プロローグ〔裏〕
基本的に二人の主人公の視点を交互に入れ替えて進める形にしたいと思います。
表がザン、裏がユッグです。
今回はぷろろーぐのユッグ視点、次回からは話を進めていきます。
「ん……おお……?」
気が付いたら森にいた。それ以外に今の状況を表す言葉が思い浮かば無いのは、果たして私の語彙が少ないからであろうか。
「……おい、頭の中で俺が思ったことをまんま言うんじゃない、最初の最初っから丸被りじゃないか」
「ははは、いやいや理不尽なことを言うな、私とてこんな非日常で気の利いた台詞なんぞ直ぐには出てこない」
私の漏らした声に左隣から要らぬ茶々が入れられた。割と聞きなれた声だ、安心するわけではないが不快になるわけでもない、ここ数年ですっかり聞きなれた割とどうでもいい類の声だ。
この【非日常】と言うしかない状況に、顔を引きつらせながらも声のするほうへと振り向くと、聞きなれた声に同じく、見慣れた姿が視界に入った。
短めに刈り込まれた癖の強い黒髪に、常に疲れているかのように胡乱げな眼。
普段は動物園の熊でももう少し愛想良くしているだろうと言いたくなるような強面には、今は自分と同じく引きつり笑いが浮かんでいる。
さっきまでは酒で赤らんでいた顔色は、一瞬本気で心配するべきかと思うほどには血の気が引いており、気の弱い幼子などは泣き出すこと受け合いな面構えになっている。
一見プロレスラーのようなその体格は、顔色さえ悪くなければさぞ頼りがいがあっただろう、それも今のような訳の解らない状況ならば尚更に。
しかし、スーツに身を包み辺りを不安げに見回す今の姿に頼りがいを感じろと言うのは少々無茶であろう。
「おい青鬼、いつから吸血鬼にクラスチェンジした?顔色が青から灰色に変わってるぜ?」
「余計なお世話だよ赤鬼、貴様も土気色になってゴーレムみたいになっているぞ」
このような状況だというのに軽口を叩くあたり先程まで飲んでいた酒が残っているのか、私たちの神経が図太いのか…。
「おい……つかぬ事を訊くが、お前の名前って……なんだった?」
名前?そんな事をいまさら聞かれることになるとは、こいつとの付き合い方を考え直した方がいいか…?。
「おいおい、いきなり何を馬鹿な……て……?えぇと、まてよ?私の名前、というか貴様の名前も思い出せんぞ?」
その瞬間、ヴォン!!と、パソコンをつけているときに聞こえたら心臓に悪い効果音が頭の中に響き渡った。
実際、私の心臓は止まりかけた。
[なまえを きめてください]
[@@@@@@@ @@@@@@@]
音と同時に目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
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「確実にあの広告が原因だよな……」
半透明のウィンドウが浮かび上がると同時に遠い目をしていた【奴】が急に分かりきったことを呟いた。
「正確に言えば広告と貴様のテンションだな」
「お前も何だかんだでノリノリだったよな?」
「はっは、まぁこんな不毛な責任の擦り付け合いよりもこれからどうするかについて話し合おうじゃないか」
「正論を吐くなよ、現実から目を逸らせ無くなるだろ」
このような状況でもくだらないやり取り繰り返す私たち。
緊張感はないが、ここで無駄にシリアスになるような繊細な心の持ち主というわけでも無い。
「さて、こんな大自然に放り出された俺らはどうなるんだろうな?というか絶望感パネェ」
「待てあきらめるな、こういうとき私たちのような状況ならテンプレ的に何か話を進める為の……こう、何かがあるはずだ」
「アバウトすぎるわ」
くだらない会話内容だがこれでも十分に危機感は感じている、それでもたとえ表面上だけだろうとも取り繕えているのは、やはり目の前に浮かぶ【これ】のせいだろうか。
[なまえを きめてください]
[@@@@@@@ @@@@@@@]
「……そうだよな、冷静にならんでも、やっぱりこれが話を進めるに必要な【フラグ】って奴だよな?」
「言うな、なんだか気が抜けるどころか一周して腹が立つフォントの字だからスルーしてたというのに」
目の前に半透明ながらもしつこい程の存在感で浮かび続ける[なまえを きめてください]。
「とりあえずは、こいつの相手をしなきゃならん、ってことだよな?」
「だろうな……で、だ、貴様、名前は思い出せたか?私と貴様、どっちでも良い」
「……いんや、さっぱり。」
奴が首を振る。
「おまいさんの性格も、俺の部屋の配置も簡単に思い出せるが、名前だけが、こう、もやがかかったみたいな、もどかしい感じで思い出せん」
「私もそんな感じだな、なんとも落ち着かん……」
「まず、便宜的になにか仮の名前でも入力しておくか? おいとかお前で通すのも不便だし」
話しながらもなんともなく半透明のそのウィンドウに手を伸ばしてみるが…まぁ触れない。しかしこれではどの様にして名前を決めるんだ?…っとおぉ?
