勝敗
7話 勝敗
その後。
「ちょっと! イチ君! あたし付き合うなんて一言も言ってないんですけど!」
「なんだよー俺のこと好きなくせにー」
「好きだよ? 好きだけどもね?」
「へぇこの子が一輝の彼女?」
あたしはイチ君が通う高校の文化祭に無理矢理連れて来られていた。
「可愛いけどさぁ……なんか意外かも? いやでもお前もともとは真面目だもんなぁ」
イチ君の友達はそう言った。
確かに昔は真面目だった。今はよく知らないけど。
「イチ君成績良いの?」
「こいつ学年一番だよ? つーかイチ君とか可愛い呼ばれ方しちゃって」
その人はイチ君ことをからかって遊び始めた……けどあたしはそれどころじゃなかった。
イチ君が学年一番?
「あたし帰る」
家帰って勉強しよう。まさかこんなのに実は負けてたなんて!
悔しい、悔しい悔しい悔しーい!!
「ちょ、咲!? なんで!?」
「あ、一輝がフラれた」
イチ君のお友達の笑い声が聞こえてきた。イチ君に手を捕まえてられて振り返らせられる。
「離して。しばらく会わないからそのつもりでいてね」
再来週は中間テストだし……やっぱり今日来るんじゃなかった。
勉強してれば良かったわ。学校は違えどイチ君は学年1番、私は4番。悔しい!
「何で!? 俺なんかした? ちょ、咲!?」
「再来週まで待ってなさい」
「ええ!? 何で再来週!?」
**********
次の月曜の朝、うちのマンションの前でイチ君が待ち伏せをしていた。
まぁ勝手に帰っちゃったからね……家帰ってから少し反省したのよあたしも。
でもその姿は……。
「どーしちゃったの? イチ君……アハハ! 真っ黒!」
髪の毛を黒く染めて短くし、黒縁めがねをかけて、きちんと制服を着たイチ君がいた。
「笑うなよ! 咲が帰った意味がわかんなくて悩んでたらあいつが……見た目じゃね? とか言い出して」
「言い出して?」
「咲も前にインテリっぽい俳優見て格好良いって言ってたし」
「…………ププ、アハハ!」
少しの間は我慢できたけど無理だった。
爆笑してしまいました。だって……焼けて黒い肌だし髪真っ黒だし、とにかく全体が黒いのよ。
「あ、たしが好きなのは、色白、よ?」
「は?」
「だってインテリっぽく見えないわよ、イチ君がそんなカッコしたって!」
「……だって肌の色はそんな簡単に戻んねーんだよ!」
イチ君はばつが悪そうなかんじ。でもね?
「あたしが好きなのはイチ君だもの。どんなイチ君でも問題ないわ」
あたしもイチ君に甘いわね。結局のところ大好きなんだから。
「咲!」
抱きしめようと伸ばされえた手を叩き落した。
「人間的な意味で大好きよ」
本当は、半分嘘。
あたしは気付いてる。イチ君といると幸せを感じている自分に。
これは恋?
わからない。
だけど一緒にいると安心できて、だけどたまにきゅんとして、愛おしく思えるときがある。もしかしたら、コレがイチ君の言う愛ってやつなのかしらね?
「じゃあこれからずっと一緒に居てよ。一緒にいるうちに性的な意味で好きになるかも。結婚しよう!」
「……それもいいのかもね」
あたしの言葉にビックリするイチ君の唇をそっと奪ってやった。
とたんに嬉しそうにとろける顔に心がきゅんとする。
「咲愛してる! 幸せにするから」
「ばーか!」
今まで追いかけてくるイチ君をなんとか跳ね返そうと頑張ってきた。
たぶん…あたしは意地になってたし、イチ君を信用してなかった。それにわからないことだらけだった。イチ君はふざけてて、なのに何故かあたしに執着してて本当にしつこくて、困ることもあって、だけど嫌いになれなくて。
だから続いていた攻防戦。追いかける方と逃げる方。
イチ君とあたしの攻防戦はきっとそんなに長く続かない。
だってあたしの心の中にはもう結果がある。それもかなり明確に。
何で嫌いになれないの?なんて思ってたあたしこそが馬鹿だったのかもしれない。だってきっと答えなんて結構昔から心の中にあったんじゃないかしら?
もう追いかけてくるイチ君を跳ね返す力も皮肉も思いつかない。
負けた後のことを考えて、あまりにも幸せで泣きたくなるぐらいなの。本当に自分が馬鹿みたい
でもね。
敗北をそう簡単に認めたくないから。だから。
「まだ好きなんて言ってやんない!」
呆けているイチ君に背を向けて走り出す。
あたしはまだ17歳。
まだ結婚なんてしてやんないし、まだまだ追いかけて欲しいんだもの!
本編完結です。
お付き合いありがとうございました。
何年か前に書いた話ですが、番外編書きました。
次回更新です。