旅立
旅立ちです!
とある日の朝、師匠からこれまでに見たことのない鈍い光を放つ一振りの刀を渡された。
「虚雲よ、この7年でお主にはワシの技をほぼ授けた。おそらくはほとんどの武芸者は、お前の相手になるまい。この刀を持ち、世間に出て見聞を広めるが良い。」
「師匠!?…私はまだ七つの型を会得したに過ぎません。師匠の技は98あると聞きました。まだ半分だと思っていますが、そちらの伝授は頂けないのですか?」
「修行がおもしろいのは分かるが、これ以上は自分で研鑽して行く他ないな。
確かに型は七つ、じゃがこの型を左右対象に真逆にすることで、もう七つ型が増える。虛雲よ、お主に授けたのは「陰陽九十九手」という技で、そのうちの陽に属する49手じゃ。先ほど行ったようにこれを真逆にすることで、陰に属する49手となる。合わせて98手じゃな。」
「……更に奥義があるのですね。何とも深い。
師匠、まだまだ修行が足りぬと思います!もうしばらく」
「言うな!これより先は教わるだけでは身に付かぬ。
桜花掌とて、真逆にした陰手にするにはかなりの実践が必要じゃ。
それはこんな人里離れた場所では無理なのじゃ。」
「…分かりました。では、この刀をお借りして参ります。」
「分かってくれれば良い。その刀は「空鳴刀」といってな、昔のワシの愛刀じゃ。
お主に授けよう。あとはこれも持ってゆけ。」
不意に師匠から投げられたものを受け取る。
蒼月は桜花と共にありと書かれた扇子だった。
「師匠!どうしても行かねばなりませんか?
何処から来たのかすら分からぬ私を、今日まで育てて頂いた恩もあります。
師匠さえ宜しければ、このままお側にお使えしたいと思っています。」
「泣かせるセリフではあるがの。ワシもいろいろとやらねばならぬことがあるでな。
お主が陰陽九十九手のうち、98手を会得した頃に戻って来い。
何年か、何十年か後になるかは分からんが、最後の一手を授けてやろう。
それまでは霊峰山に戻ることはならぬ。」
「師匠!本当にありがとうございました。虛雲は旅に出ます!
いつか技を極めて戻って参ります。それまでご健勝でありますよう!」
虛雲は観念して、旅立つ決意をした。
この7年を想い起こし、目頭が熱くなる。
何度となく理不尽な扱いを受けたが、師匠の優しさだったことも分かる。
何より自分にとっては親のような存在になっていたことに気付かされる。
後ろを振り返らぬように、霊峰山を後にする。
いつか崖から見たあの街へたどり着いていた。
ーーーー虛雲を見送った後、ひとりつぶやく。
「やっと行きおったか。
最後の一手は刀に仕込んであるし、これで思い残すこともなくなった。
思わぬ寄り道ではあったが、虛雲を育てたことでワシの技も世に残るだろう。」
まさか自分がこのような気持ちになるとは思わなかった。
久しぶりに張雲志に戻れた気がする。心は晴れ渡っていた。
「久々に旧友を訪ねて回るとするか。何人残っておるかの。」
そう呟くと老人は、虛雲とは真逆の方角へ飛び去った。
いよいよ虛雲が旅して回ります!




