全てのはじまり
2033年11月31日
某中学校、放課後
そこにはまばらに残った生徒たちの中で、3人の男女が仲良く談笑していた。
「……ところで恭也、咲ちゃん「《Over World》Online」って知ってるか?」
ある程度話を終えたところで、ツンツンした髪形の少年が新たな話題を振った。
「はい、知ってますけど?」
咲と呼ばれた少女が首を傾げる。
「なにそれ?」
と、恭也と呼ばれた少年も首を傾げる。
「やっぱ知ってるよな、今一番話題のゲームだもんな。ってあれ?“なにそれ?”」
少年は一瞬不思議そうな顔をしたかと思うと、次には哀れなものを見るかのような顔に変わっていった。
「いや訂正しよう。今一番話題のゲームだろ?」
そんな恭也の返答に、少年と少女は、はぁ、と溜息をついたかと思うと、
「兄さん、もう少しそういう話題について知っていてもいいと思いますけど。」
「そうそう、お前は興味なさ過ぎ。鈍マイ。」
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「《Over World》Online」(略して「O.Wor」)とは、lapras社の最新VRゲームである。
lapras社は元々電子機器を中心に扱っていた中小企業だったが、軍で開発、研究されていたVR技術を買い取り、研鑽、改良を重ねフルダイブ型の新型ゲーム機「シンクロ・ゲート」と共に、専用ゲーム「《Over World》Online」を開発、社内で一般応募のβテストを経て、発表した。
コンセプトは「果てし無き世界」であり、O.Wor内の世界、砂漠や山脈、海などの背景スクリーンショットも発表されている。
大陸「グランガルド」の広大なフィールドに点在するダンジョンやエリア、グランドクエスト、膨大なイベント量、戦闘では剣、銃、魔法何でもありという高い自由度が売りのゲームだ。
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「それがどうかしたんですか?」
という少々の静寂を破る妹、咲の質問に対して、真斗は細長い紙二枚を取り出すと、
「俺、βテストの応募に運良く当選して参加できたんだけどさ、その報酬と言っちゃ大袈裟だけど特典として購入優待券を三人分貰ったから、日頃良くしてもらってるお前らに恩返しも兼ねてプレゼントしようと思ってな。」
と言うと、俺と咲にそのチケットを押し付けてくる。
「いいんですか!?」
と驚きの声を上げたのは咲だ。
「ああ、だけど皆には秘密にしといてくれよ。」
その後に続いた言葉に俺は衝撃を受けた。
「でも、売ればかなりのプレミア価格が付くと思うんですけど・・・。」
そうか売れるのか、こんな紙切れが。最近小遣いがピンチなんだよな~、と邪なことを考えていると、
「売るなよ。」
と釘を刺されてしまった。
「発売日は丁度一ヵ月後の12月31日の午後3時、冬休みだし一緒に買いにいこうぜ。っと、もうこんな時間か。」
つられて時刻を確認すると、下校時間5分前であった。
「んじゃ、帰るか。」
この時、この後で起こる悲劇を、俺達は想像することも無く鞄を持ち上げた。
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「う~、寒っ。」
「楽しみですね、兄さん!」
「早くつかねぇかなぁ。」
寒さで首を縮ませながら、テンション高めな咲と、窓から外を見ている真斗と共に俺たちは今日発売の、初のVRMMORPG「《Over World》Online」を買うために、電車に揺られていた。
「で、俺達は一体どこに向かっているんだ?」
「lapras東京支店。」
「ゲームショップじゃないのか?」
「兄さん、ゲームショップで優待券なんて使えませんよ。」
確かに公にそんなものを使っても、予約ならまだしも店も待遇に困るだろう。その原因となる朝早くから並ぶ客たちからの罵詈雑言の嵐も予想できる。おそろしや、おそろしや。
「おい、着いたぞ。lapras社までは俺が案内するからはぐれるなよ。」
という声と同時に電車が駅に着いた。
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彼らは「O.Wor」の購入を済ませ、キャラメイク用の身体スキャンを終わらせ、データカードを受け取ると、既に時刻は5時近くになっていた。
夜8時に「始まりの街 中央広場」集合の約束をするとすぐに家へと帰った。
PM5:30~6:00
恭也と咲は家に着くなり、VRMMO機を機動、ヘッドギアを装着しダイブすると、すぐにキャラメイクを始めた。
目を瞑り「ダイヴ・イン」と呟くと共に、「O.Wor」に接続すると脳内を洗われるような感覚の後、目の前に果てし無き草原が広がっていた、目の前にはもう一人の自分が見える。
はじめは驚いたが、これが外装確認用のキャラだと分かると、逆にその精巧さに驚いた。
初めにキャラメイクについてチュートリアルを聞き、種族設定を始める。
体の前に半透明のディスプレイが表示される。
【ヒューマン】
もっとも一般的な部族。HP、ST、DEX、LUCが優れている。EXP+10%
【竜人】
竜の魂をその身に宿すと言われる部族。HP、STR、VIT、AGIが優れている。
【エルフ】
魔力に満ち溢れている部族。MP、AGI、INTが優れている。
【ピクシー】
森に住まう古代の部族。MP、DEX、LUCが優れている。精霊魔法を覚える。
ちなみにピクシーは属性選択時にサラマンダー、ウンディーネ、シーフ、ノーム、シーリー、スプリガンとなる。
