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『予想外のハッピーエンド』 by紫陽圭

予想外のハッピーエンド

作者: 紫陽 圭

 一応、王宮恋愛もの。 なのに王宮内の描写もイベントも皆無。 糖度は低く、今回はキスシーンさえ無い(たまたまです)。

 結末を含め、書いてる途中でかつて無いほど激変した作品です。

 ********************


「何してるの?」

「!!!」

 背後からの突然の声に、思わず体がビクゥッとねる。 状況を考えると悲鳴を上げなかった点は自分をめたい。 実際は、驚きすぎて声が出なかっただけなんだけどね。

 で、そうっと振り返った後ろに居たのは、声から『まさか』とは思ったけど信じたくなかった相手。

「公爵令息ライル様・・・なぜ貴方が(よりによって)こんなところに? 何をしてるんです?」

「伯爵令嬢シエラ嬢、貴女こそ、何故ここに、そして何を?」

「・・・・・・。」

 質問に質問で返すし、しかも同じ表現だし・・・。 つい身分を忘れて相手をジトリと見るも、ひるむどころか何処吹く風といった感じなのも毎度のことで、私は軽く会釈して立ち上がると彼の横を抜けて歩き出す。 追って来るかと警戒したけど、その様子は無いかわりに笑いをこらえている気配を感じる。 勝手な勘違いを思い込まれないうちに説明しておくべきだったかと少し後悔したけど、『やぶへびになる』と諦めるしかない。 からかわれるだけなのは目に見えてたし、嫌な予感がした。



 ********************


 あの時、王宮の奥、廊下の円柱から私が見てたのは2人の男女。 男性が女性を口説いてるのか逢引あいびきかという場面。 つまり、傍から見れば、さっきの私はいわゆる『出歯亀でばがめ』。 でも事実は微妙に異なる。 あの時、第2王子が侯爵令嬢を口説いていて、私はかわしきれずにいる彼女を助けるタイミングを計っていたのだから・・・。


 侯爵令嬢ライラは私の従姉妹いとこで、同時にライル様の従兄妹いとこでもあるが、私とライル様は他人。 彼女は、私の伯父(父の兄)とライル様の伯母(母の妹)の娘だから・・・。 ほぼ完璧な令嬢で、第2王子ラウル殿下の婚約者候補のトップ。 本来だったら拒否は認められず口説く必要も無い。 でも彼女には事情が有った。 美形嫌いという事情が・・・。

 この国アーク王国では、ありがちな話だけど身分が高いほど美形率も美形度も上がる。 しかも、王族は基本的に黒髪に虹色に見える不思議な眼のあやしい色気の迫力美人ばかり。 彼女の相手としては最悪なわけで、だからこそ助けようとしたのにライル様という邪魔で逃げ出す破目はめになって・・・どうしたか心配。


 ちなみに、ライラ本人も美形(美人)。 『絶世の』というほどではないけど、母親譲りのダークブラウンの髪に侯爵家の金の目という色合いに、柔和なのに凛とした雰囲気が魅力的。 体型もグラマー過ぎず細すぎず絶妙のバランス。 (だから本人は自分の見た目を嫌っている。) マナーも教養もバッチリで所作は優雅、 そのうえ第2王子の婚約者候補のトップだから、普通はねたみや欲望で敵視されたり害されたりするけど彼女には無い。 王宮内では『ラウル殿下との婚約を嫌がってる』と、社交界では『美形嫌い』だとみんなが知ってるから、むしろ『ライラ様頑張れ』とさりげなく応援されてたり・・・(ラウル殿下の立場無いけどね)。

 ついでに言えば、当然ながら公爵(王弟)令息のライル様も美形。 ライラと同じダークブラウンの髪に王家の虹色の目で、侍女たちが言うには『やんちゃさとさわやかさが混じった笑顔が魅力的』らしい。 ラウル殿下と同じ引き締まった長身で、モテるのだが、何故か私に絡んでくる。

 でも、そんな彼に構われてても私もライラと同じく応援されてるらしい。 王宮内では『ライル様から逃げ回ってる』と、社交界では『第3王子に婚約解消された令嬢』だとみんなが知ってるから・・・。 お互いに『知り合い』程度の認識だったから、第3王子に好きな人が出来て婚約解消されても、私は応援こそすれ傷つきはしなかった。 彼は『(私の)結婚が難しくなる』と気にしてたけど、結婚願望の無い私には好都合だったり・・・。 そんな令嬢だからこそ、こんな尾行みたいな真似が見られてもいまさら評判を気にしたりしなくてすむんだし?



