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後編

和紗さんの部屋は。


「……締切が近いの?」


思わずそう聞いてしまうほど、雑然としていた。

前回来た時と、数段進化した部屋。汚い方に。

和紗さんは着ていたコートを脱ぐと、僕のコートと一緒にハンガーにかけた。

「……来週末、締切」

「もう、めどは立ってるの?」

「……いいでしょ、そんなこと」

ふいっと視線をずらして、和紗さんはうつむいた。

手にしているのは、家の近所で買ったあったかいお茶のペットボトル。

この部屋での飲み物はペットボトルに限られているため、予想外の僕の来訪に和紗さんが何も言わずに買ってくれた。

前回と違って帰れとも言われないけれど、話し出そうともしない。


はっきり言って、不満。


だって僕には喧嘩腰でしか話さない、ポーカーフェイスを崩さない和紗さんが。

クラスメイトだと言い張る彼に対して、そのポーカーフェイスが崩れるとかすっごい切ないんだけど。


でもまぁ、きっとなんかあったんでしょ。

過去。

これ重要ね、過去だから。

過去の男だから。


……なんか言い回しに微妙に傷ついた気がするけどまぁいいや。



だって、それよりもあなた、いいことがあったわけですよ≧▽≦


”和紗さんの彼氏”


そう、胸張って言えたこと!

それ以上に、和紗さんが否定しなかったこと!



対外的に彼氏と名乗れた記念日ゲッチュー≧▽≦



「……何、笑ってんのよ」

「記念日ゲッ……あ、え、え、えー」

思わず脳内雄たけびをそのまま言い出しそうになって、懸命にこらえた。

言うにしても、言葉を選ばねば!

「記念日って、何」

……聞こえてるしぃ。

和紗さんは怪訝そうな表情を浮かべて、僕をじっと見ている。

……キャッ

「赤くなってんじゃないわよ、気持ち悪い」

「……すみませんごめんなさい。いや、さっき彼氏って言っても否定されなかったから、嬉しくって」

「……聞かないの?」

うきうき浮かれながら今日のメインを取り出そうとしていた僕は、和紗さんのその言葉にきょとんと視線を返した。

「何を?」

「さっきの!」

喰い気味に叫ぶ和紗さんは、何か凄く動揺しているみたいだった。

「さっきの……ね。うん、別にいいよ大丈夫」

「いいって……」

「いいよ。だって僕には関係ないもん。和紗さんの彼氏でいさせてくれればそれでいいよ」

ね? と笑いかけると、眉を潜めた和紗さんが下を向いてしまった。

うん、この態度見るに本心では何があったか聞き出したいところなんだけど、まぁ、いい。

これ以上、和紗さんに追い打ち掛けたくないし。


それよりも――



「和紗さん、はい!」


心の中でせーのって声をかけながら、手にしたものを差し出す。

それは……


「手袋?」


リボンでラッピングしてある、青い手袋。

透明のラッピングは、ギフトショップの店員さんにお願いしてやってもらった。

だって、中身見えなかったら……和紗さんなら受け取らない。

きっと受け取らない……orz


「なに、これ」

少し驚いたように目を見開いている和紗さんの手に、拒否される前に手袋を押し付ける。


「バレンタインだから!」

「それ、性別間違ってる」

ものすっごい素早い返しが来ました。


……わかってますよ、そんなことくらいorz

でも、外国ではおもに男が! 女の人に! 贈り物するんだ!!

>欧米かヾ(・ε・。)ペシッ←初登場

じゃなくて。


「僕があげたかったんだから、世間と違くてもいいと思うんだ! 和紗さん、手荒れとかしたら物書き絵描きにあまりよくないよね? だから、これ使って!」

面倒くさがりな和紗さんは、下校時にあっても手袋をつけていない。

本当は僕がその手を握って温めてあげたいんだけど、全力で拒否されるだろうから。


……なんか、むなしいね。


脳内でそんなことを考えていた僕の手から、手袋が離れていく。

和紗さんは少し表情を和らげて、でも俯いたままありがとうと言ってくれた。

それで、結構幸せ……なのは、幸せのボーダーラインが限りなく低いからなのかなっ!

まーいっか!


だってあともう一つあるわけだよ、本日のメイン!


おもむろにコンビニ袋を探り出した僕を怪訝そうに見ている和紗さんの目の前に、さっ……とそれを差し出した。


「……それ……」

「うん、これも、和紗さんに」

そうやって差し出したそれは、君想いショコラという名の今人気のコンビニスイーツ。

爆発的に人気が出た初恋ショコラの期間限定品。

初恋ショコラの上に、小さな白いハートのマカロンがのっている。


「あのね、和紗さん。和紗さんが腐っていようと制服フェチだろうと筋肉フェチだろうとさっきの男との間に何があろうと、和紗さんは僕の彼女で僕の好きな人だから」

「喧嘩売ってるわけ? 絶賛高価買取中だけど」


和紗さんの突込みはこの際するーして、ぱかりとケーキのふたを取るとあらわれるコロンとしたマカロンを指先でつまみ上げる。


「君に想いの分だけキスしてあげる」by君想いショコラのキャッチコピー≧▽≦


マカロンを唇に押し付けてずいっと膝をすりながら近づけば、驚いたように体を引いた和紗さんが後ろに置いてあった学生鞄を倒してしまった。


「あ……」


ばさーっと中身が飛び出た学生鞄を見て、やりすぎたか……と思ったその時。


「……あれ?」


飛び出た中に、白い紙でラッピングされたものを発見!!

