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初めての逃走

「は……あ……?」


ズゥゥゥウウウン……


思わずそんな声が口から漏れてしまった、一拍遅れて森の木々が薙ぎ倒された音が聞こえてきた。


異常だ。


何が異常かって、この状況の全てがだ。


確かに奴はガタイだけはいいが、別に何かのスポーツに必死で取り組んでいるわけでも無ければ、ボディービルダーのようにひたすら筋肉を鍛えてきたわけでも無いだろう。

間違っても一抱えもある若木を力任せに引き抜き、漫画か何かのようにものすごい勢いで放り投げるなどという人外じみた力は持っていないはずだ。


この状況も異常だ、ネット上の胡散臭い広告をクリックした瞬間に光に包まれて、気がつけば二人揃って大森林の中などどこのネット小説のテンプレだ?

テンプレだとしたら早急にこの状況の説明がほしい。

説明役の例を挙げるなら、自称神を名乗る爺や幼女、一方的に召喚して世界の命運を押し付けてくる王族などだろうか……、せめてなんらかの行動の指針や呼び出された理由を知りたいところだ。……まぁおとなしく従うかは別として。


異常といえば先程スイッチを押した瞬間に、耳障りな音と共に脳裏に浮かび上がったスキル?等もそうだ。

……まて、スキル?目の前にある明らかな異常である奴の怪力にはこれが関係しているのか……?

確か奴のスキルは……


ミシリ……ギシ……


思考に没頭しかけた私の耳に、異音が入った。


あぁ、そうだった何よりの異常。


Wooooo……!!


【木とは、あんな風に雄叫びを上げながら、ひとりでに起き上がるものであったか?】


「う……あ……」


ザンの口から声とも音とも取れないものが漏れ出す。

見ると先程奴が放り投げた高さ4メートルほどの木と、それにぶつかり薙ぎ倒されたもう一回り大きな木、二本の木が―(ひとりでに起き上がり、顔のような模様を浮かび上がらせている邪悪そうな何かを木と呼ぶのには抵抗が残るが)―ズリズリと太い根をのたうたせ、擦り寄ってきている。


先程まで大雑把に【森】とだけ認識していたこの場所が、奴等【木】の化け物の巣だということを悟った。


「いやいや……っは、これはねーって、なんだよ、なんなんだよ?この化け物は!?」


ザンが錯乱したかのように叫ぶ、……いや、実際に錯乱しているのだろう、かくいう私も恐怖こそ感じないものの戸惑ってはいる。


……恐怖を、感じない?


訳の解らない状況で訳の解らない化け物に襲われているのにも関わらず?


奴の怪力といい私の精神状態といい何かがおかしい。いや、怪力と言えば先程……あぁスキルか!と言う事は私の心の落ち着きようも何らかのスキルの影響か?


っと、今は考え込んでいられる状況では無いか……いや、冷静に見ればあの【木】が向かっているのは私ではない?


よく見ればもう1体の【木】の視線―(と呼んでいいものだろうか?)―もザンに固定されている。……ふむ、ここは……任せるか!


取りあえずこの場から離れて考えを纏めよう、そう決心した私は誰にも気づかれないようにそっとその場を後にした。


……後方から何か重たいものが地面に叩きつけられた様な音と振動が伝わってきたが…奴は先程もあの【木】を放り投げていた事だし、大丈夫だろう。


ポーン


【ザン】の レベルが 2 に なりました


……本当に大丈夫そうだな。


私は安全に考え事ができる場所を探して歩き出した。


……見ず知らずの世界で迂闊に単独行動をとる事の危険性も考えないままに。


-----------------------------------------


「ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろう」


先程の場所から2~300メートルは離れたであろうか、少し開けた場所に出た。ここならば時々聞こえてくる何かを叩き付けるような音さえ無視すれば落ち着いて考え事ができるだろう。


