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師匠の帰還

今日は2話目の投稿です。

200PV突破!ありがとうございます!

霊峰山の地形はバラエティに富んでおり、全く退屈しなかった。

飛び降りたら確実に生命はないだろう崖や、遥かに見上げてもまだ先がありそうな滝、

進むだけでも薄暗い森林、いろんな場所があった。


とにかく身体が軽いので、俺は気の赴くまま行けるとこまで駆け抜けた。

気が付くと見晴らしの良い崖に出ていた。


「これはすごい。まさしく絶景とはこういう場所のことだな。」


思わず口に出た言葉がその景色を形容しているとは言い難い。

それほど見事な光景が目の前にあった。


麓の方に流れる小川がいつも水汲みに訪れていた場所だろう。

その少し手前あたりの小さな小屋らしきものが、住んでいるとこだろう。

また、その小屋らしきものの右手が薪探しの森だと思われる。


遠い記憶では彼方に海が見えるはずなのだが、それらしきものはない。

ただ、小川の遥か先に湖らしきものが見える。

その周りにはいくつかの点が微かに見えるので、あれが街なのかもしれない。


「確かに昔の自分ではたどり着く前に、野垂れ死にがいいところだろうな。」


そう考えつつ、師匠に感謝する。

おそらくは本当に気まぐれで薬を飲まされ、偶然に助かったのだろうが、

自分にとってそんなことはどうでもよかった。


この若返った新しい身体と、かなり厳しいが新鮮な修行の日々、

どれをとっても生きていることが実感できるものだ。


今こうして大地を見下ろすと、本当に実感できる。

空は青く澄んでおり、雲は悠久の流れに身を任せるように、

風の向くまま、まばらに漂っている。


「うーん、本当に清々しい気分だ!」


感無量になった俺は思わずその場に横になり、空をぼーっと眺める。

そういえば師匠はどこまで出掛けたのだろう。


師匠が出掛けて、もうすぐ1年が経つ。

おそらくは気の赴くままに旅を続けているのだろう。

あの人にはこの霊峰山ですら、狭いと感じるのかもしれない。

まさに空の続く限り、気分次第で何処までも行きそうだ。


そんなことを考えていたら、いつの間にか俺は眠りについていた。


朝陽が登り、顔に当たる。

ポカポカして本当に気持ちがいい。


ぐるるるる。

不意にお腹の音が鳴り響いた。


「確かにここ3日ほど何も食べてないな。」

師匠の残した干し肉や、米は1週間前に食べ尽くしてしまった。


食料を求めて、霊峰山を探索していたが、

霊峰山の至る所に果実が実っており、これを食べていたのだが、

この崖を目指して登るに連れ、どんどん険しくなる山道が楽しくて、

つい駆け登ったり、駆け下りたりを繰り返すのに夢中になってしまっていたのだ。


「今日は魚でも取るかな。」


そう思いついた俺は崖を駆け下りる。

内気のコントロールが今や自分の身体のようにできる俺は、

特に苦労もなくまるで、滑り降りるように小川まで辿り着けた。

おそらくは10分程度かかったかどうかだろう。


小川に着くと適当な枝を見つけ、ひょいと水中に投げ込む。

数秒して魚が枝に貫かれた状態で水面に浮かび上がって来た。


「よしよし、これであとは火だな。」


いつの日だったか石を飛ばして遊んでいたのだが、

何かの拍子に木にめり込んだ石を見た俺は、

その応用で枝を適当に切って石のめり込んだ木に飛ばしてみた。


予想通り枝はその気に突き刺さった。

それからこのやり方を応用して、魚が取れないかと創意工夫を重ね、

ついに魚釣りに成功したのだった。


それからは、たまにこうして魚を取って食べている。

とはいえ、ここは誰も魚を釣ろうとしない場所であり、

水中にたくさんの魚が居たからこそできることに違いなかった。


小屋から火打石だけは持ってきていたので、適当に蒔を集めて火を付ける。

魚はやがておいしく焼けた。


「頂きます!うん、うまい!師匠にも食べさせてあげたいなー。」

「そうか、ではワシにもひとつもらおうかの。」

「!?」


気が付くと隣に見覚えのある爺さんが座っていた。


「師匠!今までどこに行かれてたんですか!」

「第一声がそれか。まずはおかえりなさいじゃろ。」


俺は師匠にポカリと頭を小突かれ、魚を奪われる。


「まぁ枝を使って魚取りが出来るようになっておったとは、修行は怠っておらんようじゃの。」


「見られていたとはお恥ずかしい限りです。修行は毎日かかさずやっておりました!今では小川までひとっ飛びです。」


「よかろう。それではそろそろ技を教えようかの。」


「ありがとうございます!」


「ワシの教えた口訣を覚えておるか?」


ー朝陽を持って始まりと成し、青月を持って終わりと成す

ー桜を持って始まりと成し、白銀を持って終わりと成す


ー空飛ぶ鳥は地を這う虫を捉えるも、我が子の為ならばこそ

ー地を翔ける獣は水面に遊ぶ魚を喰らわんとすも、番いの為なればこそ

ー水中の石はいずれ大海を知る、地中の蝉はいずれ大空を知る

ー山林の傀儡はいずれ誰が為に何をか成さんや


俺は一言一句違わず答える。


「そうじゃ、良く覚えておった。ワシの技は太陽と月、つまりは陽と隂の相対する二つの気の流れを基本とし、7つの型に分かれておる。その7つがそれぞれ7種類に派生し、陽を表、隂を裏とし、それぞれが49手、つまりは98手存在する。」


「そんなにたくさんあるのですか!?私に覚えられるのでしょうか?」


「心配しなくても良い。一つの型が覚えられなければ、とても次の型には進めないようになっておる。」


「ありがとうございます!安心できました。時に師匠、その型を全て修めた方はいらっしゃるのでしょうか?」


「お前は知らないだろうから、この機会に教えておこう。

この世の中には達人と呼ばれるものが何人もおる。

その中でも特に名が知られておるのは、風林火山と呼ばれて4人じゃ。

風裂剣の岳独湖、少林寺の無道大師、火剛拳の呂範仁、山壊掌の楊鉄山という。

みな異名を持っておる。もしも出会ったらまず道を譲れ。

生命が惜しいなら、何があろうと戦うな。」


師匠は真剣な眼差しで俺に伝えた。

その雰囲気から只者ではないことが伺い知れる。


「師匠、分かりました。その4名の名は覚えておき、近づかないようにします。」


「うむ。それが懸命じゃな。それではまず一の型を伝授しよう。」


こうして俺は師匠より、初めて技を習うのだった。

その修行は苛烈を極め、全て修める頃には17歳になっていた。

虛雲の年齢は虚空上人と出会った頃を10歳としています。

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