もしや……もしやこれは……!!

「……和紗さん、僕、もしかしてもてあそばれてた……?」

「っ! 何言ってんの、この馬鹿」

「えー、だってバレンタインのチョコ……、誰かにあげるつもりだったんでしょ」

飛び出たそれは、ハートのピンクのシールが付いたいかにもバレンタインな代物じゃないかぁぁぁ!


がくりと肩を落とすと、指先に何やら生ぬるい感触が一瞬してすぐに離れた。

「え?」

慌てて顔を上げると、口をもぐもぐしている和紗さんと何も持っていない僕の指先。

え、ちょっと待って。

今、僕の指から直接食べ……え、ちょ、あ……嘘だぁぁぁぁぁ!! 

そんな心のシャッターチャンスを見逃すとか僕もう生ける屍orz


和紗さんは床にめり込みそうなほど落ち込んでいる僕からそっと離れると、憎きチョコらしき箱を手に取った。

そのまま、僕に突き出す。


「なんで自分のって思わないのよ。あんた、私が二股するようなやつだと思ってるわけ?」

一気に言い放つと、そのままチョコの箱を僕に押し付けるように差し出してくる……から。


その手を取ってそのまま腕の中に閉じ込めた。

びくっと、和紗さんが腕の中で震えた気がするけれど、ここは引くべきところじゃないでしょー(๑ÒωÓ๑)9チッチッ



「ありがとう、和紗さん」

息が耳にかかったのか肩を竦めるように身じろぎした和紗さんは、別に……と拗ねたように呟く。

可愛くてかわいくてそのままぎゅーっと腕に力を入れれば、苦しい、と腕を叩かれて仕方なく力を弱めた。

「喜んだなら……、それでいいわよ」

「うん、すごく嬉しい≧▽≦」

だから。

「和紗さんに、僕の想いの分だけキスしてあげる……」

そう言って顔を覗き込むと、真っ赤になった和紗さんが困ったように視線を彷徨わせている。



いつものツン期も好きだけど、何このデレ期! たまんないんですけどどーしようかな!


変態彼女とか言いやがった高野に見せてやりたい、見たら目潰すけど。

和紗さんはこんなにかわいい人なんですよーってね。


「……ねぇ」

「何? 和紗さん」


いざチューへGO-! とか思っていた僕は、和紗さんの呼びかけにその動きを止めた。

すっごい焦らされるんですけど、マジ勘弁してほしいんですけど、なにこのお預け状態!

うずうずする体を何と宥めて和紗さんを見れば、恥ずかしそうにうつむいた彼女の口からとんでも発言飛び出しました!


「その、えと……今じゃなくて……。今日、帰り、遅くなっても大丈夫……?」


なにぃっ!! 明日は土曜日じゃないか! 泊りでもOK、むしろ泊りで!!


「はいもちろん≧▽≦!」



頷かなきゃ、男じゃないでしょ!











……うん、なんでこうなった?



「ちょっと。ぼけてないで、手動かして」

「はいっ」

「あー、はみ出てる。それホワイト掛けて、そういえばトーンの貼り方知ってる?」

「知りません!」

「和紗、ペンタブ使わせてー」

「うん、いいよ」



あれからすぐ夕飯を食べに外に出て、再び和紗さんの部屋に戻ってきたら。

知らない女の人が二人、なぜかそこにいた。


そういえばなんか夕飯食べてるときにメールしてたけど、これ……?


和紗さんは何のためらいもなく部屋に入り、定位置とも言える場所に腰を下ろす。

呆気に取られたように立ち尽くしていた僕を指さして、二人のおねーさま方に言い放ったのだ。


「いいアシスタントゲットー」←棒読み

「は?」←僕

「マジで!?」←おねーさま1

「モデル!」←おねーさま2



すげー、喜ばれたorz



だって。

「ちょっと右手貸して」

「足組んでみて」

「両腕、上にあげてみよーか♪ あ、縛っていい?」

「おにーさん華奢だねー、受け仔のモデルにしかならん」

「えー、私攻め様でもいけると思うんだけど。下剋上美味しくない?」

「いいねー♪」



……うん、死にたいorz



「和紗さん……」

恨みがましそうに和紗さんを見ると、微かに頬を赤くさせたままふぃっとそっぽを向いてしまった。

さっき二股疑惑をかけられたのが面白くなくて、ささやかな仕返しをしたってあとで言われた。






――これ、全然ささやかじゃないから!゜゜(´□`。)°゜



「それで、何時までいたの」

「……8時」

「夜の?」

「朝の」

「……お疲れ」

「ありがとう」

翌週、月曜日の高野との会話(笑

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