「そう……だな、ウィンドウは意識したら操れるみたいだな、文字を打とうとしたら私の手元に半透明なキーボード見たいな物が浮かんできたし、入力もできるようだ」
「お、マジか、触るイメージ……ああ、出た出た」
ウィンドウの下に現れたキーボードのようなものに触れながら返す。
指で触れるとすり抜けるもののしっかりと入力先には反映されるようだ。
[なまえを きめてください]
[かにたま_@@ @@@@@@@]
流石にこれを便宜的としても名前にはしたくないな。
タタタッとバックスペースに触れ…触れられないが…消した後、どんな名前にするべきかしばし黙考する。
まぁせっかく自分で自分の名前を決められるのだから、せめて何かしらの意味がある名前にしておくか。
「よし、これで決定、と」
瞬間、あたまの上でポンっとポップな音がした。
【ユッグ=ボルヴェルク】
「……うわぁ、厨な匂いがぷんぷんしてくるぜ?」
「……かっこいいだろう?北欧神話をモチーフにしてみた」
まぁオーディンの別名やら偽名を並べただけだが。
「ドヤ顔うぜぇ」
「失敬な、主神の別名だぞ」
しかし、落ち着いて考えてみると意味的にも少し痛々しい気がしないでもない…まぁもう取り返しはつかないんだ悔いたところでどうしようもない。
そんなことを考えている間に奴も名前を決めたらしい。
「んー……ほいっと」
瞬間、奴の頭上に白い文字が浮かび上がった。
【ザン=ギェルフ】
ポーン!
私の時よりも少しトーンの高い音が頭の中で響き、目の前に新しいフォントの文字が浮かぶ。
[チュートリアルクエスト【招かれた二人】をクリアしました]
[クリア報酬【初期スキルスイッチ赤】を手に入れました]
[クリア報酬【初期スキルスイッチ茶】を手に入れました]
[クリア報酬【初期スキルスイッチ桃】を手に入れました]
[ 条件開放【自己ステータス開示】 が可能になりました]
「うお!?なんか降って来たぞおい!」
「上からくるぞ気をつけろ!?」
「言うのおせーよ!!?」
慌てながらもそこはサブカルチャーにどっぷりと浸かった現代人、ネタを忘れるようなことは無い。まぁゲームのように自分のステータスが知れるのならばと取りあえず『ステータス』と念じてみる。
【 ステータス 】
・男 20歳 人間 混沌 無職
・ユッグ=ボルヴェルク
LV 1
HP 15/15
MP 0/0
体力 8
知力 15
筋力 8
俊敏 8
器用 8
スキル なし
称号 来訪者
所持金 44131円
【仲間 ステータス】
・男 20歳 人間 中立 無職
・ザン=ギェルフ
LV 1
HP 15/15
MP 0/0
体力 8
知力 15
筋力 8
俊敏 8
器用 8
スキル なし
称号 来訪者
所持金 2523円
「「おお……?」」
またも没個性なハモりを不本意にも上げてしまった私たちは浮かび上がった新たなウィンドウに好き勝手な考察と感想の入り混じった批評を話し始める。
「いかにもRPGのプレイヤーキャラ初期値って感じだよな」
「この世界の……おお、今私ナチュラルに異世界にいるみたいな話し方をしたな」
「現実を見ろ、9割9分異世界かつファンタジーだ」
