終焉のはじまり
「---サプライズの始まりだよ...」
そんな言葉にユーザーたちは、
「えっ?」とか「おおっ!」とかそれぞれ反応している。
男は再びしゃべり始める。
「サプライズと言ってもそこまで大それたものじゃないさ、ただの正式発表だよ。」
この声には大衆の大半は、「おおっ!」という声を漏らしている。
男は再び呟く。
「みんな心して聴いてくれ。」
その一言に、広場は静まり返る。
「今現在、このゲームは始まったばかりだ。
レベルも、職業も無ければ、スキルも無い。
始まったばかりの、しかも新感覚のゲームとして楽しんでいるだけに過ぎず、やりこめばやり込むほど 不足感が募っていくだけだろう。
開発者としてもそう思われるのは心外だ。既に気付いている者もいるかもしれないが、」
「現時点より、《Over World》Onlineの公式サービスを開始する!」
広場は、一瞬の静寂の後、「KITAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」や「おおおおおおおおおおお!」という歓声で埋め尽くされた。
そんな中、目の前にウィンドウが表示される。
『職業を選択してください』
【戦士】
前衛として戦闘を行うための技術、力を持つ。
【魔術師】
魔法攻撃を得意とし、多くの特殊技能を併せ持つ。
【奇術士】
他の職とは異なり、特異な能力を扱う特殊術士。
【市民】
戦士たちのアフターケアを行う、職人見習い。
俺は迷わず【戦士】を選んだ。
「公式サービス開始に際して、一人に5つずつランダムでスキルカードを与えよう。
だがスキルを取得する方法、レベルアップするか、スキルカードを手に入れ装備するか、特定条件を満たすことで習得できることを忘れず、特にスキルスロットを有用に扱ってくれ。」
『スキルカード【高速思考】を手に入れました!』
『スキルカード【集中】を手に入れました!』
『スキルカード【無心】を手に入れました!』
『スキルカード【索敵】を手に入れました!』
『スキルカード【道化】を手に入れました!』
「これより、《Over World》Onlineを大いに、そして永遠に楽しんでくれ!」
黒いローブの男はそういうと、空間に溶けるように消えてしまった。
恭也はその言葉に違和感を感じ取った。
『職業が開放されました。』
『スキルが開放されました。』
『戦闘スキルが開放されました。』
『ログアウトが不可能になりました。』
「えっ!?」
一瞬の静寂だった、
「さ、さすがサプライズだ、ログアウト機能も無くなってやがる。」
一人の男が震える声でそう呟くと、またしても一瞬の静寂が広場を覆う。
「お前誰だよ!?」
「ひっ!体が、顔が!?」
そんな叫び声が聞こえたと思ったら、体が光に包まれた。そして、光が和らぐと幾らか視界の位置が変わったような気がする。
いやな予感が背筋を強張らせる。反射的に剣を引き抜き、その刀身に映った自らの姿を確認した瞬間、言葉を失った。
―アバターの姿が現実世界の姿と同一だったためだ。
「さすが運営だなぁ!」と笑い飛ばすものもいれば、
「なんで何も音沙汰が無えんだよぉ!?」と叫ぶ者もいた。
だが、いつまで待ってもログアウト機能が復活することは無かった。
そんな中で、恭也は「ああそうか。」と、本当にログアウト不可能だということを改めて再認識した。
まず第一に、サプライズだとしても運営側には何の利益も無い。
最悪、訴えられ、サービス停止などということに為りかねないからだ。
第二に、運営が放った「永遠に楽しんでくれ。」という言葉。
これは俺たちにログアウト不能であると宣言しているようなものである。
「永遠」という言葉からも、「死にはしないのか・・・?」とも考えたが、最終的になにがどうあれ死なないということが大切だという考えに切り替わった。
辺りは、真実から顔を背けるような、多くの怒声などで喧騒が絶えない。
そこからの恭也の行動は早かった。
宿が満杯になる前に三人部屋を取ると、サキとエンドをチャットで部屋に呼び出した。
その間にも白銀の鷲は肩に止まったままだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宿の前で待っていると、エンドが泣きじゃくるサキを引きずるように連れて来た。
「うっう、ぐすっ、ひっく...、私たちこれからどうなっちゃうんですか?」
「・・・。」
その質問に答えることはできなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋に通して、サキが落ち着くのを待ってから話し始める。
