そして騙すまでのこと
忘れ去られたであろうこの時今復活。
定期更新は・・・期待しない方向でお願いしますね。
2/17微修正
【味方ユニット:ザン へ 精神干渉系スキルによる攻撃を実行 対象レジスト判定 ……突破】
【MP減少判定 対象無し 無効】
【状態異常判定 恐慌 混乱 幻痛 幻視 それぞれ対象レジスト判定 ……突破】
【10分間のバッドステータスを付与】
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ザンが目を覚ますより、時間を少々遡ること約5分。
(……反応から見るに、幻覚症状に幻痛、幻聴に……悪夢か?……目の焦点もあっていないようだな。
周りの状態は認識出来ず、完全に外と意識の繋がりをシャットアウトする、これはなかなかに強力ではないか)
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私は 自ら進んで 実験の被験者となってくれたザンの反応をみることで
自分のもつスキルの効果を確かめていた。
当の被験者たるザンは最初こそ腕を逆の手で払ったり、埋まった足を支点にのたうち回ったりして
見えない何かに抵抗していたが、少し経つとビクーン!と体を一瞬硬直させた後
白目を向きかけながら仰向けに倒れ、時折ひくひくと痙攣を起こしていた。
自分でやっておいてなんだがここまで効果があると、少しばかりこう、なんと言うか……引く。
(更に恐るべきは、バッドステータスの効果時間が切れるまでは自力でレジストするか
他者の介入があるまで能動的行動が実質不可能という点か)
ステータス、と一言唱えると自分のステータスの枠の右端に、いくつかのタブがあるのが見て取れる。
先ほど歩きながら確認したところ、そこから自分の持つスキルの詳細、パーティ情報、
パーティメンバーのステータス、オプションなどを見ることができるようだ。
ちなみに先ほどまで見えていたNewとついたスキルは、
スキルの詳細のタブへと移っていた。
どうやら一度見たあとは格納されるらしい。
そしてオプションから【他者簡易ステータス】と表記してある部分をOFFからONに切り替えると
【運命共同体 ザン 複合バッドステータス 幻惑 回復まで残り時間 4分39秒】
馬鹿の頭上に小さなウィンドウが現れた。
当然のようにパーティーアタックというかフレンドリーファイアが通じる辺りに
私たちにゲームチックな能力を与えてきた存在の底意地の悪さを感じる。
「まあ、存外鬱憤は晴らせたし性能実験もできた、一石二鳥と考えておこうか」
ひとしきりの疑問もある程度解決したことだし、細かいことはこの際置いておこう。
そんなことよりこれからどうするか、だ。
仮名ケンタウロスの森をどうにか抜けて仲間 手駒とも合流できた。
先ほどの馬鹿の強襲や森の中での戦闘、時折脳内で鳴り響いていた馬鹿のレベルアップ音から考えて、
これで私の身の安全と万一の際の火力は大幅に補強できたと考えてよいだろう。
馬鹿にスキルの試し撃ちをした件?
そんなもの、いつもの如く誤魔化してしまえばいいのだ。
なにせ先にやったのはこいつだ、既にこの馬鹿に対して良心の呵責は感じない。
目前の問題は対処可能として、その後の問題だ。
まずこの世界について知らなければならない。
テンプレ的異世界と片付けるのは簡単だが、現段階でまず足りていないのは
衣食住に、付近の地理・世界観・我々の立場への認識。
なにをしたら良いのか、なにをして良いのか。
そもそもこちらの常識的知識を得る上で必要不可欠な友好的な
知的生命体と遭遇できるのか等、問題は山積みだ。
……無論、スキルを使って無理矢理屈服させて話を聞くという手段も吝かではないが、
こちらの我々以外の平均的なステータスやレベルが判らない内から穏やかでない手段を
とるのは、最終手段と考えておいたほうが良いだろう。
これからの行動としては何をするか。
やけに人も気前も良い商人が乗った馬車や、着の身着のままで
命からがら逃げ出してきた割りに妙に物知りな
奴隷少女と出会う異世界テンプレを信じて道なりに進んでみる?
懐に入れていた財布と、ケンタウロスどもに追い立てられる際に足元に落ちていたのを
咄嗟に持ってきた手荷物以外、食料も水もろくにない状態でどれだけ動ける?