周囲の木々を見渡してみても動く様子もなければ顔の様な模様も無い。


これで擬態が上手いだけだった、となればまぁ割と最悪だが……他に見分ける方法も思い付かないのだから、仕方がないだろう。


私は周囲をうかがいながらもそばに在った倒木に腰を下ろした。


「しかし、スキル……か。ステータスの様に念じれば確認できるか?」


えぇと……『スキル』


……駄目か。


「いや、待て確か……」


『ステータス』


【  ステータス  】    

・男 20歳 人間 混沌 New呪術師

・ユッグ=ボルヴェルク


LV 1

HP 15/15

MP 20/20


体力 8

知力 25

筋力 8

俊敏 8

器用 13


スキル 常時スキル  New【闇の波動LV1】

                 周囲の存在に状態異常【恐怖LV3】を与える 肌に触れ続けたものに意思と魔力を与える

    常時スキル  New【闇耐性 強】

                 闇属性攻撃によるダメージを90%カットし状態異常【混乱】【恐怖】【呪い】を無効

    常時スキル  New【オートカーシング 幻夢】

                 自身以外の存在に触れた際、【混乱】【悪夢】を与える 意識すれば内容を指定できる

    任意スキル  New【ファントムペイン LV1】

                 目があった対象に術者が受けた事のある痛みを任意で与える

    任意スキル  New【幻術解除 (範囲小)】

                 自身の周囲10メートル以内の幻術を解除できる


称号  来訪者

所持金 44131円




「あぁ、やはりな。しかし説明まで付いているとはラッキーだな」


そう、先程ステータスを見た際スキルという項目があった気がしたのだ。


それにしても……ステータスも変わっている?確か先程見た際はMPは0だったはずだし知力もここまで高くはなかった、器用も上がっているな。


「職業が呪術師とやらに変わったからか?」


そういえばステータスに補正が入るとかなんとか言っていた気もする。しかし、えらく限定的な補正の入り方だな、どうせなら全体的に底上げしてくれれば良いものを…。

まぁここはマイナスの補正が無かったことを喜んでおくべきか。


「……っと、ステータスも大事だが今はスキルだったな」


何々…………ふむ。


やはりあの場は任せて正解だったな、ナイス判断だ私。……あの化け物と戦える気がまるでしないな。


まともに使えそうなスキルがオートカーシングとファントムペインしか無い上、オートカーシングの方は触れなくては使えないとは……。あの化け物に触る?……無理だろう、近づいてる間に殺されるのが落ちだ。


ファントムペインの方も、目を合わせる……か、あの化け物に目などあるのか?いや、顔の様な模様はあったが……木だぞ?そもそも痛覚自体あるのか?いや、しかし意思はあるようだし……?いやいや……


トスッ!


考え事に没頭していた私の前に矢が突き刺さる。……矢?


「ここは我らの森だ!今すぐ立ち去れ!」


私の右側からそんな声が聞こえてきた。


声の主の方へ向き直った私の前に居たのはこちらに向けて弓を構える下半身が馬の人間だった。……下半身が、馬?まて、確かにファンタジーな世界だと言っていた上に化け物のようなものも見たが……ケンタウルス、だと?

これはこの世界に対する認識を少々改める必要があるな……かなりファンタジーな世界だったようだ。


「聞いているのか!立ち去れと言っている!!」


目の前のケンタウルス―(のような存在)―は新たな矢を弓につがえながら怒鳴ってきた。その表情に浮かぶのは……焦燥と、恐怖?


「あ、あぁ、聞いているとも。だが、すまないが弓は下ろしてくれないか、そのような物を向けられていては恐ろしくて話もできない」


「話をする必要などない!早々にこの森から出ていけ!」


……このケンタウルスは何を恐れているんだ?こちらは丸腰で武器を突き付けているのは自分なのに、いや、まて恐れている……?そうか闇の波動か!くそっ役に立たないどころか邪魔までするのか、クソッタレなスキルめ!


「まぁ待ってくれ、この森には迷い込んでしまっただけで別に君たちに危害を加える気は無いんだ、攻撃の意思も無い、本当だ」


「五月蠅い!出ていけと言っているだろう!出ていくんだ!」


……駄目だ、とても話が通じる状態には見えんな。ファントムペインを使うか?いや、駄目だ今下手に刺激したらあの矢が私に突き刺さるであろうことは想像に難くない。


仕方がない、一瞬ザンの安否が気になったが今も断続的に聞こえてくる粉砕音からして生きてはいるのだろう。……粉砕音?まて、もしかしてこいつはあれか?あの音を聞いて様子を見にに来た所で私を見つけ、そのうえで粉砕音より私の方が危険だと判断したのか?

……これも闇の波動のせいか、とことんついていないな。


「……わかった、出ていく。だから一番近い森の出口の方向を教えてくれないか?」


「……いいだろう、向こうだ、早く行け!」


ケンタウルスは弓を構えながら私の左手の方向を顎で指した。……くっ、弓を下ろしたらファントムペインを使っていたものを……仕方がない、大人しく従うか。


私はケンタウルスを刺激しないようにゆっくりと奴が示した方向へ進む事しかできなかった。



-----------------------------------------



「ふぅ……久しぶりに日の光に当たった気がするな」


結局あのケンタウルスは私が森を出るまで一定の距離を保ってついてきた。


おかげで迷う事無く森からは出られたが、背中に常に弓を向けられていた心労とザンと引き離された事を考えると……感謝する気には全くなれんな。


「しかし、成人式後に友人と飲んでいたと思ったら2人して異世界にとばされ、挙句の果てにその友人とも引き離されるとは……中々に波乱万丈な1日だな」


少し離れたところにある街道の様なものに向かって歩きながら私はひとりごちた。


この波乱万丈な1日がまだ続くとも知らずに……。







スキルはわかった、だが戦えない理不尽。

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