そして、それぞれの種族には外見的特徴が備わっている。
ヒューマンを一般的な平均として、竜人は腕や足に鱗のような紋様、エルフは尖った耳、ピクシーは半透明の羽を持つという特徴を持つ。
種族は職業と違い転族はできないが、転生はできる。転生は繰り返すごとに能力補正、外見が変わっていく。
恭也は竜人を選択し、OKボタンを押した。
次は属性選択である。
選んだ属性が得意属性にもなるが苦手属性も存在する。
【火】【水】【風】【土】【光】【闇】
属性は種族によっては転生により進化するものもある。
恭也は【闇】属性を選んだ。 え、理由?大量破壊、クックックッ
そしてキャラメイクである。
身体に触れると、横の空間にセレクトウィンドウが開かれ様々な項目が表示される。
恭也は自分だとバレない程度に顔を変更すると、最後のプレイヤーネームは親しみ易さも込めて「Kyou」にした。
キャラメークを終えたため、ウィンドウを開き、ステータスを確認すると、
【Kyou】《竜人》【闇】
Lv.1
HP 300/300 MP 50/50 ST 50/50
STR(力)30
VIT(耐久度)25
AGI(俊敏)25
DEX(器用)10
LUK(運)10
INT(知力)10
と表示され確認を終えると、最後は今度はゲームについてのチュートリアルを聞いた。
戦闘については、アシストがかかるため自分の好きなように動けること。
スキルについては少しややこしく、スキルは大まかに分けると戦闘スキル、個別スキル、装備型スキルの3つがある。
戦闘スキルはレベルアップなどによって取得する。
個別スキルは様々な条件をクリアすることで取得する。
装備型スキルはその名のとおりスキルスロットに装備することで能力を得る一番一般的なものだ。装備型スキルには個別スキルとして得られるものと、そうでないものが存在し、買ったり、モンスターがドロップしたり、組み合わせ方によって追加スキルが発動する。
同一スキルを装備することでランクアップスキルとなる。ややこしいが、強者と弱者の差は、このスキルの使い方によってくるかもしれない。
しっかりとチュートリアルを聞き終え、-Game Start- という文字が浮かび上がったところで夕飯の時間になる。
妹もちょうど終わったところのようで、食卓へと向かっていた。
PM6:00~6:45
夕飯と風呂をすませて、ログインの準備をし、咲を待つ。
「《Over World》Online」の公式サービス開始は今日の深夜24時、つまり年明けにされているが、それまで普通に遊ぶことはできる。
PM7:00~8:00
咲と共にログインすると、「始まりの街」に二人は並んで立っていた。
咲のネームは、そのまま「サキ」だったため確認を取った後、恭也らは少しの間体を見回し、感触を確かめるように手を握ったり、開いたりした後、お互いの外見を見合う、
「兄さんはありきたりですね。」
「オマエは美化しすぎじゃ、な、い・・・」
最後まで言葉が続かない。笑いをこらえるので精一杯だった。
「・・・?」
絶壁だった場所には見事な渓谷が出来上がっていた。
「兄さん」
目が、目がコワイっす咲さん、やめてそんな目で見ないでっ!
「兄さん」
「・・・。」
「に・い・さ・ん?」
「すいません。すいません。すいません。すいません。」」
なぜ俺の考えは見透かされなければならなかったのか、ぜひとも教えて貰いたい。
てか、どうやった?
「まあいいです。」
ありがたい。これからは神と呼ぼう。
「それじゃ、一通り街を見て回りましょう。」
「はい、神よ。」
「置いてくよ?」
咲の優しい視線を感じると心が痛くなる。
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「始まりの街 中央広場」
ひととおり街を見て回っている間に、一つ気付いたことがある。
「オマエ、エルフを選んだのか?」
サキの耳は尖っていた。
「そういう兄さんは竜人ですよね。」
「ああ、そうだよ。」
「せっかくなのでステータスの見せ合いでもしましょう!」
咲はそういうと体の前で手をかざし、ステータスウィンドウを開き、見せてくる。
自分もそれに合わせるようにウィンドウを開く。
【サキ】《エルフ》【水】
Lv.1
HP 200/200 MP 100/100 ST 30/30
STR(力)10
VIT(耐久度)10
AGI(俊敏)25
DEX(器用)25
LUK(運)10
INT(知力)35
そこにちょうど真斗が現れた。
「ヤッホー、さっきぶり~。いや、こっちじゃはじめましてなのか~?」
・・・ウザかった。本当に・・・ウザかった。大切だから二度言った。
「ステータスを見せ合ってんのか。んじゃ俺も。」
そういいながらウィンドウを見せてくる。
【エンド】《竜人》【火】
Lv.1
HP 300/300 MP 50/50 ST 50/50
STR(力)30
VIT(耐久度)25
AGI(俊敏)25
DEX(器用)10
LUK(運)10
INT(知力)10
・・・竜人だった。
「一緒かよっ!しくじったか...」
「よろしくな!」
「っていうか、その名前は何だよ!?」
「カッコ良くない?」
「そうだなオマエは既に終わってるよな!?
はぁ・・・、まあいい、フレンド登録でもしとくか。」
ウィンドウを開き、フレンドから登録申請を送る。
二人からも申請が送られてきたためそれを受理してから、
「それじゃ、また会おう!」
そういって俺は二人と別れた。後ろでサキがなにか叫んでいるが気にしない。
そのあと、さっそく武具屋で剣を買うと、「始初の草原」へ向かった。