「ファンタジーなのに現実を見ろと言うのも中々面白いな……まぁそんなことはどうでもいいんだ。
この世界の能力値の平均がどれくらいなのかわからんが、はたしてこれは高いのか低いのか……」
「知力だけ尖がってるあたりは、中世風の剣と魔法のファンタジーにトリップしてきた現代人って印象だよな」
「これが知力以外この世界の人すべてに劣るって意味じゃなければいいけどな、平均値10とか」
「テンション下がること言うなよ……」
やいのやいのと意見を適当に並べ立てていると、ふと掌の中にスイッチを持っていたままなのを思い出した。
奴改め【ザン】の掌の中にも自分とは違う色のスイッチが3つ程入っている。
しかし…3つの選択肢に赤が1つ…となれば…。
「よぉしせっかくだから私はこの赤いボタンを押させて貰おう!!」
「いやちょっとは躊躇うとか考えるとかしろよ!?」
私は一切の躊躇なく赤いボタンを押し込んだ。
それと同時に響き渡るファンファーレ、手に持っていた赤、茶色、ピンクのボタンのうち、茶色とピンクが消え去り、赤いボタンだけがふよふよと手中を離れて輝きだした。
[特殊アイテム【初期スキルスイッチ赤】を ユッグ が 使用しました]
[常時スキル 【闇の波動LV1】を取得しました]
[常時スキル 【闇耐性 強】を取得しました]
[常時スキル 【オートカーシング 幻夢】を取得しました]
[任意スキル 【ファントムペイン LV1】を取得しました]
[任意スキル 【幻術解除 (範囲小)】を取得しました]
[職業が 【呪術師】に変更されました]
[職業 【呪術師】の変更に伴い ステータスに補正が入ります]
[特殊アイテム【初期スキルスイッチ赤】の使用に伴い 同【茶・桃スイッチ】が消滅しました]
「「おっ?」……ってうをぉおお!?」
また没個性なハモりを披露してしまったかと思った矢先、ザンが奇声を上げて飛びのく、『カチッ』……あぁ、これは……哀れな。
[特殊アイテム【初期スキルスイッチ肌色】を ザン が 使用しました]
[常時スキル 【肉弾戦闘の心得】を取得しました]
[常時スキル 【受けの凄み】を取得しました]
[常時スキル 【オートスロウ LV1】を取得しました]
[任意スキル 【ほうり投げるよ! LV1】を取得しました]
[任意スキル 【たたき潰すよ! LV1】を取得しました]
[職業が 【柔術家?】に変更されました]
[職業 【柔術家?】の変更に伴い ステータスに補正が入ります]
[特殊アイテム【初期スキルスイッチ肌色】の使用に伴い 同【白・緑スイッチ】が消滅しました]
途端、奴があり得ない動きをした。
飛び退いた拍子についた手に触れていた木に瞬時に向き直り、腰を落として、私の胴回りと同じくらいはあるそれを両手でがっしりと掴み……
「んんんんんんんん゛どっせぇぇえええぃいいいいいいいいい!!」
全力で引っこ抜き、私のの顔面すれすれを通るルートでぶん投げた。
轟音を立てて他の木を薙ぎ倒していく若木。
バサバサと一斉に飛び立っていく見たこともないような色とりどりの野鳥。
何もわからない今、波乱の予感を感じているのは私だけでは無いだろう……。
次回はたぶん週末(間に合えば)。
感想待ってます。