「単刀直入に聞く、お前らは攻略組と停滞組、どっちに付く?」
俺の質問に対しての答えは、
「俺は攻略組に付くつもりだ。」
「わ、私も攻略組に属したいと思っています。」
意外とも、予想通りともいいがたい返答だった。
「そうか、俺も攻略組に付こうと思ってる。ちょうどいいから情報交換でもしとくか。」
二人が頷くのを見て、話し始める。
「俺の職業は戦士だ。」
「私は魔術師です。」
「ま、予想通りか。俺は戦士だ。」
二人もうんうん、と頷いている。そしてエンドがおもむろに挙手をすると、
「なぁ、あの鷲って何なんだ?」
「それ、私も気になってました。」
二人は窓枠の桟に止まった、銀鷲を見ながら言った。だが、その答えは、
「知らん!」
堂々と言い放ってやった。
「【テイム】の恩恵じゃないのか?」
「【テイム】?何じゃそりゃ。」
「さっきスキル貰ったじゃないですか。その中に【テイム】はありませんでしたか?」
「無かったけど。じゃあスキルについても聞いとくか。あぁ、詳細までは言わなくていいぞ。いつか不利ななるかもしれないからな。」
その場でもう一度スキルを確認して顔を上げる。
「俺は【陽炎】【斬鉄】【採取】【鑑定】【滾り】だ。微妙だな。」
エンドはちょっと残念そうに言った。
「私は【集中】【収束】【輝氷】【魅惑】【遠見】です。魅惑って何ですか、魅惑って。」
サキは恨みがましそうに言った。
「無い魅力が備わったんだからいいじゃないか。俺は【高速思考】【集中】【無心】【索敵】【道化】だ。」
「良さそうなの揃ってんなぁ。」
エンドが感心したように呟いた。サキにはキツク睨まれた。
「ゴブリン狩りに使えそうな奴でよかったよ。」
と、言ってやると、
「お前、まさかとは思うがレベル1でそんなのと戦ってたのか?」
「そうだけど?」
エンドから大きなため息が聞こえる。
サキに至っては口をぽっかりと開けたままだ。
「はぁ、ああそうだ、そうだったな、お前はそんなやつだよまったく、もういいわツッこむだけ疲れる。
で、結局あの鷲は何なんだろうな。」
「さぁな。」
「まあほとんど情報も無いが、」
二人とも頷いている。
「他に何かあるか?今後考えられることでもいいぞ。」
すると、サキが口を開く。
「やはり職業の転職、Lv、サブ職業があると考えたほうが無難ですよね。」
「まあそうだな、そのうち分かると思うが、Lvアップとかグランドクエストクリアとかな。」
「グランドクエストかぁ。どんなストーリーなんだろうな?」
その質問に対して全員が黙り込んだ。
「そんなこと考えるだけ無駄だ。もう休もう、明日のことはまた明日。」
そう言い残し、布団に入る。
横からも二人がそれぞれ布団に入る音が聞こえる。
俺は決意することとなる、妹たちを現実世界へ絶対に帰還させると。
そうして、終わりが始まった...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明朝
広場は宿に入れなかった人々の啜り泣きが響き渡っていた。
話し合いの末、恭也はエンドとサキとは別行動ということになった。
俺は「少人数で狩りをしたほうが経験地の割合がいい。」と、3人で行動することを提案したが、サキとエンドの二人は「効率よりも安全を考えたほうがいい」と、「ギルドに入ろう!」と誘われたが、力を得ることに焦っているように「集団は苦手だ。」と言って断った。しかし、その言葉もあながち嘘では無いのだが・・・。
焦っているのはもしかしたら、自分が守らないといけないということを、使命や責任のように意固地になって考えすぎているのかもしれない。
結局、どちらかが心変わりすることも無く、意見は対立したままだった。だがサキが、
「いいです。私は実力で兄さんをギルドに引き入れます!」
と言いはじめた。俺が頭上に「?」を浮かべていると、
「私が兄さんに勝ったら、ギルドに入ってもらいます!つまり、兄さんが心配なのは安全を確保しながら、攻略組みに付いて行けるか。ということなんでしょう?だったら私が兄さんに勝てるだけの実力を着けられれば、その心配も杞憂に終わるというものでしょう。」
そんなサキの発言に頭痛を覚え、こめかみを押さえていると、その隣でエンドはニヤニヤと笑い、肩に止まった銀鷲は羽根で後頭部を励ますようにポンポンと叩いていた。
そのとき俺はエンドに対して、「テメェ、後で分かってんだろうなぁ、ゴルァ!」と思っていた。
その後、俺は状況の分からない死地へと赴き、サキとエンドは信頼できる仲間を探す。
彼らはそれぞれの道を歩み始める。
第1章までの内容を投稿しました。
評価・感想、お待ちしています。