 ********************


 さて、そんなある日、『ライル様から逃げ回ってる』私は、とうとう王宮のすみでライル様に捕まっていた。


「ラウルたちにかまけてないで俺を見てよ。」

 いわゆる壁ドン状態で、私をじっと見つめて甘い声でささやいてくる。 普通の令嬢だったらアッサリ落ちただろう。 でも、私は落ちない。 見つめてくる眼には楽しそうな光が、ささたいてくるこえにはからかうような響きをシッカリ感じ取っていたから当然でしょ? だてに逃げ回ってない(性格知ってる)し、近い分だけ表情とかよく見える(壁ドンが逆効果だ)し・・・王子様達やライラによって美形に耐性できてるし、ね。


「そんな冗談は無駄です。 私にどうしろと?」

「そんな冷たい・・・って、ねても無駄か。 ラウル達から手を引け。 他人が手や口を出すな。」 

 無礼なほど直球な私の質問に、一瞬いつものようにふざけかけたようだったが、すぐに真顔で返してきた。


「ライラは従姉妹いとこよ! 彼女の事情も知ってるでしょう?」

「こういう問題では本人達以外は他人だ。 事情なんて克服すればすむ。」

「原因を知らないくせに・・・っ!」

「原因? 知らないくせにと言うなら説明して納得させろ。」

「嫌よ。 言わない。 彼女を苦しめようとする相手に話すわけ無いでしょう?」

 つい余分なことまで口走った私に、ライル様はすかさず畳み掛けてくる。 ホント、頭が良くて、嫌な人。


「じゃぁ、仕方ないな。 俺と婚約してもらおうか。」

「は? 誰が? まさかライラ? なんでそうなるの? そんな馬鹿な!?」

「ライラじゃない。 シエラ嬢、貴女が、だ。」

「は? 私? なんで? 話がつながらないじゃない。」

「俺と婚約すれば、忙しくなるし、俺が貴女のそばに張り付いていても不自然じゃないだろう?」

「それはそうだけど・・・じゃない!! そんなの無茶苦茶よ! そうまでして私の邪魔したいの? この件については私が他人だというなら貴方もそうでしょう?」

 いきなりのトンデモ提案に取り乱したが、なんとか冷静になって切り返す。


「さすが賢いな。 俺の相手として問題無い。」

「そうじゃなくて・・・!」

「わかってるか? 貴女の俺に対する今までの言動は不敬罪にもできるんだぞ?」

「!! おどすの? いまさら? (よりによって)今になって!」

「わかったら、手を引くか、婚約か、選ぶんだな。」

「・・・わかったわ。 手を引くわ。 でも見守ったり相談に乗るくらいはいいでしょう?」

「いいだろう。 ただし、入れ知恵とか余分なことを言うなよ?」

「わかったわ。 でも、私はあくまでも彼女の味方よ? 彼女の意志が最優先、文句は言わせない。」

「わかってる。」

 おだてて脅して譲歩する様子を見せて・・・なんて人なの!? 完全に知能犯よね。 しかも猫かぶりの腹黒。 ホント、嫌な人。 私は、なんとか冷静さを保ちながら腕の囲いから逃げ出すのが精一杯だった。



 ***************


 で、あれから1カ月。 またライル様に壁ドンされてたり・・・。 あ~あ。


「手を引くって言わなかったか? 言ったよな?」

「言ったわよ? 手出ししてないわよ?」

「ライラに入れ知恵したり余分なことを言うなと、俺が言ったのを了承したよな?」

「余分なことは言ってないわよ? なぐさめて、はげまして、力付ちからづけただけ。」

「じゃぁ、なぜ、ライラは貴女にくっ付いてばかりいる?」

「相談に乗ったり気分転換に付き合ってるだけよ?」

「女同士の会話にライルが割り込むなんて非常識出来るか!」

「私達は、この1か月の間中、ずっと、しかも朝から晩までくっ付いてたわけじゃないわよ?」

「減らず口ばかり・・・。 貴女はライラからもう少し離れろ。」

「彼女の意志が最優先って言っておいたわよね?」

「わかってる。 だから『もう少し』と言ってるだろう? それとも俺と婚約するか?」

「卑怯者。 わかったわよ。」

 ホントはわかってる。 口でどう言おうとライルは卑怯なことを実行しない。 王族がそんなことをするわけにはいかないし、王籍は捨てる覚悟したとしても彼の性格的にも難しいだろう。 それをわかっていて駆け引きをする私もズルいことは自覚してる。 でも、ライラのためだ。



