飛べるんです?
今日も寒いですね。お買い物行かなくちゃ。
内気を繰り返して練習するうち、俺はあることに気がついた。
気の流れを意識することで、普通の動作が何倍にも速く、
また軽く感じられるのだ。
初めのうちは偶然だと思っていた。
だが、内気の練習を初めて3ヶ月くらい経った頃に気が付いた。
いつもの水汲みに行った帰り道、ふと石に躓き転びそうになり、
咄嗟にジャンプして回避しようとしたのだが、フワっとした感覚に身体が包まれた。
何が起きたのか分からずに気を取られたまま、
俺は着地に失敗し、そのまま地面に突っ伏す形ですっ転んだ。
(いったい何が起きた?身体が急に浮かび上がったように思えたが?
この水桶いっぱいに満たされた水、これを二つ抱えたまま飛んだ?)
立ち上がりながら、冷静に状況を考えてみる。
確かにさっきの感覚は妙だった。
辺りを見回してみる。…誰もいない。
「師匠!いま何かされましたか?」
大声で叫んでみるが返事はない。
師匠の仕業ではないとすると、自分で飛んだのか?
…やってみるか!
その場で軽く飛んでみた。
「のわぁぁぁぁっっ!じ、じめんがわわわわっ」
俺は2mくらい飛んでいた。
いつも見上げていた道沿いの木の枝に目線が重なっている。
…やめておけば良かったが、つい下を見てしまう。
…………ドシャリ
「がはっ。…なんかちゃこれ。すごいけど、痛い。」
バランスを崩して背中から落ちてしまった俺はその場にうずくまる。
ただ、あり得ない現実が自分の身に起きてしまっている。
ーー虚空上人、只者ではない。
何も持たざる自分がこんなジャンプ力を得られるとは。
師匠はやはりすごい。
今までの修行が意味あることだったという実感。
師匠への感謝、少し疑っていた事へのバツの悪さといった感情が一気に浮かぶ。
「まずはこれを続けよう。いろいろ応用できそうだ。」
そう思い直すと俺は、水汲みに戻る。
さっきのイメージで地面をなぞるように動かすと、
これまでとは違い、あっという間に小川へたどり着いてしまった。
「いかんいかん。慢心は良くない。」
そう言って俺は師匠に毎日唱えさせられた言葉を思い出す。
ー朝陽を持って始まりと成し、青月を持って終わりと成す
ー桜を持って始まりと成し、白銀を持って終わりと成す
ー空飛ぶ鳥は地を這う虫を捉えるも、我が子の為ならばこそ
ー地を翔ける獣は水面に遊ぶ魚を喰らわんとすも、番いの為なればこそ
ー水中の石はいずれ大海を知る、地中の蝉はいずれ大空を知る
ー山林の傀儡はいずれ誰が為に何をか成さんや
毎日修行に出る前、寝る前にしっかり練習させられた言葉だ。
これを声に出すと不思議と心が落ち着き、世界と繋がったような感覚になる。
俺はこの瞬間が好きだった。
なので心が動かされて落ち着かない時には、この言葉を唱えるようにしていた。
「ふぅーっ。落ち着いた!じゃあ、とっとと日課を終わらせよう!」
次の日から約2ヶ月が過ぎた頃、薪割りまで終わらせるのに20分もかからなくなっていた。
そして退屈になった俺は霊峰山を探検し始めたのだった。
短いですがすみません。