アホほど体力面が強化されているこの馬鹿ならまだしも、
こちらは強化されたのは精神面だし、それ以外は極普通の現代人レベルだ。
命の危機から脱したばかりということもあって正直もうスタミナが大分心許無い。
いや、ステータスどうこうの限界はわからないが、感覚的に。
それ以前にパッシブスキルである【闇の波動】とやらが発動していては、
真っ当そうな相手から良好で友好的な第一印象を得るのは至難の業だろう。
絵に描いたような正義の騎士サマ(笑)みたいな集団や
街道を見回る衛兵みたいな奴等に遭遇したりしたら、
下手せずとも集団で襲い掛かってきたり、
逃げようが対抗しようが手配書を周囲にばら撒かれたり等の
ろくでもない結果になりかねない。
「……もし遭遇するならば、殺そうが身包み剥ごうが良心の痛まない屑が理想か」
我ながら最低な独り言だ。
もちろん、屑と出会った場合は搾取&デストロイだ。
一仕事終えた後の賊の集団や、お飾りの軟弱な騎士を引き連れた
汚職に塗れた辺境貴族の馬車団など実にグッドだ。
なに、皆殺しにしてしまえば反撃の心配も要らんし
手配書も出回らない。
などと外道なことを考えていたから罰が当たったのだろうか。
いつまでも突っ立っているのもかったるいので、街道の脇へ歩いて
柔らかそうで丈の短い草を絨毯代わりに腰を下ろそうとした時
もぞっ
「ややっ!あなた方がドウソ様に送られた御使い様でうぎゅっ!?」
ドスッ
なにやらゴツゴツと硬いモノが真下から急上昇し、私の尻にクリティカルヒットした。
チュートリアルクエスト:【神命を告げる者】が発生しました。
目の前にポーン、と妙に間が抜けて腹の立つ音と共にウィンドウが見えた気がするが
それどころではない。
なにこれ尋常じゃなく痛い。
痔になってしまう。
腰を下ろすモーションを逆再生したかのように私はスゥーっ……と立ち上がり、
そのまま前に膝をつきつつorzのような形で崩れ落ちた。
ちなみに片手は尻を押さえている。
これ確実にHP減ったぞ……!!異世界に来て最初にダメージを受ける部位が尻ってどういう事だ……!!
ふるふると恥辱と痛みに体を震わせ、地面を見つめ耐えていると
またしてもポーン、という音。
今度は何だと若干涙で滲んだ視界で正面を睨み上げてみると、
称号:【運命神の噴き出し】を贈られました。
授与者コメント:【プークスクスwww】
「やかましいっ!?」
イラッときた感情のままに体勢を整えつつウィンドウを振り払うように腕をぶつけると、
わずかな感触とカシャンという軽いものが割れたような音と共にウィンドウは砕け散った。
というか思ったより随分とキャラ軽いな運命神。
立ち上がり後ろを見ると、さっきまではなかった何やら岩のような物体と、
クエストウィンドウと上端に書かれたウィンドウが視界に入る。
まずこの私に膝をつかせてくれた原因と思われる物体を集中して見ると、
【運命神の使い 高度精神思念岩 複合バッドステータス 幻惑 回復まで残り時間 9分12秒】
と書かれたウィンドウがポップする。
表記と、さっき真下から聞こえてきていた言葉をを鵜呑みにするなら、
どうやらコイツが我々に対するチュートリアルキャラクターだったようだ。
正直敵か味方とか事故でもわざとでも関係なく私に痛苦を与えてくれた礼をしてやりたいところだが、
現時点で私単体にこのいかにも硬そうな(少なくとも私の尻にぶつかった部分は硬かった)こいつに
物理的な有効打を与える手段はなさそうなので、今は我慢することにする。
さっきのザンと違いすぐに動きがなくなったそれをよくよく見てみると、
アルマジロのような形を模した石像のような造りになっていることがわかった。
なぜアルマジロ……?と疑問に思うも、すっと目を細め、
意識を軽くそちらへ向けつつ、もう一度そっと手の先を石像につける。
ビクビクッ!?と痙攣したあと、また石像は硬直した。
【運命神の使い 高度精神思念岩 複合バッドステータス 幻惑 回復まで残り時間 9分59秒】
【運命神の使い 高度精神思念岩 複合バッドステータス 幻惑 回復まで残り時間 10分00秒】
【運命神の使い 高度精神思念岩 複合バッドステータス 幻惑 回復まで残り時間 9分59秒】
どうやら触り続けていると、触れることで発動するパッシブスキルは実行が繰り返され、更新され続けるようだ。
少なくとも今使っているスキルに、クールタイムが必要なスキルは無いようだ。
ほう……。
片手の平を石像に押し付けつつ今度こそそれの上に腰掛ける。
ゴツゴツとしていて普段なら座り心地は良いとは言えないが、私に愚かにも歯向かった
モノへ懲罰を与える行為と同時に休憩を行えると思えば、
なかなか快適な椅子に座っているような気分になれる。
一息つき、鈍い痛みの残る臀部になんとも言えない表情になりつつも
目の前にあるクエストウィンドウに指先を伸ばしてクリックし、
内容を確認してみようとするが、ふと視線をそらした先に
馬鹿のウィンドウがあり、もうそろそろスキルの効果時間が切れそうになっているのが目に入る。
ふむ、クエスト内容の確認は、まずこいつをだまくらかしてからでいいか……。
軽く石像を触っているのとは逆の手で顔を揉み解した後、
目をカッ!と見開いてキョロキョロと辺りを見渡す馬鹿に
優しく、心配したような声音と表情を作って問いかける。
「目は覚めたか?」
こいつをおちょくることくらい、簡単なことだ。
相変わらずのゆっくり進行