 で、それから更に1カ月。 またまたライル様に壁ドンされてたり・・・。 あ~あ~あ。


「ライラからもう少し離れろって俺は言ったよな? 了承したよな?」

「言ったわね。 了承したわよ?」

「じゃぁ、なぜ、ライラは令嬢達とばかり一緒に居る?」

「知らないわよ。 それに、女には女の付き合いが有るのよ?」

「今まではこんなに無かっただろ。 貴女の入れ知恵じゃないのか?」

「約束通り私は彼女に入れ知恵なんてしてないわ。 令嬢達の意志よ?」

「令嬢達をそそのかしたのか。」

「そんなことしてないわ。 貴方の要望について私は少し愚痴ぐちをこぼしただけ。」

「わかった。 やはり俺と婚約しろ。」

「嫌よ。 私は嘘は言ってないし約束も違えてないんだから。」

「ライルのことを抜きにしても、貴女の賢さは貴重だ。」

「そんなの関係無いわ。」

「貴女との会話は腹立つことも多いが楽しい。 普通に出会ったとしてやり直さないか?」

「お断り。 私の中では貴方は敵認定のままだから。」

「惜しいが仕方ない。 令嬢たちは俺が抑える。 貴女は1カ月だけライラから離れろ。」

「1か月して変わらなければ ラウル王子にライラをあきらめさせるのに協力してもらうわよ?」

「わかった。 邪魔が減っても落とせないならラウルがヘタレなんだろうさ。」

「・・・貴方らしいこと。」

「俺がここまでやるのはラウルの為だし、俺にここまで言わせた女性は母と貴女だけだ。」

「じゃぁ、お互いに不干渉で静観ってことで・・・。」

「一時休戦だな。」

 ライル様がラウル殿下を大切なのは、私がライラを大切なのと同じだろう。 『俺にここまで言わせた女性は母と貴女だけ』と言っていたが、私がここまで率直に言うのも相手がライル様だからこそだ。 お互いにそれがわかるからこその最後の猶予だった。



 ********************


 その後、1カ月を待たずに事態は予想を大きく外れた方向に急展開した。


 まず、私について。 3度目の壁ドンの時に『ライラと確実に離すため』と言われ、私はライル様が管理してるリアブルの街に居た。 警戒されてるわね、仕方ないけど。 ここは本来はライル様の弟で3男のレイド様の領地だが、レイド様が18歳の成人を迎えるまでライル様の預かりとなっている。 ちなみに、ライル様は、ラウル殿下・ライラと同じ20歳、私は18歳、レイド様は17歳。

 で、私が大人しくここに来たのは、国立図書館が有るから。 王都から馬車で3時間、ドレス姿の令嬢が歩いて移動できる距離ではなく、国立図書館が有れば本好きの私が退屈して抜け出すことも無いだろうから、って言われた時は腹が立ったわね。 私の本好きを知ってるどころか、それを堂々と利用してくるんだから! 事実だから否定できないから尚更、ね。

 この街での滞在はレイド様の本邸を提供されていた。 ここには伯爵家うちの別荘は無いし、私をライル様の監視下に置きたいという思惑おもわくみたい。 その邸宅、なんと国立図書館の隣に有る。 国立図書館の最高管理人がリアブルの領主であり、来年には成人ということでレイド様はその地位に就いていたの。

 というわけだから、図書館で、邸宅で、私とレイド様はほぼ1日中一緒に居ることになった。 会ってみれば、レイド様、実に私好み。 1つ年下とも未成年とも思えない落ち着きと知識の広さ、本の管理の適切さに、破損した本の修理能力の高さ、好きな本の傾向も私と一部共通で・・・。 ライル様とのような楽しいけど腹も立つ会話ではなく、穏やかだけど心弾こころはずむ会話ができる。

 だから図書館の仕事を手伝いながら色々話していたら、なんとプロポーズされてしまいました。 第3王子との件も承知のうえとのことだったので、私は思わず即OKしてた。 結婚願望無かったはずなんだけど、レイド様みたいな人は今まで居なかったからね。 レイド様が未成年ということもあって婚約だけなんだけど・・・。


 翌日には、レイド様から私との婚約報告を受けたライル様が訪ねて来て、微妙な表情で祝福の言葉と『一度王都に戻って来い』と言われた。

 そして、ライル様が帰った直後、私から婚約報告したライラから意外な返事が届いた。


『おめでとう。 私も婚約したの。 両想いよ、祝福してね。』

 ライラからの手紙の冒頭がコレ。 一瞬、まさかラウル殿下に落とされたのか、と思った。

『ラウル殿下じゃないわよ? 隣国の第2皇子カイル殿下なの。』

 やはりラウル殿下には無理だったのね。 でも、カイル殿下?

