なんかに備えて、問題を先送りにする力も備わっているんだピョン」

 そんな風に自慢気なルイスの横で、言葉を盗られたひとみが不機嫌そうに頬をふくらませている。

 一方で、真は初めて聞かされたその能力に、またもルイスへの不信感を強くする。

「なんでそんな能力があることを黙っていたんだ」

「特に聞かれなかったウサ。それに、ひとみには一応説明してあるピョン」

「じゃあなんで前の時に使わなかったんだ!」

 それを使えば、ひとみが変身する必要もなかったはずだ。

 そう思うと真の中のいらだちが少しずつ膨張する。

「あくまで一時しのぎって言ってるウサ。あの時は、真がいないままだったから先送りなんていってられなかったピョン」

「そうか……」

 そう指摘されてしまうと、真もなにも反論できなくなる。

 ひとみを追い込んだのは、やはり自分自身なのだ。

 あらためてそれを自覚させられる。

「……もういい。で、ようするにひとみもその能力を使えるってことでいいのか?」

 なんとかして話を戻し、かつひとみの機嫌を取ろうと、まだなにか語り続けたがっていそうなルイスに割り込んで真はひとみに話を振った。

 ひとみもすぐさま真の気遣いを察知し、ニッコリと笑ってもう一度説明を再開する。

「まあそういうことね。もっとも、ルイスさんが言うようにあくまでその場しのぎでしかないし、条件も厳しいんだけど、あの雑魚の方ならなんとかなるんじゃないかしら」

「本当に大丈夫か?」

 ひとみの自信とは裏腹に、前回の結果を知っているだけに、真は不安を隠し切れない。

「マコちゃん、いえ、真くんはあの黒い魔法少女をギャフンと言わせることを考えていればいいのよ」

「しかしだな……」

「私だって、もっと真くんの役に立てることを証明したいのよ」

 ひとみの口ぶりからは確固たる強い意志が感じられる。

 何者にも割って入り込ませないという、鉄壁の言葉。

 その言葉に押されて、真もそれ以上はなにも言えなかった。


 そして出発の時。

 ひとみが駐車場に向かうため、ここで別れることになる。

「いいか、ヤバイことになったら気にせず逃げろよ。俺もケリが付いたらすぐに向かうからな」

 強く強く、真はひとみにそう言い聞かせる。

 もはやひとみを止められないと判断した以上、真にできることはもうそれだけしか残っていない。

 だが、ひとみの反応はまったく別のものだった。

「俺じゃないでしょ。マコちゃん。はい、もう一回!」

「……いい、ヤバイことになったら気にせず逃げるのよ。私もケリが付いたらすぐに向かうからね」

 色々と反論したいことはあったが、言われるがまま、真はその言葉を受け入れて言い直す。

 しかし、それでもひとみのお眼鏡には適わないようであった。

「うーん、五十五点。ヤバイとか、ケリとか、可憐な美少女が使っていい言葉じゃないわね。はい、もう一回!」

「……いい、大変なことになったら気にせず逃げるのよ。私も決着が付いたらすぐに向かうからね」

 今度もなにもいわず、真はそのまま言葉を続ける。

 それを聞いて、今度はひとみも納得したかのように笑ってみせる。

「まあそんなところね。七十点くらいかしら」

「お厳しいことで」

 真も苦笑する。

 なにしろ真に待つのは、その言葉を使ってのあの黒い魔法使いとのやり取り、そして決闘なのである。

 それを考えると、ここでひとみに文句をいうことすら馬鹿馬鹿しい。

「じゃあ、変身するわ」

 そのひとことと共に、真は、祈るような感情を込めて、取り出したバックルの宝石へと手をかざす。

 その瞬間、ピンクの光が真を包み込む。

 そしてそれが晴れると、そこにはいつもと同じ、薄い水色を主体としたフリフリの衣装に身を包んだ、宇佐美真、マコピュアが立っていた。 

「さあ、行ってきて、マコピュア!」

「ええ、行ってくるわ」

 ただそれだけを言い残し、真はひとみを置いて決闘の場へと向かう。

 どうすればいいのか、どうなるのか、まだなにも決まってはいない。

 それでも、真は魔法少女で在り続けるため、戦いへと赴くのである。

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