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幸せ

3話 幸せ


生徒会室を開けると会長と目が合った。

「どーも。今日も早いね沢田会長」

あたしが声をかけても頷いただけだった。

会長は男子の中では変人で有名だ。

だけど女子の中では人気がある。

クールで優しい! ……ってバカみたいなんだけど。

でもわかんないでもない。外見はツボなのよね。

サラサラ茶髪に銀縁メガネ、すらっとした体躯に学年二位、部活はやってないのにスポーツ万能。

本当に漫画に出てくる王子様のような人だし。

でも会話が続かない。

何考えてるかわかんない。

彼が笑顔になったのなんて3回ぐらいしか見たことないわ。

あたしは必要な教科書を自分の棚からとってカバンに詰めた。

「会長、もう直ぐチャイムなるわよ」

そう声をかけたら珍しく返事があった。

「ああ、ありがとう」

今日は気分が良いらしい。



あたしの学校生活は絵美中心に回っている。

そんな絵美に最近…でもないけど夏から彼氏が出来た。

大分邪魔なんだけど!!

二人にとってはあたしが邪魔者なんでしょうけど。

でも二人をけしかけてくっつけたのはあたしなんだから少しは多目にみてほしいわ。

「絵美は毎日幸せそうねぇ」

あたしがつぶやくとお弁当を食べていた絵美がこっちを見た。

「ふぇ?」

このお弁当がまた、木本君の手作りなのよね。

木本君が食べてるのが絵美の手作り。

このイチャイチャカップルめ。

「咲は幸せじゃないの? ……まさか! 彼氏が浮気とか?」

「……別に具体的な不幸なできごとに見回れてるわけではないわね」

絵美は首をかしげながらパックの紅茶を飲んだ。

「じゃあもしかして、あれ?昨日帰ってきたテストでまた志波くんに負けたから嘆いてるの?」

「……せっかく忘れてたのに嫌なこと思い出させないでほしいわ」

あたしは机にうなだれた。

拓真にテストで負けるのはいつものことだけれどやっぱり負けるとムカつくのよね。

しかも会長にも、めったに学校来ない高田さんにも勝てないし。

「それも違うかぁ。じゃあなんだろう……うーん」

絵美がお弁当食べながらまだ考えてる。

的外れな感じだけど。

あたしの学校生活って平和だなって思った。

「幸せじゃないからって不幸ってわけでもないものよねぇ」

「不幸な人なんてそうそういないよ~」

絵美は言いながらお弁当をつつく。

「でも自分が幸せだって思ってる人もあんまりいないよね。贅沢な話! って前は思ってたなぁ。前って小学生のときね、うち親がもめてたからさ」

「もぐもぐしながらなんだか今日は立派なこと言うわね」

「う~ん、最近、私って結構ヘビーな小学生時代を送ってたのかなぁって思いだしてね、ちょっと。離婚問題なんてよくある話だけど」

絵美はわざと遠くを見るような表情をした。

「確かにヘビーだわ。普通中学生は1人暮らししないでしょ。あたしが小中学生のころなんて……今とあんまり変わらないかも」

「それはまた大人な小学生だね」

絵美は食べ終わったお弁当箱をしまった。

二つの色違いのお弁当箱。

木本君は今部活に行ってていない。

二つのお弁当箱は朝と夕方交換される。

なんだかそこに幸せを見いだした気がしたけど、きっとあたしは一生だれかとこんな風にお弁当を交換したりはしないだろうなと思って大きなため息を付いた。

「ため息一つにつき幸せが一つ逃げるんだよ? だから咲は今幸せじゃないんだよ! 取り返せ! ほら吸って吸って」

「別に不幸じゃないからいいわ」

「えー、咲ノリ悪い!」



**********



「いらっしゃいませー」

入ってきたお客さんに向かって笑顔で振り向いた瞬間私の笑顔が固まった。

「何固まってんだよ咲。ちゃんとお客さんで来たんだから接客しろよ」

イチ君が女の子と一緒に立っていた。

「ねぇこの子知り合いなの?」

イチ君の腕にくっついてる彼女さんらしき人が可愛く見上げながら甘えた声をだした。

この子絶対家とじゃ2オクターブぐらい声が違うに違いない。

もっとやるならまわりにばれないように猫かぶればいいのに。

バカそうな子。

「俺の大事な子~」

イチ君の返事に彼女は鬼のような形相であたしを見たけどあたしは平然と返した。

「妹みたいなものですよ。じゃなきゃロリコンじゃないですか」

「お前自分で言ってて落ち込まないの? こいつ俺たちの一個下なだけだから」

「えー、見えなーい! 小学生が働かされてるのかと思った~」

言いながら馬鹿そうな女は笑った。

勝利の笑みってやつね。たぶん。

まったく、こんな馬鹿女に馬鹿にされるなんて冗談じゃないわ。

こいつの悪ふざけから始まったことだし、ちょっと仕返ししてやろうかな。

「彼女さん知ってる? こいつの家すごい乙女チックなのよ? こんななりして家中ピンクで好物はプリンで未だに母親のことママって呼ぶのよ?」

「はぁ?」

「愛読書は少女マンガで、実は美人よりも可愛いらしい女の子のほうが好み。有名でしょ? 相手してくれても一回きりで態度が冷たいって。それはちっちゃい子にしか興味がないからなのよ」

ほとんどは本当のことだけど最後のは大分でっち上げだったりする。

まあその辺はどうでも良いのよ。

「なーんだ良く知ってんなあ、咲」

「にょわ!」

急にやつはあたしの後から手を回して抱きしめてきた。

「俺のことそんなに詳しいのは咲だけだって」

ぎゅうって抱きしめられてる。イチ君の息が首筋にかかってくすぐったい。

「ばっかじゃない?」

そういい残し、思い切り扉を閉めて馬鹿そうな子は帰って行った。

「感じ悪いやつだったな」

「彼女もあんたには言われたくないでしょうよ」

「そう?」

言いながらニヤニヤしやがって、こいつ!

「ごほん。……お客様?1名様ご案内でよろしいでしょうか? っていうかいい加減離れなさい」

「ヤダ。もう上がりだろ?うち行こう、うち。ピンクのフリフリハウス」

あたしは大きくため息をついた。

「知ってる?ため息の数だけ幸せが逃げるんだって。あたしはあんたのせいでいくつも幸せを逃がしてるわ」

「その分俺が幸せにしてやるから大丈夫だって」

あたしは更にもう1つため息をついた。



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