『彼が先日我が国を訪れた時に会って、一目惚れ。 そうしたら、彼もそうだったらしくて翌日にはプロポーズされたの。 彼は美形というほどじゃないから、それでも整った見た目だけど、普通に対応できたの。 でも、それだけで婚約したわけじゃないのよ? 彼の担当は皇国の農業振興で、話が合うのよ。』

 なんか、レイド様と私と似てない? さすが従姉妹いとこってことかな。 なるほど、コレも有ってライル様の『王都に戻って来い』だったんだと納得。

 2日後、私は、国王陛下へや公爵夫妻、私への両親への正式な報告も兼ねて、レイド様と王都へと戻った。


 王宮で会ったラウル殿下は落ち込んでいた。 当然、表面は平静をよそおっているけど、いつもより闊達かったつさが無い。 ライラを口説くのを楽しんでたようだったけど、思ったより本気だったのね。 相手は隣国の第2皇子で、同じ第2王子とはいえ隣国の方が大きくて豊かだから、我が国としては歓迎したい縁組。 それに、ライラは婚約者候補でしかないから婚約解消ではなく候補からはずれるだけの話だし、ラウル殿下が一方的に口説いてただけなのをみんな知っているから、結構すんなり決まったらしい。 さすがのライル様もなくさめ方に困ってたみたい(少し気分がスッキリ)。



 ********************


 そして、今日はライラと私のダブル婚約式。 ライラのお母様姉妹(!)と私の母は親友なので、3人で盛り上がって合同婚約式に決めて王妃様を巻き込んで味方につけて・・・そんな彼女達を伴侶は誰も止められなかったらしい。 ライラのお母様と私の母は『ウチのが結婚できるなんて! それも恋愛結婚なんて夢のよう』とはしゃぎ、王妃様とライル様のお母様は『逆に男どもは情けないわね。』と苦笑。 なぐさめもあわれれみもせず苦笑だけで済ませてしまうんだから、強いというか何というか・・・。

 ライラが嫁ぐのは隣国。 私が嫁ぐのはレイド様だから滅多に王都にも社交界にも出ない。 (レイド様の仕事は領地と国立図書館の管理と文化の保護と教育の普及だからね。) おかげで、ラウル殿下やライル様を狙う令嬢やその親族からも心からの祝福をもらいまして・・・王族としても親族としても出席しないわけにはいかなかったラウル殿下達は表面を取りつくろうのに必死だったみたい。


 結婚したら、ライラとの物理的距離が開いてしまうけど、あのライル様が義理とはいえお兄様になるけど(あぶれた男性達が居るけど)・・・。 誰も予想しなかった形ではあっても、ハッピーな人が圧倒的に多いんだから、ハッピーエンドってことでいいわよね?


 ********** (本編)完 **********

 ライラとライル、ラウル殿下とシエラ、そう組み合わせチェンジしてくっつく予定が、『ライルとラウルを普通に幸せにするのはつまらない』と思った結果、この結末に・・・男に厳しいのは作者の傾向(笑)。

 主人公以外のほとんどのキャラが出番がほとんど無いというのは、私の短編の特徴になりつつあるような・・・(汗)。 何人かの本音を書いた番外編をまとめたものを後で別途投稿予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] シエラ視点で主要登場人物が ライラとライルとラウル。 どいつがどれだよw
[良い点] これぞ、まさに大どんでん返しってやつですね! 面白かったです。 表と裏で動いていた男達が哀れな気がしますが巡り合わせが悪かったとしかいえないのが何ともですねえ。
[一言] 面白かったです。 3度も壁ドンあったので、もしかしてライルとくっつくの?と思えばまさかの弟君と。 ライラも自分の理想の相手?と結婚できてよかったなと。 なかなか想像を覆す面白い内容でした。
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