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トーリャン家

お久しぶりです。

いろいろ勉強しながらまったり書いてます。

「ごめんください!どなたかいらっしゃいませんか?」

虛雲は街外れの、大きいが少し古びれた屋敷の門前で大きな声を出す。


これまで食べたことのない、でもどこか懐かしい感じのするご飯、

林家に泊まるにあたり振舞われた食事に、すっかり心を奪われてしまった。


そして、虛雲に長く滞在して欲しい林史と、

泊まるなら働かざるもの食うべからずを主張する林春、

美味しいご飯がもっと食べられるなら何でもやりたい虛雲、

三者の思惑が一致し、虛雲は林史の代理として、仕事をすることになった。


来来客銭と食事と宿を商売にしているが、

店の切り盛りはほとんど林春が行なっており、

蒼志会のメンバーとコンタクトする為に良く各地を旅していた林史は、

街の住人から名産品の買い付けなどを頼まれ、それらを街に戻った後、

配達することを生業としていた。


今回、まだ傷の癒えない林史に代わった虛雲は、

地理感はないものの、配達先の建物の特徴や、おおよその方角、

道のりなどを典満から聞き出し、屋根に飛び乗り目的地を確認した。


そして目的地を見定めると、得意の体術で瞬く間に配達するものだから、

すこぶる捗り、残るは林史の家から一番遠いトーリャン家のみとなっていた。


このトーリャン家と林家とは付き合いが古いらしく、

お届け物も西方に伝わる秘伝の薬品なんだとかで、

トーリャン家の主人であるセイ・トーリャンに対し、

林史から必ず直接手渡しして、くれぐれもよろしく伝えるように言付かっていた。


しかしながら、困ったことに、先ほどから何度も声を張り上げるが、

建物から人が出て来る気配がない。


いや、実際に静林観で探ったところ、屋敷には十名前後がいるはずなのだが、

玄関方面へは全く動こうとしていなかった。


(うーん、ここだけ配達できないというのもなんだか悔しいな。

声に気付かないくらいの何かをしているのかな?ちょっと中の様子を見てみるか。)


そう呟くと虛雲は塀を飛び越え、誰にも気付かれないように気配を殺しながら、

トーリャン屋敷を徘徊すると、とある部屋から会話が聞こえてきた。


「おい、玄関で声がしなくなったぞ。やっと諦めて帰ったか。」


「みたいだな。かなりしつこかったよな。」


「しかし、こんなに警戒する必要あるのか?いくら林の若旦那が、黒衣隊に生命を狙われたからって、うちの旦那様にまでお咎めがあるもんかい?」


会話からすると、どうやら居留守を使っていたらしい。

虚雲は少しイラっとする。使用人の会話にもう少し耳を傾けてみる。


「さてなぁ、旦那様はお役人とも付き合いが深いからな。黒衣隊に狙われる林の若旦那と、昔馴染みで懇意にしてるってのは、どうしても知られたくないんだろう。」


「そういえばこの前、役所の新知事の屋敷へ就任祝いの挨拶に行ってからだな。

旦那様が林の若旦那が尋ねて来ても、絶対に掛け合うなと命令されたのは。」


「ってことは、あまり詮索しない方が良さそうだな。仕事、仕事っと。」


「確かに俺たち使用人には関係ない話だな。仕事、仕事っと。」


関わり合いになるとろくでもない目にあいそうだと、

使用人達はバタバタと音を立てて、慌てて作業し始めた。


(…なんだか裏に事情がありそうだな。しかしこの荷物を抱えたまま帰るのもなぁ。ここはひとつ…)


虛雲はトーリャン屋敷の玄関に戻り、また声を掛ける。


「ごめんくださーい。誰かいませんか?お届け物があるので、ちょっと失礼しますねー。」


虚雲はそう言い終わると、門に両手を当て、ググッと力を込めて開門させた。

普通は開門するのに使用人が2人揃って、やっと片側が開くくらいの重さであり、

若者が1人で開門できることはありえない。


門が開いた先には、庭が広がっており、開門の音を聞き付けた使用人達が、何事かと集まって来ていた。


「おお、やはりおられたのですな。お忙しいところ申し訳ない、私は虚雲と申す者で来来客銭で世話になっている。此度は林史殿から、セイ・トーリャン殿へお届け物を持って参った。ぜひともお取り次ぎ願いたい。」


使用人の1人がしぶしぶ答える。


「大変申し訳ないのですが、主はただいま留守にしております。日を改めては頂けないでしょうか?」


虚雲は大げさに落胆の身振りをし、屋敷の内外へ澄み渡る声で続ける。

「悲しいけれど、私はどうにも信用されてないらしい。よろしい。では、このツボの中身をお伝えしよう。」


周りの使用人達を見回しながら、更に大きな声で続ける。

「このツボの中身は、我が主、林史へと極秘密裏に依頼されたものだと聞く。セイ・トーリャン殿が長年に渡り欲していた西域の秘薬がはいっている。これでも信用頂けない場合には、その薬の効能を申し上げればよろしいか?」


そう言い終わらないうちに、40代半ばの脂の乗り切った風貌の男が、屋敷の奥から血相を変えて走ってきた。息を整えながら虚雲に話し掛ける。


「待て、待つんじゃ!お若いの!お主のことは信じよう!ワシがセイ・トーリャンだ。積もる話もあるし、奥の居間へ案内致す。おい、さっさとこの方を案内せんかっ!」


セイ・トーリャンは、よほど話を広められたくなかったのだろう。

その場をおさめて、虚雲を居間へと案内した。


「これはセイ・トーリャン殿、無理に押し掛けてしまい、本当に申し訳ない。某は虚雲と申す。縁あって来来客銭で世話になっている。」


「こちらこそ使用人が無礼を働いたようで申し訳ない。して、お届け物を拝見させて頂いてよろしいか?」


「ええ、こちらです。林史よりは必ず直接渡すように言付かっておりましてな。多少強引な手段を取らせて頂きました次第。ご容赦願いたい。」


「いや、こちらこそ、居留守を使った格好になり申し訳ない。実は新しい県令が林史殿を目の敵にしている黒衣隊長の叔父でしてな。時期的に、林史殿と懇意にしているという噂はかなりマズイ。さもすれば、ワシが裏で林史殿を助け、喬李を襲ったなどと勘ぐられれば、首が飛んでしまう。」


「なるほど。して、その喬一族はかなりの権力を持っておるので?」


「虚雲殿はご存じないかもしれぬが、喬配という新県令は甥の喬李と結託し、この辺り一帯の権力を掌握し、自由に謳歌しようとしておるらしい。ワシが言うことではないが、充分に気を付けなされ。」


「かしこまりました。林史にはそのように伝えます。しばらく会わない方がよろしいのでしょう。」


「ご理解痛み入る。これは秘薬の代金じゃ。林史殿には、ほとぼりが覚めたらワシから挨拶に行くと伝えて欲しい。」


「委細承知。それではこれにて失礼致す。人目につかぬ方がよろしいでしょうから、このまま来来客銭へと戻ります。お気遣いなきよう。」


虚雲はそう告げると、その場から文字通り姿を消した。


「恐ろしい武術の使い手よ。喬配も厄介じゃが、虚雲という男に恨まれれば死は免れまい。林史め、良いコマを手に入れた。おそらくは武林四天王の誰かでも動かぬ限り、身の安全は保証されたも同然。…羨ましい。」


1人取り残された居間で茶をすすりながら、誰にともなくセイ・トーリャンは愚痴ってみた。

この小説は処女作なので、形はどうあれ最後まで書きたいです。

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